紡がれる『帝』の血脈   作:シントウ

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菊花賞だけ話すつもりがなんかレオの半生まで書いちゃった…

遅くなりましたが番外編!全ての始まり、若獅子の話です!!


番外編 獅子の花道/望(ノゾミ)の始まり

俺は、最初は期待されていなかった。

 

「う〜ん、体が少し小さいな…」

 

俺の体は、生まれた時は他の馬より少しだけ小さかった。

 

「少し足が外向していません?」

 

俺の脚は、ニンゲンからみたらダメなところがあるらしい。

 

「売れるかね、こいつ。」

「難しいと思います…」

 

体が小さいから仲間にいじめられた。脚が変だからスピードが出ずまたいじめられた。母は俺に何度も謝ってきた。『もっとしっかりとした体で生まれさせることが出来ないでごめんなさい』と。

母が悪いわけではないのに何度も何度も。

誰もが俺を哀れむ目で見る。ヤメロ、俺をそんな目で見るな。俺が期待外れだからか?なら俺はどうなるんだ。俺はまだ始まってもいないんだぞ!

 

俺が生まれて一年ほどは、まさに生き地獄といって良いだろう。カミサマっていうのはいないと思った。

 

 


 

 

カミサマは居なかったが出会いがあった。俺の運命を変える出会いが。

 

「この馬は?」

「ああ、そいつはあまりお勧め出来ませんよ。体が小さくて臆病な奴です。足も外向ですし、とても競走馬になんかには…」

 

ニンゲンが俺の前で話していた。言葉はよくわからないがどうやら目に丸い何かがついている(メガネ)ニンゲンが俺について色々聞いている様だった。どうせ面白いもの見たさで見ているだけだ。この時はそう思っていた。

 

「買います。」

「えっ?」

「この馬を買います。言値でいいですよ?いくらでしょうか?」

「えっ、ちょっ本当ですか!?」

「本当さ、何と言うか…この馬に何かを感じたんだ。馬歴はまだまだ浅くて所有馬はまだ地方のGⅢを勝ったのが一頭だけの新米馬主だけど、これが俗にいう『運命の相手』なんだろう。」

 

ニンゲンが俺を見てくる。その目は諦め、失意、からかい、哀れみの目ではなかった。この時初めて俺は『期待された目』で見られたんだ。

 

 


 

 

件のニンゲンに買われてから俺はトレーニングに励んだ。それが俺の仕事らしいから。俺はそれをこなすだけだった。

 

「いい馬だ。反抗もしない、凄い従順で頭もいい。外向は少し気になるがそれだけだ。お前は十分走れる馬になる。」

 

テキ、先生、と呼ばれていたニンゲンが俺にそう言った。この頃になると人の言葉がだんだん分かってきた気になった。

 

「お前は絶対勝てる馬だ。僕はそう思うよ。」

 

ノリと呼ばれるニンゲンも俺を何度も褒めてくれた。

 

テキが俺の走りを直してくれた。ノリが俺に走る道筋を教えてくれた。おかげで前よりも早く走れる様になった。体も少しずつ大きくなっていった。

 

嬉しかった。俺はこんなにも走れたのか、こんなにも大きくなれたのか。俺はこのニンゲンたちに恩返しをしたいと考えた。でも方法がわからなかった。

 

『そりゃあお前、レースで勝ちまくればいいんだよ。』

 

厩舎の年上馬がそう言ってきた。

 

『俺ら競走馬は走ってレースで一着になるのが目標だ。特に強い奴らが集まるGⅠレース!このレースに出て、勝てる奴はそうそういねぇらしい。俺は今度皐月賞ってレースに出るからワクワクするぜ。』

 

そう言う年上馬の目は熱く燃えていた。

 

(俺もGⅠで勝てれば、恩返しになるのか?)

 

こうして俺の心の目標はGⅠレースで勝つことになった。

 

 


 

 

月日が流れ、新馬戦。俺は阪神1600芝でデビューを果たす。

 

 

『さあ、先頭を直線に入って一気に上がって来たのはノゾミレオ!二番手に一馬身、二馬身と差をつける!後続はもう追いつけない!今一着でゴールイン!ノゾミレオ、新馬戦を見事に勝ち切りました!』

 

 

新馬戦で勝った俺はそのあと別のレースで2勝。年上馬が出た『皐月賞』の出走ができる様になった。

 

けど…

 

 

「感冒、風邪ですね。」

 

体を壊し、皐月賞には出れずに見送り。その後はすぐに直して『日本ダービー』に出走することが決まった。

 

そして、ダービー当日。

 

『これがGⅠレースの空気……!』

 

