紡がれる『帝』の血脈   作:シントウ

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ミカドの敗北。そしてワンダーの勝利。

宝塚の舞台の幕引きである。


驚愕の宝塚/帝の落涙

ワンダーside

 

 

僕の前にはいつも君が居た。

 

《『ノゾミミカド、セイウンワンダー、ノゾミミカド、セイウンワンダー!並んでゴールイン!!二頭並んでゴールしました!!ノゾミミカドの方が態勢がやや有利か?』》

 

思いもしないアクシデントが起きても君は諦めなかった。

 

《『ノゾミミカドだ!!ノゾミミカドが差し切ってゴールイン!!!!ダービーの称号を手にしたのは、皇帝一族の救世主、『帝』の名を受け継ぐ、希望の帝!ノゾミミカドです!!!祖父たちに続き、無敗でダービーを制しました!!!!』》

 

例え負けるかもしれないと言われても、君は走りきった。

 

《『ノゾミミカドだ!!ノゾミミカドだ!!!祖父の偉業、父と母父の無念を、多くの人々の望みを叶え、今一着でゴールイン!!!!!最後の直線での三つ巴で他二頭を差し切って、半馬身差で勝ちました!!!!勝ち時計は3:01.4!!レコードタイムを記録しました!!3つの冠を携えて、今ここに4年ぶりの無敗三冠馬が誕生しました!!!!』》

 

ノゾミミカド。

 

君は僕にとって追いつけそうで追いつけない光のような存在だ。目の前まで来たと思ったらまた先に行ってしまう。君を目標に走って来た。

でも僕が最高の走りをしてもいつも君は先に行ってしまう。近づいたら離れてしまう磁石の様に…

諦める方がどれだけ楽だと思ったか…

 

そんなことを思いながら僕は第三コーナーを通過していた。

 

『クッソ!脚が…!』

「スタミナもつか、ワンダー?」

 

上の富士田さんが心配そうに声を掛ける。11番(ノゾミナチュラル)の馬からずっと発せられている圧で僕は無意識下でいつも以上に脚を使っていたようだ。これでは直線で垂れてしまう…

 

『また…またなのか…』

 

また君に追いつけないのか…目に映るいつもの光景。僕の前を走る君。

 

『僕は……』

 

己の情けなさと力不足に思わず下を向いてしまう。勝ちたいのにその為の力がでないことが不甲斐ない。

 

僕は現実から目を背けたくて、眼を閉じた。

 

 

 

 

『先頭はスペシャル!』

 

 

『……えっ?』

 

今日の実況の人と違う声の実況が聞こえた気がして、眼を開いた。

スペシャルなんて馬…いたか?いやそもそも先頭はミカドじゃ…

 

 

『グラスワンダー!!』

 

 

『っ!?』

 

今、僕の前を二頭の知らない馬(・・・・・)が通り過ぎて行った。そしてその馬たちは他の馬たちを文字通りすり抜けて行った(・・・・・・・・)

 

『はっ!?えっ……はぁぁっ!?何今の!?』

 

謎の二頭に跨る騎手の一人は紫と白の勝負服。そして《グラスワンダー》と呼ばれた馬の騎手の勝負服は青と白そして僅かに赤が入っていた。

 

 

『もう言葉はいらないのか!?二頭の一騎打ちか!?』

 

 

グラスワンダーという馬が外からスペシャルと呼ばれた馬を追い抜いた。

 

 

『グラスワンダー躱した!グラスワンダー躱した!スペシャルウィーク負けるのか!?』

 

 

鮮やか並ぶ暇も無く追い抜いた。あの走り…あの走りなら…

 

グラスワンダーのターゲットは最初からスペシャルウィークという馬だった。自分がいない場合勝つであろう馬に当たりを付けていたんだろう。

今このレースに置き換えると僕のターゲットは先頭を走る無敗の帝。

 

『動き出すタイミング…そして更にスピードを上げるタイミングで…』

 

 

『ラストスパートに入って先頭のノゾミミカドがここで加速!』

 

 

鞭が来るがここじゃ無い。ここではまだ脚を使わない。

 

「ワンダー?どうした?」

 

ごめんなさい、富士田さん。でもここじゃ無いんだ。彼に意表を突く最高のタイミングは…

 

前の馬たちが広がったこのタイミングだ……!

