紡がれる『帝』の血脈   作:シントウ

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前回出てきた馬の始まりから前回の話の少し前までの回です。


???の驚き/もう一つの序章

どこまでも暗い世界。そんな場所に俺はいた。

 

(ここはどこだ?俺はどうなってんんだ?)

 

思考がまとまらない。何も見えないし、聞こえない。

 

ただ何かに包まれている感覚はある。

 

(俺はなんでこんなところに…?)

 

すると暗闇の世界から一筋の光が見えた。静寂だった場所に誰かの声が聞こえる。

 

(俺を呼ぶ声?)

 

何も分からないけど一つだけわかったことがある。あそこに行かなくちゃいけない。

 

光が差す方、声が聞こえる方へと進み、俺は

 

 

この世界に生まれ変わった。

 

 


 

 

「よーし!生まれたぞ!」

「み、ミカド以来の難産だった…」

「予定より大幅に遅れた出産だったけど、なんとかなりましたね」

 

『……えっ誰?』

 

ここどこだ?俺はあの変な空間から抜け出そうとしてそれで…

 

『坊や、何をボーっとしているの?』

『えっあっごめん状況が飲み込めなくて……』

 

横から聞こえた声の方向に振り返る。そこにいたのは…

 

 

『……馬?』

『ええ、馬です。……もしかしてあなたあの子と同じ……』

 

自分の体を慌てて確認する。手はなくあるのは蹄がついた前足。体は黒い色をした馬体。見える景色も人のものとは違いほぼ全方向を見渡せる。

 

『これってあれだよな……』

 

もうこの時の俺は笑うしかなかった。

 

人であったはずの俺は

 

 

『転生して馬になるってマジかよぉぉぉ!!!??』

 

「うおっと!?またか!?」

「ミカドとここまで一緒でデジャブがすごい!?」

「また落ち着くまで待つしかないね〜」

 

『やれやれまたですか…』

 

今世の母のため息と呟きは俺の絶叫によって消えていった。

 

 


 

 

落ち着いた俺に母が色々と俺の状況の説明を始める。

 

『先ずは、あそこの壁に掛かっている紙に何が書いてあるか分かりますか?』

『えっ?え〜と2009年3月20日?』

『やはり…』

『あの母上、これになんの意味が…『普通の馬は人間が書いた文字を読むことは出来ません』……え』

 

この時、俺はやってしまったと思った。出来ないことが出来る。これは素晴らしいことではあるがあまりにも逸脱したものになると気味悪がられる対象になってしまう。

 

『えとその…』

『それが読めたということは、貴方は…』

 

母の雰囲気が怖い。俺が感じたものはこの時それだけだった。

 

『あの子と同じような存在なのね』

 

そういうと母の雰囲気が柔らかいものになった。

 

『えっ』

『怖がらせてごめんなさい。少し貴方のことが心配だったから』

 

『いいですか。貴方は私が知る限り恐らく貴方の兄と同じことが起きています』

『俺の兄貴と?』

 

俺の兄も人の文字が読めたり、知らないようなことを知っていたり、普通では考えられないような行動をとることが多かったらしい。

母はそんな兄を見ていたので既に耐性がついていたらしい。

 

『慣れるまで大変でしょうが、心配いらないわ。私がついていますし、少しずつ頑張っていきましょう』

『う、うん…』

 

こうして、俺の馬生が始まった。

 

 


 

 

『いいこと?貴方も将来的には競走馬になるのですよ。あの世界は完全実力社会です。力を示すことができなければ最悪な未来が待っていると思いなさい』

『は、はい』

『返事はもっと大きな声で!!』

『はい!!』

 

次の日からは俺は母さんから手解き、というか脚解きを受け、競走馬としての走りを叩き込まれた。

 

『ふむ…どうやら貴方はストライド走法が合っている見たいね』

『ストライド走法?』

『歩幅の長さを重視する走法のことよ。貴方は当歳にしては筋肉の付きが他の仔よりもいいみたいだからこっちの方がいいでしょう』

 

母曰く、この走り方はエネルギーの消耗が抑えやすいが、脚に掛かる衝撃により負担が大きいものらしい。筋肉がまだあまり付いていないやつがこの双方を多用したら故障する恐れがあるらしい。

