我が身、一振りの刃なれば   作:セミズ

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引き続き短縮モードでお送りします


シニア期

「あなたには、私だけの鞘であって欲しい――なんて。ワガママ、ですね」

 

 そんな、困らせてしまうようなことを。私は、彼に告げた。

 

 

 

『シニア級 1月』

 

 一年の計は元旦に有り。そんな言葉があるように、大事な新年で俺は――

 

「ふぅ…やっと終わりましたか」

「ありがとう……」

 

 担当の子に、部屋の片付けを手伝ってもらっていた。最初は新年の挨拶にきたデュランダルを迎え、そのままお出かけに行く予定だったのだが。

 

「トレーナー……少し、部屋が散らかり過ぎでは?」

 

 ここ数日、彼女の脚の強化プランや情報収集で忙しくて……なんて言い訳に過ぎず。

 今すぐ片付けなさい、と強気に出られれば首を縦に振るしかなかった。

 

【お礼に食事でも奢るよ】

【今から初詣に行こうか】

【自転車レース場に行こう】

 

 

>【お礼に食事でも奢るよ】

 

「ありがとうございます。どこか行くアテが?」

「いや、まだ決まってないけど」

「成程。では、ここでお願いします」

「ここ?」

「はい。冷蔵庫の中、賞味期限がもうすぐの物がいくつかありましたので。作れますよね?」

「ああ……でも、それでいいのか?」

「それがいいのです」

 

 そしてデュランダルに手料理を振る舞おうとしたのだが、野菜が不足しているという彼女の指摘により、結局二人でスーパーまで買いに行くことになった。

 また、彼女に出した料理も肉野菜炒めというあまりに平凡なものだったのだが……まあ、満足してくれたようなので良しとしよう。

 

【体力が30回復した】

 

 

 

『シニア級 1月』

 

 ある日、デュランダルと買い出しに出かけた帰り――

 

「福引ですか……」

 

 普段より賑わう商店街。ちょうど福引が開催されているようだ。

 手元には先ほどの買い出しで手に入れたチケットが一枚。

 デュランダルも表情は普段と変わらないが、尻尾がふりふりと揺れている。

 

「これで引いてきなよ」

「いえ。それはトレーナーのものです」

「いいから」

 

 譲り合いの結果、二人でレバーを回すことになった。

 結果――

 

 

「おめでとうございまあああああああああす! 特賞温泉旅行券でえええええす!!」

 

 ――見事に、最高の結果を引き当てた!

 

「運が良かったようです」

 

 左程騒ぐほどでもない、と言わんばかりのデュランダル。

 しかしその尻尾は付け根でグルグルと、耳は楽しそうにぴょこぴょこ揺れている。

 

「やったな! いつ行こうか?」

「ふむ……期限はまだ先のようですね。ではトレーナー。暫く預かっていただけますか」

「いいのか?」

「はい。湯治、というのも心惹かれますが。今は刃を研ぎ澄ます時かと」

 

 わかった、と返事をして旅行券を懐にしまう。その時が来るまで大事に預かっておこう。

 

 

 

『シニア級 2月 バレンタイン』

 

いよいよ来月に迫る高松宮記念。

 

――次のレース後に彼女が脚の不調を訴えるようであれば、そこまでだったということさ。

 

アグネスタキオンの忠告は恐らく正しい。デュランダルの走りに耐えられる脚を鍛えるため、気の抜けない日々が続く。

そんな中で――

 

「ほーら、デュランダルっ」

「……押されなくとも」

 

 トレーニングも終わり、後は帰宅するのみとなった夕方ごろ。

 ファインモーションにグイグイと背中を押されて、デュランダルがトレーナー室にやってきた。

 その手にある小包は……?

 

「ん、んん……トレーナー。今までのあなたに感謝を込めて」

 

 咳払いののち、ハッピーバレンタイン、とデュランダルがその小包を差し出す。

 そして思い出す――今日という日を!

