紡がれる『帝』の血脈   作:シントウ

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最強ママシエルによってトラウマを植え付けられたテイオー…
そんな前回からのスタートです。

それではどうぞ!


三帝の取材/彼らとの再会

『ひっく…えっ…ぐ…!』

『父さん分かった?うちの母さんは怒るとすごい怖いってこと。』

『わ゛がっ゛だぁ゛ぁ゛ぁ゛!!!』

『うわ汚な。』

 

母さんにしこたま叱られた父さんを厩舎に戻った今もなお俺は慰めていた。いやにしてもやっぱ母さん怖っ。

 

『前にあった時はあんな感じじゃなかったんだけどぉぉ…!』

『そりゃあ他所ヅラするだろ。』

『今はテイオーさんも北山牧場の一員(仮)ですからね。』

『ここにいる間はシエル姉に従ってもらいますからね?』

『早死にしたいならじゃんじゃん逆らえばいい。』

 

『絶対に゛じな゛い゛!!』

 

『やれやれ…我が息子として情けない。あれぐらいで…』

『爺ちゃん、母さんのアレを涼しい顔で耐えれるのアンタぐらいしかいねぇんだよ。』

 

*読者の方々にシエルがどれだけヤバいのかわかりやすく説明すると…

有名な気性難の馬_例えばステイゴールドやサンデーサイレンスあたりを想像してください。

シエルが怒れば、前者が恐怖に怯えながら素直に従い、後者が恐怖はないけど相手にすると面倒臭いと思いつつ偶に従うくらいのレベルです。

因みに効かないのはルドルフやオペラオーぐらいです。(ルドルフはそもそも叱られることがない。オペラオーは真摯に受け止め、その怒りもまた美しいと思う変馬です。)

 

 

情けなく泣く父さんだが父さんのお陰で大事なものに気付けた。父さんがいる間は付き合おう。彼はまさしく、俺の恩人ならぬ恩馬なのだから。

 

 


 

 

北山牧場・従業員室

 

《……というわけで明日、また取材に行きます!》

「本当ですか!コネクトって聞いてもしかしたらって思っていたんですよ!」

 

卓也は携帯で以前、取材に来た記者である日山響と連絡をとっていた。あの取材の際に個人的に連絡先を交換し、偶に互いの愚痴を聞いたり聞いてあげたりする仲になっていた二人だが卓也は北海道、響は関東と普段はかなり離れた地にいるため直接会うのはあの取材以来、実に半年ぶりなのだ。

 

《今回は以前よりも豪華な内容になるので取材陣は私以外にも何名かいるんです。》

「あっやっぱそうなんですね…」

《むしろ前回が一人だけっていうのが本当に大変だったんですけどね……爆売れしたからボーナスウハウハでしたけど…》

「アハハ……」

《あ、あと今回はスペシャルなゲストも来るので前回みたいにゆっくり取材は中々できないと思うんです…》

「そうですか…ちょっと残念ですね…」

《はいぃ……あ、でもその代わり取材が終わったら私有給取ったので次の日とかはゆっくりお話しできますよ!》

「そうなんですか!?じゃあ楽しみにしてますよ響さんとは色々直接会って話したいですし。」

《私もです!あっそれじゃあ明日は早いんで今日はこの辺で…また明日お会いしましょう!》

「はい、また明日。」

 

通話を切り、卓也と響は明日が楽しみでしかたなかった。しかしここで互いに気付く。

 

(俺何、『残念です』とか言ってんだぁぁ!!別に俺ら付き合ってもないのに!!気持ち悪いとか思われてないよな!?)

 

(私なんで『ゆっくりお話しできます』って言っちゃったんだぁぁ!!?べ、別に!?卓也さんとはそういう関係じゃないし!?私みたいなチンチクリンなんか卓也さんは…って誰がチンチクリンだコンチキショウ!!)

 

この二人、無自覚両片思いであり、周りから見たら『はよくっつけ』ともどかしさを感じる二人なのである!因みに彼らの周りは、互いに好意を持っているのを知っているため正しく『はよくっつけ』と思っているぞ!

 

 


 

 

翌日!

 

 

「お、おはようございます…」

「はい…卓也さん…大丈夫ですか…?」

「響さんこそ…」

 

昨夜、中々寝付けなかった二人であった。

 

「それで、今回の取材で同行するカメラマンの…」

「門野阜(かどのつかさ)だ。よろしく頼む。」

「はい。こちらこそ。」

 

少し気怠そうな雰囲気を出している男が今回メインで同行するカメラマン。

 

「少し不真面目そうに見えますし、口も悪いですけど腕は確かな方です。仕事はしっかりこなしてくれるので安心してください。」

「余計なことを言うな。俺の撮った写真に文句を言う奴らに丁重(・・)な対応をしただけだ。」

「それがこの間取材先の方に『調理過程を見せるのを売りに出すんだったらもっと技術を上げてからだな』って言ってトラブル起こした人が言える口ですかぁ〜!」

 

