ミカドを復活させる手を思いついた駒沢は一体何をするのか?
そして他の馬たちの行動は?
今回は少しキツい部分もあるのでご注意願います。
それでも大丈夫という方は進んでください。
それではどうぞ!
俺ノゾミミカドは現在、故郷である北山牧場に移送中。
理由は不調で上手く走れず、療養も兼ねての里帰りらしい。
『こんな不甲斐ない時に里帰りとか、気が重いな…』
初めての敗北。悔しかったし、悲しかったけどそれはそれ。気持ちを切り替えて行こうとした矢先に不調を起こすとは…このまま元に戻らなければ…
『引退……だよな…』
俺の今の成績は11戦10勝でGⅠ6勝。何かある前に種牡馬にして次の世代に託すという話が出てきてもおかしくない。いやそれよりも今は…
『はぁ…母さんに師匠や爺ちゃん、先輩たち、ボーになんて言おう…』
故郷で待つみんなにどんなことを言えばいいのか……気が重い……
『…それでミカド。何か言うことは?』
『本当に申し訳ありませんでした。』
初手鬼神の母上登場で平身低頭*1一択になりました。
『…私がどうしてこんなに怒っているのか……分かる?』
『ふ、不甲斐ない走りをしてしまったことについてでしょうか…?』
『…違う。』
じゃあ何でそんな怒っているの!?マジで怖いんですけど!?
『…私が言いたいのはね…なんでそういつまでもウジウジしているのかってことよ。』
『……っ』
『…貴方は昔からそうね。知らないことに対して誰よりも恐怖を感じる。今までは表面化することはなかったからそこまで問題にしていなかったけど今回はそうも言ってられなくなった。』
『……はい…』
『…ミカド、聞きなさい。今回の件に関して、私やノゾミの馬たちの協力はないと思いなさい。』
『…っ!』
『…貴方の中にある渦巻いたものは貴方自身が気付いて答えを見つけなくちゃいけない。そしてそれは私たちには一切解らないもの。何度も言うわ。私たち抜きで考えなさい。いいわね?』
『………はい…』
『……話は以上よ。今日はもう休みなさい。』
母さんや先輩、師匠たちからの協力不可。俺の経歴を考えると確かに他のみんなの経験とは全く違うある意味嫌味な悩みだ。
『…ははは……俺って本当に不甲斐ないバカ野郎だな…』
今回は本当に、一頭だけでやらないといけないんだな…
ノゾミ系の馬房
『姐さん、今回結構キツいこと言ってんな…』
『初敗北によるトラウマ…彼ほどの馬がそんなことで不調を来すとは思えませんからね…』
『アホ、そんなこととか言うな。気持ち一つで走りは変わっちまうんだ。ミカドにとってはそれだけのことだったんだろうよ。』
ノゾミフェニックス、ノゾミライン、ノゾミレオ、ノゾミカンパネラといったノゾミの馬たちはシエルとミカドのやり取りの一部始終を見ていた。
『それにね、二頭とも。シエル姉、あれ結構無理して表面を取り繕ってんだよ。本当は協力してあげたいんだよ。』
『『……えっ!?』』
『いやいやいや!?あれ俺らを叱るときまでとは言わねぇけどよ結構なガチトーンだったぞ!?』
『ええ…つまりアレは本心からのものではないと言うわけですか!?』
問題児二頭はしょっちゅうシエルに叱られているので情けない話だがシエルの顔色を見るのはかなり得意なのだ。その二頭が見破られないほどにシエルは隠し通しているのだ。
『いやそもそもなんでカンさんには分かるんだよ!?』
『そうですよ!カンさんは叱られることなんてほとんどないじゃないですか!?』
『カンさん言うな!!あと君らの巻き添えで僕もそれなりに怒られてんだよ!!そこら辺いい加減にしてくれないかな!!?』
『『なんか…すみません…』』
あまり怒らないカンパネラのマジトーンな声に反射で謝る二頭。これ以上収拾がつかなくなる前に最年長のレオが話を切り替えようと動く。
『まあその辺にしておけお前ら。それでカンパネラ、なんでお嬢の本心を見破れたんだ?』
『フーッ…フーッ……ハァ……なんやかんやで僕はシエル姉と一番付き合いが長いからね…君らが知らない彼女のこともあるんだよ。さっきので言うとシエル姉は何かを隠そうとする時は、話し出すときに少しだけ間が開くんだ。』
『そう……だったのか…』
