敗北を味わったミカド。凱旋門回避。
一体何があったのか…
それではどうぞ…
ノゾミミカドの凱旋門賞回避は競馬に関わる人々に衝撃を与えた。
〜とある大学〜
「嘘だろ…」
「常盤〜どうした?そんなテレビの録画を失敗したような顔そして?」
〜とある大企業〜
「こうなるとは…予想はしていたが…」
「なあ、森さんのあの表情って何が合ったんだ?」
「分からない…ここ最近の我が社の業績が徐々に右下がりになってきていることについてじゃないか?」
「でもそれはこの間の案件で回復の見込みが出てきたからだろう?プロジェクトを引っ張っていた森さんが一番実感しているだろ?」
「じゃあなんで?」
〜とある会社の一室〜
「ねえリョウ君…これ…」
「知っていますが今は仕事中ですよ奏さん。取引の方が今は重要です。」
「でも……」
「……あぁ〜わかりました。仕事終わりに家来ます?話は聞きますよ。」
〜とある飲食店〜
「一真、これ見たか?」
「見たよ。骨折とかじゃないみたいだが心配だな…」
「ミカドになんか有ったら…」
「俺らがここでとやかく言っていても仕方ない。今は無事を祈ろう。」
「コラァァァ!!そこ二人!!もう開店準備終わるんだからさっさとしなさい!!一真は急いで厨房服に着替える!!翔一は服の襟を直しなさい!!しっかりしなさい料理長と店長でしょうが!!ウエイターの私に言われてどうすんの!!?」
「「すみません!!直ぐにやります!!」」
ミカドが何故回避したのか…それは宝塚記念から数日たった頃のことだった。
松戸厩舎には調教師の松戸とミカドの厩務員である真司、主戦を務める雄一、そして馬主の駒沢の4人がいた。
「駒沢さん、お忙しい中ご足労いただきありがとうございます。」
「いえいえ、大丈夫ですよ。それで…ミカドに何か合ったんですか?」
駒沢がここに呼ばれるのはミカドのことに関してだけである。
つまりは、ミカドに何か合ったということである。
「……端的に言うとその通りです。」
「最初に言っておきますと故障とかそう言うのではないです。そこは安心してください。」
「真司の言う通りアイツは健康体そのものです。
「身体…の…?どう言うことですか?」
体は健康。それはつまり『体以外』に何か問題が起きたということになる。訳がわからず困惑する駒沢に松戸は話だす。
「宝塚以降のミカドはどこか調教に力が入っていないのです。」
「最初は故障かと思って獣医にも見てもらったんですがどこも異常無し。飼料の食いも普通だったので少し様子を見ることにしたんです。」
「しかし、時間が経ってもミカドの調子は戻らないまま。ブエナビスタや他の馬との併走でも前のような加速が出なくなっていました。」
「我々が考えられる可能性の中で一つ思い浮かんだものがありました。恐らくミカドは『イップス』に陥っています。」
「イップス…?」
ここで『イップス』とは何か説明しよう。
イップスとは、主にスポーツの動きに支障をきたし、突如自分の思い通りの動きが出来なくなる症状のことである。
原因は同じ動作を繰り返し行うこと、精神的ショックなどがあり、今回のミカドは恐らく後者。
「しかし、馬もイップスになることがあるんですか?」
「可能性は充分あります。それにミカドは普通では考えられないほど賢い馬です。アイツはこちらの言っていることを理解してる節があり、意思疎通がかなりとれています。」
「獣医の先生曰く、『賢い馬であるほど嫌な経験や記憶を忘れない。そう感じて走ることをやめてしまう馬も中にはいた』らしいです。」
「そんな……」
体の傷は自然治癒や治療で回復する。しかし、心の傷はそうはいかない。きっかけがなければ一生そのまま残り続けるものだ。
「宝塚での初の敗北。それがアイツにとってトラウマになってしまったんでしょう。」
駒沢は頭を抱えた。愛馬がまさかそのようなことになってしまったとは思いもよらなかったからだ。
「今のミカドはレースに出てもいい結果にはなりません。むしろ最悪な結果を起こす危険もあります。ですので…」
ノゾミミカドは、凱旋門賞に出走させません。
松戸の口から放たれたその言葉。全員が辛い表情を浮かべながらも納得しようとしていた。
「……わかりました…元々宝塚の結果で決めようとしていましたからね…」
「……本当に申し訳ありませんでした…我々が不甲斐ないばかりに…」
こうして、ノゾミミカドの海外レース出走の道は閉ざされたのであった。
松戸厩舎・馬房
『…………』
ミカドは自身の馬房の奥に籠もっていた。まるで誰とも話したくないと言っているように感じられる。
『兄さん…どうしよう…』
『こればっかりは僕らができることは少ない。今はミカドが元に戻れるように祈るだけだ。』
