玉響の輝き   作:ilru

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3話にて聖蹄祭が春にあると描写しましたが、正しくは秋のファン大感謝祭のみを指す事に気付き修正しました。誠に申し訳ありませんでした。そして今回でティアラ路線が終わるにも関わらず短めです。重ね重ね申し訳ありません。

お詫びというか余談ですがガイセンカグラって何とは言いませんがEらしいです。エッッ


絶対女王

 ガイセンカグラの次戦であるエリザベス女王杯は秋華賞の約1ヶ月後に開催された。

 

 シニア級含むティアラ路線の全てのウマ娘から最強を決めるこの戦いが、ファインモーションとの雌雄を決する実質最後のレースとなった。

 

 

「この後はね、私が落ちぶれちゃったからね」

 

 

 ファインモーションは何処か悲しそうに、また悔しそうに語る。

 彼女達が共にレースで競ったのはこの次の有マ記念が最後であり、有マ記念で6着となって以降ファインモーションの成績はあまり芳しいものではなかった。マイルCSでは2着に入ったり、度々重賞を制した事はあれど、それは無敗のトリプルティアラという看板の前ではどうも見劣りしてしまうような戦績でしか無かった。

 

 ティアラ路線のウマ娘たちが集結し真の女王を決める戦い、エリザベス女王杯の開幕を知らせるファンファーレが耳を打つ。

 

 

「今年のティアラ路線はこれで最後だね」

 

 

 地下バ道でガイセンカグラがファインモーションに話しかけた。この時に交わした言葉をファインモーションは今でも覚えている。とりわけ特別な会話では無かった。ただライバルとして、無二の親友としてするべき会話をしただけであったが、この時ほど気分が高揚し気合が漲った事も無かった。

 

 

「そうだね。ついにここまで来ちゃったんだね」

 

「さしもの無敗のトリプルティアラ様でも、歴戦の先輩方相手じゃちょっと厳しい?」

 

 

 ガイセンカグラは揶揄うような目線で愉快そうに問いかける。出会った頃の萎縮してばかりの彼女とは似ても似つかない姿にファインモーションはつい笑みを溢した。

 

 

「……? 私変な事言った?」

 

「ううん、出会った頃の事を思い出してただけ。本当に変わったね、カグラちゃん」

 

「うっ……あの時の事は忘れてくれると嬉しいんだけど」

 

「だーめ。私だってカグラちゃんと出会えて嬉しいんだから。大切な思い出を忘れるわけないでしょ?」

 

 

 遠い異国の地で期待に胸を弾ませながらも慣れぬ孤独に寂しさを覚えていた当時のファインモーションにとってガイセンカグラとの出会いはもはや運命的であった。彼女のいないトレセンなど想像するだに空恐ろしいと思えてしまうほど、ファインモーションにとってガイセンカグラとは大きい存在であったのだ。

 

 初めてできた同級生の友達にして唯一無二の親友であり、ここまで何度も競い合った最高のライバルである。

 故にこそ、この場において尊敬すべき竹バの友にかける言葉など最初から決まっていた。

 

 

「負けないよ、カグラちゃん」

 

「絶対吠え面かかせてあげる」

 

 

 とびっきりの笑顔を浮かべたガイセンカグラは、獰猛な目でファインモーションを睨んだ。

 首筋を噛みちぎり己を食い殺さんばかりの戦意に満ちた瞳がファインモーションただ1人を映す。今、この瞬間彼女は全てがたった1人のウマ娘に意識を奪われているのだ。ファインモーションはこの時に感じた麻薬のような悦楽を今でも忘れられずにいる。

 そして闘争本能をくすぐられたファインモーションも、彼女につられて口角を上げた。高鳴る心臓の鼓動、喉が締め付けられるような緊張感がどうしようもなく心地良かった。

 胸が熱くなるような、脊髄が擽ったいような言い様のない高揚感が2人の間に満ちていた。

 

 2人はどちらからとも無く歩み寄り手を差し出した。お互いの手を握り潰さんがばかりに強く握りしめ、吐息が掛かるほどに顔を近付ける。

 

 

「私が勝つ」

 

 

 視線が交わり、声が重なり、思いが通じ合った。ガイセンカグラは猟奇的なまでに歯を剥き出し、ファインモーションは瀟洒な微笑みを湛え、お互いその瞳には狂気的なまでの闘志を湛えている。

 そして2人は言葉を交わす事は無く、秋の風が吹くターフへ歩み出した。

 

 時間にしてたった数分程度、ありふれたライバルの会話だった。そしてそれはファインモーションの人生の中で最も生を実感した時間でもあった。

 

 

