8月中はのんびりしていました。
9月は合宿とか色々行っていました。
10月に入ってやっと取り掛かることができました。
本当にすみません。
『向正面、先頭はノゾミミカド。レースをこのまま引っ張っていくのか?』
「ノゾミミカドは得意の逃げでレースを引っ張る作戦に出たな」
「どうした急に」
観客席では、いつもの通り翔一と一真がミカドのレースを観戦していた。
「有馬記念は長距離レースの中では2500と短い距離ではあるが、だからと言って楽なレースではない。中山の特徴である急坂に加え、歴戦の猛者たちが集うこのレースは若馬たちにとってはアウェイになることが多い。古馬たちが持つ『経験』というアドバンテージには絶対に若馬たちは勝てないからな」
「確かに、古馬なら色々なレースで経験を積んで、どういう走りが一番いいか分かっているかもしれないもんな」
「そう。だからノゾミミカドたちは前に出た。皐月賞と同じ様にレースの流れを自分が有利になる様にしているんだ。他の馬や騎手たちがこの流れを変えるには、知恵や策略で流れの向きを自分の方に向けるか、圧倒的な力で流れそのものを飲み込むしかない」
「そして、今回のレースではその流れを変える2つの要素が存在する」
しかし今回はいつもと少し違う。
「森さんの言う通り、知略という意味では横谷騎手だね。要注意であるブエナビスタが今回前に出たことでちょっとしたイレギュラーになった。今まで後方からの競馬をしてきた馬が前の方にいるだけでレースがわかりづらくなる。ミカドは逆に向こうの作戦に飲まれない様に注意する必要が出てくるから、そのスキを突かれたら一気に流れが変わる」
「一方、力の方はドリームジャーニーね。小柄な馬体からは考えられない様なパワーで他馬を圧倒する。池副騎手もジャーニーの性格を十分わかっているからその力を発揮しやすい様に動くでしょうね。流れをブチ壊す程の暴力的末脚が炸裂したら一気にレースが変わるわよ」
「自分は全然わかりませんが、セイウンワンダーも結構いい位置にいると思いますよ」
菊花賞で出会った四人がいるからだ。
上から順に、五徹、イッチ、一文無し、新人である。
「確かに、ノゾミミカド、ブエナビスタ、ドリームジャーニー、セイウンワンダー…この四頭が凌ぎを削るだろう。帝による世紀末覇王に続く年間無敗か、絶景による牝馬有馬制覇か、夢の春秋グランプリ制覇か、青雲による初のG1制覇か…」
誰が勝つのかは全くわからない。この祭典は多くの奇跡やドラマが生まれる舞台。今年は一体何が起こるのか…
この場にいる誰もがそう思いながらレースを見守る。
向正面の途中でスリーロールスが故障するというハプニングが起きたがレースは続く。俺は現在先頭。二番手とは1馬身半ぐらいの感覚で走っている。
『先頭は依然ノゾミミカド。その後ろにはリーチザクラウン、三番手にミヤビランベリとテイエムプリキュア。二馬身離れてアンライバルとその外ブエナビスタ。マツリダゴッホが半馬身差でつけています。後ろにイコピコその外にマイネルキッツ、一馬身後ろにネヴァプション、コスモバルク、更に少し離れてセイウンワンダー、フォゲッタブル、ドリームジャーニーは後方から二番手。そして殿、エアシェイディ。こいった展開になっております。先頭集団が第三コーナーに入ります。』
『クッソ!なんで追いつけねぇ!』
『は、速い!』
『ここまで…とは…!』
どうやら先頭で俺に着いてきた逃げ馬たちは俺のペースに無理して着いてきたせいでスタミナに限界が来ているようだ。多分、四コーナーに入る前に垂れるな。
元々ハイペースになるようにレースを進めていたから、逃げ馬たちが俺の速いペースで潰れるのは時間の問題だった。
『でもまだ保ってくれよ…アイツらが抜け出してくる時間を少しでも稼ぎたいからな』
『先頭ノゾミミカド、二番手のリーチザクラウンは一馬身後ろにいます。ここでブエナビスタが三番手に上がってきました。』
『ミカドォォォ!!』
………いやいやいや早くね?抜け出してくるの早くね?今まだ三コーナー中盤くらいだよ?四コーナー入ってすらいないよ?
「まさか、横谷さん前の馬が垂れる前に早めに前に出したのか!?」
『ヤバイな、ブエナの末脚は俺にも引けを取らないぐらいの威力があんだぞ?』
『おっと、ここでセイウンワンダーも前に出た!大外からロングスパートをかけてライバルを今度こそ差し切ることができるのか?』
『皐月賞と同じては喰らわない。今度こそ君に勝つ!』
『お前もかぁぁ!!?』
いやそうだよな!?皐月賞で全く同じやり方だからそりゃあ気づくよな!?コースも一緒だからデジャヴ感じるしな!?
