ウマ娘になりました。全距離芝ダート重賞目指して頑張ります 作:ウマ娘に転生しててぇてぇを見守り隊
中央トレセン学園は退学まで4年の猶予がある。
とはいえそれに甘んじていい訳では無い。
定期的に行われる
年間6回、奇数月に行われるこのトライアウト。
6×4=24回のチャンスがある訳では無い。
4年目の1月末と3月末は流石にデビューするのに期日を超える可能性が飛躍的に高まるため、4年目の11月のトライアウトに落ちた者の多くは転出・自主退学をしていく。
そもそも、4年目になる前に辞めていく者も少なくない。
さて、そんな中で私は最初のトライアウトに参加している。
トライアウトは全部で5種目。
芝・短距離(芝1,200)
芝・マイル(芝1,600)
芝・中距離(芝2,000)
ダ・短距離(ダ1,200)
ダ・中距離(ダ2,000)
この中で1種目だけ走ることが出来る。
8頭立てで、なんとゲートも使う念の入れよう。既に契約しているものの、デビュー前で実践訓練のために出走してくる娘たちも含めて多くのウマ娘たちが集う。
まぁこれでも今年は少ない方って仲良くなったマチカネタンホイザが言ってた。
「今年はあのトウカイテイオーがデビュー予定なんだよ〜。みんなデビュー回避だよぉ。うーん、私は見るだけにしようかなぁ」
去年入学したマチカネタンホイザはまだ時間がある。
私は最終的に芝の短距離に出走。8頭立ての6着に終わった。
どうしてもコーナリングのポジション取りが苦手みたい。まぁまだ模擬レースも初めてだし、そんなもんだよね。
季節は変わり、夏、そして秋、冬…そして春。
1年目のトライアウト、5月、7月、9月、11月、1月、3月と全て受けたものの、1度も1着は取れず。最高着順はなんと8頭立て4着。
やっぱり才能の壁かなぁ…
トレーナーからはほとんど声をかけられたことは無かった。
唯一話があった所はイクノディクタスとナイスネイチャとダブルエンジン…じゃなかった、ツインターボを擁するカノープス。
1度仮所属したものの、私と彼はお互い腹を割って話した結果、『受け入れる力』は高くても『凡庸を抜け出す力』は無いトレーナーと、凡庸な才能しかない私の重賞への夢はどちらもお互いに悲しい結果しか残さないだろうと結論を一致させ、彼との本契約は結ばないことにした。
代わりにマチカネタンホイザを推薦して、その後チームに所属した。来年デビュー予定らしい。
さて、カノープスのトレーナーのご厚意で仮所属のままである程度面倒を見てくれることになった。トレーニングをカノープスが借りてる時間に、カノープスのトレーナーや現役中のウマ娘たちとこなせるのはとても有意義な時間だ。
特にオーバーワークを止めてくれる存在は、多くのウマ娘にとっても重要だ…まぁ一部例外もいるが。ゴルシとかセイウンスカイとか。そのセイウンスカイだっていざとなればオーバーワークもするだろうし。
そして迎えた2年目の5月トライアウト。
私は芝2,000に挑戦。結果は3着と初のウイニングライブ圏内へ。
だけど……
「3着はこいつか…」
「才能はあるんだがなぁ…」
という声を聞いて、サッと物陰に隠れる。どうやらトレーナー数人で私について話しているらしい。
「全距離適性Cってところか?」
「脚質だって全然見えねぇ。かろうじて逃げか?」
「いや、差し以外なら全部Cじゃねえか。差しはDか」
「まぁな…評価値はこんだけ高いが、器用貧乏やな…入試委員会も入学基準見直し要求しといた方がええな」
「あれで粘りか差し足があればなぁ…」
数人が揃ってため息をつく。
まぁ私の評価なんてそんなも―――
「だが、コーナリングは上手い。ダートが走れりゃローカルシリーズ殴り込みで重賞取れるかもしれんぞ」
「四大主場以外はスパイラルカーブ中心だからなぁ…上手く回れれば欲しいな」
「しかしダートを走れるほどのパワーがあるとは思えませんがね。あの小柄な体躯に」
「そこなんだよなぁ…やっぱり福島か小倉しか使えないか…?」
「だなぁ…」
なるほど…芝もダートも走れれば…!
