Re:夜の剣士   作:graphite

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デスマッチ

 

 

目の前の男.............名はモルテ。

 

所属ギルドは.........恐らくDKB。そして彼は俺やキリトと同じ──────

 

 

 

 

 

 

 

「いやぁ~、バレちゃいましたよ~」

 

どこか人の事をおちょくるような雰囲気でそんな事を言い放った

 

「さすがだなー、自分この距離この暗さで看破(リピール)されたのは初めてかもですよ。それに最初お二人とも眼じゃなくカンで気づいてましたよねー絶対。まさか《第六感》とかいうエクストラスキルじゃないですよねー?」

 

どこか少年ぽさもあるが芝居がかってもいるように感じて癇に障るやつだとレイルは感じた。だが、同時に恐怖に似た感情を覚える。

 

何故ならコイツは...........モルテは俺達がここに現れてなおハイディングを解かなかった。別にハイディングが犯罪だというわけじゃない。俺達だって洞窟でALSと出くわしそうなときに同じことをした。しかしモルテは偶然かち合いそうだからハイドしたわけじゃない。もしそうなら熟練度50で取得したmod《索敵距離ボーナス》のある俺達が先に気が付くはずだ。

 

しかもこのルート.........このルートはこのクエストをソロで実行可能だと知らなければまず使う場面がない。したがって知ってるとすればレイルと同じ経験者..........つまり───

 

(やっぱりコイツ............元βテスター)

 

レイル........そしてキリトの二人はモルテが自身と同じだと理解した。

 

「...........お前はDKBのモルテだな」

 

「へぇ~情報が早いっすねー如何にも自分がモルテっていうもんです。名前の由来はとってもモルテではないんですよねー残念ながら、あはははははー」

 

レイル達の探りの感情をまるで道化が化かすが如く躱す。まるで内面が読めない相手だ。

 

「俺達の自己紹介はいらなそうだな。何せ俺達がここを通るのを読んだうえでハイドしていたみたいだからな」

 

「あっは、やだなーそれだと自分がキリトさん達を待ち伏せしていたみたいじゃないですかぁー」

 

キリトの問いにわざとらし返答を返すモルテ。レイルからすればみたいではなく〝そのつもり〟だったくせにと内心で反論する。だが努めて冷静であろうと心掛ける。ここで苛立ちを抱いても恐らく奴の思惑通りだ。

 

「まっ、実はそうなんですけどねー」

 

だが、ここで予想に反してあさりと肯定する。

 

「リンドの指示..........じゃないな。リンドはβテスターじゃない」

 

「さっすがーレイルさんは頭の回転が速い。そうっすよ、自分の独断で来たんですよ」

 

「それで俺達の足止めか.............ギルドの方針ではなく第三者の意志が働いてるな。何が目的だ」

 

まず間違いなくリンドの指示だとすればこの位置はリンドがβテスターでないと分からないはず。なので自ずとDKBの差し金じゃない。だとすれば別の思惑で俺達の妨害をしたいと結論づける。

 

「へぇ.............足止めと感じましたかぁーまぁ、ぶっちゃけそうなんですけどねー」

 

わざとらしく会話を長引かせようとしているので踵を返そうとする

 

「あーあー!待ってくださいってば。言いますから............まぁ、ぶっちゃけこのクエのこと忘れてここでお引き取り願えませんかねぇ?」

 

「...........何?」

 

一瞬思わぬ要件に呆気にとられたがすぐさま問いただす。するとすぐにキリトが反論する。

 

「ここまで来て帰るわけないだろ。そもそも何の関係がある?」

 

「かんけいあるんですよねーこれが。ま、説明は出来ないんですけどねぇー。って言うか説明できるならハイドなんてしてないんですけどねーあはははー」

 

モルテの言葉には確実に無視できない内容が含まれてた。つまりコイツは──────

 

「............お前PK、或いはMPKが狙いか」

 

「あはー嫌だなぁーお二人じゃそんなの簡単に突破しちゃうじゃないですかー?自分はほんの一日止まって欲しいだけなんですよー?」

 

レイルの言葉に否定はしてるもののまるで本心に思えない。気づかなければコイツは間違いなくやっていた。その確信があった。

 

「.............当然俺達がはいそうですかって頷いて帰るとでも?」

 

「ま、そうっすよねぇー...........じゃあ、β時代と同じ方法で決めましょうよ。ほらぁ、ギルド年で対立した時よくやっていたアレ」

 