 

 

『先頭ノゾミミカド!内からブエナビスタ!大外からはドリームジャーニーとノゾミナチュラル!この4頭で決まるのk……いや、真ん中から勢いよく飛び出して来た馬が二頭!!?17番のナカヤマフェスタと6番セイウンワンダーだ!!』

 

 

『もうこのタイミングしか無い…!残ったなけなしのスタミナを全部加速に使う!集中しろ…狙うターゲットは(無敗の帝)だけだ!』

 

意表を突かれた今、ミカドのリズムは僅かにズレたはずだ。ナカヤマフェスタも来たのはこちらとしては嬉しい誤算だ。ミカドはさらに驚いているからだ。

 

『無敵の三冠馬さんよぉ…やっと追いつけたぜ!』

『君に勝つのは僕だ!絶対に負けない!』

『……へへっ、かかって来いよぉぉ!!!』

 

ミカドが更にスピードを出そうとする。

 

だけど彼のスピードは変わらなかった。

 

『ここだ!』

 

 

『三頭が並んで膠着状態!ここで抜け出したのはセイウンワンダー!!』

 

 

僕も11番(ノゾミナチュラル)の圧の影響を受けていた。ならマークやプレッシャーが苦手な彼にも有効だった筈。そもそも彼は成績から一番意識して狙われている筈だ。一か八かの賭けだったが当たっていた様です。

 

『君に勝つのは……この僕だぁぁ!!!!』

 

 

 

『セイウンワンダー抜け出した!ノゾミミカドとナカヤマフェスタも追うがこれは間に合わずゴールイン!!!!!無敵の帝を下し、無敗記録を止めたのは何度もその背中を追い続けたライバル、セイウンワンダーです!驚天動地とは正にこのこと!!ノゾミミカドは二着に敗れました!』

 

 

あの馬の様に鮮やかにとはいえない、付け焼き刃の酷い走りだ。無理をしたからきっと脚はボロボロだ。先生たちには怒られるでしょう。

 

しかし……貴方のお陰で彼に勝てました。有り難う御座います。父さん……

 

 

14アタマ
17クビ
1/2
11

 

 


 

 

ミカドside

 

 

『無敗のライバルを討ち取ったのはセイウンワンダーGⅠ初勝利!!そして父グラスワンダーと親子でこの宝塚記念を制覇しました!』

 

 

暫くの間、何が起きたのか訳がわからなかった。けど、ゴール版を抜けてからゆっくりスピードを落として止まって少ししてからようやく理解した。

 

『ああ…俺、負けたんだ…』

 

最後の最後で脚がうまく動かないなんてな。無意識の間にナチュラル先輩のことを気にしすぎてスピードを出していたことが敗因だな…スタミナを結構使っていたんだ。

 

「ミカド……惜しかったな…」

 

雄一さんの手が俺の首を優しく叩く。いつもよりも優しく。そんだけ俺は見るからに落ち込んでいるんだろう。

 

『すみません、雄一さん…大丈夫ですよ俺は…』

 

あんまり心配をかけたくないから気丈に振舞う。さて…

 

『アイツのとこに行ってやらないとな…』

 

勝者には最大の賛辞をするのが礼儀ってもんだ。

 

『ワンダー。おめでとさん。』

『ミカド……有り難う…やっと君に勝てたよ…』

『ああ…今日は俺の完敗だ。あ〜あ〜無敗記録もここまでかぁ…本当…スッゲェ悔しい……』

『君に…そう言わせる事ができて嬉しいよ。でも、これでやっと一勝だ。次は君に三馬身の差をつけて勝ってみせるよ。』

『いうじゃねぇか……』

『君より強いと思わせるにはそれぐらいの差をつけないといけないからね。』

 