『知りませんでした……』
『これでも僕はシエル姉の弟分だしね…これぐらいは分かるよ。』
『今回、お嬢はミカドの成長のために心を鬼にしてるってことだな…本当は力になりたいだろうに…よいかお前さんら、俺らはミカドと話はすれどアドバイスの類は厳禁だ。』
シエル自身もかわいい我が子の相談に乗ってあげたい、しかしミカドの悩みは長い期間の無敗からの敗北という経験することが奇跡に近いもの。それに関して正しいアドバイスをするのも共感をしてあげるのもシエルにはできない。そしてそれはノゾミの彼らも同じ。皆特徴的な経験はして入れど無敗を貫いたことはない。むしろ負けることの方が多い。ミカドの悩みを完璧に近い状態で理解し共感できる馬がいないのだ。
『で、でもよ…あの状態のミカドをほっとけねぇし…』
『フェニックス君。シエル姉は『僕らノゾミと自分』は協力しないって言ったんだよ。それの意味がわかる?』
『えっ…?』
『………ああなるほどあの方ですか…』
『うん。あの馬ならミカドの悩みを理解してくれるかもしれない。』
ノゾミやシエルたちには無理だが『あの馬』ならば…『絶対を許された』あの馬ならミカドを救ってくれるかもしれない。
ミカドが帰ってくる数日前
北山牧場会議室(仮)
再びこの場所に集められた北山牧場従業員たち。以前のように北山牧場の長、北山庄司がゲンドウポーズで奥に座っている。しかし前回と違った点が一つ。
その隣に同じポーズで椅子に座る北山の旧友であり、お得意様であり、出資者でもある株式会社ノゾミの社長、駒沢望がいることだ。
(今度は一体何なんだよ…)
ただ寄らぬ雰囲気に嫌な予感を感じ取った卓也。
「今回こうしてみんなをここに集めたのは一つ。詳しいことはコイツから聞いてくれ。」
北山は話し出すと早々に駒沢にバトンタッチした。駒沢は席を立ち、集まった従業員たちに向かって話し出す。
「皆さん、初めましての方も中にはいると思いますので軽く自己紹介を。私は株式会社ノゾミの代表取締役、駒沢望です。今回はどうか皆さんに協力をして欲しいと思いこうして集まってもらいました。」
ノゾミはこの牧場で多くの馬を買っていく馬主であり、大企業。その社長がこうして自分たちの前に現れて重要そうな話をするとはいったい何事だと部屋全体にざわめきが広がる。
「私が所有する競走馬ノゾミミカド。私が買った馬の中で最も素晴らしい馬、皆さんの牧場で買わせてもらった馬ですが…現在不調により以前のように走ることが困難な状態です。」
「獣医や調教師、厩務員の方々にもどうにかならないのかと相談をしましたが良い答えは得られませんでした。私はミカドのことをよく知るここの北山にも相談しましたがそれでも何も得られず八方塞がりになりました。しかし、ある突飛だが一つ思いついたことがあったのです。そしてそのアイデアには皆さんの協力が不可欠です。」
駒沢は真剣に従業員一人一人の目を見るように話す。それに皆、聞き入っていた。
「これは上手くいくかも分からない。先ほども言った通り突飛で普通じゃ考えられないものです。そしてそれは皆さんにかなりの負担をかけるかもしれません。しかし、もう私にはこれしか思いつきませんでした。もしかしたら骨折り損になるかもしれない。ただただ負担を強いるかもしれません。しかし、私の馬を救うためには貴方がたの力が必要なのです。どうか協力してもらえないでしょうか……」
深々と頭を下げる駒沢。従業員たちは皆黙り込んでいる。自分たちの益にならない事、彼の個人的なことに協力するという義理は彼らにはそこまでない。しかも駒沢の言い方からすれば何かしらのリスクが生じる可能性も0ではない。強制ではないようだが降りたら降りたで北山牧場との関係に亀裂が入ってしまうのではないかと考える者もいた。
従業員たちの表情からあまりいいものではないと感じた駒沢はダメかと諦めた。
「あの、いいですか?」
一人の従業員の手が上がる。その手の主は……
「自分、三山卓也といいます。ミカドが生まれた時から世話をしてきた者です。」
卓也だった。
「駒沢さん。貴方がミカドを助けたいという気持ちはわかりました。しかし、それは我々一介の従業員たちに何かメリットはあるのでしょうか?」