「何だコイントス............「待てキリト。コイツがそんなの選ばない」.....まさか.........本気か?」

 

キリトはコイントスかと考えたのだろうが、レイルは直感でそれは違うと理解した。そしてそのレイルの言葉にキリトもまさかと気が付く。

 

「自分、いつでも本気スイッチ全開ですからぁー」

 

そう言ってモルテは自身の剣に指を這わせる。つまりそう言う事.............モルテは《決闘(デュエル)》で決めようと言っているのだ。

 

嘗てβ時代ではレイルもキリトも何度も経験した。だが、今は違う。HPが全損すれば死ぬ。文字通りの命の奪い合いなのだ。

 

「.........デュエルをすればどっちかは死ぬんだぞ」

 

「キリトさんやレイルさんが望むならそれでも............おっと、うそうそ、うそですよぉーいくら何でも完全決着モードのデュエルなんて激ヤバじゃないですかぁーでもでも、半減決着モードなら安全ですよぉ、HPが黄色くなったら終わりのマイルド仕様ですから、あはー」

 

デュエルの仕様としてルールは三つ。さっき言ったようなどちらかのHPが全損するまでやる完全決着モード。β時代の主流がこれだ。そして初撃決着モードはクリーンヒットが一発入ったら負けで、β時代では消化不良故に選ばれることはほとんどなかった。そして半減決着モードも似たような感じだ。

 

「こっちが勝てばお前は引くのか?」

 

「えぇ。約束しますよ。だってぇ仮に負けたらHP半分ですしぃ大声上げても自分まで危険じゃないですかぁー」

 

確証としては薄い。だが、無視はできない。なら──────

 

「もう一つチップを追加してくれ」

 

「レイル!?」

 

「あはーどういうことですかー?」

 

キリトが驚いた反応をするがこうする以外方法はない。それにコイツを野放しにするのは何か嫌な予感がする。

 

「こっちは負けたらクエスト諦めるのにお前はただ邪魔しないだけ。割に合わないだろ?」

 

「う~ん.........それで?」

 

「俺が勝ったらなんでも一つ俺の質問に答えてもらう。それでどうだ?」

 

「いいですよーいやぁーあレイルさんとデュエルなんてドキンチョーですねぇ、終わたら一緒に一枚写真どうですかぁ?って、写クリまだドロップしないんですけどねぇ、ざんねんざんねんー」

 

「...............少し上に行った所にひらけた河原がある。そこでやるぞ」

 

ぺちゃくちゃしゃべりだすモルテにそう言うとレイルは移動を始める。

 

 

 

*********************

 

 

「じゃあ自分からリク送りますねぇ」

 

移動したところでモルテの滑らかな指捌きでデュエルの申請が申し込まれる。俺は特に迷うことなく承認するとお互いに距離をとる。

 

そこで俺は背中の愛剣、アルタイル・ブレードに手を伸ばしかけた所で辞めた。

 

決闘が始まるでは60秒ある。当時は非常に長く感じたし、運営に対して短縮要望を送った奴もいた。けど、ここで気が付いた。この短くも長い時間の理由を...........

 

(この時間は相手を観察して作戦を練る時間だったわけか..........相手の装備や構えをよく見るための...........)

 

レイルの剣は恐らくβ時代誰も手にしたことがないであろう一振りだ。だからこそ今此処ですぐにさらしてはいけない。それは無為に相手の警戒を跳ね上げるだけ。相手は俺の事を知っている...........だからこそ今は抜かない。

 

(間合いにして約五メートル.........川を挟んだ状態..........川は深くはないが足を取られる可能性がある。とは言え突進系のスキルで充分飛び越えられる範囲内だ)

 

相手と周辺環境をよく観察する。何がいかせて何をしたら拙いかを想定していく。

 

(.............初手は受け身に..........カウンターで行くか)

 

レイルは方針を決めた。恐らくこちらの戦い方はある程度知られてるとみるべきだ。だが、こちらは相手の戦い方を知らない。ならまずは初撃を向こう側から引き出して手の内を探りつつカウンターを狙っていく。

 

後手に回るがレイルには十分それで対応できる自信はある。とは言え、デスゲームと化したSAOでのデュエルは初めてだ。何が起こるかはわからない。

 

残り20秒──────

 