 

「ありがとう!」

 

 小包の中身は、少しデコボコしたトリュフチョコが幾つか。早速そのうちの一つを口に放り込む。

 

「美味い!」

「よかったね、デュランダル♪」

「……単純なものですから」

「まさかデュランダルからチョコが貰えるなんて……美味い……あ、でも」

「……でも?」

「チョコの形は剣じゃないんだな」

 

 剣のキーホルダーを愛用し、遠出した先のサービスエリアでもそういったアクセサリーの類を集めている彼女。

 もしかしたら、チョコの形も――なんて考えたが、チョコはオーソドックスな形をしていた。

 

「トレーナー。確かに私は剣は好きですが。流石にそこまでは」

「はは、そうだよな。ごめん」

「本当です。それに……」

「それに?」

「……なんでもありません。それではトレーナー。また明日」

 

 言葉を待って首を傾げる俺と、踵を返すデュランダル。

 そんな俺達の様子を、ファインモーションは楽しそうに眺めていた。

 

 ――自分自身を一振りの刃と称する私が、剣の形をしたチョコレートを?

 

 ――……そんなのまるで、私自身を……。

 

 ――……言えるものか、こんなこと。

 

 

 

【我が身、一振りの刃なれば Lv1 → Lv2】

 

 

 

『シニア級 3月 高松宮記念』

 

 ……いよいよ訪れた、高松宮記念日。

 彼女の今後を決めると言っても過言ではないレース。

 デュランダルの脚は、彼女の走りに耐えられるのか。

 全力は尽くしてきた。後は結果を待つのみ。

 ――だが。

 

「今日も皆の模範を示しましょう! 委員長として!」

 

 今回のレースで最も優勝に近いと言われているのがサクラバクシンオー。

 独特なノリの彼女だが、その実力は折り紙付き。

 デュランダルの刃は、彼女に届き得るのか。

 

「トレーナー。私は今日、全力で走ります。何も考えず、全てを賭けます」

「……ああ」

 

 短距離において敵無しとすら評価されることもあるサクラバクシンオー。

 パドックで見られる仕上がりも間違いなく絶好調だ。余計な雑念を抱えて勝負になる相手ではない。

 

「それでは」

 

 闘志を滾らせ、地下通路からレースに向かうデュランダル。

 俺が、彼女の背中にかけるべき言葉は。

 

「……デュランダル! 待ってるから!」

「……ええ。それでは、行って参ります」

 

 

 果たして。レースの結果は――!

 

 

『外から差を詰めたデュランダル! サクラバクシンオーを追い抜いた!』

 

 ――抜いた!

 ほんの一瞬、僅か数センチの差。

 全力で振り抜いた刃は、サクラバクシンオーを捉えた!

 

「デュランダルーっ!」

 

 勝利の興奮と、デュランダルの脚への不安。

 その二つがごっちゃになり、柵を飛び越え彼女の元に駆け寄る。

 

「おめでとう! 大丈夫かデュランダル!」

「……っ」

 

 全力で駆け抜けた彼女の身体は、震えていて――

 

 

「ふっ……ははっ!」

 

 

 ――顔を上げた彼女は、笑っていた!

 

「トレーナー……! まったく、あなたはいつも……!」

「え!? 俺!?」

「……正直。勝てないかもしれないと思いました。僅かに届かないかもしれない、と。そして、私の脚が耐えきれないかもしれないという不安も……」

 

 デュランダルは興奮した様子で目を閉じる。先のレースの展開を振り返っているのだろう。

 

「……ですが。我が身を振り抜いた刃とイメージした時。その先には、収まるべき鞘――あなたがいる。そう思った時、いつもより、遥かに脚が軽くなったのです」

 

 普段、あまり感情を表情に出すことのないデュランダル。

 その彼女が、確かに笑っていた。口角を上げて。

 

「トレーナー。あなたには、感謝と謝罪を」

「謝罪?」

「はい。こんな感覚を、後一年しか味わえないなんて――それこそ、耐えられません」

「!……じゃあ!」

 