「それは…」
「今の話だけではデメリットの方が大きく感じてしまいます。我々も慈善団体ではありません。ここで働いて給料と言う『対価』をもらっては来ているのです。その話だけでは我々は皆タダ働きをしろとも感じとれてしまいます。正直それでは皆二の足を踏んでしまいます。」
卓也の言葉に駒沢はハッとした。ミカドを救いたい気持ちが先走ったのか先程の自分の発言は確かに彼らに対するメリットがまるで感じとれない。やってしまったと手で顔を覆う駒沢に卓也は続けて言う。
「……でも、自分はそれでも貴方に協力します。」
「えっ?」
卓也の言葉はまさかの協力をすると言う答えだった。しかもそれは彼の先ほどまでの説明から考えるとタダ働きもしていいと言っているようなものだ。
「ミカドは、俺が初めて生まれてからずっと世話をしていた馬です。アイツは生まれた同時に鳴き叫んで、マザコンって言われるぐらいに母親が大好きで、人にイタズラを繰り返して、でも本当にやっちゃいけないことはしっかり守って…どこか不思議な馬です。」
「そんなアイツが今苦しんでいるのなら俺は例えタダ働きだろうがリスクがあろうが救えるんだったら何でも協力します。アイツは俺の大切な弟のようなもんなんですから。」
卓也の言葉に駒沢は自然と涙を流した。そして卓也に続くように後輩の宮前俊も立ち上がる。
「じ、自分もやります!!俺らの牧場を一気に盛り上げてくれたミカドに俺もなんかしてあげたいっす!!」
そして他の従業員たちも次々立ち上がる。
「若ぇ奴らに任せんのも不安だ。俺もやるぜ。」
「5年目と3年目の若造がどう責任取るんだ?そう言うのは老いぼれたちの仕事だ。」
「男どもだけでしっかり回せんの?勿論おばちゃんたちも協力するよ!」
「ぼ、僕もまだ新人ですけど何かできることがあれば!」
次々と立ち上がる従業員たち。そして部屋にいた全員が立ち上がった。
「……庄司」
「何だ?」
「………お前は…いい従業員たちを雇ったな…」
「へっ……だろう?俺の自慢の部下たちだ。んで、お前はコイツらに何をして欲しくて何をやってやるんだ?」
照れ臭そうに、だが誇らしげに従業員たち見る北山。そして駒沢は自分の個人的なことにこうして協力してくれると名乗り挙げてくれた彼らに感謝しても仕切れない気持ちでいっぱいだった。
「皆さん……ありがとうございます!皆さんには私から精一杯のお礼をします。皆さんに最高のものを与えることをここに約束いたします!そして…皆さんに協力していただきたいことというのは……」
会議室の夜から数日後
北山牧場厩舎
『…………』
「昨日からどうしたミカド?いつもみたいに作業中の俺らにイタズラはしないのか?」
『…………』
いつもなら帽子を取ったり、タオルを引っ張ったりして気を引くミカドのイタズラが帰ってきてから一回もない。ミカドは卓也のことを一度見てそのまま馬房の奥に引っ込んでいった。
「……ダメか…。(にしても…こりゃあ本当にまずいな…駒沢さんの案が実行されるのは今日…確かにこれは俺らが協力しないと実行できないことだな…)」
ミカドを見ながらそう考えていると不意に腰に取り付けていたトランシーバーから無線が入る。
「こちら卓也。感度良好どうぞ。」
《こちら俊。感度良好どうぞ。》
《こちら北山。馬運車が牧場入り口に到着。ミカドとルドルフの準備を開始しろ。どうぞ。》
「了解。準備を始める。」
《こちらも了解。準備を始める。》
無線を切り、卓也は今の作業を他の人に一旦任せ、ミカドを放牧する準備を始める。
「ミカド、放牧行くぞ。」
『…………』
直ぐに準備を終わらせ、ミカドを放牧地に放す。そして少し遅れてルドルフも放たれる。
『ミカド。』
『……爺ちゃん…』
二頭の間に気まずい空気が流れる。
『爺ちゃんそn『よい。言わなくとも分かる。』… 。』
『お主の顔は悩みを酷く抱えたものの顔だ。シエル殿から話は聞いておる。負けたのだろう?』
『……はい…』
『無敗を得てからの敗北……我も体験したがあれは中々心に来るものがある。しかし…お主のは我よりもずっと深いと見た。』