レイルは敢えてここで剣を抜いた。モルテは鎖頭巾(コイフ)のせいで表情は窺えないが微かに何かが揺らいだように見えた。

 

レイルの剣、アルタイル・ブレードは現SAOの片手直剣カテゴリ中最高とさえいえるだろう。それは一目見ただけでもある程度のプレイヤーなら気が付く。それをあえて残り20秒という微妙なタイミングでさらし、相手に今の作戦でいいかと揺さぶりをかける

 

残り10秒──────

 

すぐにでも構えたい気持ち押さえる。まだモルテも構えていない。

 

残り5秒──────

 

レイルが構えを取る。柔軟に対応できるように剣は中段に構え右半身をやや前方へ傾ける。

 

残り4秒──────

 

モルテは遂に剣を抜きそのまま振りかぶるように上段に構える...........いや、モルテの剣がライトエフェクトに包まれた。恐らく構えとエフェクトの色からしてソニックリープだろう。

 

残り3秒──────

 

モルテのソードスキルは開始時間まで引っ張るのは無理だ。それはレイルがよく練習したことでもあり、断定ができる。ここは圏外な為、開始時間前に攻撃をいれれば向こうは犯罪行為とみなされる。

 

だとすれば理由があるはずだ.............

 

残り2秒──────

 

剣を見せて揺さぶりをかけるつもりがレイル自身の方が相手の術中にはまってるような嫌な感覚を覚える。回避するにしてもすぐに動く必要がある。

 

残り1秒──────

 

レイルはカウント表示が01となったその瞬間はっとした。自身がスキルの発動を限界でどの程度伸ばせるか知っている。なら狙いは恐らく.........

 

そしてレイルが気づきを得ると同時にモルテは躊躇なく地面を蹴り、黒い怪鳥の如く飛び出す。

 

モルテの狙いは開始直後にスキルをレイルにぶつける事。通常初手でソードスキルを使うのであれば開始後に初動モーションを起こすが、別に開始0.01秒でも後であればそれは犯罪行為にはならない。

 

0秒───《DUEL!!》

 

川の中央にカウント0と《DUEL!!》の文字が表示されたが、レイルはそれを視認する余裕はない。レイルは瞬時に構えを解き、両手で剣を持ち直す。

 

そして直ぐにモルテのソニックリープが俺の脳天目掛けて振り下ろされる

 

ここで単に受け止め、鍔迫り合いに持ち込もうとすれば足場の悪い川河原ではスリップするリスクがある。当然だが回避するのは不可能。なので──────

 

「っ........!」

 

レイルは持ち前の技術で剣の根元で受け止めながら相手の剣の勢いに逆らうではなく、剣をうまく根元から先へ滑らせるように引きながら受け流す。

 

火花と緑色の光芒が弾けると同時に甲高い金属音が響く。

 

(完璧には受け流せなかった......)

 

レイルのこの受け流しは最小限の力でいなせるうえに、自身への反動も最小限だ。いわば合気道に似たようなものだ。しかし、今回はモンスターのそれとは違うプレイヤー特有の攻撃であり、システムアシスト任せではなく蹴りだしと振り抜きによるアシストによる特有の重さがあるためレイルの腕を小さくない衝撃が襲う。

 

それによってすぐにレイルは攻撃には転じず僅かに間合いを取り、僅かな間隔を開けた瞬間に技後硬直状態にあるモルテ目掛けて斬りかかるとモルテもやや遅れて振りかぶる

 

「オオォォ!!」

「ショウッ!!」

 

二つの掛け声と一つの金属音が響く。

 

そこからソードスキル抜きの通常剣戟が始まる。こちらにおいてもモルテの技量は確かだ。最小限のモーションからこちらのクリティカル・ポイントを捉えようとする。

 

だが、レイルの技量は容易には崩せない。モルテの斬り技と突き技の中間のような独特の攻撃をさながら精密機械の如く悉くを正確無比に叩き落し、時には先読みをして悠々と躱してく。

 

「ショアアァァァァ!!」

 

そんなある種余裕のある立ち回りからか、或いは初撃の奇襲が成功しなかった苛立ちからかモルテはやや強引に甲高い声を上げながらレイルの心臓目掛けて鋭い突きを放つ。突き攻撃はパリィでの防御はタイミングが難しい。それもプレイヤーとなれば余計にだ。だが、反面横ステップでの回避は容易い。

 

しかし、レイルは──────

 