 引退の撤回を――と、続けようとした言葉は、あまりにも大きな声に遮られた。

 

「デュランダルさんっ!!!!!」

 

 サクラバクシンオーだ。

 デュランダルに敗れ、二着となった彼女が凄まじい勢いで詰め寄って来た。

 

「おめでとうございます! あなたも強かった! 悔しいですが!」

「あ……ありがとうございます……?」

 

 デュランダルもサクラバクシンオーに圧倒されている。

 こちらにお構いなしに、サクラバクシンオーは捲し立てるように口を開いた。

 

「そして! 学ばせていただきました! あなたのバクシン魂と! 委員長としての在り方を!」

「は……はぁ……?」

「私は今まで委員長として模範的な走りを示してきました! しかし! あなたのように最後方から皆を見据える! それもまた委員長だと!」

「……?」

「ええ! 今回はあなたが強かった! それは認めましょう! 次は譲りませんが!」

「……ふ。望むところです」

 

 嵐のような勢いでこちらを巻き込んでくるサクラバクシンオー。

 デュランダルの走りに、彼女も影響されたところがあるらしい。

 

「その時まであなたには預けておきます! 委員長の座を!」

「いえ。それは結構です」

 

 お互いを称え合う……と言っていいのだろうか、サクラバクシンオーとデュランダル。

 兎に角、タイミングを逃がしてしまったが、この結果なら――!

 

 

「ふゥン……データによれば、彼女はクビ差で敗北する筈だった……」

 

「シャカール君もそう予測していたが……」

 

「これもまた、ウマムスコンドリアの働きだというのか……? だとしたら、何が要因となって?」

 

「いやぁ……実に面白いねぇ!」

 

 

【高松宮記念で3着以内】→Clear!!

Next→【安田記念で3着以内】

 

 

 

『シニア級 4月 ファン感謝祭』

 

 屋外ホールの壇上で対峙するデュランダルとタイキシャトル。

 張り詰めた空気は肌を指す様に研ぎ澄まされている。

 俺も、そして周りの観客たちも息を呑んで次の展開を見守っていた。

 

 ――ことの始まりは、ほんの少し前に遡る。

 

 デュランダルがファン感謝祭で登録した演目は演劇。

 なんでも高潔な女騎士隊長の役を割り振られた、とのこと。

 確かに騎士甲冑のような意匠が見受けられる勝負服を身に纏う彼女にはぴったりな役割かもしれない。

 更に今日の彼女はその手に西洋剣を携えている。勿論レプリカだが。

 

「そういえばデュランダルって本物の剣は扱えるの?」

「ええ。父が剣術の指南をしていますので。多少は」

 

 そして開幕した演劇。

 それ自体は無事に終わったのだが。

 

「トレセンのみんなは仲がいいから実現しないと思うけど。剣と銃って戦ったらどっちが強いの?」

 

 そんな、無垢な質問を飛ばしたファンの子どもがいた。

 剣を携えるデュランダルと――同じく、拳銃を握るタイキシャトルがいるこの場で。

 

「oh! そんなの決まってマース!」

「言わずともわかるでしょう」

 

 かつかつと、お互い壇上の真ん中まで歩み寄るデュランダルとタイキシャトル。

 演劇の中でも騎士とガンマンということでライバルだった彼女達。

 舞台の真ん中で、顔を合わせて同時に口にした言葉は勿論――

 

「剣です」

「銃デース!」

「抜いて、斬る。この距離ならば私の方が速い」

「ワタシにウィークポイントありまセーン! 風穴開けマース!」

 

 張り詰めた空気の中、腰に収められた武器(レプリカ)に手をかける二人。

 まずい、どうにか大事になる前に止めないと――と、駆け出した時。

 目の前に気を取られるあまり、ポケットから小銭を落としてしまって。

 

「――っ!」

「ッ!!」

 

