今月末と来月の始めはマジで忙しすぎて全然執筆が進みませんでした。
多分次の投稿は8月の半ばです。それまでお待ちください。
それでは、本編どうぞ!
福長side
「ミカド、準備はいいか?」
『ブルルッ』
年末の中山でファン投票によって選ばれた16頭により行われるレース有馬記念。無敗の三冠馬となったミカドは多くのファンの後押しにより、見事投票率一位となった。
終わった血と言われたトウカイテイオー産駒たちの希望となり、骨折をしても驚異的な回復力で直しレースに出走、父が叶えられなかった悲願を成し遂げた。本当にお前はすごい馬だよ。
「おっ?あれは…」
二頭の馬がこちらに近づいてきた。一頭はミカドと同じ厩舎のブエナビスタ、もう一頭は今まで激戦を繰り広げたセイウンワンダーだった。
「雄一、すまんなコイツがこっちにきたがっていたもんで」
「大丈夫ですよ、富士田さん」
富士田真二(ふじたしんじ)。今回のセイウンワンダーの騎手を務める人だ。
「こっちもよろしく頼むよ雄一。コイツもかなり気合いが入っているようだし」
「はい、横谷さん」
ブエナビスタの方は横谷さんが騎手を務める。
「今年度の実力馬三頭の揃い踏みってとこですね…」
クラシック三冠馬であるノゾミミカド。牝馬二冠のブエナビスタ。何度もミカドを追い詰めてきた実力馬セイウンワンダー。今年の三歳馬たちの実力は古馬たちにも負けない。
『ブルッ…』
『ブルフッ!!』
「セイウンワンダー?何があった?」
「おっと…どうした、ブエナビスタ?」
ブエナビスタとセイウンワンダーがなぜかお互いを睨み出した。耳も絞るまではいっていないが警戒しているせいでピンっと立っている。
「どうしたんですか?二頭ともすごい警戒していますけど…」
「いや、分からない。急にセイウンワンダーが警戒仕出して」
「こっちもです。ブエナビスタ、セイウンワンダーに何かしたか?」
こちらもミカドの方を見るがこっちは耳と視線があちこち動いていて、不安を表す行動をしている。仲のいい厩舎の仲間とライバルが急に目の前で互いを警戒し始めたのだから分からんでもない。
「そういえば、コイツらの親はライバルだったよね?」
「確か…そうだったな…」
「はい。それこそこの有馬で…」
ブエナビスタの父スペシャルウィークとセイウンワンダーの父グラスワンダーは黄金世代と呼ばれたあの世代で互いに最強と呼ばれた存在だ。
噂ではスペシャルウィークはグラスワンダーの影響で元々馬が苦手なのも相まって栗毛の馬が更に苦手になったとも言われている。
歴史は繰り返すというが親の影響が仔にも現れるとは…
「一度離した方がいいと思います。ここで暴れて怪我でもしたら洒落になりませんから」
「そうだな…真二」
「わかってます。ワンダー、動くぞ」
セイウンワンダーが動こうとした時だった。
「おっ、おい!落ち着けって!!」
ドドドッドドドッ!!
そこそこの勢いで一頭の馬がこちらに突撃しにきたのは。
「うわっとと…!お前な、危ないだろ!!他の馬たちが驚いているぞ!!あっ、すいません!皆さんウチのジャーニーがご迷惑を…」
やって来たのは宝塚記念で勝利したドリームジャーニーとその鞍上『池副健一』(いけぞえけんいち)だった。
「すみません。コイツが急に動き出して…」
「健一…無理にとは言わないがちゃんとソイツを制してくれよ。噂じゃ滅茶苦茶暴れるんだろう?」
「毎日殺されそうになっています…レースではまだいうこと聞いてくれるのが不幸中の幸いです…」
ドリームジャーニーが暴れ馬ということは栗東は勿論、美浦の方でも噂になっている。父ステイゴールドはもちろん癖馬。さらに遡るとサンデーサイレンス、ヘイローとその気性は荒くなり、今の代では大分マイルドにはなったらしい。
『ブルッ!!ブフッ!』
『ヒンッ!?』
『ブフフン!』
馬同士でも何か会話でもしているのか、ドリームジャーニーの反応にブエナビスタとセイウンワンダーが耳を立てる。
多分挑発でもしているんだろう。これ以上コイツらを一緒にさせて置くと本当に喧嘩をし始めるかもしれない。そろそろお開きにしようと言おうとした次の瞬間だった。
『ブフンッ…』
ミカドがかなりの圧を出しながら彼らの間に入って行ったのだ。ミカドの耳は完全に絞られており、誰がどう見ても『怒っている』ことが分かり、その怒りは目線の先にいるドリームジャーニーに向けられていた。
『ビヒンッ!?』
ドリームジャーニーは突然目の前にいた相手の雰囲気が変わったことで驚いていた。その後、ブエナビスタとセイウンワンダーもドリームジャーニーに向かって挑発のようなことをし、ドリームジャーニーも一度鳴いてから、自らゲートの方に向かって行った。
「ミカド…お前、同期が馬鹿にされたから怒ったのか?」
『………』
