世間一般におけるガイセンカグラとは非常に美しいウマ娘である。
青空に浮かぶ白月のような美しくも儚い白い髪を揺らす碧眼の彼女は、彼岸花を模した髪飾りと紅白巫女のような勝負服も相まってどこか浮世離れした雰囲気を醸し出す。そしてそこから繰り出される泥臭い逃げのギャップに多くの人の心が撃ち抜かれたのであった。
学園でもいつも薄らと儚げな笑みを浮かべてたおやかに尻尾を揺らす彼女は学園でも憧れの的であり、高嶺の花であった。
ここで一つ知ってもらいたいのだが、なんだかんだ彼女と1番仲の良かったウマ娘はテイエムオペラオーでも、メイショウドトウでも、アドマイヤベガでも、ファインモーションでも、マンハッタンカフェでもなく、アグネスデジタルである。
繰り返そう。あのアグネスデジタルである。
「ちょっと待ってくれ。それは本当か?」
記者は予想外の交友関係に思わず口を挟む。
「残念ながらと言うべきか、カグラはデジタルと同類だよ」
「救いは……無いのですよ……」
彼女の先輩であり、とりわけ仲の良かったテイエムオペラオーとメイショウドトウは困ったような苦笑を返した。
「信じられないかもしれないけどね、これからボクが見せる写真を見てもらえれば君も納得する筈さ」
「それは一体?」
テイエムオペラオーは無言で胸ポケットから一枚の写真を取り出した。裏向きで渡されたそれをひっくり返してみれば、そこに写っていたのは鼻血を出しながら手を握り合うアグネスデジタルとガイセンカグラの2人だった。その顔はさながら同じ志を持つ歴戦の盟友の感動的再会であった。
「これは加工とかじゃ無いよな?」
魂の抜けたような記者の問いに、彼女達はただ首を横に振るだけであった。
「彼女は表情がほとんど変わらないから分かりづらい上に、凱旋門賞を至上命題に隠れて分かり辛いけど、実は結構オタク気質というかウマ娘たちが好きらしくてね」
本人曰くトレセンに来た目的も半分は推しを近くで見るためらしい。世間に浸透しているイメージと万里の長城ほどかけ離れた実情に、記者は思わず天を仰ぎたくなった。
「驚いたかい?」
「正直、想像とあまりにも違いすぎてね」
「ちなみにそこにデジタルがいるわけだけど、馴れ初めとか聞いてみるかい?」
テイエムオペラオーの視線の先を見れば、アグネスデジタルが久々に集まった推しの密度にやられて、部屋の隅のパイプ椅子に座って真っ白に燃え尽きていた。そしてアドマイヤベガが彼女に毛布をかけて「ヒェ……推しの匂いに包まれてる……ミ°」と息絶えた。引退しても彼女の変態性は相変わらずらしい。
「デジタルさん、起きてください」
「ハッ、推しの呼ぶところにデジたんあり! 完全復活っ!」
「カグラさんとの馴れ初めを、私たちに聞かせてもらえませんか?」
「お望みとあらば喜んで!」
瞬く間に息を吹き返したアグネスデジタルは、鼻息を荒くして遠い記憶に思い馳せた。
▽
アグネスデジタルがカグラさんと出会ったのはシニア級の頃の事であった。彼女はいつも通り双眼鏡を片手に今日も今日とて尊すぎるウマ娘達と観察していたわけだが、その時ふと視線を感じたらしい。怖いな〜怖いな〜と思って振り返ってみれば、ガイセンカグラが双眼鏡をデジタルに向けて泣いてたのだ。
「初手からツッコミどころが多すぎないか?」
「そう言うものだよ。ちなみにボクとドトウもしょっちゅうされた」
アグネスデジタルは愛しのウマ娘ちゃん達に危害を加えようとしている不躾な輩かと思い、もしそうならこのデジたんがウマ娘パワーで成敗してしんぜようと振り返り、超絶プリティーで美しいウマ娘ちゃんが私を双眼鏡で見ていた事に面食らってしまった。その時の衝撃と言ったらもうゴルゴル星の如し! まさか私が見られているなんて露にも思わず間抜けな声を溢してしまうほどでしたと彼女は鼻息を荒くして語る。
「ふぇ? だぁ〜れ〜?」
そしてデジタルが思わずこぼしたその一言にガイセンカグラは、
「アッ聞いたことあるやつ……もう無理」
と言って鼻血拭いて尊死したそうな。晴れやかな寝顔だったと言う。
「尊死常習犯のデジタルはその時どうしたんだ?」
「そりゃあもうあたしが不用意に近づいたせいでウマ娘ちゃんが倒れてしまったんですから、彼女のためにも例えウマ娘ちゃんに触れるという禁忌を犯してでもあたしが運ばねば! って意気込んで保健室は連れて行こうとしたんですけどね。無理でしたね。結局その後あたしもあまりに顔の良すぎるウマ娘ちゃんに推された衝撃に耐えきれず倒れたんですよね。たづなさんが拾ってくれるまでそのままだったらしいです」
「私はその時近くにいたけど、みんなデジタルを怖がって近づきたがらなかったわ」
「数年越しに明かされる衝撃の事実ッ! デジたん泣いちゃう!」
