その分次のレース回は力を入れて作ります。
『トレセンよ、俺は帰ってきた!!』
「ミカド、早く馬運車から降りて。迷惑になるから」
『あっ、スンマセン…』
俺ノゾミミカドは約2ヶ月ぶりに栗東に帰ってきた。
「ミカド、久しぶりだな」
『テキ、お久しぶりです』
「脚の方はもう大丈夫か?帰ってきて悪いがならしの調教を明日始める。時間は少ないが少し休んでいてくれ」
菊花賞まであと1ヶ月と少し。ここで可能な限り仕上げなければ間に合わない。移動の疲れをとるために俺は自分の馬房に戻る。
『ミカド!?帰ってきたんだ!』
『ようブエナ久しぶりだな。元気にしていたか?』
『うん!でも少し前のレースで2着になっちゃった…』
『あらら、そいつは残念だったな』
『ミカド、久しぶりだね』
『オーラ先輩!お久しぶりです』
『骨折の方は平気かい?』
『先生が言うには俺は治りが早くて、もう大丈夫らしいです』
『そうか。それは良かった』
厩舎のみんなと話しながら初日は終わった。
次の日
「ミカド、久しぶりだな」
調教開始初日。雄一さんがやって来た。俺を骨折させたと言う理由で一度は俺の主戦を離れようとしていた。俺はそれを止めるべく、雄一さんの服の裾を噛み、離さなかった。他の人も骨折は雄一さんのせいじゃないって言ってくれたことから、思い直してくれて今でも俺の主戦でいてくれている。
『雄一さん…大丈夫ですか?』
前見た時よりかは顔色は良くなっているが、やはり少し元気がなさそうだ。
「心配してくれているのか?大丈夫だ。お前がこうして直ってきてくれたんだ。なら俺はお前のその頑張りに応えるだけだ」
こうして始まった調教はやはり難航した。その一番の理由は勿論…
『ゼェ…ゼェ…クッソ、体力がやっぱり落ちている』
「やはり、体力が…」
俺の体力低下だ。
向こうにいた時もなるべく体力を落とさないようにウォーキングみたいに放牧地を何周もしていたがそれでもダービーよりも減っている。
「テキ、やっぱりミカドの体力が落ちています。予想していたより少ないですが、まずいですよ」
「やっぱりな…よし、今日は他の馬との併せでレースのカンを取り戻させる。体力の方はは明日から本格的に始めよう」
先輩たちとの併せで、落ちた体力がモロに現れてしまい、結局この日は一回も抜かせなかった。
更に翌日
『えっと、テキ…ここは?』
次の日俺はテキたちに連れられてある施設に連れてこられた。その施設が…
「プール調教。確かにこれなら…」
「脚に負担を掛けず、体力低下に対応できる。本当は昨日からしたかったが、今日からしか取れなかったからな」
馬の調教にはプールを使ったものもあり、故障が原因で十分なトレーニングを積めない馬が脚の負担も少なく、体力低下や運動不足を解消するために行う。俺の骨折はもうほぼほぼ完治しているが直ったばかりだからプールでの調教を始めた。
そうして俺はプールの中に入る。
『あっ、結構気持ちいかも…てか楽しい』
プールはそこそこ広く、形としては流れるプールみたいに一周するタイプのもの。深さは脚が底につくかつかないかくらいの深さ。前世で夏休みにプールで遊んだみたいな感じになって、俺はちょっと楽しくなって来た。
「なんか、はしゃいでいますよね…ミカド」
「ああ、アイツがあんなにはしゃいでいるのは俺も初めて見た」
『ヒャッホ〜イ!!見よ、俺の華麗なる犬掻きならぬ馬搔きを!!』
「泳ぐのが好きなんですかね?」
「アイツをここに連れて来たのは今回が初めてだ。この分なら間に合うかも知れねぇな」
『イエ〜イ!!』
それから週二回ぐらいでプール調教を入れながら、菊花賞へと準備を進めていく。
併せで感覚を取り戻しつつ、プールで脚の負担を減らし、体力を回復させる。
そして開催日が近づくにつれて菊花賞に出走する競走馬たちの取材にやって来たテレビ局や記者たちが松戸厩舎に現れ始めた。
取材を受けるのはテキや雄一さん。俺はそれを横で聞いていた。
「前回のダービーの後に骨折が発覚したノゾミミカド号ですが、何故菊花賞に出走することを決めたのでしょうか?」
「最初は回避も選択に入れていましたが獣医の先生から比較的軽度であったと診断され、その治りもかなり早かったため、出来るのならばと思い行かせました」
「他のライバルたちに比べ、調教の時間はかなり短くなってしまいますが勝算の方はあるでしょうか?」
「この1ヶ月間、脚の負担のことも視野に入れながら、可能な限り仕上げて来ました。苦戦を強いられるかも知れませんが勝ってくれると信じています」
「骨折して直ぐのレースがG1の長距離と言うのはいくらなんでも無謀なのではないでしょうか?三冠を取れずとも有馬や年明けのレースに合わせなかったのは?」
「確かに側から見れば無謀に見えるでしょう。しかし、我々はミカドならばやってくれると信じて今回送り出したのです。何よりもミカドがそれを望んでいる。この馬は頭が非常にいい。コイツが行けると思っているのならば我々もそれに応えるだけです」
俺の出走に対して疑問や否定的な質問がかなりあった。それに対して2人はしっかりと答えていく。
「菊花賞は我々にとって最も重要なレースです。出るからには勝つ気で挑みます」
こんなに俺のことを信じてくれる人がいるのなら、俺はそれに応えるまで。クラシックの終わり、そして全ての世代が集う舞台の入り口になるレース。
菊花賞は、もう直ぐだ。
いよいよ三冠ラストのレースに入ります。
タイトルは菊花賞前なので、花が咲く前の蕾、始まる前段階ということです。