先週は色々ありまして…
今回は人間視点の話です。それではどうぞ。
シン・ウルトラマンを日曜日に観てきました。メチャクソ面白かったです。
福長雄一side
最終コーナーを抜け、大外に周り先頭争いに入るまでは良かった。だがミカドの体力は既に限界に近かった。
(顎が上がっている。呼吸も荒い。このままだと50m付近で垂れる…!)
何回も鞭を打ってはいるが、反応が鈍い。今はもう空元気で走っているようなものだ。そしてとうとうミカドのスピードが落ちて来た。もうスタミナを殆ど使い切ってしまったのだ。
(まずい!ミカド、頑張ってくれ!!)
俺に出来るのはもはや相棒を鼓舞し、走らせるだけ。もう終わりかと思った。
だが……
……ズンッ!!
「なっ!?」
あれだけ限界に近かったミカドが突然息を吹き返し、過去一番とも言えるほどのスピードを出し盛り返したのだ。
「ミカド!?どうしたんだ!?」
思わず声をかけるが反応が無い。普段はこんな時でも耳だけはこちらに傾けてくるが今回は全く反応していないのだ。
(これは……何かを追いかけている?けど前には誰もいないのになぜ?)
思わずミカドの視線の先を見た。勿論そこには誰も居ない。
(いや…あれは…?)
居ない筈なのだ。だが『何か』がそこに居た。朧げな、蜃気楼や幻影のようなものが俺たちの前を走っていた。そのシルエットは間違いなく『馬』のものだ。
(俺は、幻覚でも見ているのか?だが、ミカドにはあれがハッキリと見えているようだ。だから息を吹き返した。『俺の前を走るな』って…)
正直オカルトなどはあまり信じていない。だがミカドが走れるのならそれを利用してやる。
「行けっ!!ミカドぉぉぉ!!!」
再び鞭を振るいミカドを鼓舞する。先程よりも反応を示し、落ちていたスピードを取り返し、さらに上げていく。
50m。幻影の影を踏む。
30m。幻影の前脚に届く。
10m。幻影と完全に並ぶ。
0。僅かに幻影を追い抜いた。
ゴール版を駆け抜けると、幻影はどこにも居なかった。
「あれは…一体?」
幻影は一体何だったのかと考えようとした。だが
「「「「ワァァァァアアアアアアァァァァ!!!!!!!」」」」
「うぉっと!?」
『ビヒィィン!!?』
『ノゾミミカドだ!!ノゾミミカドだ!!!祖父の偉業、父と母父の無念を、多くの人々の望みを叶え、今一着でゴールイン!!!!!最後の直線での三つ巴で他二頭を差し切って、半馬身差で勝ちました!!!!勝ち時計は3:01.4!!レコードタイムを記録しました!!3つの冠を携えて、今ここに4年ぶりの無敗三冠馬が誕生しました!!!!』
観客の歓声、実況の興奮気味な声、続々と俺らを追い越して行く競走馬たち。それらによって、俺らは現実に引き戻された。
三冠?無敗?俺たちが?
「み、ミカド……もしかして俺たち…」
『ブルルっ……』
俺たちは…勝った。菊花賞を勝ち、無敗の三冠馬と三冠ジョッキーになったんだ。
「………いよっしゃぁぁぁ!!!!」
『ビヒヒィィーーン!!!!』
『福長雄一、大きくガッポーズ!ノゾミミカドもそれに応えるように嘶いた!!祖父が残した大輪の種を父が繋ぎ、帝に託され、そしてここ京都競馬場で再び赤い大輪を咲かせました!!!多くの人々が望んでいた父の悲願を子が叶えました!!!おめでとうノゾミミカド!!!』
大歓声が響く中、俺はミカドを見る。本当に嬉しそうにターフを駆けるこいつには驚かされてばっかりだ。
「ミカド、辛いだろうがウイニングラン、いけるか?」
『ブルっ!!』
勿論だ、とでも言っているのだろう。息絶え絶えで歩くのもキツいだろうに。
「無理ない範囲でやろう。歩いても良いからな?」
そしてウイニングランをするためにコースを再び駆ける。
『さあ、ウイニングランを終えて、ノゾミミカドと福長雄一がスタンド前に帰って来ました!!』
スタンドを前に来るとミカドは一度止まり、弾むような歩様で歩いていく。父トウカイテイオーのテイオーステップを観客に披露している。
「「「「ミ・カ・ド!!!ミ・カ・ド!!!ミ・カ・ド!!!ミ・カ・ド!!!ミ・カ・ド!!!」」」」
『おっとここでミカドコールです!無敗の帝の凱旋に応じて、ミカドコールが京都競馬場に響いています!!』
「「「「ミ・カ・ド!!!ミ・カ・ド!!!ミ・カ・ド!!!ミ・カ・ド!!!ミ・カ・ド!!!」」」」
こんな光景は今まで見たことなかった。俺はきっと、この光景を一生忘れることはない。
「ありがとうミカド。こんな素晴らしい光景を見せてくれて…」
『………こちらこそ。俺をここまで連れて来てくれてありがとうございます』
観客席
「勝った…ノゾミミカドが勝った!!」
「本当に…勝つなんて……」
「「やったぁぁぁ!!!」」
