『フッ…まさか見知らぬ土地で我が血を継ぐものにである出会うとは、正に青天の霹靂よ』
『はあ…』
ルドルフ爺ちゃんとのグルーミングを終え、俺はなんとか爺ちゃんと話すことができた。
『あの、それで…』
『分かっている。何故、我がこの場に居るのかであろう?何、簡単なことだ。』
『壊しやすそうな柵が目の前にあったからな壊せば我が通れるぐらいの隙間が出来たからだ。』
『爺ちゃん、それ人間サイドからみたら放馬っていう割と洒落にならない一大事なんだよ?』
なんとも言えないあっさりした理由だった。
『何を言う。我がどこを通ろうがそこが我の道となるのだ。それは誰にも邪魔はさせん。それに我のことを舐め腐った目で見てきた小童どもがいたからな。少し遊んでやったまでよ。』
そう言ってカラカラと笑う爺ちゃん。う〜ん、さすが唯我独尊で有名な馬だ。全然ブレねぇ…『ライオン』とか言われたのも納得だ。さっきまでは『皇帝』としての威光の様なものを発していたが、今はそれがなりを潜め、『獅子』の様な何処か自由に振る舞っている。多分こっちが素なんだろう。
『しかし、無敗三冠か…お前が噂に聞いていた我の正当継承者と言われた馬か…』
『!?お、俺のことを知っているのか…!?』
『前にいた牧場で厩務員がお前のことをよく話していた。我と同じ道を辿り、見事それを成し遂げたと…』
た、確かに…爺ちゃんレベルの賢さなら人の言う内容を理解できていてもおかしくないし、三冠取れば人って一方的に聞かせるなんてこともあり得る。
『無敗三冠は確かに過酷な道だ。それを成し遂げたことは称賛に値する』
『あ、ありがとうございます…!』
前世から憧れていた馬にこうして直に褒められるなんて、結構嬉しい。
『だがまだまだだ。』
『へっ?』
ここでまた爺ちゃんの雰囲気が『皇帝』に変わる。
『どこかお前は危なっかしい。常に限界に挑み、一度体が悲鳴をあげたな?』
『!?』
『先程触らせてもらった時とここに来るまでに見たお前の歩様で分かった。前脚を壊したな?』
『な、なんで!?』
『おお、どうやら当たった様だな。』
『……鎌をかけた…?』
『いや、前脚の歩様が少し違和感を感じてな。確信を持てなかったがどうやら当たった様だ。我の観察眼もまだまだ衰えていない様だ』
さっき初めて俺と会って、少し見ただけで俺の足の違和感を見抜いたの?真司さんレベルの観察眼じゃん…マジで底が見えない。俺が言える立場じゃねぇが本当に馬かよ…俺の爺ちゃん…
『良いか?競馬に『絶対』はないと言うが、我はそうは思っておらん。『絶対』は目には見えないが文字通り必ず存在する。我はそれを誰よりも視えていた。時には道として、時には光の点として、我が負けた戦いはその『絶対』を先に奪われたものばかりだ。カツラギには道を遮られ、ギャロップには光を先に掴まれた。』
『お前はまだそれが視えていない。だからこそただガムシャラに走ってしまうのだ。心を落ち着かせ、視野を広く視ろ。さすれば、『絶対』はお前の元に姿を現す。』
『……』
言っている意味がまるで分からない。『絶対』は存在する?爺ちゃんはそれが視えていた?分からないことだらけだったけど、一つ思い当たるものがあった。
(あの爺ちゃんの幻影…)
菊花賞の時に見た爺ちゃんの幻影、俺は怪我明けでかなりの無理をしたのに何故か体にこれといって大きな異常がなかった。もしかして、あれも『絶対』の一つなのか?