「ミカド、落ち着け!まだ猶予はある!四コーナーで一気に離すぞ!」
『四コーナーに入り、先頭は依然ノゾミミカド。しかし、後続には牝馬二冠のブエナビスタ、激闘のライバルセイウンワンダーが上がって来ている!この三頭の三つ巴になるのか!?』
「よし、行くぞミカド!!」
『オッシャアァァ!!』
雄一さんからの鞭が入る。いつもの様に脚に力を溜め、一気に開放させる。
「さて来たよ。ブエナビスタ、僕らも行こうか!」
『分かったわよ。横谷さん!』
「ワンダー。このまま大外で行くぞ!」
『了解です!』
『さあ、いよいよ大詰めになって来ました有馬記念!四コーナーを抜けて直線に入り、前三頭はいずれも三才馬!若き優駿が後続を引き離して行きます!この三頭が決めるのか!後続勢は間に合わ……いや!?いや!?最後方から一気に追い上げて来る馬が一頭!ドリームジャーニーだ!すごい勢いで順位を上げていく!』
来てしまった…小さき暴君が…
『オラオラァ!!退きやがれぇ!こっから先は俺様の、いや俺様たちの道だぁぁ!!』
「後は思いっきりぶちかませぇぇ!!ジャーニー!!!」
『ドリームジャーニー猛追!離されていた差を一気に縮め、今セイウンワンダーを抜き!』
『邪魔だぁ!!』
『クッ!?なんて馬鹿力だ!?』
『ブエナビスタを交わし!』
『どけやぁ!!』
『なっ、速っ…!?』
『そして、ノゾミミカドに追いついた!!』
『やっと追いついたぜ…三冠馬サマよぉ!』
『滅茶苦茶すぎるだろうお前の末脚…!』
少なくても先頭からコイツがいた位置は六、七馬身はあったはずだ。それをこの短時間でとんでもないスピードとパワーで追いついて来やがった!
『でもこっから先は抜かせねぇぞ!グランプリホース!』
『言っていろこのガキ!お前もう限界だろうがよ!』
『まだまだ余裕だコラ!』
急坂を全く同じスピードで駆け上がる俺たち。ゴール版がもう目の前に見える。
『絶対に抜かせるかぁぁ!!』
『勝つのはこの俺だぁぁぁ!!』
『ノゾミミカド粘るノゾミミカド粘る!ドリームジャーニーも負けじと喰らいつく!夢への旅路か!?帝の王道か!?どっちだぁぁ!!??』
殆ど同じスピード、タイミングで俺たちはゴール版を駆け抜けた…
『全く同じタイミングでゴール版を駆け抜けましたノゾミミカドとドリームジャーニー!!勝ちタイムは2:29.7!!なんというタイムだ!この2頭がどれだけ激しい戦いをしたかが分かります!写真判定です!しばらくお待ちください』
ゴール版を抜けた時は俺とミカドはもう息絶え絶えだった。ブエナビスタやセイウンワンダーが早めに前に来ることはなんとなく分かっていた。けど一番予想外だったのはドリームジャーニーだった。最後方から、まるでミサイルの様に飛んできたあの馬に俺らは圧倒された。この馬の前には馬群という壁は意味を成さない。圧倒的な暴力で全てを壊し道を作る。
「健一、今回はしてやられたわ」
「いえいえ、コイツなら絶対に追いつけるって信じていますから。後は思いっきり走れる様にサポートすればコイツは伸びます」
自身満々で語る健一。その言葉にはドリームジャーニーに対する絶対的な信頼を感じた。
そうか、コイツにとってドリームジャーニーは俺にとってのミカドと一緒の様なものなのか。
「じゃあそんな自信満々な健一に聞くが、差し切れたか?」
俺がそう言うと、先ほどの自身に満ちた態度から一転、健一は目を伏せた。
「……正直に言って、分かりません…ジャーニーは最高の走りをしました。けどノゾミミカドを差したかどうか全くわからないんです。」
「……俺もだ。ミカドの今出せる最高の走りをしたが逃げ切れたかどうかと言われると怪しい。」
本当、ミカドに乗るとこんな感じにいっつもなる。
『ブフン!』(勝ったのは俺!)
『ブルグァ!!』(いや俺様だ!!)
『フンッ』(何言ってんだかこのチビ)
『ビヒィン!!』(テメェ今なんつった!!)
