作者が競馬を始めたきっかけも福永祐一騎手のレースでした。作者一押しの騎手でもありましたから少し寂しいですが調教師としてもこれから頑張ってほしいです。
地獄の検疫を終えた俺たちはドバイでお世話になる厩舎に入り、次の日には早速調教が行われた。
海外の芝は日本の芝とはまた違う。日本の芝は「野芝」と言われるもので、水分が少なくこれは地下部にほふく茎を持つことが特徴であり、この茎が地表付近を這うように広がっている。これにより野芝は地面を蹴る時の力がそこまで必要ではなく高速化しやすい傾向にあるらしい。
一方、フランスなどのヨーロッパでは「洋芝」と言われるものが使われている。洋芝は水分が多く含まれており草の丈も長い。洋芝は土が軟らかいため、その分踏ん張るための力が必要になる。
海外で外国の馬が勝ちにくいのは芝の違いが最初に上がる原因だ。
そんでドバイの芝は……
『んん…そこまで日本と変わらない?いや少し重いか?』
俺的にはそこまで変わらなかった。これならあまり心配しなくて良さそうだな。
「ミカドは大丈夫そうだな。ドバイの芝は日本と形態が似ている。これなら十分いけるだろう。」
「ですね。飼料の食いもいいですし、問題なく本番を迎えられそうです。」
ブエナの方も問題なく調教が続き、時々合わせをしながら時間が進んでいった。
そんなある日…
「ミカド、今日は別の馬と合わせをする。お前のことだから心配はいらないが気を付けろよ。なんせ凄い名馬が相手してくれるんだからな。」
『凄い名馬?』
真司さんに言われ俺が馬場に行くと相手は既に着いていたようで向こうのテキとこっちのテキが話し合っていた。真司さんが慌てて向かう。
「すいません、少し遅れました!」
「大丈夫だ。こっちが少し早く着いただけだ。」
「時間通りだ。心配ない。そしてノゾミミカド…一応ははじめましてかな?君にはうちの馬が二回ほどお世話になったね。」
向こうのテキはウチのテキよりも若い感じの男性、大体40代くらいか?メガネをかけている。
どこかで見たことあるような?……思い出した…この人
デルタブルース、カネヒキリ、シーザリオ、ハットトリック…多くの名馬を育てた調教師。そしてこの時期で、この地で走る彼が管理している馬は一頭しかいない。
『お前がオレの相手か?』
低い声で俺に話しかけてくる馬。黒っぽい鹿毛、額に白い流星、俺とそう変わらない大きの牝馬。
『アタシはウオッカ。よろしく頼むよ…坊や…』
『常識破りの女王』が俺の目の前にいた。嘘やろ…
『どうした、ビビってんの?取って食いはしないから落ち着けって…』
『だ、大丈夫っす。姐さんの手…じゃなくて足は煩わせないっす。』
『しっかりしろよ最強馬。日本を背負っているならアタシなんかにビビっていたらこの先やっていけないぞ?』
『すいません…』
いや、ビビるというか緊張するというか、平常心は流石に無理があります。人間だったら一昔前のスケバン風の女性に話しかける勇気は俺にないっす。指定暴力団のチンピラ金夢だったり、皇帝爺ちゃんだったりでキャラ濃い馬の耐性ついいていたと思っていたけど…そもそも俺よくよく思い出したらブエナと母さん以外まともに話した牝馬いねぇ…俺がまさか
『ほら、併せすんぞ。アタシも早く走りたいんでな。』
『うっ、うっす…』
背に雄一さんを乗せ、向こうも
最初は体を慣らしていくため、軽く走る。向こうも同じように隣を走っていた。それを二回ほど繰り返し、いよいよ本気で走る。
『フンッ!』
『おっ…!』
脚に力を貯めて爆発させる俺の得意技。末脚なら俺は先輩たちにも負けない。
『やるねぇ…ならアタシも…っ!』
向こうも加速し離した差を一気に縮めてくる。加速力が他の馬たちと段違いすぎる。もう直ぐ引退なのにその末脚から放たれる威力は衰えを感じさせない。
並走では俺の勝利だったが仕掛けるタイミングが逆だったら多分向こうが勝っていた。それぐらい拮抗した勝負だった。
『さっすが…現役最強……アタシももう少し若かったらアンタと走りたかったよ…』
『こちらもです。もう少し早く貴女と出会えていたら面白い勝負ができたでしょうね。』
『その時はアタシが勝っていただろうけどね。』
『俺だって負けないですよ。』
『言うねぇ…アンタみたいな男、嫌いじゃないよ。』
ちょっと男勝りな感じがするけど所々見せる所作みたいなものが女性らしいものが垣間見える。年もオーラ先輩と同じだし、結構話しやすい。