どうやら彼は少し問題があるらしい。卓也の中に一気に不安が襲い掛かった。

 

「と、取り敢えず行きましょうか。門野さん、最初に言っておきますが厩舎内での写真撮影は原則禁止です。大丈夫であれば許可を出しますので許可を出した場所での撮影は認めます。それとフラッシュもダメです。馬が驚いて怪我をする恐れがありますので。」

「了解した。」

 

一抹の不安を抱きながら3人は特集のための撮影と取材を開始した。

 

 

「これがノゾミレオか…もう大分爺さんの筈なのにそれを感じさせない馬体だな…」

 

『おい人間。ここでその黒い筒を出すのは禁止だぞ。』

 

気ままに撮影をしている門野を横に卓也は響に質問されていた。

 

「そういえば、ノゾミの馬達の産駒ってここにはいないんですか?」

「ウチで管理しているノゾミの馬達はみんな牡馬ですから……俺がここに来る数年前には居たらしいんですが歳で亡くなったらしくて…」

「そうなんですか…」

「はい。今いる奴の産駒だと…確かフェニックスとラインが10頭ずつ、カンパネラが15頭だったかな?」

「えっそれだけですか!?かなり少ないような…」

 

種牡馬は何十頭の牝馬に種付を行うがそれは大手の生産牧場が行うことが多い。例えば大種牡馬であるサンデーサイレンスは最も多い時期は200頭以上もの牝馬に種付をした。

 

「ウチは全体で見たら下から数えたら早い方の牧場です。10頭ぐらいいけていればまだいい方です。」

「それだけじゃないだろ?」

 

門野がカメラを弄りながら話に入ってきた。

 

「ノゾミフェニックスは大種牡馬サンデーサイレンスの産駒であり、GⅠ未勝利のため他のサンデー産駒に比べて旨味がない。ノゾミラインの親は一世を風靡したオグリキャップだが元々零細血統の出。所謂、突然変異ってやつだから産駒に受け継がれるかは未知数のため二の足を踏む。ノゾミカンパネラは数少ない三冠馬ナリタブライアンの産駒だが前二頭同様GⅠ未勝利…実力社会であるこの世界だと肌馬側の陣営からしたらそいつらよりも他の将来性が高い種牡馬の方が安牌だ。つまり、他の奴らにとってはいたらいいなぐらいの認識なんだろ。」

「門野さん!」

「……すまん言いすぎた…」

「……いえ、事実ですから…」

 

実際、種牡馬に必要なのは『実績』。ビジネスであるためいくらか仕方ない部分があるのは仕方ないが実績がない種牡馬はただの金食い虫になることもある。

その点でいえばラインは神馬シンザンの連対記録を塗り替えたという実績がある分そこそこ人気がある種牡馬ではある。

 

「さっきはああいったが、ノゾミの馬たち自身の実績が他の有名種牡馬と比べて見劣りしても産駒たちの実績によって評価も大きく変わってくる。良くも悪くもな…」

「正しくその通りですね…」

「???」

「……すまん。ウチのが全然分かっていないから解説頼む。」

「えっ、ああはい。えっと要するに響さん。種牡馬の産駒たちの活躍でも変わってくるんです。今一番タイムリーなのはテイオーですね。テイオーは種牡馬初年度では人気がありましたが産駒たちの活躍がイマイチだったことから依頼が減りました。」

「あっそれは知ってます。10頭代ぐらいになったとか…」

「そこにミカドが無敗三冠を成し遂げてから一気に右肩上がりになって今年はもう去年の10倍近くの依頼が来たとかなんとか…」

「人間現金な生き物だからな…」

「えぇ……あのそれじゃあノゾミの馬達の産駒の成績ってそこまで良くないんですか?」

「「いや全然。」」

 

ぴったりハモったので響は少し面白くて笑ったのは余談。

 

「ラインの産駒は組み合わせによってあらゆる距離の適正を持つ馬が生まれることが多いんです。正しくオールラウンダー製造機。」

「フェニックスはあの無尽蔵とも言えるスタミナと頑丈な心臓や肺機能を受け継ぐ馬が多いらしくて障害レースとかで活躍馬がいるらしい。」

「カンパネラは親から続くあの末脚、レオは芝とダート両方の中距離で安定した成績を残す馬が多い印象ですね。こんな感じでノゾミの馬達も決して大種牡馬たちにも負けていません。」

「はぁえぇ…そうなんですね…」

「むしろちゃんと調べてこいよ。だからいつまでもジャーナリスト(笑)って言われてんだよ。」

「卓也さ〜ん。このスコップ使わせてもらいますね。ちょっと赤いシミがつくと思うんでこっちで処分した後で新品を送ります。」

 

スコップを振りかぶる響を押さえ、その後も門野の失言の連発でトラブルが起こりかけたりしながら取材は続いた。

 

 