「シッ!」

 

鋭い声と共にレイルはまるで消える様に瞬時に突きを掻い潜る様な姿勢を取ると、自身の剣をモルテの剣を擦り上げるように跳ね上げ、モルテの体勢を崩す。

 

今までで一番の甲高い金属音が夜闇に響き渡る

 

攻撃の初動を見てからの恐ろしい程の速さからのこの身のこなし。レイルの冷静さとβ時代に磨き上げた卓越したプレイヤースキルによる暴力。単に正面の打ち込み合いであればレイルを凌ぐプレイヤースキル持ちはいない。

 

当然、体勢の崩れた相手に手加減するほどレイルはお人好しではない

 

「フッ!!」

 

振り切った状態から鋭く振り下ろし、そしてそのまま踏み込んで左から右へと続けざまに横薙ぎを放つ。

 

「ッ............!」

 

が、モルテも非常に巧い。仰け反った状態からそのまま後ろへと地面を蹴り初撃の振り下ろしのクリーンヒットを避け、鎧を浅く斬る程度に凌ぐ。続く流れるように迫る二撃目もモルテは一瞬で冷静な判断元、もう一度地面を蹴って後退する。とは言え二撃目の方が初撃よりも速い。後退したと同時に鱗模様のアーマーをレイルの剣が斬り裂き、モルテのHPを削り取る。

 

「シュウッ!」

 

鋭い声を上げて距離を取るモルテにレイルはすぐさま間合いを詰める。初手の攻撃から見るに間合いを開けるとまた何かトリッキーな手段を放つ可能性がある。モルテは次々とスラスト気味の攻撃を放つがそれを確実にレイルは捌いていく。

 

攻撃しつつも後退するモルテのブーツが小さな水音を放つ。川辺まで追い詰めたのだと悟る。レイルはこのまま圧をかけ強引な一撃を誘い先程よりもより鋭くより疾いカウンターで勝負にでようと企てる。

 

ばしゃっ!!

 

と言う大きな水音がしたのはその時だった。モルテが川に落ちたのではない。彼はすでに川へと大きく踏み込んでいたのだ。そして右足でそのまま大量の水を蹴り上げた。レイルの視界を無数の水滴が舞う。

 

恐らく水を目くらましにして左右に回り込むか反撃に出るつもりだと考え、レイルは後退する。そして直ぐにモルテの次の手を見極めるために目を見開くと水飛沫の向こうで紫色の輝きが見える。アレはソードスキル...................

 

ではない。アレはメニューウインドウの輝きだ。

 

剣を握ったまま右手で窓を開くことは出来ない。左手に武器を持ち換えた様子がない。ならば水中に剣を落としたのだろうか?どちらにせよこのチャンスを逃す手はない。

 

「うお.....おおぉっ!!」

 

気合を迸らせながら最小限のモーションから最速の斬撃を繰り出す。一撃いれてそこからさらにソードスキルで畳みかける。

 

そう考えるレイルの耳に聞き慣れた『シュワッ!』と言う小さなサウンドが聞こえた。その正体を悟った時にはすでに斬撃は止められない。

 

水飛沫の向こうからモルテの左手には先程までは存在しなかったラウンド・シールドが握られていた。スピン加工が施されたシンプルな形状だが、その鋼鉄の輝きはアイテムとしてのグレードの高さを如実に示していた。

 

レイルの放った斬撃はモルテの構えるラウンド・シールド中央とぶつかると大きな音と火花が弾けると同時に両者共に仰け反る。

 

モルテがいかにウインドウ操作に長けていてもこのわずかな時間で装備を変えるのは不可能だ。とすれば、方法はただ一つ。ワンタッチの操作で装備を変えることの出来る《クイックチェンジ》のmodだ。とすれば出現したのは盾だけではない。右手にはすでに新たな剣が握られているはず。モルテは体勢が直ればすぐさまその剣で反撃に出るだろう。

 

盾持ちの相手と戦うセオリーは盾を持つ側へと回り込むこと。片手系の武器の最大とさえいえるメリットは盾を持てることだが、それは同時に視界を塞ぐ壁ともなる。特にレイルのように俊敏さをウリにするプレイヤーに対しては視界のビハインドは大きい。

 

モルテが一瞬早く体勢を立て直すと、気合の籠った気勢を迸らせる

 

「シャオオッ!!!」

 

モルテの右腕がさながら蛇が獲物を捕捉するが如く閃く。レイルはそれをスラスト気味の縦斬りだと推測し右側へと素早く回避する。盾は攻撃の予備動作で跳ね上がっているのでその下側からカウンターを──────

 

ぶんっ!