『少し難しかったか?まあ、我が言いたいのを噛み砕くと、挑むのはいいが程々にしておけと言うことだ。我の様にやり過ぎると取り返しのつかないことになる。』
そう言えば…爺ちゃんは海外進出の時に…もしかしてその時はもう視えなくなっていたのか?『絶対』が…
『忠告、ありがとうございます。』
『よいよい。年寄りの言うことは素直に聞くのが一番だ。』
爺ちゃんが笑いながらそう言う。雰囲気も『ライオン』の様なものに戻った。話を聞いた限りでは傲慢までは行かないけどやっぱり何処か自分中心なところがあるけど、優しいところもちゃんとある。
『さて、少しお前の話を聞きたい。我に聞かせてくれぬか、ミカドよ?』
『…!…はい!』
『いい返事だ。あと、お前の後ろにいるものたちをここに呼べ。さっきから遠目で見られて少し気が散る。』
『『さっきはすみませんでした!!』』
『よい、貴様らは本気ではないといえ我の圧に耐えた強者よ。面をあげよ。』
(自分、気失っていたけど黙っていよ…)
『しかし、アレでまだ本気でないとは…恐ろしいものだ…』
『爺ちゃんは人間から『競馬に絶対はないが、ルドルフには絶対がある』って言われたほどだからね…まだ上があると言われても不思議じゃないです…』
『ハハハッ!まだまだ若いものには負けるつもりはない!』
本当元気だな、でも確か来年には爺ちゃんは…
『さて、貴様らがミカドに色々と指導をした様だな。遅れながらも我が孫が世話になったことを礼する。感謝するぞ。』
『う、ウスっ…』
『いえ、我々が教えたのは微々たることのものですし…』
『俺主戦がダートだったんで特に何も…』
『老いぼれに教えを乞いその技を見事に使いこなしたのは其奴の努力と勤勉さ故だ。俺らのだけじゃない。礼をするなら母親にだ。』
『ホウ…母君か…ミカドお前の母はどこにいる?礼をしたい。』
『母さんなら向かいの第一放牧地にいるはずだけど…半弟の特訓しているはず…』
第一放牧地を一度見てみると…
『貴方たち…何騒ぎを起こしているのかしら…?』
鬼神が立っていた。その後ろには怯えた当歳馬たちとそれを宥めるボー。うん、クソヤベェ状態だ俺ら。
『あっ、俺ら死んだわ』フェ
『短い馬生でした…』ラ
『僕完全にとばっちりな気がする…』カ
『俺もだよ…』レ
『?』ル
『か、母さん…!?落ち着いて!?話せば分かる!!』ミ
『問答無用!!』
『『『『『ぎゃああああああああああああ!!!!!?????』』』』』
母さんからOHANASIを受けた俺らは見事に撃沈。カンパネラ先輩とレオ師匠はむしろ止めた側な分酷いとばっちりを受けた。
そして爺ちゃんはと言うと…
『いやはや、流石はミカドを産んだ母君だ。先ほどの気迫、中々なものだったぞ。』
『いえいえ、かの有名な皇帝に恥ずかしい姿を見せてしまい申し訳ありません。』
『いや、牝馬で見事にここを仕切っているだけではある素晴らしいものであった。我がもう少し若ければ妾にするくらいだ。』
『まあ、皇帝様はジョークがうまいこと…』
『おや、割と本気で言ったんだがな?』
『フフフッ…』
『ハハハッ…』
『……これ、何処の魔王と鬼神の会話……?』
ボー、それは言わないお約束だ。
この後、卓也さんたちが爺ちゃんを回収して、俺は卓也さんに壊れた柵のことを教え、次の日には綺麗に直っていた。その代わりに爺ちゃんも俺がいれば大丈夫そうと言う理由で第二放牧地に一緒に放たれることになった。
シエルママは皇帝にも臆しません。彼女も気質としてはルドルフに近いものを持ちますから。
凶暴という訳ではなく、精神性が近いという感じでルドルフをマイルドにした感じがシエルママです。
つまり、走り以外は最強のママ兼牧場のボスがミカドとボーの母、ルイシエル。