ルドルフはミカドの抱えている問題をシエルから又聞きしていたとはいえ知っていた。そしてその辛さや苦しさにも理解があった。自身もデビューから長い期間無敗であり、唐突に敗北を味わったものだったのだから。
『でもこれは俺が自分で何とかしなくちゃいけないものだし、大丈夫だよ。俺だけで何とか…』
『できるのか?』
『…やんなきゃいけないし…』
『今の今まで答えが出ていないのにか?お主だけで何ができる?』
『……じゃあどうすればいいんだよ!!』
ミカドは今の今まで心の内に溜めていた不満や不安を吐き出した。
『最初のうちは切り替えて行こう、次は勝てばいいって思ったさ!!でも何でか脚に力が入らねぇんだよ!!加速しようとするとまるで脚を誰かに掴まれたように重くなって上がんなくなる!!何回も走っても走ってもあの感覚が襲ってくる!!もうどういたらいいのか訳分かんねぇんだよ…怖いんだよ…どんどん何もできなくなっていく気がして……みんなの期待に応えれなくなっていく気がして……!』
ミカドの心の奥に潜んでいた恐怖。それは自分の存在は誰かの為にあるというもの。前世の人間としての記憶や知識を持ちつイレギュラーの存在。そんな自分にできることは自分のために様々なことをしてくれた人や馬たちへの恩返しをすること、そんな自分という存在を認めて欲しいということがミカドを形成するものの奥底にあった。ミカドのイタズラは人に認知されたいというものが無意識に表に現れたアピールでもあったのだ。
『はぁ…はぁ…はぁ…』
『吐き出せたか?』
『……うん。ごめん…』
『何、昔、他の馬たちに生意気なことをよく言われた時に比べれば可愛いもんだ。』
(……しかし、これはかなり深刻かもな…一種の強迫観念みたいなものか……自らの存在意義は勝つことだと無意識に考えているのだろう。それをどうにかしなければずっとこのままだ…これは我でもちとキツいかもしれんな…)
ルドルフは自身の存在意義は『皇帝として情けない走りをしないこと』。ルドルフは三度の敗北を味わったがどれも己の中で自己完結し、次は勝利をすると硬く心に誓い、勝利をもぎ取ってきた。最後のレースには勝てなかったがルドルフ自身は自らのレース馬生に納得している。
そのため、ルドルフはミカドの力になるには自分だけでは不足だと感じた。
(たった一度の敗北でここまでの挫折。それに近い経験をしたものでなければ此奴を立ち直らせることはおそらく不可能。しかし、そんな馬この牧場には……)
『ねえねえ。』
聞き覚えのない声。その声が聞こえた瞬間二頭は同時に顔を上げ、その方向を見る。
『そこの君とお爺さん。ここどこか知らない?僕急に連れてこられてここに放たれたんだけど?というかなんか懐かしい匂いと知らないけど嗅ぎ覚えがある匂いがするな?』
鹿毛の馬体。額から伸びた白い流星。黒い左前肢以外は足白の脚の馬がトコトコと歩いてきた。
『なっ!?えっ!?ちょっ何で貴方の様な方がここに!?』
『おっ。君〜もしかして僕のこと知ってる?いやぁ〜参っちゃうなぁ〜。人間たちの間で僕かなり有名みたいで最近もあっちこっち引っ張りだこでさぁ〜。』
ミカドの反応に浮かれている謎の鹿毛の馬。ルドルフもミカドの反応、そして自分と孫によく似た匂いを嗅ぎ、半ば確信した。
彼は自分の血を引く存在だと。
『ミカド、知っているのであろう、此奴のことを。我に教えてくれんか?』
『………正直今大分頭の中パニックですけどわかりました。この馬は
《トウカイテイオー》。俺の父であり、ルドルフ爺ちゃんの実の息子です。』
『そう!僕が無敵のトウカイテイオー!!誰もが知る最強の競走馬だ!!!』
今回シエルママがあんな態度を取ったのは自分では息子を経ち乗らせることはできないと察したからです。そして他のノゾミの馬たちに無理だと感じ、一番可能性がありそうなルドルフに全てを託しました。
実際、アレを行った後のシエルは自己嫌悪に苛まれてしまいボーが付きっきりでフォローしています。
そしてとうとう登場トウカイテイオー。
彼がここにきた理由は次回細かくわかりますのでお楽しみに!
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それでは次回をお楽しみに!