玉響の輝き   作:ilru

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前回のクリスマスの件、簡潔にまとめると
カグラ「プレゼント何にすれば良いか分からん!助けて!」
同期組「任せろ!」
カグラ「決まったは良いけど恥ずかしい!どんな感じで誘えば良いか教えてつかーさい!」
フジキセキ「任せてポニーちゃん」
カグラ「そういえばこれプレゼントって言った後どうすればいいの?!」
一般通過スーパークリーク先輩「あらあら〜^^」

的な出来事があってああなりました。

あとファインモーションが実装されましたね。公式との後出しじゃんけんに負けたので初投稿です。


前哨

 春の天皇賞に続き宝塚記念でもミラクルおじさんでお馴染みヒシミラクルに惜敗しつつも、晴れて凱旋門賞へ出走枠を勝ち獲ったガイセンカグラはトレーナーと共に欧州へ発ったのが7月の事であった。

 

 

「実はこの時に一回私の実家に呼んだんだ。フランスとアイルランドはちょっと遠いけど、カグラちゃんが凱旋門賞に出るってお姉ちゃんに言ったら是が非でもうちに呼べってうるさくて」

 

 

 困った姉だと言いつつも楽しそうにファインモーションは語る。その様子から彼女の姉妹仲が良好である事が見て取れる。ついでに言うとエアグルーヴがファインの姉を苦手としている事は、彼女が出走したジャパンカップのパドックでの出来事や、レースの結果を見たものであれば誰もが知る事実である。

 

 

「ある程度の心構えはしてたつもりなんですけど、予想以上にスケールが大きくてあの時は唖然としましたね」

 

 

 目に見える範囲がうちの敷地ですと言われたらきっと誰だってど肝を抜かすだろう。都内有数の敷地面積を持つトレセン学園をあんまり大きくないとファインモーションが言った時は笑い飛ばしたガイセンカグラであったが、確かにこれほど広大な実家で過ごしていたのならトレセンなどちっぽけであろうと納得していたそうだ。

 

 

「ファインモーションの親友と言うのは伝わっていたのでそれはもう盛大におもてなししてくれたんですけど、正直あの時の事は思い出したくないですね。あの時食べた料理とかがいくらだったのか想像もしたくありません」

 

 

 遠い異国に送り出した愛しい妹と懇意にして頂いたお礼と言われては断るに断れず、次々と出てくる分不相応なフルコースにトレーナーは軽く眩暈を起こしながらも何とか胃に全て納め切ったが、緊張のあまり味が全く分からず、今にして思えば惜しい事をしたと悔やんでいた。ちなみにガイセンカグラはパクパクですわ! と言わんがばかりの勢いで食べていたらしい。阿呆なのか肝が据わっているのか、恐らく両方だろう。

 

 

「でもこの時に何故か、ほんっとうになんでか分かんないんですけどファインモーションの姉が私に話しかけてきたんですよ」

 

 人生で1番惜しい事をしたであろうディナー後のティータイムの頃、きっと目ん玉が飛び出るほど高級であろう紅茶をちびちび飲んでいた猫舌のトレーナーにファインモーションの姉が話しかけてきた。恐らくガイセンカグラと話していた時に彼女の口ぶりから気になっていたのだろう。

 

 流石王族の英才教育と言うべきか、ファインモーションの姉も日本語が非常に堪能であった。お蔭でここまで不便なく来れたし、おまけにフランスに行った時の通訳まで雇ってくれたのと言うのだから本当に頭が上がらない。

 

 トレーナーと彼女の話す内容自体は至って普通なのだ。ファインモーションは向こうで上手くやっているかとか、トレーナーから見て彼女のどういうところか素晴らしいと思うのかとか、ところでエアグルーヴの写真は持っていないかとか。彼女が妹思いの優しい姉である事をトレーナーは実感する事が出来るようなものであった。

 

 しかし彼女の喋り方が余りよろしくなかった。生来のものであろう、フジキセキやシリウスシンボリのようなキザな口調で話す彼女はその端正な見た目と相まって非常に魅力的であり、彼女の一言一言に褒められ慣れていないトレーナーは顔を赤くしてしまったらしい。悲しきかなトレーナーは割とチョロい女なのである。

 

 勿論ガイセンカグラがそんな彼女を許す訳もなく、底冷えするような声でトレーナーを呼ぶと振り返る暇も与えずに後ろから抱き着き、あろう事かファインモーションの姉に威嚇し始めたのである。

 

 

「如何なやんごとなき御仁であっても、()()トレーナーを誘惑するのはやめていただけないでしょうか」

 

 

 家が建つ程の高級料理をたらふく食べ、通訳まで雇ってもらっておいてこの態度である。いや、丁寧語で話している分まだマシかもしれない。しかしここまで手を尽くしてくれた相手に対して威嚇するとはもはや図々しいにも程があるのでないだろうか。トレーナーは胃から感じる痛みに耐えることしかできなかった。

 

 しかしファインモーションの姉は気分を害した様子もなく、それどころか面白いものを見たと言いたげに笑みを浮かべた。

 

 

「いや失礼。君のトレーナーが余りに美しかったものだからね。勿論君も綺麗だよ、カグラ君」

 

 

 ガイセンカグラは不承不承と言った感じで警戒を解いたが、トレーナーがちらりと横を見れば、彼女の頬は若干赤らんでおり何処か満更でもない表情であった。いやお前もかい。

 

 

「これにはちょっと嫉妬しちゃいましたね」

 

「自分の事を棚に上げるな」

 

 

