紡がれる『帝』の血脈   作:シントウ

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ミカドの状態とこれからについて少しだけ語られます。今回短めです
連続投稿です。


帝の状態/三冠の障害

俺ノゾミミカドは現在、テキ、真司さん、駒沢さんたちと一緒にかなりヤバイことを獣医に診断された。

 

「剥離…骨折…」

「はい。と言ってもそこまで重く捉えないで下さい。幸いにも早期に発見でき、小さなひびが入った程度でまだ完全に折れた訳ではありません。手術をすればまた問題なく走れますよ」

 

獣医の先生の言葉に一同が安堵する。幸にも俺の骨折は普通よりも全然軽いものらしい。

 

「君だね?彼の骨折を見抜いたのは」

 

今回俺の骨折をいち早く気づいたのは真司さんだった。ダービーが終わり、厩舎に戻ってきたときに真司さんがテキに俺の歩きに違和感を感じたことを報告。

そのまま、先生にきてもらい、検査などをした結果骨折していることがわかった。

 

「あ、はい。そのいつもより右に力が入ってない感じがしたので…」

「凄い観察眼だ。これは獣医でも見ただけでは分からないほどの違和感だ。私も触ってようやく確信を持てるぐらいだよ」

 

真司さんはいつも俺のことを気にかけてくれているからな。確かになんか右に力が入りにくい感じはあったけど見ただけで違和感を感じるなんて凄い。

 

「それで、先生…完治するのはどれぐらいになります?」

「そうですね…先ほども言いましたが、手術をするため、最低でも三ヶ月は必要です」

 

『三ヶ月!?菊花賞に間に合わねぇじゃねぇか!?』

 

「しかし、ノゾミミカド号はレントゲンなどで見ても本当に小さなものでしたので二ヶ月ぐらいで完治しますね」

「その場合、菊花賞は…?」

「……獣医として言えば、回避させた方がいいでしょう。3000もの距離を走るレースにいきなり出せば、最悪の結末も考えられます」

 

『そんな……』

 

菊花賞はルドルフ爺ちゃんが三冠を取り、父さんとブルボン爺ちゃんの悲願だ。俺の中では、今までのレースの中で一番重要なレースなのだ。

 

「二ヶ月以上調教をしていなければ当然体力が落ちます。何より治ったとしても無理に走らせれば、今度はレース中に骨折を起こし、人馬共に危険が及ぶ可能性があります」

 

つまり、俺の三冠は絶望的…ということか……

 

「しかし、ここからは私個人の話です」

 

『うん?』

 

「私もトウカイテイオーの大ファンでしてね。ラストランの有馬も当時現地で見ましたよ。その子供がこうして無敗三冠に王手をかけている。それが親と同様に骨折でとることが出来なくなるというのはあまりにも理不尽だ」

「先生…」

『獣医さん…』

「元々、私が獣医を目指したのもある名馬のレース中の事故を目の当たりにしたことです」

「ある名馬?」

「『キーストン』ですよ。彼のラストランを私は見ていたんですよ」

 

キーストン

 

その昔、人と馬という種族の垣根を越えて確かな絆を結んだ名馬。

彼はラストランとなった『阪神大賞典』で左前脚を脱臼し、予後不良と診断され安楽死の措置が取られた。彼は自身も怪我をしているのに振り落とされた騎手を心配し、近づいて気遣う仕草をした。後にその話は様々な形で今も尚、その名を残し続けている。

 

「あの様な馬たちを救いたいと思い私はこの世界に来たんです。そして同時に怪我などで勝利を掴むチャンスを奪われてしまう馬を助けたいとも思いました」

 

獣医さんは俺の頭を優しく撫でる。まるで壊れやすいガラス細工を壊さない様に優しく。

 

「キーストン、テンポイント、サイレンススズカ…怪我により走り切ることなくこの世を去った名馬…トウカイテイオー、ナリタブライアン…怪我によって運命を狂わされた名馬…ノゾミミカド、私は君を彼らの様に故障で君から『栄光を掴むチャンス』を奪いたくない」

 

『先生…』

 

「駒沢さん」

「は、はい」

「彼は私が責任を持って、完治させます。必ず菊花賞に間に合わせます。勿論レース中に故障なんて起こさせない」

「先生……ミカドを、よろしくお願いします…!」

「任せて下さい」

 

深々と頭を下げる駒沢さんに先生は自身に満ちた声で返した。




獣医
年齢60
ミカドの骨折の診断、治療を担当する獣医。競走馬を専門に今まで活動してきた。『馬たちに後悔のない馬生を送って欲しい』と思っている。腕は一級品であり、余程の故障でなければ殆ど故障する前の状態まで完治させる。前年まで長い間海外にいた。
好きな馬はキーストン・トウカイテイオー
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