2ヶ月が経って、7月のトライアウト。
ダート中距離を走った私は逃げを打って4着に沈んだ。
そして、再びあのトレーナーたちの世間話を隠れて聞いた。
「……あれは得意なことは無いが苦手なことも無いタイプか?」
「ダートも可もなく不可もなく…」
「パワーも無いことはないが、あるとも言えんな」
「平凡で影の薄い子ってことで終わりだな」
「だなぁ…」
トレーナーたちはそのまま歩き去っていった。
私は少しばかり落ち込みながら、夢は叶わない可能性が高くてもデビューは約束されているカノープスしかないのか…と落ち込む。
そんな時だった。
「おい、そこの嬢ちゃん!そんな顔してどうしたよ」
黒いサングラスをかけたゴルシだった。
「今日はなんですか?」
「あぁ?任侠ごっこだよ」
「……組長、あっしのことは置いていってください…仇を…!」
「ノリいいな、お前。だがよ、そんな顔で置いてけって無理な話だぜ☆」
ゴルシは私に麻袋を被せて、誘拐して行った。
「ちょっと!?どこ行こうとしてるわけ!?」
「決まってんだろ!お前のトレーナーのところだよ!」
「はあ?」
とても広いトレセン中を駆け回っているようだ。
「そこのゴルシ!止まれ!誰を抱えてるんだ!」
「止まれと言われて止まるヤツはいねぇぜ!」
「ちぃっ」
そのうちゴルシの後をエアグルーヴが追跡し始めた。
「貴様、また誘拐か!」
「ゴルシちゃん急便でーす!」
「止まらんか!」
ゴルシって逃げもできるんちゃう?ってか障害レースも走れるよね?子さっきっからフワッと浮いたりドシンという音が聞こえてきたりするんだけど。しかも、担がれてる私はほとんど揺れないし。
「くそっ、積荷のあるあやつになぜ追いつけん!」
「ふっ、メジロ家御用達の激重蹄鉄を履いてるからさ」
「は!?」
「ゴルシちゃんってば天才!自分が遅くなるなら、周りをさらに遅くすればいいんだぜ!」
「さっきから足が重いのは…!」
エアグルーヴは気づいてなかったの!?
流石に蹄鉄変わってたら分かるでしょうに…
「まもなく〜田辺トレーナー室〜」
田辺…?
聞いたことないトレーナー。
「おう、田辺T!コレは土産だぜ」
「は?」
「それじゃあ、うちらのシマに戻るけ」
「貴様、逃げられてると思っていたのか?」
いつの間にかいなくなっていたエアグルーヴが、スっとゴルシの首根っこを掴む。
「さぁ、生徒会室でじっくり説教をしてやろう。通路は走るな、誘拐するな…とな」
「うぉぉおおお!田辺T!助けてくれ…!」
「人間がウマ娘のパワーに勝てるわけがないだろうに」
田辺Tと呼ばれた男はゴルシに手を振った。
よくよく見ると、おっさん…というよりオジサマ系。どっかのカフェのバリスタとか、バーのマスターと言われた方が納得出来る出で立ちである。
「で、君はどうしてうちに誘拐されてきたんだい?」
「私は―――」
誘拐された経緯を話す。
「ふむ、少し身体に触れてもいいかね」
「ええっと…?」
「君の走り方を知りたいのだが…どうかな?」
「ああっ、すみません、どうぞ」
田辺トレーナー…いや、この姿ならマスターと呼ぼう。マスターは私の足に触れたあと、腰や肩、更には腕や首まで…それこそおしりや胸以外はじっくりと触った後、こう言い放った。
「…君はどうしてピッチ走法しか使わないんだい?」
「ピッチ走法以外考えたこともなかったですね…まぁコーナリングはピッチ走法の方が楽ですかね」
というより、日本人は長距離陸上でもやってない限りストライド走法なんて使わない。
「というより、君の走り方は『人』の走り方だね…ウマ娘の性能を発揮しきれてないんじゃないかな」
……なるほど、一理ある。
確かに、私は人間だった。そんな私が馬の性能を持った身体になったとしても、それを活かしきれるとは思えない。
「ピッチ走法も正しくない。トレーニングシューズ、蹄鉄よりも踵と内側がダメになる方が早くないか?」
「…なんで」
「ウマ娘のピッチ走法は、人のようにつま先で走るのでは無く、『蹄鉄』で蹴って走るんだ」
「トライアウトで、私は何度も走っていますし、カノープスのトレーナーの下でもトレーニングを積んでいます。でも、なんで他のトレーナーさんは気づいていないのですか?」
「いや、上位のトレーナーは気づいているさ。カノープスのトレーナーはクセのある子を受け入れる力はあれど、トレーナーとしてはまだ未熟。上位のトレーナーからすれば、恐らく君の走り方を矯正したところでGIIIはともかくGIは厳しいと思って―――」
「重賞…GIIIで勝ち星を取れるのですか!?」
「きちんと走り方を矯正すればその可能性はある。だが、それを見抜ける人物たちは目標がGIレベルのトレーナーたちばかりってことだ。オープンクラスを目指すようなトレーナーたちでは見抜けないさね」
トライアウトに来るトレーナーはGIを争う人達は来ない。自分で勝手に入団テストをしているから。
「…私はもうすぐ引退しようとしてたんだが…君が望むなら、勝利へ導いてあげよう。私なら、君を重賞ウマ娘に…上手くすればGIウマ娘にしてやれるさ。まぁURAからの受けは悪くなるがな」
「私が…GIウマ娘に…?」
「あぁ。しかもだね、芝もダートも長距離も短距離も、全ての条件で重賞を勝つ…タケシバオーを超えるウマ娘になれ」
「…夢を見ても…いいの?」
「ウマ娘たるもの、夢を追わなければ勝てない。それが私の持論さ」
マスターは渋い口髭を撫でながらそう言った。
……そんなこと言われたらさ…元競馬好きな人間としての理性だって、GIの夢を見始めちゃうじゃん。ウマ娘としての本能を重賞ウマ娘という肩書きで抑えようとしてたのに…GIなんて夢のまた夢だと思ってたのに……
「さぁ、歴史に名を刻む君の名前を聞かせてくれないか?」
「私は…私の名前は―――」
―――ハッピーシュガーです。
私のハッピー家の特色…全距離適性・バ場不問を微妙に受け継いだ、小柄な芦毛。それが私、ハッピーシュガーです。