 その後は彼女からの願いで併走までしたらしい。どうやらファインモーションとの電話越しに聞くガイセンカグラの実力を自身の目で確かめてみたくなったそうだ。彼女自身はロートルの戯事だと照れ臭そうにしていたがドイツ、アメリカ、イギリス、日本、そして祖国アイルランドの5ヶ国でG1を勝利し、2年連続で凱旋門賞2着を獲ったカルティエ賞ウマ娘直々にアドバイスを貰う事ができるまたとない機会に飛び付かないはずがなかった。

 

 まだガイセンカグラが欧州の芝に慣れていないとは言え本格化しかけていたが、しかし世界のウマ娘にはまだ一歩及ばず負け続けてしまった。

 

 だが想像以上の走りに彼女は大層驚いた様子であった。どうやらこれでまだ1勝しかしていないのがよっぽど信じられないらしい。

 

 

「君は間違いなくフロックとして下に見られるだろう。言っては悪いが日本のウマ娘、しかも重賞未勝利の君に期待する人なんて物好きくらいだろうさ。でも、いやだからこそ、君ならきっと凱旋門賞を獲れるだろう。本格化の途上でその走りを出来るのなら、きっとハイシャパラルやダラカニを超える事も不可能ではないと信じているよ」

 

 

 実のところ、フロックとして見られる事はガイセンカグラの計画通りであったらしい。一体どうやって知ったのかは知らないが、トレーナーのいうところによるとガイセンカグラは自身の本格化を凱旋門賞に持ってくるようにデビュー時期を調整していたらしい。尤も計画通りの時期にトレーナーを捕まえられるのか、そしてそれまでに賞金を稼ぎつつもフロックとして見られるような戦績を残せるのかは割と賭けであったらしいが。

 

 

「全部引退した後に聞いたんですけど、今にして思えば無茶苦茶ですね。なんであの子あんなに自信満々だったんだろ」

 

「ロジカルの欠片もねェプランだな」

 

「よくこれで行けると思ったわねあの子」

 

 無謀すぎる計画にエアシャカールが唾棄し、アドマイヤベガは大きな溜め息を吐いた。身内からも散々に罵られるが、現に彼女はその凱旋門賞専用プランをやってのけたのだから恐ろしい。

 日本のウマ娘が普通にやって凱旋門賞を逃げきれる訳が無い。それを誰よりも知っていたからこそ彼女は無理を押してでもフロックに徹し、誰にも本当の実力を見せずに凱旋門賞に挑み油断を突く必要があった。

 

 

「じゃあ私とのレースも全部最後は手を抜いてたって事なのかな……」

 

「それは無いよ。ガイセンカグラは間違いなく本気だった。あの子は結構義理堅いし、それにファインモーションの事を大切に思ってたからね。というかターフの上で手を抜くなんて器用な事できないし」

 

「本当? 良かったー」

 

 

 悲しそうに耳を畳んだファインモーションをトレーナーが強い語気で言い切った。まあ先程のは泣き真似なんじゃないかと疑う程の早さで調子を取り戻した様子を見るに、彼女自身もガイセンカグラが不器用で実直なウマ娘である事は分かっていたからこそ言えた冗談なのかもしれない。割と洒落になっていないのだが、本人が楽しそうなので口を挟むべきではないだろう。

 

 そんなこんなで宝塚記念の後すぐに日本を旅立ち7月いっぱいをアイルランドで過ごしたガイセンカグラ達がフランスに入ったのは8月の事であった。

 

 URAを介して一時的にフランスのトレセンを借りさせてもらったのだが、ファインモーションの姉の言う通り向こうのウマ娘達に見下され、罵詈雑言を浴びせられる事も度々あったのだった。

 

 

「まあ本人はフランス語を知らなかったのでノーダメージでしたけど。私は余り気分の良いものでは無かったですね」

 

「ガイセンカグラは凱旋門賞を目標にしてたのにフランス語を勉強していなかったのか?」

 

「そこら辺は全部私とか通訳の人に丸投げでしたよ。走ることだけに集中したいって言ってましたけど……まぁ十中八九面倒臭かったんでしょうね」

 

「失礼を承知で言うがバ鹿では?」

 

「それはほんとにそう」

 

 

 しかし結果的にはコンディションを落とさずに済んだので良かったのだろう。まさかそこも見越して敢えて勉強しなかったのだろうか。いや本当に面倒臭かったんだろう。何故ならこの部屋にいた全員がトレーナーの言葉に頷いていたのだから。

 

 

「あぁ、でも1つだけ知ってるフランス語がありましたね。” La victoire est à moi”って言う言葉なんですけど」

 

「それはどう言う意味なんだ?」

 

「調子乗んなって意味*1なんですけど」

 

「なんでよりにもよってその言葉なんだ?」

 

「さあ。ちなみにカグラは凱旋門賞のパドックでこの言葉を大声で叫びました。現役時代唯一の珍事件ですね」

 

「いや本当に何やってんの?」

 

 

 ちなみに凱旋門賞と同じ条件で行われるフォワ賞では欧州の芝が走り易かったあまり調子に乗って飛ばし過ぎてしまったせいで途中で垂れてしまい2着となった。垂れて尚2着に入った根性を誉めれば良いのか、それとも調子に乗りやすいその気性を責めれば良いのかよく分からない結果である。

 

 かくして、トレーナーは期待と不安を胸に前哨戦で負けてなお自信満々のガイセンカグラと共に、世界の頂を獲る為に虎視眈々と爪を研ぎ続けるのであった。

*1
直訳は”勝利は私のもの“と言う意味です




なんでカグラが自身の本格化の時期を知っていたのかは、前世(牝馬だった時)でそこらへんの感じの感覚を掴んでたって事でお願いします。

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