 

『よって、貴方は筋肉が着き始めたら本格的にストライド走法の走りを教えましょう。それまでは姿勢やレースの知識を付けていくわよ』

『はい!』

 

また別の日…

 

『へぇ、こいつが姐さんの新しい子どもか?デケェな』

『確かにそうですね。他の当歳馬に比べて少し大きい体格をしていますね』

『えっと、どちら様…?』

 

隣の放牧地に放たれていた2頭の馬が俺に近寄ってきた。

 

『おっ、俺を見て話しかけられても動じないとはお前見どころあるな』

『フェニックスは基本年下には怖がられますからね。若い馬で君に臆さなかったのはここではミカド君ぐらいだったからな』

『えっと、ありがとうございます?』

 

ちょっと厳つい感じがするけど悪い馬ではないんだろうなとこの時思った。

この馬たちは『ノゾミフェニックス』さんと『ノゾミライン』さん。この牧場の種牡馬でどちらも牧場に大きな貢献をした馬らしい。

 

『レースは一頭で走るのとは全然違ぇ。周りのプレッシャー、乗っている人間との折り合い、馬場の状態。全てが出るたびに変わるんだ』

『同じ様な条件のレースは何度もありますが、どれ一つ全く同じレースはありません。一戦一戦全てに僕らの存在を叩きつけるんですから、それは違いは出ますがね』

 

二頭はよく俺に自分のレースの話をしてくれた。勝った時の話、負けた時の話、同じレースに一緒に出た時の話。全てが俺にとって興味深いものだった。

 

『そういえば、もう直ぐ皐月賞だと厩務員の人が言っていましたね』

『皐月って言えば、今回ミカドが出るんだろう?大丈夫かねぇあいつ』

『ミカド?』

 

ラインさんたちの話の中に今まで何度か出てきた『ミカド』という名前。話の中心に出てくることは今まではなかったから気にしたことはなかったけど、今回は何故かそれが凄い気になった。

 

『ん?ああ、そう言えばお前には話したことがなかったな』

『彼はノゾミミカド。君の兄にあたる現役の競走馬です』

 

(母さんが言っていた。俺と同じ様な存在の馬のことか…?)

 

『どんな馬なんですか?』

『まあ、『強い』。この一言で方が付く』

『間違いなく強者になりうる才能を秘めている馬です。僕らも引退していなければ、彼と共にレースで競い合いたかったですよ』

 

この二頭がここまでいうのは間違いなく凄い馬なのだろう。

 

(どんな馬なんだろう。一回見て見たい)

 

俺がそう思っていたことは、意外な形で実現する。

 

また別の日、お昼過ぎのころのことだ。

放牧地で俺が母さんから離れてボーッとしていたら、厩務員の人たちが慌てた様子で早歩きしていた。

 

「おい、急げ!もう始まるぞ!」

「いやそうは言ってもここだと馬が驚くから簡単には走れないだろう!」

「いやそれを加味してもお前遅いんだよ!今何キロだ!?」

「うるせぇ!まだ100キロしかねぇよ!!」

「100キロは充分デブだわアホ!ここで働いていてなんでそんなに太るんだ!?取り敢えず急げ!ミカドのレースが始まるぞ!」

 

『!!』

 

兄さんのレースが始まる。俺はそれを聞いた途端いてもたってもいられず、放牧地の柵を飛び越え、厩務員さんたちの後を追った。

 

厩務員さんたちはみんな事務所に置いてあるテレビで競馬を見ていた。

 

 

『2番は本レースの一番人気、ノゾミミカド。朝日FSを勝利した2歳王者であり、ここまで無敗。父トウカイテイオー、祖父に当たるシンボリルドルフとミホノブルボンたちに続く勢いでこの皐月を制すか期待です。鞍上は変わらず福長雄一騎手です』

 

 

テレビから聞こえるアナウンサーがノゾミミカドのことを言っている。画面には黒に近い体色をした一頭の馬が映し出された。

 

『あれが…ノゾミミカド…』

 

俺は画面越しからあの馬に何か自分と同じものを感じた。

 

そしてレースが始まり、ノゾミミカドはいきなり先頭に立ち、レースを引っ張る形で動いている。

 