そりゃあそうだろう、とその場にいる皆が呆れた。
「で、その後はどうなったんだ?」
「その後ですか? え? 聞いちゃう? 聞いちゃいます? デジたんとカグラさんの秘密を?」
「やっぱ良いや」
「あああ待って?! 聞いて! 聞いてくださいお願いします!」
時は進みガイセンカグラが目を醒ました頃、彼女は寝ぼけ眼を摩りながら周囲を見渡し、そしてアグネスデジタルを見て過呼吸を起こした。とは言ってもそれはデジタルも同じであり、まるで鏡合わせのように起こった出来事に尊みよりも可笑しさが込み上げて来て吹き出してしまった。そうしたら同じ事を向こうも考えていたらしくまた2人同時に笑い出して、それが更におかしくてお互いに大笑い。後日学園の七不思議に追加されるくらい彼女たちは笑い合った。
その後はまあ、限界化するのを我慢してお互い自己紹介。アグネスデジタルがガイセンカグラの名前を知ったのはこの時であった。
そして2人は門限だからと保健室の先生に叩き出されるまではひたすら推しについて語り合った。と言ってもガイセンカグラはあまり話すタイプではなくアグネスデジタルのオタク特有の早口に禿同するだけだったが。でも尻尾が残像を残すくらい激しく揺れていたので彼女も楽しんでいたのだろうとデジタルは予想する。
「彼女がデジタルと違ってオタク気質がバレなかったのは寡黙なところが大きかっただろうね」
「尻尾とか耳に感情が出てたけど、その真意までは親しい人を除いて誰も気づいてなかったわね」
ついたあだ名は感情豊かな無表情。どこぞのアイドルを思い浮かべた諸兄もいるだろうが命名アグネスデジタルの時点でお察しである。
「その日からあたしとカグラさんは同志として、そして親友として、2人でまだ見ぬウマ娘ちゃんを求めてターフを! ダートを! そしてトレセンを! 駆け抜ける日々が始まったのです!!!」
「トレセンにとっては悪夢の始まりだけどね」
「長く……苦しい戦いでした」
どこか遠い目をして呟いたテイエムオペラオーとメイショウドトウの嘆きには万感の思いが込められていた。親友であり先輩でもあった2人は何かと彼女達に推される事が多かったのだろう。その苦労が偲ばれる。
「というかガイセンカグラはダートを走ってなくないか?」
しれっと言っていたため流しかけていたが、公式記録ではガイセンカグラはダートを走っていなかった筈だ。
「天皇賞春までの国内レースは凱旋門賞のための叩き台みたいなものだったからね。無駄だからやらなかっただけでカグラは普通に走れたよ」
「凱旋門賞に拘ってなかったらもっとG1獲れてたってみんな言ってたわ」
そう言うわけで、その日以来アグネスデジタルはカグラさんと推しを巡って東奔西走しては夜な夜な語り合う日々をトレーナーと出会う日まで続けていたんだとか。流石にトレーナーがついたガイセンカグラを無理に誘うわけにもいかなかったので、休日以外は基本アグネスデジタル1人でやっていたらしいが。
「1人でもブレないんだな」
「デジたんの生き甲斐ですからね!」
「胸を張られても困る」
「諦めたまえ。この子のこれは死んでも治らないよ」
「まあ、というわけでデジたんとカグラさんの馴れ初めはこんな感じです。どうでしたか? これまで門外不出だったマル秘情報ですよ!」
「ああ、貴重な話をありがとう」
「いえいえ、あたしとしても誰かに言いたくて仕方がなかった108の話の一つなのでお気になさらず。カグラさんとの思い出はまだまだありますので」
「まだまだあるのか?」
「それはもう、今夜は寝れない夜になるくらいは」
ガイセンカグラの同室のウマ娘がゴルシちゃんことゴールドシップだったので、こと話題に関しては引退まで尽きなかったんだと。というか現在進行形で増えているらしい。
デジタルがそう告げると記者以外の皆が苦い思い出を思い出したのか、一斉に頭を押さえて項垂れました。
\トレーナーのやる気が下がった/
\テイエムオペラオーのやる気が下がった/
\メイショウドトウのやる気が下がった/
\アドマイヤベガのやる気が下がった/
なおアグネスデジタルは自身のせいで皆が不調になっていた事に気づいていない模様。つまり彼女らは現在絶不調である。南無三これがアグネスのヤベーやつとハジケリストの実力である。
未実装馬の名前を出したり一部をオリキャラとして登場させてもいい?
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良いよ
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ダメ
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どっちでもいい