紡がれる『帝』の血脈   作:シントウ

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菊花賞がまさかのレコード…アスクビクターモアとボルドグフーシュの接戦がすごかったですね。

ミカドは今回タイトルを見るとわかる通りです。


帝の帰郷/帝の道中

松戸厩舎はノゾミミカドとブエナビスタの二頭を海外のG1レース『ドバイシーマクラシック』に出走を決め、その調整として二月に行われるG2レース『京都記念』に出走することになった。

 

そして、年始の間はそれぞれが短期放牧としてトレセンを離れることになった。

 

 

北山牧場

 

 

『たっだいまぁ〜!!』

 

『その声は…!』

 

『アイツか!?』

 

『みんなぁ!!ミカドの兄ちゃんが帰ってきたよぉ!!』

 

牧場に帰ってきた俺を歓迎する様に馬房からたくさんの馬たちが顔を出してきた。

 

『みんな、久しぶり!元気だったか?』

 

四ヶ月ぶりに帰ってきた故郷。テンションも自然と上がる。そうしていると北山さんと卓也さんがやってきた。

 

「ミカド、よく…無事に帰ってきたな…」

「北山さん、泣いてんですか?」

「うるせっ!」

 

北山さんは俺を見るなり涙を浮かべ、卓也さんはそれを揶揄い小突かれる。

 

「今日は移動で疲れただろう。ゆっくり休め。」

 

そして俺は卓也さんに連れられて俺の馬房に入った。師匠や先輩方はまだ放牧中なのか馬房にはいなかった。しばらくすると師匠たちが戻って来た。

 

『うん?ミカド!?お前さん、いつ帰って来たんだ!?』

『ついさっきですよ!それより師匠、先輩!俺勝ちましたよ!菊花賞!』

『何!?本当か!?』

『オイオイマジかよ…』

『本当に勝ってしまうとは…』

 

早速俺は師匠たちに結果を報告。みんな驚いてくれていたよ。他にも有馬記念の同着優勝のことも。

 

『有馬で同着だと!?お前さんには驚かされてばっかりだな…』

『僕とフェニックスも並んでゴールしたことはありますがその時はハナ差で僕の勝ちと判定されましたが見分けもつかないレベルになるとは…』

『あん時は俺らの差が3cmとかいっていなかったか?』

『同着は本当になかなか起こらないことですからねぇ…』

 

こうして俺は師匠たちと話しながらその日を終えた。

 

 

次の日

 

 

『本当に三冠馬になるなんて…流石は私の自慢の息子よ。』

『よく分からないけど、兄さんおめでとう!』

『ありがとう、母さん、ボー。』

 

放牧された俺は母さんたちに報告し、他にも色々話していた。

 

『この子も体が大分できて来たし、そろそろ馬主が決まるかもね』

『なんか北村さんはせりに出すか取引にするかで悩んでいるっぽい。』

『俺は直で駒沢さんに買われたからな…せりならお前はキングヘイロー産駒だし、半兄が俺だからいい値が付くと思うぞ。』

 

キングヘイローの産駒は重賞で活躍したのも多いし、俺が無敗の三冠馬になったことで母さんの価値が滅茶苦茶上がっていて北山さんも、

「ミカドはミドルディスタンスホースになると思っていたけどステイヤーの素質があったし、もしボーが父親の全距離適正受け継いでいたりなんかしてたら…慎重に決めねぇと…」て言ってた。

俺的にはボーも駒沢さんに買ってもらった方が嬉しいけど、決定権は北山さんにあるからどうなるかはまだ分からない。

 

『と言っても、ここは大体が庭先取引で買われているからせりに出すかはまだ分からないわ』

『なんか自分がウン百万円でオークションにかけられるの複雑でしかないんだけど…』

 

そんな日々を過ごしていたある日…

 

『なんか今日北山さんたちが騒がしいな?お偉いさんでも来るのか?』

 

北山さんを始めとする牧場の人たちがどこか落ち着かない様子だった。浮き足が立っている人もいれば、顔が強張っている人もいる。卓也さんなんかはお腹を抑えて

 

「大丈夫だ大丈夫だ俺はヘマしないそんなことはしないフェニックスみたいな気性難の塊みたいな奴を相手にして来たんだきっと大丈夫だできるできるどっかの誰かも元気があればなんでもできるって言っていたし余裕だいけるいける筈だでももし失敗したら間違いなく首が飛ぶというかなんで俺がそんな大役を受けることになったんだ今だけは北山さんを恨みたいああ胃が痛くなって来たこのまま胃潰瘍にでもなって病院に搬送でもされないかな…」

 

ブツブツと言っていて正直怖い。

 

『何がどうなってんだか?』

 

そして暫くして俺の放牧時間が来た。卓也さんはさっきよりもげっそりしている。

 

「ミカド」

 

『うん?』

 

卓也さんが幽霊みたいな青い顔で俺を見る。正直かなり怖い。

 

「お前だけが頼りだ。もしもフェニックスあたりが暴れたらフェニックスを蹴飛ばしてもいいから止めてくれ、『あの馬』にもしものことがあればこの牧場は闇に葬られる」

 

『まって何があったの、『あの馬』って何!?』

 

そういうも卓也さんは遠い目をしたまま俺を放牧地へと移動させ、俺はよく分からないまま放牧地へと向かった。

放牧地に着くと何やら馬たちが騒がしい。

 

「ま、まさか…!?」

 

卓也さんの顔がますます青くなる。なんだ?何が起きている?

 

『テメェ!?何様のつもりだ!?ここは俺らが普段から使っている場所だ!それを他の馬たちを押し除けて独占するとはぁ…どういうつもりだ!』

『ことと次第によってはタダじゃ済みませんよ?』

『待て、お前さんら!?その馬は只者じゃない!!下がれ!!』

 

先輩方が食ってかかり、師匠が警告を促すほどの馬。俺は視線を先輩たちの向こう側にいる馬に向ける。

 

鹿毛の馬体。

 

左後肢の足白、それ以外は黒い脚。

 

老いた馬なのだろうがその馬体は若々しく感じ取れる。

 

纏う雰囲気は荒々しい獅子の如くの覇気。

 

そして特徴的な『三日月』のような白い流星。

 

『ま、まさかあの馬は……!?』

 

 

 

 

 

『フン……』

 

ゴオォオウ!!

 

その馬が少し力を入れたような仕草をするとそこからとてつもない覇気が放たれた!

 

『なっ!?』

『うおっ!?』

『クッ!?や、やはり『怪物』たちと同じ、いやそれ以上の!?』

 

その場にいた馬たちがその馬から目を離せなかった。まるで命令されたかのようにその場に動けずにいた。僅かに動けたのはフェニックス先輩、ライン先輩、師匠、そして俺の四頭のみ。

 

『そこの黒鹿毛、我は怪物などと言う陳腐なものではない』

 

その声は力強く、スッと耳に入る。誰もがその馬に釘付けになった。

 

競馬に唯一絶対が許された日本競馬史上初の無敗三冠、そして史上最多G1七勝の名馬。

 

 

 

『我は、『皇帝』、『シンボリルドルフ』である。』

 

 

 

『シンボリ…ルドルフ…!』

 

永遠なる皇帝、絶対なる皇帝、たった三度の敗北を語りたくなる馬、そして俺の祖父に当たる存在が目の前にいた。




はい、ここで出します皇帝。

今回のタイトル、実は『/』で別の帝をそれぞれ指しているんです。
どういう意味か分かった方はコメントに是非…

次回はミカドが皇帝に謁見します。

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