『逃げ先行で成績も一着のみ…アイツが見たら絶対対抗心を燃やすでしょうね。』
『アイツって、もしかしてあの?』
『あら?知っていたの?そう『ダイワスカーレット』。私の永遠のライバルよ。絶対アイツなら『私の方が絶対強い!!一番をかけて勝負よ!!』とか言いそうだしね。もしあったら気をつけな。』
『ハハハハ…わかりました…』
絶対面倒なことになるから引退した時気をつけよ…
『でもやっぱり違う。アイツはとにかく粘り強い。先頭に立つと抜かせるものかと前に相手を出さないように走り続ける。アンタは最後に一気に相手を突き放して押し切る。逃げているのに差しのように加速する。面白い奴だなアンタは…』
『ど、どうも…』
『アタシから言えるのはこれだけ。ひたすら前を向いて走れ。塞がれても諦めるな。前を向いていれば必ず勝利の道筋見えてくる。』
『は、はい!』
『いい返事だ。ところでさっきから気になっていたんだけど…』
『えっ?』
『後ろにいるのはアンタの連れ?』
なんか嫌な予感がするが、振り向かないとさらにやばい気がした俺は恐る恐る振り返る。
『ミィ……カァ……ドォ……?』
恐ろしいものがいた。
『その女……だぁ…れぇ…???』
『ブエナ様、お鎮まり下さい。此の御方は決して貴女様が考えているようなものでは無く…』
『あら、さっき激しくやりあった仲じゃない?』
『姐さん!?』
『そぉ…なぁ…んだぁ………』
『ブエナ様!今のはそういうそれでは無く、並走とかそういので走ったということでありましてそnギィィイイィィヤァァアアァァアアァァ!!!???』
*誤解を解くのに1時間はかかった。この情けなく叫んだのが日本の無敗三冠馬ですw
ドバイ メイダン競馬場
| 枠番 | 馬番 | 馬名 | 国 |
| 1枠 | 1番 | アイルランド | |
| 2枠 | 2番 | アイルランド | |
| 3枠 | 3番 | アメリカ | |
| 4枠 | 4番 | トルコ | |
| 5枠 | 5番 | ドイツ | |
| 6枠 | 6番 | 日本 | |
| 7枠 | 7番 | アイルランド | |
| 8枠 | 8番 | アイルランド | |
| 9枠 | 9番 | アメリカ | |
| 10枠 | 10番 | 日本 | |
| 11枠 | 11番 | アイルランド | |
| 12枠 | 12番 | アイルランド | |
| 13枠 | 13番 | アメリカ | |
| 14枠 | 14番 | イギリス | |
| 15枠 | 15番 | アメリカ | |
| 16枠 | 16番 | イギリス |
『やって来たぜメイダン競馬場。』
色々あったけど(なんか記憶が抜け落ちているが)とうとうドバイシーマクラシック本番。俺はメイダン競馬場にやって来た。夜だというのにライトアップされ、昼より眩しいくらいに明るいターフ。周りには日本人はほとんどいないし、馬も俺とブエナ以外は海外の馬ばかり。全員海外で活躍できると踏んでここまで来た猛者たちだ。日本の馬たちとはまた違った覇気のようなものを感じる。
『ブエナ、気を抜くなよ。』
『分かっているよ。みんな今までの馬たちと違う。』
(ドバイ現地実況)『さあ、皆さん!ドバイミーティングも大詰めだ!だがここで注目の二頭がやって来たぞ!遥か東の地ジャパンからやって来た無敗のトリプルクラウンを制した馬とそれにも引けを取らないダブルティアラを手にした馬が登場だ!!6番ノゾミミカドと10番ブエナビスタだ!!』
実況の声に歓声が大きくなる。持ち上げすぎじゃない?プレッシャー感じちゃうんだけど。
『ノゾミミカドは馬体重492kgで前走から2kg増加。無敗のエンペラーはここでも無敗を貫けるのか?一方のブエナビスタは場体重448kgで増減無し。末脚勝負はジャパンでエンペラーを追い詰める程の威力を持つこのクイーンはドバイでもその実力を発揮できるのか?』
日本とはまた違った盛り上がりの凄さに少し体が強張る。初の海外、環境の違う場所、海外馬との対戦。色々と緊張していた。そこに雄一さんが俺の首を優しく叩いた。
「いいかミカド。お前にとっては初めての海外戦だ。日本とでは空気も何もかにも違う。気負い過ぎずにお前らしく行けよ。」
『雄一さん……はい!』
そしてとうとう出走の時間になった。ゲートに入り、開くのをまつ。
『さあ、いよいよ始まります。ドバイSC……』
ガゴンッ!