 

剣の風切り音とまるで違う重い音が唸りを上げた。モルテの右手に握られたのは剣じゃなく肉厚の刃を持った片手用斧(ワンハンドアックス)だった。そして攻撃の軌道も推測とは違った。確か固有名称は.......《ハーシュ・ハチェット》。

 

コマの如く直立したモルテの体が回転し、水平に繰り出された斧がレイルの左脇腹にヒットする。回避も防御も不可能だった。

 

片手剣のそれとは重みの違う一撃にレイルはたまらず体が浮いてしまった。その上さらに仰け反り状態を強いられる。

 

圧倒的な攻撃力を誇る両手斧(ツーハンドアックス)は少なからずプレイヤーに愛用されており、身近で言えばエギル..........そしてミトの扱う鎌もそれに類する。だが、片手用斧はマイナーな武器だ。何せ攻撃力はさして片手剣と変わらないのに突きが使えないというデメリットを持つ。しかもメリットの強攻撃ヒット時におけるディレイ効果が発動しやすいそれもヒットさせようとすれば大振りになり当てずらい。直前に別武器による突き技を使い続け目を慣らさせなければとてもじゃないが扱いきれない。

 

「ぐぅ........っ!!」

 

そう、つまりはモルテの本命は片手用斧。こっちが本来のメインアーム。武器スキルなしで無理矢理装備してるのではない。なら次はソードスキルが来る。

 

「シャハアァァ──────!!!」

 

異様な絶叫と共に限界までテイクバックされた斧が朱色の輝きを放ち迫る。片手斧用水平二連撃技《ダブル・グリーブ》。胸と腹をほぼ同時に打ち付け、まるで内側が破裂するような衝撃を受けレイルが襤褸切れの様に吹き飛ばされる。

 

行動不能状態を表示するアイコンが視界の端で明滅する。HPは一気に五割ライン手前まですり減っている。スタンそのものは3秒で解除され、すぐに緩慢な動きではあるが立ち上がる。

 

「.......何で追撃しなかった」

 

「いやいや、レイルさんならお得意の投剣で目を潰そうとしますよねぇー?それにしてもこれでHP半分割らなかったことに驚きですよーこの斧《重さ》に+6なんですよぉ?プレートアーマーだってスコーンっていっちゃうんですけどねぇ」

 

レイルは攻めてくれば投剣を使う気でいた。視界を潰すのは勿論、咄嗟の妨害などレイルからすれば投剣は多岐にわたる活用法がある。

 

だが、レイルの中にはそんなことよりも二つの事が脳内を支配していた

 

一つは後悔。レイルはモルテを洞窟で見かけたプレイヤーと同一人物なのではと疑っていたのにも拘らず、モルテの次の武器を勝手に片手剣と断定していたこと。完全にレイルのミスであり、モルテを見くびっていたと言わざる負えない。

 

だが、これでわかったのはモルテがALSにもかかわりがある可能性が高いと言う事.............いや、此処までの態度も踏まえればほぼ確定的だろう。

 

そして二つ目。それは疑惑だ。

 

(確かに投剣を警戒して止めを刺さないのは理解できる...............だが、いくら何でもスタンから立て直した直後じゃ命中に不安はあるしそもそも投げられるかは一か八か...............まさかこいつわざと終わらせなかった?)

 

モルテの発言を受け投剣を警戒していたのはわかった。だが、敢えて攻撃をやめたのではと考えてしまうととレイルの内にある疑惑が浮かぶ。

 

(まさか..............コイツ俺を殺す(・・)気か)

 

半減決着モードはHPが5割を切ったら敗北だ。だが、レイルの体力を仮に1000として現状が550としたとき...........つまり、今の決着がつくギリギリのラインの残りHPの際に600ダメージ、つまりは残りHPを上回るダメージ与えられたらどうなる?