最高峰のレースと言われるだけあって、俺は心底驚いた。今までのレースが遊びなんじゃないかって言うレベルに感じてしまう様なそんな感じだった。

 

気合がいつも以上に入る。俺は最高潮な気分でレースに挑んだ。

 

 

『さあ、第四コーナーを抜けて直線に入る!リアルバースデーが先頭になった。ウィナーズサークルが後方から上がって来た!凄い足だ!内からノゾミレオも突っ込んでくる!リアルバースデー粘るが早くも二頭に抜かれた!先頭はウィナーズサークル!ウィナーズサークルゴールイン!ノゾミレオも頑張りましたがクビ差で二着!』

 

けど勝てなかった。ギリギリのところで勝てなかった。本当に悔しかった。GⅠレースで勝てなかった。

 

この日から俺はあまり集中ができなくなった。テキやノリも世話してくれている奴も年上馬も心配していた。

 

そして俺は生涯追い続けると決めた芦毛のアンチキショウに出会うことになる。

 

 

俺を心配したテキが併走相手としてある芦毛の馬を呼んだ。

 

そいつはいつもボーッとしている変な馬だった。ダービー以降落ち込んでいた俺をやる気にさせるため同じ芦毛で尚且つ強い馬らしい。最近まで療養していたらしく感覚を取り戻すために並走するそうだ。

 

『オグリキャップだ。よろしく。』

『………ノゾミレオ。』

 

並走が始まり俺はノリを背に乗せ走る。方や戦意を失った馬。方や療養から復帰して来た馬。そこまでの調教にはならないだろう。そう思っていた。

 

『フンッ!!』

『はっ?』

 

アイツはスピードを一気にあげた。俺は置いていかれない様に食らいつこうとするがどんどん距離が離されていった。並走が終わったあとオグリキャップが俺の下にやって来た。

 

『君、凄いの?』

『はっ?』

『コース取とか色々細かいところが上手い。騎手さんとの連携もいい。それに自分に食らいつこうとする年下ってあんまりいなかったから…』

『別に、普通だよ…』

『そう。』

 

なんだコイツって思った。

 

『俺は秋から本格的に復帰する。君は?ここで終わるの?』

『………』

『俺は終わらない。故郷にいる俺を応援してくれる人たちに恩返しするために…』

『恩返し…』

『だからここで終わる訳にはいかない。君はどうする?全ては君次第だ。』

 

そう言ってアイツはスタート地点に戻って言った。

 

そうだ。俺は、俺をここまで育ててくれたニンゲンたちに恩返しがしたかったはずだ。なのに俺は…

 

すまし顔で言って来たアイツに少しむかついたが何よりも俺は自分に腹を立てていた。ここで終わろうとしていた自分に。スタート地点に戻った俺は芦毛のアイツの前に来た。

 

『おい。』

『?』

『俺はココで終わんねぇ。必ず勝って俺の目標を成し遂げる。そしてお前にも必ず勝つ。』

『そう……楽しみにしているよ…』

 

またすまし顔で言われて、並走でのギリギリで勝てなかった。大事なモン思い出させてくれ事には感謝こそしているが気に触ることが何回もあって俺はアイツが苦手になった。

 

 


 

 

1989年 菊花賞

 

枠番馬番馬名人気
1枠1番マルセイグレート11番人気
1枠2番ドウカンホープ16番人気
2枠3番レインボーアンバー4番人気
2枠4番オースミシャダイ15番人気
3枠5番バンブービギン1番人気
3枠6番ロングシンホニー7番人気
4枠7番モガミサイババ12番人気
4枠8番リアルバースデー5番人気
5枠9番アテンションリバー17番人気
5枠10番サツキオアシス14番人気
6枠11番ニシノサムタイム18番人気
6枠12番スピークリーズン13番人気
7枠13番オサイチジョージ3番人気
7枠14番ウィナーズサークル2番人気
7枠15番ファストバロン10番人気
8枠16番スダビート9番人気
8枠17番ノゾミレオ6番人気
8枠18番サクラホクトオー8番人気

 

 

『晴れた京都で今年も4歳馬たちの激闘が繰り広げられます。』

 

 

菊花賞。クラシックレース最後の一冠であり、『最も強い馬が勝つ』と言われるこのレース。俺は全力を持ってこのレースに、勝つ!!