いつもよりも声が上ずっていて、ここまで喜びの感情を顕にしているワンダーを見るのは初めてだ。それだけ俺に勝った事が嬉しくてたまらないんだろう。

 

『次は負けねえからな。ああ、あと…』

『?』

『さっさと向こうに行ってこい。お客さん方が本日の主役を待ってんぞ。』

 

『ウイニングラン、決めてこい!』

『!……ああ!!』

 

走って行くワンダーの後ろ姿を見ながら、俺はその場を去った。

 

『お〜い、ミカドぉ!』

 

ブエナの声にも耳を傾けずに…

 

『あれ?聞こえなかったのかな?待ってよぉ!』

『嬢ちゃん、やめときな。』

『うん?お姉さん誰?』

『あの子の先輩さ。それよりも今はあの子に近づかない方がいい。』

『?』

 

『男の子にはね…』

 

「ミカド?」

 

 

誰にも俺が

 

 

「お前もしかして……泣いてるのか?」

 

『自分の情けない姿を見せたくない時だってあるのよ…』

 

 

ないているところをみられたくなかったから……

 

 


 

 

観客席side

 

 

「み、ミカドが……」

「負けた……?」

 

目に映る光景が信じられないという表情を浮かべる一真と翔一。

 

スレ組の面々も驚きを隠せていなかった。

 

「も、森さん…ミカドが負け……ちゃいましたね…」

「……競馬に絶対はないからな…いつかは来ると思っていたよ…でもね新人君。これが『競馬』なんだ。」

 

五徹こと森は語る。

 

「どんなに強い馬でも何か一つ、敗因になり得るものが現れれば負けてしまうことだってあるんだ。勝負事の世界には必勝法が存在しない。」

「状況や運、相手によって結果は変わる。例え一度勝ったレースと同じ条件で出走馬が同じでも必ず同じ結果になるとは限らない。」

「なぜなら競走馬や騎手にとってはどんなレースでも『初挑戦』なんだと私は思う。全部が全部全く違うのだから結果も、それに至るまでの過程も、全て…」

 

森の自論に耳を傾ける新人こと常盤。

 

「……まあ、なんだ…色々関係ないこと話したがとにかくどんな結果が出てもそれを責めてはならない。勝者にはその結果に値する賞賛を。敗者になったものにも奮闘した激励を送るのが、我々観客(オーディエンス)のするべきことの一つだ。」

「…はい。」

 

ミカドが負けたことに少なからずショックを受けていた常盤に森は肩を叩いて慰める。

 

「さて……そろそろ移動しよう。麻生くん(一文無しネキ)と藤上くん(イッチ)も移動……する……よ…」

 

二人の方に顔を向けた森が固まる。何があったのかと同じ方向を見る常盤と翔一と一真。そこには…

 

手(馬券を持っている)を天に掲げて涙を流す麻生と、orzみたいな状態で馬券を地面に散らしている藤上の姿だった。

 

「え、えと二人とも何があったんだい?」

 

森が恐る恐る話しかけると…

 

「…った…」

 

「えっ?」

 

「馬券…当たった……!」

 

「逆に僕は大外れしました……!」

 

 

……………

 

 

「「「「ハァァァアアアァァアア!!!???」」」」

 

 

大絶叫が阪神競馬場に響き渡った。

 

 

因みにこの日の総額で一番勝ったのはイッチを抑えてネキになった。

 

 


 

 

驚愕な結果を残した宝塚記念はこうして幕を閉じた。

 

ノゾミミカドの初の黒星…

 

そしてその結果は……

 

 

〇〇スポーツ新聞

 

《ノゾミミカド、凱旋門賞への道断念!?》

 

一つの道が閉ざされた要因にもなってしまった。




今回のワンダーが視たものは菊花賞でミカドが見たものと同一です。

あの現象の出現メカニズムがあるのですがわかる人はいますか?一応作者の中では決まっています。よかったらコメントやメッセージとかで予想や考察を送って下さい。

次回はシエルママの過去編を入れようと思っています。

それでは次回までお楽しみに!

感想などはどんどん下さい!!モチベに繋がります!!!
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