そして、メインの取材に入る。三帝の取材だ。

 

「さて、それではメインに入ります。ゲストの方も到着したようです!」

「ああ、そういえばスペシャルなゲストが来るって言ってましたけどどなたが?」

「もうあっちに来ています!あっこっちですよぉ!」

 

こちらに来る3人の人影。大きく手を振る響きに気づいたのかあちらも手を振り返した。

そしてその正体は……

 

「福長ジョッキー!丘部さん!」

「お久しぶりですね。」

「またお邪魔しますよ。」

 

ミカドとルドルフの主戦を努めた騎手。福長雄一と丘部行雄(おかべゆきお)の二人。以前もミカドとルドルフに会いに来たため卓也も面識があった。そして二人の後ろからもう一人の男性。見た目からしてだいたい50代ぐらい。

 

「はじめまして。」

「あっどうもはじめまして…(あれ、この人何処かで見たことあるような?)」

 

その顔に見覚えがあったのかどうにかして思い出そうとする卓也。そんな卓也を見て男性はくすりと笑う。

 

「はは、すみません。自己紹介がまだでしたね。私は『保田隆幸(やすだたかゆき)』。中央で調教師をしていて、昔は騎手としてトウカイテイオーの鞍上を努めたことがあります。」

「……あ!?あなたが、あの!?」

 

保田隆幸。JRAの元騎手であり、トウカイテイオーのデビューからクラシック期を共に過ごした人物であり、今では調教師として馬に関わっている。

つまりここにいる三人は皇帝一族のクラシックを支えた立役者たちなのだ。

 

「テイオーとルドルフに揃って会えるなんてこの先ないだろうからね。もう楽しみすぎて童心に帰ったようだよ。」

「自分もですよ。まさか自分が呼ばれるとは思ってもいませんでしたけど。」

「それ言ったら僕はどうなるんです?この中でいちばんの若造ですよ?」

 

卓也は三人を尻目に響と門野の方を見る。響はこの光景にご満悦の様子でニコニコ笑っており、門野は困り顔で肩を竦めた。どうやらこの三人を読んだのは彼女が率先して行ったことのようだ。

 

「では皆さん!それぞれの相棒のところに行ってください!撮影をした後にそれぞれインタビューを行ってから全体のインタビューという流れになりますのでよろしくお願いします!」

 

 


 

 

丘部&ルドルフ

 

「やあ、ルドルフ。前よりも元気そうじゃないか?」

『ユキオ。君も元気そうで何よりだ。』

 

老齢の人間と馬。事情が知らないものこの状況を見ても目にもくれないだろう。しかし、ここにはこの二人がかつて競馬界の絶対的存在として君臨したことを知っているものしかいない。そんな光景を見れば……

 

「Да здравствует император!!!!!」ゴフッ!!!

 

「俊が限界突破してぶっ倒れたぞぉぉぉ!!!」

「あの光景を直視するのに耐えられなかったか……」

「てかあいつ今なんて言った?」

「あれロシア語で『皇帝万歳』って意味です……」

「なんで断末魔がロシア語??」

 

こうなります(実際に現実でこのような行動をとるのは俊だけだと……思いたい。)

 

 


 

 

保田&テイオー

 

「テイオー…久しぶりだね?僕を覚えているかい?」

『うん?君は……(すんすん)………あ、分かった!デビューから僕にずっと乗ってくれた人だよね!?久しぶり!ちょっと老けた?』

「ははは、覚えていてくれたんだね…」

 

テイオーの顔を優しく撫でる保田。テイオーはそれを気持ちよさそうに目を細めていた。5ヶ月という短い間ではあったが共に栄光を掴み、どちらの生涯に決して外せないものを築いた間柄だった。

 

「ちょっと……泣けてくる」

「俺、あの人たちのダービー…思い出した…」

「あのコンビ…俺好きだったんだよ…」

 

色んな思い出が飛び交う北山&おっちゃん厩務員たちの涙腺を破壊した。

 

 


 

 

福長&ミカド

 

「ミカド、少しは吹っ切れたか?」

『……まだちょっと本調子じゃないですけど、いくらか楽になりましたよ。』

「………少しは元気になったみたいだな。」

 

敗北を味わって以来、何処かぎこちない感じになってしまった福長とミカド。だが今回はミカドがある程度復活した様子だったからか、ぎこちなさはいくらか無くなっていた。

 

「ミカド、やっぱりまだ少しぎこちないな…」

「そうなんですか?私にはさっぱり…」

「俺もだ…やっぱよく見ている人間にしか分かんないものがあるんだろう。」

 

一番周りが平和だったのはこのコンビだけだった…




登場人物紹介

門野阜(33)
週間コネクトお抱えのカメラマン。腕は確かで仕事は一流、依頼が絶えないが同時にトラブルも絶えない。4回に1回はトラブルを起こす爆弾。今回はまだなんともないが前の仕事でやらかして減給を喰らった。

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それではまた次回!
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