 

恐らくその答えは疑う余地はなく──────

 

「お前..........まさか.............」

 

「アハッ、やめましょうよー折角いいところなんだからぁ。それにあの有名なレイルさんがこんな程度なわけないでしょ?」

 

こちらの心情を察したのかおどけているようではあるがそれ以上に嘲るように........愉しむ様に嗤い声をあげたモルテにレイルは背筋が凍える様な戦慄を覚えた。

 

確かに俺はこのデスゲームと化したSAOで他人に殺されかけたのはこれが初めてではない。あの時の彼は恐らく自分が生きる為にMPKと言う手段を取ろうとした。人がもつごく自然な生存本能だ。

 

しかし、コイツは違う。単に自分の命がどうとかじゃなくこちらを殺そうと...........まるで道端の蟻を踏み潰すかのように無作為に理由などなく俺を殺そうとしてる。断定できる。何故ならここで俺を殺すメリットは無いに等しい。何せ後ろにはキリトがいるうえ別に殺さずともモルテの俺達をクエストから離脱させるという目的は果たせるのだ。

 

じゃあ何故殺そうとするのか..............コイツは──────

 

(いや...........今はいい。向こうが俺を殺す気なのは...........mobと同じだ。なら、俺は──────)

 

相手の思考など考えても仕方ない。理解しようとすることさえ悍ましく思う。だからそれは後回し..........今は、このあと一手さえミスの許されないこのデュエルを切り抜ける事

 

(もし、一手でもミスを犯せば..........俺は死ぬ)

 

生と死の狭間にいるという事実がレイルの神経を尖らせる。

 

「あぁ............勝負はまだこれからだ」

 

「そう来なくっちゃ!ギャラリーが一人なのは寂しいですがショウタァ──────イムいちゃいますか」

 

モルテはそう言うと盾を構え、斧を体の後ろに隠す。それに対しレイルは左手をモルテに標準を合わせるように構え剣をカタパルトの如く引き絞り構える。間合いは約二メートル。もう密着状態と言って差し支えない。

 

辺りの気温が数℃下がった様に錯覚する程に雰囲気が張り詰める

 

そして──────

 

〝〝〝シュババッッッ!!!!!〟〟〟

 

「ッ!?」

 

鋭い風切り音が響く──────

 

それと同時にレイルの姿は掻き消える。モルテは初めてわかりやすく驚愕の表情を浮かべる。が、直ぐに冷静になりレイルの次の行動を読むことに思考のリソースを全力で割く。

 

モルテも知っているレイルの最速...........システム外スキル《瞬動》

 

モルテの耳は何度も何度も鋭い風切り音を捉えるも、眼はレイルを目視出来ない。当然だ。レイルが今までコレを見切られたのは唯一人(キリト)だけ。

 

そしてすぐにモルテは目視での対応を捨てた。それは正しい選択だ。目で無理に追おうとすれば隙が必ず生まれる。そして、その隙をレイルが逃す道理はない。

 

 

 

 

そして、遂に──────現る

 

「よう」

「ッ!?」

 

レイルがモルテに姿を見せた場所............それはモルテの目と鼻の先。つまりゼロ距離。それはまるで瞬間移動のように突如現れたレイルに対し動揺してしまい、咄嗟にモルテは斧を振りかぶる

 

が、モルテの斧のは空を切った

 

まるで幽霊か幻影でも相手しているような感覚をモルテは覚える。

 

──────何を相手にしてるのか?

──────自分は何と戦っているのか?

──────そもそも自分は何をしていたのか?

 

そんな、自分を失っていくような嫌な感覚をモルテは体験していた。

 

そして──────

 

「シィッ!!!!」

 

「っ!?」

 

モルテの背中に斬撃が刻まれる。レイルはモルテの眼前に現れ、直ぐに素早く体勢を低くし視線から外れる事でまるで消えたかの如く背中を取った。

 

だが、流石に対人慣れしているモルテは瞬時に背を取られると予測し、且つ防御は間に合わないと悟りダメージを最小限に抑えてすぐさま盾を構え、突進を仕掛け強引にペースを奪い返そうと画策するが........

