紡がれる『帝』の血脈   作:シントウ

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次回からトレセンに戻ります。
菊花賞はその次を予定しています。

どうでもいいですが明日のダービー、誰を軸に賭けるか迷っています…
誰がいいんでしょうね…


帝の迷い/獅子の後悔

俺ノゾミミカドはレオ師匠に修行をつけてもらい、長距離のコツを教わりながら過ごしていた。

 

『スタミナの消費量を少なくする方法の一つはコーナリングだ。曲がるときに外側に出過ぎるとその分走る距離が長くなる。だからと言ってスピードを緩めれば馬群に埋もれる可能性があり、勝利が遠のく。スタミナ消費を必要最低限に抑えるならばこれも重要だ』

『なるほど』

『菊花は3000もの距離を走る。技術も必要だが最後は馬の能力で決まると言っても過言ではない』

 

菊花賞は『最も強い馬が勝つ』と言われている。これはスピードとスタミナを兼ね備え、2度の坂越えと3000mの長丁場を克服することが求められることからこう言われてきた。

 

『お前さんは強い。だがそれは今までがマイル〜中距離だったからだ。だから証明してこい。菊花を勝ち、お前さんが本当に強い馬だということをな』

『押忍っ!!』

 

 

そんなこんなで数日後…

 

 

今日は獣医の先生(以前登場した先生)が北山牧場にわざわざ来て、俺の脚の経過観察をしに来た。

 

「ふむ…予想以上に治りが早い…これなら来週には向こうに戻れると思います」

「本当ですか!?一ヶ月半しかまだ経っていないんですよね?」

「元々、治りが早くなるように脚に負担を掛けずに手術しましたが、私も驚きです」

 

俺の脚の治りは比較的早かったみたいで、来週には栗東に戻れるらしい。

今は8月中旬。ギリギリ調教はできる。

 

『希望が少しだけ見えてきたな…』

 

「もうある程度走っても問題はないでしょうが一応気を付けておいて下さい。油断は出来ませんからね」

「分かりました。先生、ありがとうございます」

 

診察も終わり、俺は卓矢さんに連れられて自分の馬房に戻ろうとしていた。

 

「ミカド〜!」

 

『ん、誰だ?』

 

俺を呼ぶ声を聞き、声が聞こえた方に振り返る。

 

「ミカド、久しぶり」

 

『湊ちゃん?湊ちゃんか!?うわっ久しぶりだなぁ!』

 

「ちょいちょいミカド!?危ない!急に振り返るな!」

 

卓矢さんを若干引きずりながら、俺は湊ちゃんに近づいた。最後に見た時は暗い表情が多かったけど、今は見る影もないくらい明るい表情をしている。今は志望校に合格して忙しい高校生活の日々を送っているらしい。

 

「聞いたよミカド。無茶して骨折したんでしょ?聞いたときは本当に心配したんだから。でもダービー優勝おめでとう!かっこよかったよ」

 

『へへっ、ありがとう…』

 

湊ちゃんに撫でられながら俺も頭を擦り付ける。

 

「きゃっ、もう危ないでしょ?」

 

「北山さん、このお嬢さんは?」

「うちの娘です。湊、厩舎付近は走るなと言っているだろう。それに今獣医の先生が来ているんだから、挨拶しなさい」

 

「えっ?あっ、その、すみません。お見苦しいところを見せました…」

 

先生の存在に気付いていなかった湊ちゃんは北山さんに言われてようやく気付いた。人目も気にせずに俺を愛でていたからか顔が赤い。(かわいい)

 

「いやいや、君がミカドを大切に思ってくれているということが今のでよく分かったからね。大丈夫だよ」

「いえ、すみません…えと、そういえば先程獣医と聞こえたんですが…」

「ええ、獣医です」

 

それを聞くと湊ちゃんは真剣な顔で話し出す。

 

「私、将来獣医になりたいんです。それで先生にお聞きしたいことがあるのですが、よろしいですか?」

「湊、先生もいs「構わないですよ」先生!?」

「彼女が本当に獣医になりたいと思っているなら私で良ければ話しましょう。では湊君、君は何を聞きたいのかな?」

 

先生も真剣な顔で問い返す。1秒ぐらいの間が開いき、湊ちゃんの口が開いた。

 

「私は家の関係でこうして馬たちと関わることが普通の子たちに比べて遥かに多かったです。そして『命』に関わることも…獣医になりたいと思ったきっかけもそのことでした。……先生、獣医、特に大型の家畜などを相手にしているあなたにとって、獣医に必要なものはなんですか?」