「ミカド…勝てよ」

 

厩務員さんたちも固唾を飲んでレースに集中する。そしていよいよラストスパート。

 

 

『アンライバルトとセイウンワンダーがノゾミミカドに並んだ!!三頭が並んで坂を登る!!最内のノゾミミカドが僅かにまだ有利だが押し切れるか!?それともアンライバルトかセイウンワンダーが差し切るか!?勝負の行方はまだ分からない!!』

 

 

「ミカドっ!!行け!粘れ!!」

「まだだ、まだ行ける!!」

「神様仏様皇帝様帝王様!!どうかミカドに勝利を!!」

 

一進一退の激しい攻防。画面越しからも伝わる彼らの熱気。

 

『凄い……』

 

あれがレース…俺がいつか、走る舞台…

本能が言っている。走りたい、と。

 

 

『ノゾミミカド、セイウンワンダー、アンライバルト!この三巴を制するのは誰だ!?今三頭並んでゴールイン!!!!三頭が並んでゴールしました。誰が勝ってもおかしくない戦い、写真判定に移ります』

 

 

ゴールしたタイミングは殆ど同時。誰もがどれが1着かわからない。

暫くしてからようやく進展した。

 

 

『確定いたしました。勝ったのは、2番ノゾミミカド!!三頭による大接戦を制し、皐月の冠を勝ち取ったのはノゾミミカドです!!勝ち時計は1:57.9とレコードタイムを叩き出しました!かつてこの場所で伝説を生み出した『皇帝』と『帝王』に続き親子三世代で『帝』が無敗で皐月賞を制しました!!』

 

 

「「いっよしゃあぁぁあああぁ!!!!」」

 

『うおっ!?』

 

程なくして響き渡る歓喜の声。俺はそれに驚いてしまい後ろに下がる。

 

「……ん?えっなんで窓の外に馬がいるんだ!?」

 

『あっやっべ』

 

その時出してしまった物音で見事にバレてしまった。

 

「ああ!?放馬ぁぁ!!?」

「あれシエルの子だよな!?どっから出てきたんだ!?」

「お前ら!そんなこと言っていないでとっとと捕まえろ!!」

 

この後、無事に捕まった俺は母上からすんごい怒られました。ぴえん。

 

 


 

そしてそれから一ヶ月半ぐらいがたった頃、聴き慣れた音が聞こえた。

 

『これって馬運車のエンジン音?誰か来たのか・』

 

馬運車はここにそれなりに来ることが多い。種牡馬や肌馬を種付のために移動させることがあるから時々こうやって来るのだ。

俺のいる場所はギリギリ馬運車の出入り口が見える位置だった。

 

『誰が来たんだろう?』

 

じっとそこを見つめる。そして次の瞬間、一頭の牡馬が降りてきた。

 

『!?』

 

その姿は見覚えがあった。黒っぽい馬体、脚にある白い毛、真っ黒な立髪と尻尾。

 

『兄さん?』

 

前にテレビで見た俺の兄、ノゾミミカドだった。

 

そしてこの次の日。俺たち兄弟は初めて対談することになる。




名前:ルイシエルの2009(牧場では主にボー:ボーッとすることが多いから)
年齢:0歳
生年月日:2009年3月19日
性別:雄
毛色:栗毛
血統:父・キングヘイロー 母・ルイシエル 母父・ミホノブルボン

転生者その2の馬。性格は内気だけど別に怖がりじゃない。強面のフェニックスにも初対面で臆さず話すことができる。父が気性難だったのに生まれた仔はすんごい大人しい仔だったため、生産者一同は驚いた。でも奇行することがあるからそこは気性難?かなと思われている。体は平均よりも大きい体格で、将来的には某金色一族のシロイアレと同じくらいになるかもしれない。


弟君の父はキングヘイローです。なんでかって?作者が調べていて好きになった馬だからです。あのCMが大好きなんですよ。因みに他に好きなのはオグリとテイオーのCMです。あの『神はいる。そう思った』とか『天才はいる。悔しいが』ってカッコよくないですか?
みなさんが好きなJRAのCMがあればコメントとかで教えてください。

オリジナル馬のまとめ回必要?

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  • オリジナルウマ娘の方のまとめ作れ
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