 

『今全頭ゲートインが完了しました。さあ、ゲートが開いた。揃って飛び出した18頭であります。綺麗なスタートを切りました。一周第三コーナーでありますが内の馬は外へ、外の馬は内へ行こうとしております。先頭を進むのは1番マルセングレート。3番のレインボーアンバーが二番手につきました。外からオサイチジョージやや掛かりぎみ。13番のオサイチジョージ、やや掛かり気味で三番手。それから2番のドウカンホープ四番手、それからゼッケン番号8番リアルバースデー五番手でゆっくりとしたペースで進みます。4番オースミシャダイがいてその外に赤い帽子バンブービギンであります。それからファストバロンが行きました。ウィナーズサークルは後ろの方にいます。第四コーナーを抜けて、スタンド前にやって来ました。スローペースであります。』

 

 

俺の位置は十番手くらい。今はここで機を窺う。ダービーで俺にかった白いコイツ(ウィナーズサークル)の後ろに付いてひたすら待つ。俺の十八番である『スリップストリーム』で乗り切る。長丁場になるこのレース、スタミナ温存は必須だ。

 

 

『仮柵が外されまして緑の絨毯を敷き詰めた様になっている。内スレスレ一番のマルセングレート先頭。三番のレインボーアンバーが二番手、オサイチジョージ三番手、四番手にドウカンホープ、リアルバースデー、そしてファストバロン、バンブービギンが七番手、その後ろバンブービギンを見る様にウィナーズサークル。ゆっくりとしたペース、ゆっくりとしたペースであります。』

 

 

第一コーナーを通過して第二コーナーに入る手前。俺の順位は今九番目くらい。まだまだ余裕はある。獲物(ゴール)を喰らうタイミングは今じゃない。

 

 

『これから第二コーナーに入る18頭であります。もう一度先頭から説明しましょう。先頭はマルセングレートと竹豊であります。二番手に三番のレインボーアンバー、三番手十三番のオサイチジョージやや掛かり気味。それからファストバロンも掛かり気味であります。第二コーナーをカーブして向正面に入ります。赤い帽子バンブービギンが四番手に上がって来ました。その後ろにリアルバースデー、その後ろに四番のオースミシャダイ、それから十四番のウィナーズサークル、それからノゾミレオがいて、ロングシンフォニーがいて、その後ろに九番のアテンションリバー、それから二番のドウカンホープ、サクラホクトオー、十二番のスピークリーズンであります。その後ろモガミサイババが続きました。そしてサツキオアシス、それから十一番のニシノサムタイム、スダビート、ご覧の様に18頭一団で第三コーナーの下りに入ります。』

 

 

白いコイツ(ウィナーズサークル)にずっとついていたがなかなか動かない。それにもう第三コーナーの淀だ。そろそろ動き始める準備に出た方がいいな。

 

「さて、レオ。僕もだけど君も外に出るタイミングを見逃すなよ。息を合わせないとね。」

 

『ああ。分かっているよノリ。』

 

スリップストリームはタイミングが命だ。此処から抜け出すタイミングが狂えば全てが水泡と帰す。

 

 

『第四コーナーを抜けて、外から赤い帽子二頭、ウィナーズサークルが前に行く!マルセングレート先頭で直線に入る!』

 

 

直線に入る直前にバンブービギンとウィナーズサークルが前に出る。タイミングは此処しかない!

 

『さあ…』

 

「こっからだ…」

 

 

『「獅子の狩りを始めよう…!』」

 

 

俺はウィナーズサークルが前に出るのと同時に奴の背後から一気に抜け出し、大外から温存していたスタミナを使い切る勢いで加速する。突然出て来た俺に前にいた奴らは度肝を抜かれた表情をしていた。

 

オイオイ何驚いているんだ?

 

獅子の狩りは身を潜めて油断した獲物に近づいていくんだぜ?逃げようとしても一気に喰らい付いて仕留める。正に、今の俺の様にな!

 

 

『先頭はマルセングレート、レインボーアンバーでありますが外からバンブービギン!外からバンブービギンであります!更に外からノゾミレオ!ノゾミレオが抜け出して来た!先頭はマルセングレートでありますが苦しいか!?バンブービギン、馬場の真ん中を通って先頭に立った!!バンブービギン先頭だ!!しかしノゾミレオも喰らいつく!!ノゾミレオも喰らいつく!!マルセングレートが再び伸びる!リアルバースデー、大外サクラホクトオー!大外サクラホクトオー!さあ、先頭はバンブーかノゾミか!?バンブーかノゾミか!?』

 

 

バンブービギンとの一騎打ち、俺は力の限り走った!俺が望むものは『勝利』という獲物(ゴール/栄光)、そして…

 

 

『俺を見出してくれた……恩人たちへの恩返しだぁぁぁ!!!!』

 

 