下を見ればミカドとドリームジャーニーが言い争っていた。自分が勝った言い合っているんだろう。
「健一、一先ず今は少し待とう。長くても10分もすれば結果は出るはずだ。」
「そうですね。」
取り敢えず今するべきことは、蹴り合いの喧嘩に発展しそうな二頭を離さなければ。
『マジでブッ潰すぞこのガキ!!』
『上等だ!今ここでもう一度勝負するかコラぁ!?』
『願ったりだ!俺様の偉大さを体に刻み込んでやるぞゴラァ!!』
『チビが何言ってんだ!?テメェがでかいのは声と態度だけじゃゴラァ!!』
『何やってんだ君達は…』
俺とドリームジャーニーは自分が勝ったと言い合いをしていた。
『ワンダー!でもコイツお前らのこと馬鹿にした挙句さっき『アイツら弱かった』ってハナで笑ったんだぜ!!許せるわけないだろ!!』
『実際僕らは彼にあっさり抜かされた。それは事実。今回のレースに限っては僕らは彼より弱かったと言うだけだ』
淡々と言っているけど俺には分かるぞ。コイツクッソキレていると言うことを。なぜなら…
『そもそも僕が最も得意とするのは長距離ではなくマイルあたりだ。しかもハイペースで進んでいた今回のレースでは追い込みである僕は仕掛けるタイミングがかなりシビアになる。そもそもこんな奴みたいなのが近くに居なければ冷静に行くこともできたんだ。それに今回はそのスピードとパワーに圧倒されてしまったが次戦う時はそうはならない。何故なら、コイツがどう言う走りだからと言うことがあらかじめ分かっているからな。それに…』
早口で耳絞って、前足掻いていたら10頭中10頭がコイツ機嫌悪いなって答えるわ。
『ハン、結局負け惜しみしてんじゃねぇか。』
『オイ、これ以上俺の仲間のことを馬鹿にすんじゃねぇぞ。』
本当コイツなんでこう口や態度が悪いんだ?
『いい加減にしなよミカド、みっともないよ?』
『ブエナ…でも…』
『何を言っても私は
『おい待て。お前今俺の名前になんか含んだよな?なんて言ったコラ?』
『負けは負け。負けても勝利に繋がるものをそこから死ぬ気で見つけて身に着ける。そうでしょ?』
『!!』
その言葉は以前、ブエナが新馬戦に負けた時にモナーク先輩がブエナに言った言葉だった。
『ドリームジャーニー。』
『アン?』
『ありがとう。全力で勝負してくれて。次は負けないから』
そう言いながらドリームジャーニーを見つめるブエナ。ドリームジャーニーは一瞬ポカンっとしていたがすぐに元に戻り、ニヤリと笑う。
『おもしれぇなお前。』
『ミカドによく言われる。』
『ブエナビスタだったな。覚えておくぜ。』
そうやっているうちに競馬場にざわめきが走る。どうやら結果が出た様だ。
『お前ら、どうやら結果が出た…らしい……ぞ…』
掲示板に映った順位を見て俺は固まってしまった。
『ミカド?どうしたんだい?』
『あのデンコーケージバンっていう黒い大きな板に順位が出るみたいで、ミカドはそれが読めるから結果を見て固まったんだと思う』
『固まったっていうことはお前の負けか?なら俺様の勝利だぜ!』
『いや、違う』
『『『??』』』
『なら君が勝ったのかい?』
『違う』
『えっえっ?ミカドどういうこと?レースで勝つのは一頭だけでしょ?ミカドがそう言っていたじゃん!』
そうだよブエナ。だけどな本当にごく稀に
『マジかよ…』
| Ⅰ | 9 | 同着 |
| Ⅱ | 10 | 同着 |
| Ⅲ | 2 | 1 |
| Ⅳ | 14 | 1/2 |
| Ⅴ | 6 | 4 |
『こりゃあ同着だ…』
『なんと同着です!!我が日本競馬史上初のG1レースでの同着判定です!!』
一瞬の間も無く、大歓声が湧き上がった。
『同着?』
『ああ…本当にごく稀に見分けがつかないぐらい全く同じタイミングでゴールした場合だけでる判定だ』
前世だと来年のオークスで同着が起きるけどG1ではそれだけしか同着判定は出ていない。つまりは本当に珍しいことなんだ。
『オイ。それってつまり…』
『今回は引き分けってこった。残念ながら。』
『はぁぁ!?なんだそれ!?意味わかんねぇ!?』
『結果はもう出ちまったから仕方ねぇよ。文句は人間サイドに言え。』
納得がいかねぇといった感じになるドリームジャーニー。俺も不完全燃焼だがこれが覆ることはもうない。
『オイ、ノゾミミカド!』
『なんだ?』
『次は俺が差し切る!誰が見ても俺の完全勝利ってわかるくらいの差をつけてテメェに勝つ!』
その目には必ず次は勝つという闘志が宿っている。気に食わない奴ではあるが、俺もコイツとは決着をつけたいのは事実だ。
『ならこっちもだ。今度はお前も追いつけないほどの差をつけてお前に勝つ!』
『逃げんじゃねぇぞ』
『そっちもな』
その後、二頭並んで写真撮影やら色々あったんだが、アイツが事あるごとに俺にちょっかいを出してくるので蹴っ飛ばしたら乱闘に発展。怪我人とかは出なかったが俺は無茶クソに怒られたのであった。
やっぱアイツとは文字通り馬が合わない。
次回はなるべく早く出します。
取り敢えずアンケートで募集したものを消化しようと思っています。
それではまた次回をお楽しみに!