 

「フッ.....シッ....ハァッ!!」

 

「くぅ......ッ!」

 

モルテが突進するよりも先にまるで濁流が如く凄まじい勢いで斬撃が押し寄せる。

 

圧倒的な剣速のそれはまるで剣が複数に増えてしまったかの様に錯覚させる程であり、モルテは盾を持つ左手が少しでも緩めば圧倒的な荒波(剣技)に飲まれるという確信があった

 

これこそがレイルの正真正銘の本来のスタイル。圧倒的なまでの速度によて放たれる連続攻撃。いわば──────『究極のゴリ押し』

 

防御を捨てた...........否、相手に反撃をさせない圧倒的な攻めによって【攻撃は最大の防御なり】と言う言葉を体現する。

 

この状態のレイル相手に一度防御に専念してしまえば容易には攻勢に転じられない。相手を斬り刻み、そして削り取るまで止まらない。そもそも防戦に回らざる負えないのだからここからはワンサイドゲームそのものだ。

 

だが、勿論対抗できない訳ではない

 

「き.......キシャアァァァッ!!!!」

 

モルテは奇声の様な絶叫を上げ盾を荒波に向け押し出す。これにより、僅かにでも手をゆるませダメージ覚悟の特攻を敢行しようとする。

 

突破口の候補としてモルテのとった特攻がその一つ。強引にレイルのリズムを乱すことこそ対抗策になりうる。

 

が───

 

〝〝〝ズカアァ──────ン!!!〟〟〟

 

「は........?」

 

モルテはあまりのことに間抜けな声を零した。

 

間延びした大きな音とともにモルテの左手は気づけば跳ね上げられていた。そして、信じられないことにその左手にはすでに盾は存在していなかった(、、、、、、、、、)

 

モルテは今起きたことが理解できなかった。一瞬でレイルが間合いから消えたと思えば気がつけばレイルの突きを受けた盾がライトエフェクトと化して存在を消したのだ。

 

レイルが当然相手の特攻を警戒しないわけがなかった。読んでいたレイルは瞬動によって間合いを取り、さらにそこへレイルの怒涛の攻撃によって消耗したところへ絶技.............システム外スキル《三段突き》を決めたのだ。

 

レイルの瞬動による加速とβ時代から鍛え上げた高い技量の剣技。この二つがほぼ一呼吸の内に三度の刺突を重ねる絶技を可能とさせた。これこそレイルの持つ第二のシステム外スキルにして人力(・・)ソードスキル《三段突き》。

 

最もレイルとてこの結果は上手くいき過ぎたという感想を抱かざる負えない。何せ破壊までできるとは思ってはいなかった。跳ね上げれれば最低限、盾をモルテの左手から弾き飛ばせれば目的達成としていた。なので盾の破壊は出来たらいいな程度に考えていたのだ。

 

「う...うおぉぉぉ!!!」

 

そして盾を失い体勢を崩したモルテの腹部目掛けてレイル速く鋭い斬撃がクリーンヒットするとまるで先のレイルのようにモルテは吹き飛ばされる。

 

「これでお互いいい感じにHPが減ったな?」

 

レイルは当てつけのように敢えて追撃せずにモルテに向けて告げる。モルテもこの怒涛の攻めによりHPは残り5割手前。つまりレイルと同じ状況だ。敢えて口にしたのはこちらもお前を殺すことができると含みを持たせるためだ。とは言えレイルは本気で殺す気はない。無論相手はそのつもりだろうが..........

 

「いいですね、いいですねぇ。レイルさんのそういう所自分的に超ポイント高いですよぉ。それにぃ、対戦と言えば三本勝負ですしぃ、ラウンドスリーいっちゃいますかぁー」

 

やられたというのに未だ道化のように嗤うモルテ

 

そしてそのモルテはくるくると斧を回転させ、斜に構える。レイルもまた剣を引き絞るように構える。デュエルは残り40秒。このままであればHP総量により勝敗が決まるのだが、現状の俺とモルテのHPバーの残量はほぼ同じ。HP残量による判定は5%刻みな事を考慮するとこのままであればドローになる。

 

とは言え、モルテは少なくともそんな結末を望んでいない。必ずどこかで仕掛ける。ならばここまで来たのであれば持ち前の速さで攻撃を回避しカウンターを入れて終わらせる。

 

だが、突如としてこのデュエルは終わりを迎える

 

「?」

 

モルテが突如何かを聞きつけたように左を向く。するとモルテは斧を下ろし左手を立ててひょいひょいと動かしてみせた。

 

「すみませんねぇ、自分ここらへんで時間切れみたいですー」

 

「............タイムアップまでまだ30秒あるぞ?」

 

「いやいや、30秒って結構長いですよぉ?だって、1秒ずつ数えてたら30秒もかかっちゃうんですからぁーあははー」

 

煙を巻くようなことを言いながらモルテはひょいと屈むとまるでそこにあったのがわかっていたかのように、デュエル最初に使っていたアニール・ブレードを拾い上げ鞘に納める

 