 

しばらく静寂が続いた。そして先生は口を開き語り出す。

 

「そうだねぇ…技術や知識はもちろん必要なことだし、体力や観察眼なども重要だ。…でもね。僕が本当に獣医にとって必要なのはそれらじゃないと思っている。一番必要なのは…

 

 

 

 

殺れるかどうか

 

 

 

かな」

 

その答えに全員が息を飲む。

 

「特に家畜獣医はその選択にしょっちゅう迫られる。獣医は救った命よりも殺した命の方が多いとも言われたこともあるからね。私も元気になった動物たちの姿を数えきれないほど見てきたけど、記憶に多く焼きついているのは救えなくて看取る動物たちの姿の方が多い」

 

やりきれない様な表情で語る先生に湊ちゃんは言葉を失っていた。

先生が言っていることは確かに間違ってはいないだろう。俺たちサラブレットなんかは脚のの骨折で命の選択に迫られることが多い。ボッキリ折れていれば安楽死がほとんどだ。命のやり取りを最前線で行っている先生の言葉は、非常に重い。

 

「救えなかった命を見て、精神を病む者も確かにいた。特に君は優しいからね。そのやり取りが続けば、精神的負担は大きいだろう」

「向いていないと…言いたいんですか…」

「いや。そんなことは一言も言っていないよ、私」

「えっ」

「逆にそういう『優しい心』を持っているからこそ救える命もあるんだ。『殺せない』よりも『殺させない』様にしていくことができればきっと多くの命が救われる。僕個人は君のことを応援するよ」

 

先生はそういうと優しく笑った。

 

「あ、ありがとうございます!頑張ります!」

「うん。夢を叶えるためにも頑張りなさい。でもそういう現実があるってことだけはしっかり理解しておいてくれ。救いたいけど救えないものは残念ながら存在する。叶うにしろ叶わないにしろ、夢を叶えようとすることは、空想の状態にあるものを現実のもにしようと闘うことだと僕は思っているからね」

 

 


 

 

『現実のものにしようと闘うこと、か…』

『どうしたミカド?物思いにふけたような顔をして』

 

俺は獣医の先生が言っていたことを師匠に話した。

 

『夢を叶えることって確かに大変ですよね。明確なものだと道は分かっても険しい現実が襲いかかって、あやふやなものだと道がわからず迷ってしまう。俺の三冠という夢も断崖絶壁の如く険しいものになっています。しかもそれに挑めるのはたったの一回だけ…』

 

今まではただただ大きな目標として見ていた。でもそれが一歩手前まで来た今、改めて目指したものを見るとそのあまりの大きさに圧倒される。

正直、今の俺はビビっているんだ。三冠にリーチした今だからこそ、それが敵わなかった時のことを…

 

『あ〜、らしくない。こんなにウジウジ悩むような奴だったけ俺?』

『それはお前さんがそれだけ夢に向かって真面目に取り組んできたからこそ生じた迷いだ』

 

師匠が急に話し出す。

 

『何も考えていないような奴はそもそも迷ったりはしない。真剣にやってきたからこそお前さんは恐れているのだろう。夢を叶えられないかもしれないことを』

『……はい』

『いいかミカド。お前さんは一度だけだが、確実に挑戦できるチャンスが残っている。何事もやらなければ、一割以下の勝利を掴むことはできん。俺は『アイツ』についぞ勝てぬまま終わってしまったからな…』

『師匠…』

 

師匠は『怪物』と言われた馬に勝とうとしていた。でもそれは叶わなかった。あのラストラン、師匠は出走出来なかったらしい。脚を痛め、故障までとはいかないが、レースで走らせるのは難しかったようで、当時の師匠の陣営は辞退した。

 

『だからこそ、お前さんは全力で走ってこい。勝っても負けても悔いを残さないように、自分やお前さんを支えてきてくれたものたちに恥じない走りをしろ。……それが夢を叶えられずに終わった老いぼれがお前さんに言えることだ…』

 

『……分かりました。正直まだ少し迷いはありますけど、悔いがない走りをしてきます。師匠が勝った、ノゾミの始まりのG1で!』

 

夢を現実する闘い。俺は持てる全てを出す。最も強い馬が勝つと言われている菊の舞台で。




今回の獣医さんのセリフはとある漫画のセリフを拝借し、作者がアレンジしました。
作者もこれがきっかけで馬に興味を持ちました。

来週はリアルが忙しくなるので多分更新できないと思いますが、なるべく早めに出すので待っていてください。
お願いします。
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