『ノゾミレオ僅かに抜け出した!!抜け出してゴールイン!!ノゾミレオです!!ノゾミレオです!!横谷典弘、ガッツポーズ!横谷典弘ガッツポーズ!クラシック初制覇にしてGⅠ初制覇!!人馬共に初のGⅠ制覇であります!!最後にガッツを見せたのはノゾミレオ!!百獣の王の名を持つこの馬もやっぱり王だった!!冠は渡さないと狂気の血が獅子を目覚めさせ、が菊の冠を勝ち取りました!!タイムは3:06.09!』

 

 

『ハァ…ハァ…か…勝ったのか……?』

 

「……っシャアァァ!!やった!!ついにやった!!」

 

上にいるノリが何度も拳を握りしめて嬉しそうに叫んでいる。今まで見たことないくらいに。

 

『そう…か…俺、勝ったんだ……GⅠを……とうとう……!』

 

スタンドの前に移動し、たくさんのニンゲンが歓声を挙げている。ノリが手を振るとその歓声は更に大きくなった。その歓声に当てられ、俺も大きく嘶いた。

 

『ビヒィィィィィン!!!!!!!』

 

すると歓声が更に膨らみ、衝撃波の様に俺らの体に当たる。普段なら煩くてわずわらしく思うかもしれないが、今日この時だけは、嫌なものは一切感じなかった。むしろ心地良く感じたんだ。

 

建物の方に入ると、テキと俺のオーナーがいた。二人とも凄く嬉しそうにしていてオーナーに至っては泣いていた。

 

「お前ら、よく頑張ったな!」

「いえ、テキの完璧な調教があってのこそです!」

「横谷君、本当に、本当にありがとう!!とうとう、とうとう私の馬が……ズッ……じ、GⅠを…グスッ……!」

「礼を言うのはこちらの方です。レオに乗せてくれて本当にありがとうございます。」

「……うん、こちらこそ……ズッ……レオ。」

 

『おう。』

 

「おめでとう、そしてありがとう!」

「よくやったな、最も強い馬はお前だレオ。」

「ありがとう、レオ…!やっぱりお前はすごい馬だ!」

 

『こっちこそ、こんな俺を見出してくれて、ありがとうございます!』

 

これは、何にも期待されていなかった若獅子が、

 

一人の人間に見出され、

 

一頭の馬に気付かされ、

 

己の望みを叶えた話だ。

 

 


 

 

『とまあ、これが俺の半生だ。別に面白くも無かっただr ……おいなんで泣いてんだお前ら?』

『いや、し、師匠にそ、そんなドラマがあったなんて…!』

『涙が畜生!全然止まんねぇ!!』

『僕、こう言う話、弱いんですぅぅぅぅ!!』

(なんで私があの時執拗に追われたのがよく理解できました。恨みますよ、オグリキャップ(父さん)……!!)

 

暇だったから俺の昔話をしたのはいいが泣きすぎだろう…

 

『たくっ…』

『なかなか良い話だったではないか獅子よ。』

『皇帝様に褒められるとは恐悦至極だな…』

 

あれからもう二十年ほど立った…オーナーは俺よりも先に旅立った。故郷も人間の都合でなくなった。結局、最後の望みも叶えられずに俺の走りは終わった。でも、心残りも後悔もあるが、不幸ってわけじゃない。

 

やかましい後輩と自慢の弟子に囲まれて残り短い馬生を生きる。

 

『俺にそれ以上の『望み』はない。もう充分満たされたからな。』

 

だからよ、いないだろうけど、せめて弟子ぐらいは手助けしてくれよ。神さんよ。『望み』とまではいかないけどな俺からの『お願い』だ。




登場人物紹介

小木野光雄 64
ノゾミレオの調教師。惜敗して落ち込んだレオを復活させようとオグリの並走を頼み込んだ。

横谷典弘 31
ノゾミレオの主戦騎手。トリッキーな乗り方をすることが多いがレオの時は正攻法で挑み、見事にGⅠを制覇した。

駒沢祐希 59
『ノゾミ』のオーナーであり、望(ミカドの馬主)の父。現代では既に故人。64の時に心筋梗塞にあい他界。誰よりも馬を愛し、馬にも懐かれていた。馬券はロマン重視をするのでしょっちゅう外しては奥さんに怒られていた。奥さんには完全に尻に敷かれていた。

先輩馬
レオの一歳年上の先輩馬。レオにとって兄貴分の様な存在だった。馬名は『ヤエノムテキ』。

オグリキャップ
レオより一歳年上の芦毛の馬。レオの原点を思い出させた馬でもあるが天然なのかレオに気に触る様なことを無自覚でやりまくった結果無茶苦茶嫌われた。レオ自身は『感謝はするが尊敬とかは絶対無理』らしい。

次回は本編するかまた番外編にするか悩み中です。また気長にお待ちください。
コメントくれると作者は死ぬほど喜びますのでどんどん送って下さい。
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