観客席ではいつもの2人と掲示板勢たちが涙を流しながら騒いでいた。彼らが流す涙は馬券が当たった外れたで出る涙ではない。ただノゾミミカドが勝ったことに対しての感涙の涙だった。
「リョウ君……(ズビぃぃぃ…)み、ミカドがっだぁぁぁよぉぉ!!!」
「ええ、勝ちましたね」
「勝ったぁぁぁ!!!」
「………」ズビぃ…
順に、
涙と鼻水で顔がぐちゃぐちゃになって、イッチことリョウ君に抱きつく一文無しネキ。
一文無しネキに抱きつかれ、涙とネキで前が見えなくなっているイッチ。
ただただ純粋にミカドの勝利を涙を流しながら喜ぶ新人君。
言葉に表せないほどの喜びの感情で声が出ない五徹ニキ。
このグループの周りには誰も近付かなかった。
「ミカドは、帝は皇帝と帝王を超えたかもしれない……」
「ああ、本当に…よく頑張ったよな…」
一真と翔一もミカドたちに賛辞の声を送る。
「俺はミカドに謝らなくちゃいけないな。ミカドが勝てるって信じ切れていなかった」
「それを言ったら俺もだ。何回も負けるんじゃないかって思ったし」
「とにかく全員、涙と鼻水を拭こう。大分目立っている」
五徹ニキの言葉で全員ハンカチやティッシュで顔を拭く。
「さて、レースも終わり、あとは写真撮影ぐらいだ。その後はどうする?」
「森さん(五徹ニキの名字)、宴会しましょう!」
「宴会というより、軽く飲みに行きませんか?」
「自分も行きたいです!」
「俺も賛成だけど…その料金って…」
「「「勿論、森さんの奢りで」」」
「だよね〜」
今回大勝ちした五徹ニキが飲み代全額負担することが既に決定していた。
「君たちも一緒にどうだい?」
半分ヤケクソで五徹ニキは翔一と一真を誘う。
「えっ良いんですか?」
「自分ら特に関わりないですけど…」
「いいよいいよ。2人増えたところで特に問題ないし」
こうして6人は近くの飲み屋で親交を深め、連絡先も交換した。
『それでは、見事三冠ジョッキーの称号を手にした。福長雄一ジョッキーにインタビューしていきます。まずは福長騎手、おめでとうございます!』
「ありがとうございます!」
フラッシュが飛び交う中、俺はインタビューを受ける。ダービー以来のG1のインタビュー、しかも三冠ジョッキーとしてだ。
『ノゾミミカドは今回休養明けのレースがG1、しかも長距離の菊花賞でしたが今回の彼はどうでしたか?』
「そうですね…他の馬に比べて調教が少なくて、不安な部分も沢山ありました。スタミナが切れかけて、最後はもう空元気に近い状態で走っていましたがそれでも力強い走りをして、勝ってくれました。」
『今回のレースの決め手となった事は何でしょうか?』
「え〜、3コーナーから最後の直線のところですかね。あそこに行くまでとにかくスタミナを保たせるために色々とやったので直線で伸びて本当に良かったです」
『最後に三冠を達成した感想をお聞かせ下さい』
「本当に夢みたいです。このレースに関わった全ての方々に感謝します!」
『以上、福長雄一ジョッキーの勝利インタビューでした!』
「雄一!!」
「福長さん!!」
「テキ、駒沢さん!」
インタビューが終わり、記者たちから解放された俺にテキと駒沢さんが駆け寄って来た。
「お前……良くやったな、おい!!」
「痛っ…あ、ありがとうございます…」
バシンっと俺の背中を叩くテキ。興奮気味のせいかかなりの威力だった。
「福長さん。本当に、ありがとうございます…父が初めて手にした『ノゾミ』の最初のG1を、またこうして、無敗の三冠として、再びとってくれて、感謝します…」
駒沢さんは若干涙声になりながらも俺の手を掴み礼を言ってきた。
(そういえば…ノゾミの馬が初めてとったG1は菊花賞だったっけ…)
20年も前の話、ノゾミレオが菊花賞を勝ち、当時は弱小と呼ばれていた『ノゾミ』汚名を返上し、少しづつノゾミは強くなっていった。しかし、そんな矢先に駒沢さんの父は病気で急死。駒沢さんがその跡を継ぎ、ノゾミの名を繋いできた。感慨深いものがあるのだろう。
「駒沢さん。顔を上げてください。感謝したいのこちらの方です。私にこんな素晴らしい馬を任せてくれて、骨折を引き起こしてしまった私をこうしてまたミカドに乗せてくれて、本当にありがとうございます」
俺は両手で駒沢さんの手を握り直し、感謝を伝える。この人がいたからこそ、あの素晴らしい馬に出会うことができ、あの景色を見ることができたのだから。
「……さて。そろそろ写真撮影の準備が終わるでしょうし、我々も早いところ準備をしてしまいましょう。三冠馬の調教師、馬主、騎手が写真撮影に遅刻しては一生の笑い者にされてしまいますからね」
テキの言葉でその場にいた全員が笑い、各々準備のために解散し、関係者一同の写真撮影を行った。
ミカドは写真を撮る時に嘶いて、全員がそちらを向いた瞬間にシャッターが切られ、ちょっとしたハプニング写真ができたのは余談だ。
次回はウマ娘編を挟みます。