「ではでは、自分はここでー。楽しかったですよ、いつかまたやりましょうねぇー」

 

もう完全に切り上げようとするモルテにレイルは1つ問いかける

 

「このままドローなら俺達はこのままクリアしていいんだな?」

 

「どうぞどうぞぉー、でも、ちょっと難しいと思いますけどねー、あはははー」

 

直後、デュエルの残り時間は0となりモルテの後ろ姿を紫色のリザルトウインドウが覆い隠す。結果はドロー。それを告げるウインドウが消えた時にはそこにいたモルテの姿は消えていた。

 

少しの間警戒したままでいると後ろからデュエルの間一言も発していなかったキリトが声をかける。

 

「お疲れさん。肝を冷やした時もあったが相変わらずさ流石だな」

 

キリトもレイルと同じくモルテが殺そうとしてきていたのを気が付いていた。とは言え、ヒヤッとするところはあったもののレイルの事を信じていた。そもそもレイルが本来のスタイルを使うと決めた時点でモルテの勝機はないとさえ思っていた程だった

 

「そりゃどうも...............でも、鍛え直さないとな。練習相手頼むぞキリト」

 

「それは俺もだな。ま、久しぶりにレイルと競い合えると思ったら楽しみだな」

 

キリトとレイルはβ時代何度もデュエルをしていた。キリトは空気を変えるためもあるが普通にレイルとのデュエルは嘗てのこの世界での楽しみの一つだったために楽しみそうに言う。因みに戦績は──────

 

「確か.........200戦中俺が101勝99敗だったな。ま、このまま突き放してやるぜキリト?」

 

「言ってろよ。直ぐに追い越してやるさ」

 

レイルとキリト。両者二人とも遊びではあったが本気で戦ってこの戦績だ。多少レイルが勝ち越しているのは、要因として投剣スキルと戦闘及びプレイスタイルの差だろう。しかし、まるでレイルの剣技を捕捉できなかったモルテに対してキリトの実力の高さが戦績から伺える。

 

ただ、レイルはこの久しぶりの対人戦の正直な感想はあまりよかったとは思えない。読み違いやツメの甘さを鑑みるに、得意分野と驕っていたのだろうとどうしても思ってしまう。

 

(随分負担をかけちまったな......)

 

レイルはこの戦闘の立役者でもある愛剣を見つめる。モルテの盾を偶然とはいえ砕けたのもこのアルタイル・ブレードだったからこそとしか言えない。嘗てβ時代では本来の超攻撃スタイルについてこれず壊れたりしていたが頼もしい重みと存在感は右手に健在だ。とは言え、少なからず.............いや、それなりの消耗はしてるのが刀身の輝きからわかる。研いでもらって日が立っていないが、それでも鍛冶屋で研いでもらう必要があるだろう。

 

「ありがとうミト」ボソッ

 

「何か言ったかレイル?」

 

「いや、独り言だ。それより行くぞ」

 

アルタイル・ブレードを見つめこの剣を手にするきっかけをくれた彼女に感謝を呟くとレイルはまるでいたわるように背中の鞘へ剣を仕舞い、キリトに本来の目的を果たそうと促す

 

こうしてデスゲームと化したSAOで初の対人戦はドロー、引き分けと言うしまらない結果...........そして、初めての命を懸けた対人戦はどこかしこりを残して幕を下ろすのであった。

 

 

 





これにて今回のお話は終了です!久しぶりに10,000字を超えて書いたので疲れました。けれど書き上げたぞと言う達成感もあるのでこれからも頑張っていこうと思います!

さて、三階層............と言うよりはプログレッシブ二巻の目玉であるモルテ戦を書き終えたのでこの階層の話は次回で最後になります。レイルの初めての本来の戦闘スタイルお披露目です。小説中でもあったように兎に角斬って斬って更に斬りまくると言ったゴリ押しスタイルとなっております。普段の技巧派よりから一気に反転してイケイケな感じになると言った二面性のある戦闘スタイルを今後も楽しんでもらえるよう頑張っていくのでよろしくお願いします!

因みに今週も二回目の映画を見に行くつもりなのですが.............そろそろミトの特典はまだでしょうか?


では、今回もここまで読んでくださりありがとうございます!また、沢山のコメント、お気に入り登録、評価をしてくださりありがとうございます!
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