ミカドは何も反応しない。普段は心優しい馬だからこそ驚いた。俺は今までコイツが耳を絞ったところを殆ど見たことない。一度、ミカドが注射針を偶然見た時、酷く怯えた感じで耳を倒していたがこれはどちらかというとこれから始まることへの恐怖からだったのだろう。
*ミカドはワクチン摂取などで注射するときは馬が変わったかのように暴れ回るほどの注射嫌い。この時は担当厩務員の真司がミカドに吹き飛ばされ厩舎の壁と熱烈なキスをする羽目になった。
「お前が怒ることがあるなら、それはきっと仲間が馬鹿にされた時ぐらいだろう。お前は優しいからな。
なら、奴を見返してやれ。俺らの世代はお前が思っているよりも強いってところを」
『ビヒィン!!』
ミカドside
『晴れた空の下、ここ中山で年末の大勝負が始まろうとしています。年末最後の大祭、『有馬記念』!!今回は特に多くの強者が集いました。無敗の三冠馬、牝馬二冠馬、春のグランプリ覇者…誰が栄光を掴むのか非常に楽しみです』
ゲート前に来て、俺は一度呼吸を整える。朝日杯、皐月賞、ダービー、菊花賞。多くのG1レースに出走して来たがこの有馬はまた違う。今までは同い年たちでレースをして来たが有馬は三歳馬と古馬たちの混合。先輩方たちとのレースになる。経験というものでは俺たちは古馬たちに圧倒的に不利だ。向こうは俺たちが知らないようなことを知っている。馬たちの情報戦では向こうにアドバンテージがある。
(今までとはまた違った空気だ。ナチュラル先輩のような内から燃え上がる気配、オーラ先輩のような静かな気配、モナーク先輩のような歴戦の猛者のような気配、これが古馬たちか…)
俺にとっちゃ初めての古馬たちとのレースだ。色々学ばせて貰って、勝つ!!
ゲートに入り、全ての馬たちが入るのを待つ。隣にはさっき挑発し返したドリームジャーニーが入る。
『よう、三冠馬サマ。よろしく頼むぜ』
『こちらこそ、グランプリホースサマ。全力で叩きのめしに行くぜ』
全頭が入り、いよいよ出走の準備が整う。
『全頭、出走準備が整いました。年末最後の祭典有馬記念!』
ガゴンッ!
『スタートしました!ドリームジャーニーは後ろに行きました。最初にハナを取ったのは無敗の三冠馬となったノゾミミカド。久しぶりに逃げに出ました。続いて2番手に着いたのは菊花賞でもレースを引っ張ったリーチザクラウン。続いてミヤビランベリ、その後ろにテイエムプリキュア。ブエナビスタが少し前に行こうとしています。4コーナーを抜け、ブエナビスタは先団内側にいます。ホームストレッチを通り先頭はノゾミミカドとリーチザクラウンがハナを進みます』
『リーチザクラウン。今日は久しぶりに俺が先頭を仕切らせてもらうぜ!』
『いや、今日も僕が先頭だ!』
今回は逃げの作戦。中山での俺は基本逃げか先行だが今回の逃げはいくつか理由がある。一つはブエナやワンダー対策。アイツは基本は差しで後方から一気に先頭に来る。だから馬なりが速い俺が先頭に立ち、レースを高速化させ、末脚を伸びにくくさせるのが目的だったんだが……ブエナは今回先行策。横谷さん、俺が逃げると踏んでブエナを前に出したな?あの人毎回変わったことしてくるから怖いんですけど…
二つ目はコースの特性上から。中山は短い直線と急坂が名物なのはご存知の通りで、定石では逃げ・先行が有利。それに俺の中山での逃げ勝利率は100%。慣れている逃げが安定して走れるから前に出た。あとは今回逃げ馬が多い(俺、リーチザクラウン、テイエムプリキュア、ミヤビランベリ)。だから先行で行くと垂れて来た時に囲まれたり、俺の集中が邪魔されるかもしれないから、それなら最初から先頭にいればいいじゃんってことでこうなった。
『1000mを越えて、今のタイムは58秒3!?かなり速いペースとなっております。依然先頭はノゾミミカド。リーチザクラウンはその外側にいます。ミヤビランベリはさらに5馬身後ろ。テイエムプリキュアも続きます。更に少し離れて皐月賞二着のアンライバルト、その外に牝馬二冠のブエナビスタが上がっていく!スリーロールスがいてその外にイコピコ。その内にマイネルキッツ。おっと、スリーロールスが後ろに下がった!?スリーロールス故障発生か!?』
スリーロールスに故障!?あっそう言えばこの年の有馬故障して競争中止になった奴がいたけどそれお前か!?アイツ大丈夫か?
「ミカド、ライバルが心配なのは分かるが今はレースに集中しろ。きっと大丈夫だ」
『雄一さん…すみません。気合い入れ直します。むしろアイツの分も走りきります!』
そうだ。アイツは俺とワンダーと一緒に菊花賞でトップ争いしたほどの奴だ。きっと大丈夫なはずだ。
『思い掛けないトラブルが起きましたがレースはまだまだ続きます。向こう正面、先頭はノゾミミカド。このままレースを引っ張ることができるのか?』
取り敢えずここまでです。
最後の直線勝負は次回に持ち越します。