『スタートしました!各馬綺麗にスタートを決めました。先頭を最初に奪ったのはジャパンのエンペラー6番ノゾミミカド!続いてアメリカからきた9番プレシャスパッションが追いすがる。先頭集団第一コーナーに入ります。その外に8番ゴールデンソード、二馬身離れて1番ジュークボックスジュリー、内に14番ダーレミ。16番キャバルリーマンが並んできた。一馬身離れて13番スパニッシュムーン、その後ろに3番アンマー。11番のディームは直ぐ後ろ、5番キジャーノはそのに馬身後ろ。10番ブエナビスタと4番パンリバー、7番ユームザイン、15番キャンパノロジストが固まっている。二馬身後ろにモーリリアン、最後方に2番イースタンアンセム。こういった展開になっています。二コーナーに入り先頭はノゾミミカド。その差は二馬身も離している。』
さぁ〜て…馬場が日本と似た感じだから走りに問題はない。先頭は取れたからこれをキープ。後ろは音で判断。今は前を向いて俺のペースを作って相手を疲弊させること。俺の馬なりは早いからな。初見さんにはちょっとキツイぜ?
『ブエナは後方で固まっているところか…俺の走りに対応できるのはアイツだけだから気をつけないとな…』
『直線に入って先頭は依然ノゾミミカド、プレシャスパッションが二馬身後ろ。さらに三馬身後ろにゴールデンソード、二馬身差がついてジュークボックスジュリー、かなり縦長の展開だ。後方の馬たちは固まっている。巻き返すことはできるのか?1000mを通過しタイムは58秒08!?ハイペースになっています!』
「少し早すぎたか?ミカドはまだ…大丈夫そうだな。」
『まだまだ余裕ですよ雄一さん!』
「後方から来る馬で今一番怖いのはお前のペースを知っているブエナビスタだが後方で塞がれているなアレ。」
『むぅぅ…!邪魔ぁぁ!!』
「Mince!(フランス語で『しまった!』)」
『一瞬チラ見しましたけど確かに固まっていますね…』
ブエナにとっちゃあ不利すぎる展開だな。前が開かなきゃ俺との差を埋めるのは不可能。最後の直線で仕掛けるにしても差が広がりすぎていると間に合わない。アイツが俺に追いつくにはなるべく早くあそこから抜け出さなきゃいけない。
『先頭集団が第三コーナーに入って、ノゾミミカドは未だ先頭をキープ!このペースで走り続けてもまだスピードが落ちない!後方集団の馬たちがここで少しづつ上がってきた。ダーレミがここで順位を上げてきた。さあ、第四コーナーに入り、ラストスパート!後続馬たちの逆襲劇が始まるのか!?』
第四コーナーで差し追込みの馬が一気にスピードを上げてきた。メイダン競馬場は東京競馬場を横に引き延ばしたような形状のコース。つまり直線が府中なんかよりも長い。後続勢にとっては末脚を発揮するには絶好の舞台だ。
そして先行勢にとっては地獄の道。前を走っていたと言うことは後方勢よりも体力をそれだけ使っている。現に俺の後ろに居た筈のプレシャスパッションとジュークボックスジュリーはもう垂れている。ここから先、先頭はひたすら粘らなくちゃいけない。
でも、それは普通の逃げ馬だったらの話だ。
「ミカド行くぞ!ドバイでお前の走りを世界に見せつけろ!!」
『勿論、分かっていますよ雄一さん!!』
鞭が思いっきり入り、俺は脚を溜める。その間速度が一瞬落ちるが関係ない。四コーナーの最後、ここなら
ドンッ…!!!
『第四コーナーを抜けていよいよ直線勝負にh……な、なんだ!?ノ、ノゾミミカドがここに来てさらにスピードを上げた!?まだ脚を残していたのか!?』
観客から驚愕の声が聞こえる。珍しいだろ?『逃げて差す』みたいな芸当をする馬なんてな。
『ノゾミミカド、迫っていた後続を引き離す!!これが日本のエンペラーの底力なのか!?後続は追いつけ、いや、いや、ここでブエナビスタ!そしてダーレミが上がってきた!ダーレミが二番手に上がりブエナビスタは三番手!!いやブエナビスタがダーレミを躱して二番手に!!日本の馬がツートップだ!!』
『ミカドォォォォ!!!!』
『待っていたぜ、ブエナ!!でも少し遅かったな!!』
その末脚は確かに凄い。六、七馬身差を一気に『一馬身』にまで埋めたんだからな。前が塞がらなければ分からなかったがな。
『ノゾミミカドとブエナビスタ!!日本ワンツーフィニッシュ!!Victory for the Emperor and Queen of Japan!!(日本の帝と女王の勝利だ!)』
ゴール版を駆け抜けた俺たちは少しづつ速度を落としていく。
『ハァハァハァ……シャア!!勝った!!』
『フゥ…フゥ…ま、負けたぁぁ!!』
『残念だったなブエナ。今日も俺の勝ちだ!』
『ムムム……前が塞がれなかったら勝ててたもん!』
『競馬にたらればは良くないぜブエナ〜。』
『ムゥゥゥ……今度こそ勝つもん!絶対勝つもん!』
ちょっと幼児?幼馬?退行したブエナを宥めながら俺の初の海外戦は幕を閉じた。
日本競馬史上初無敗三冠馬が無敗のまま海外GⅠを制覇した瞬間でもあった。
次回はなるべく早く出すように頑張ります…本当更新遅くてすいません。
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