「うーん……やっぱり忘れられないなー……」

 

「ン? なんか言ったカ、ファイン?」

 

「ううん、何でもないよ!」

 

 

 追憶から覚めたファインモーションは何でも無いかのように振る舞い、視線をテレビへと向けた。

 高鳴る鼓動を抑えるように手を向けに当て、頬を僅かに赤く染めた彼女は何処までも幸せそうであった。

 

 

 

 ▽

 

 

 

『14人立てエリザベス女王杯。スタートしました。ファインモーション良いスタートを切りました。14人第一コーナーに向かいますが、真ん中からガイセンカグラその後ろユウキャラット、外からファインモーション?! ガイセンカグラ、ファインモーション、ユウキャラットの先行争いです』

 

 

 14人のウマ娘達が第一コーナーから第二コーナーへと向かっていく。先頭はもちろんガイセンカグラであり、ユウキャラットの半バ身から1バ身程前を保っている。ファインモーションはユウキャラットから2バ身ほど後ろにいるトーワトレジャーのこれまた2バ身離れた4番手に付いた。先頭のガイセンカグラとは5バ身差である。

 いつもよりも前についた事でファインモーションとの差が無いことに気づいたガイセンカグラは、それを嫌う様に第二コーナーを抜けた途端にペースを上げ、2番手との差を3バ身、4バ身へと開いていく。

 

『おっとガイセンカグラ後続との差を開いていく! 大丈夫なんでしょうか』

『掛かっているかもしれませんね。最後まで持てば良いのですが』

 

 

 そのままウマ娘たちは第三コーナーの坂を登っていく。そして下り坂を走り終え、第四コーナーへ差し掛かるあたりでファインモーションが動き出した。ファインモーションは外から駆け上がり、堂々の2番手で最終直線に突入する。

 

 

『最終直線先頭はガイセンカグラ! しかしファインモーションが追いついてくる。ファインモーション、ガイセンカグラのリードを3バ身、2バ身、悠々と縮めていく! ダイヤモンドビコーが追って来る。間からはトーワトレジャー。内ユウキャラットも食い下がる。その後追い込みからはレディパステル』

 

 

 他のウマ娘達も必死に食らい付くがしかし足りない。ガイセンカグラも最後にもう一度加速して突き放しにかかるも、ファインモーションはそれを嘲笑うかの様に鮮やかに追い抜いていく。並び立つことすら許さずに、先頭へと駆け上がったファインモーション。その走りはまるで舞踏会のダンスの様に美しく嫋やかで、会場にいる誰もがその姿に魅了された。

 

 

『しかしファインモーション脚色は衰えません! ガイセンカグラ2番手追い縋る。ダイヤモンドビコー3番手、レディパステルも上がってきましたがしかし届かない! 誰も追いつけない! ファインモーション6連勝ゴールイン! 圧勝です! トリプルティアラの勢いそのままに秋G1を連覇。上がり3ハロンはなんと、33秒1! 衝撃の末脚で鮮やかに勝利しましたファインモーション。阪神JFから始まったティアラ路線のG1の無敗完全制覇を成し遂げました! まさに女王! 羨望も嫉妬も届かない圧巻の走りを見せてくれました!』

 

 

 新たな女王の誕生に大歓声が東京レース場を揺らす。音割れした歓喜の声はウマ娘にとって辛いのか、横に目を向けるとエアシャカールは不機嫌そうに耳を折っていた。

 

 

「『Eclipse first, the rest nowhere (唯一抜きん出て並ぶ者無し)』という言葉を記者さんはご存知ですよね?」

 

 

 流暢な英語の発音に少々戸惑いつつも、記者はファインモーションの問いに当然だと答える。それを確認したファインモーションはさらに言葉を重ねる。

 

 

「絶対的な強さは時にその者を孤独にします。かつてシンボリルドルフさんやマルゼンスキーさんがそうであった様に。でも私はそうならなかった。カグラちゃんがいてくれたから。彼女が私に挑み続けてくれたから。私は自分の強さを信じる事ができました。誇る事ができました」

 

 

 胸に手を重ね、目を閉じたファインモーションは滔滔と語る。

 

 

「今の私があるのはカグラちゃんのお蔭です。私にとってカグラちゃんは寂しかった私を、そして孤独になっていたかもしれない私を救ってくれた恩人で、かけがえのない大親友で、世界一のウマ娘です。誰よりも大切な人です」

 

 

 誇らしげに告げる彼女の声は少し震えていて、頰に赤みがさした顔で微笑む彼女は何処までも幸せそうであった。

 




ファインモーションの二つ名、良いのが思い浮かびませんでした。
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