『あの…先輩…ミカド君はどうしちゃったんですか?』
事情をよく知らないアミーゴは恐る恐る聞いてみた。
『……多分だけどミカドが思っているよりもこの間の敗北は大きなものだったんだと思う。』
『えっと…どういうことですか?』
『ミカドって、負けそうになっても最終的に勝ち続けてきたよね?だから負けた時のダメージが普通よりも大きかったんだと思う。ミカド自身が思っているよりもずっと…』
『じゃあミカドずっとこのままなの?』
『さっきも言ったけどこればっかりは彼次第なんだ。モナーク先輩も言っていたでしょ?負けた時こそ学べって…あの敗北から学んで乗り越えるのは彼にしか出来ない。今は見守るんだ。』
仲間が心配して見ている中、ミカドはずっと考えていた。
(あれから、思うように体が動かない。雄一さんや真司さん、テキに獣医さんも俺の体を調べてくれたけど問題は無かった。そりゃそうだ。これは俺の精神的なものだし…)
ミカドもこの不調の原因は己の精神的なものであることを理解していた。
しかし、これの抜け出し方が全く分からなかった。
(負けそうになったことはなくても負けたことは無かったもんな…)
「こんな時、どうしたらいいんだろうな……」
心の迷いが走りに現れ、それを乗り越える術も思いつかない。ミカドはどんどん思考の奥深くに沈んでいった。
北山家宅
「そうか……ミカドが……」
《ああ…このまま調子が戻らなければ引退も視野に入れなくなってくるかもしれない…》
北山牧場の長、北山は親友である駒沢の相談という名の愚痴に乗っていた。普段であれば突っぱねるか時間を改めて話を聞くかするが内容が自身の牧場で生まれた馬の不調、さらに借りがある相手でもあったためその場で聞いていた。
*現在夜の9時。更に北山はこの後夜の見回りがあるためそこそこ時間がない。
「馬っていうのは記憶力が半端なくいい。一度覚えたことは中々忘れないし、切っ掛けがあれば簡単に思い出す。」
《…トラウマだな…まるで…》
「間違っちゃあいない。だがこういうのが起きるのは大抵酷い故障をした馬だ。ミカドのパターンもないわけではないだろうが……アイツの変に繊細なところがでちまったか…」
《繊細…?》
「アイツは馬っぽくないところもあるが、馬元来の本能である繊細さが人一倍ある馬なんだ。子馬の時は母親のシエルにベッタリだったし、ここを離れる時も名残惜しそうにしていた。ミカドは知らない環境には抵抗を示す。だが知っている顔がいればある程度は落ち着くんだ。今まで移動で大丈夫だったのも知っている人や馬がそばに居たからだ。」
《そうだったのか……》
ミカドの知らない一面を知った駒沢の声はまた沈む。恐らくは自分の馬のことを何も知らなかったことに己を恥じているのだろう。
「とにかく、俺もそんな状態になったミカドの対処法は分からん。今まで無かったことだし、俺が知っているアイツは競走馬としてのノゾミミカドじゃなく、北山牧場で育ったミカドだからな…」
《そうか…いや急に悪かったな、こんな時間に。》
「今度来た時に酒奢れ。それでチャラだ。」
《分かった安酒だな。》
「ケチんな大企業社長。大吟醸の高い奴だ。」
《カミさんに叱られるぞ。そんな高いものをって。》
「うるせー、俺は親父譲りの酒豪だって知ってんだろう?」
《知ってるよ…それでお前に何度絡み酒され………》
不自然に駒沢の声が途切れ、北山は首を傾げた。
「おいどうした望。聞こえてんだろ?おーい。」
《庄司…お前今なんて言った?》
「はっ?聞こえてんだろ…」
《違うその少し前だ。》
「親父譲りの酒豪…」
《それだ!》
突然の大声で北山は思わず受話器から耳を離した。
「な…なんだよ急に大声出して…」
《庄司、お前無駄に顔が広かったよな?》
「電話切るぞ。」
《待て待て待て待て別に貶しているわけじゃない!その伝手の中に社大スタリオンとの繋がりあるか!?あとまだルドルフはいるか!?》
「社大?あるぞ。というかお前の馬であるフェニックスはその社大の馬との配合だったし…ルドルフもまだ居るぞ。元々冬の北海道の気候は歳的にキツいだろうということで千葉に行くはずだったんだがなんかウチに来てから移動する前よりも元気になったからもう暫くは…」
《よし!なら急いで社大とシンボリにアポを取ってくれ!もしかしたら……
ミカドを復活させることが出来るかもしれない!!》
駒沢さんが思いついたこととは一体……?
そしてミカドは復活することができるのか?
次回をお楽しみに!
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それではまた次回!