 チャリン、と音が鳴ったかと思えば二人の姿がブレる。

 あまりの早業に目が追い付かず、次の瞬間には――

 

「……私の、勝ちです」

「NO……負けました~……」

 

 刃をタイキシャトルに突き付けるデュランダルと、同じく銃口をデュランダルに向けるタイキシャトル。

 正直傍から見れば、訳が分からないのだが、当人達にのみ通じる何かがあったのだろうか。

 

「証明は十分でしょう。剣は銃より強し、です」

 

 剣を鞘に納め、デュランダルはどこか得意げだ。尻尾が楽しそうに揺れている。

 負けたタイキシャトルは落ち込んでいたが――

 

「……But! それはこの距離なら、デース!」

 

 タイキシャトルは勢いよくその人差し指をデュランダルに突き付ける。

 

「オン・ザ・ターフ! アンド1600! そこなら負けまセーン!」

「! その距離は……!」

 

芝、そして1600m。その言葉が示す意味は明らかだ。

 

「次の安田記念か!」

「イエス! そこでリベンジデース!」

「ふ……望むところです」

 

 相手はスプリント路線でありながら異例の年度代表ウマ娘となったタイキシャトル。

 いずれ越えねばならぬ壁が、向こうから立ちはだかった瞬間だった。

 

【デュランダルのやる気は絶好調をキープしている】

【我が身、一振りの刃なれば Lv2 → Lv3】

 

 

 

『シニア級 6月 安田記念』

 

 天候は雨。バ場状態は不良。

 追い込みの走りにとっては非常に不利な環境。

 加えて相手は大雨の中の無敵、とまで称されたタイキシャトル。

 もしかすると、この三年間の中で最も厳しい状況に立たされているかもしれない。

 

「……ふ」

 

 だが、デュランダルは震えていた。

 緊張や恐れではない。耳と尻尾の様子から――いや、そこを見なくとも、わかる。

 

「デュランダル」

「はい」

「楽しんで来い!」

「――はい」

 

 そして、安田記念の幕が開ける。

 

『大外デュランダル! 大外デュランダル!!』

 

「はぁ――ッ!!」

 

 デュランダルは、一着でゴールした。

 短距離、マイルで追込は勝てないというセオリーを切り裂き。重バ場も不利だという常識を切り伏せ。

 今この瞬間、勝者へと輝いた。

 

「NOooo!……また、負けマシタ~……!」

「タイキシャトル……」

「……でも! 楽しかったデース! また走りまショウ!」

「……ええ。また、切り伏せましょう」

 

 握手を交わし、踵を返す二人。

 俺もデュランダルに声をかけるべく、彼女に駆け寄る。

 

「トレーナー……私が、勝ちました」

「ああ! おめでとう!」

「はい……ですが、負けた筈のタイキシャトルも楽しそうでした」

「ああ……きっとかなり悔しい筈だ。でもそれ以上に楽しみなんだよ。また君と走るのが」

「次、ですか」

「うん。だから――」

「そうだとも!」

 

 引退の撤回を、と続けようとしたがまたもや第三者に遮られた。

 今度はアグネスタキオンだ。非常に興奮している。

 

「デュランダル君! 今回のレース、全ての条件が君にとって敵だった! 事前の予測では君は5着で敗れた筈だった!――いや! 故障でレースに出れない可能性すらあった!」

「……私は、勝ちました」

「そう! そこだよ君! こんな被検体がいるのに今年で引退だって?——―冗談じゃない!」

 

 タキオンが詰め寄る。デュランダルが後退る。

 

「君には責任がある! 私に可能性を見せた責任がねぇ!」

「……タキオンの言い方はアレだけど。俺も、同意見だよ」

 

 俺達の言葉に、しかしデュランダルは首を縦に振らず。

 

「その返事は、次のレースで返しましょう」

 

 

【安田記念で3着以内】→Clear!!

Next→【マイルCSで1着】

 

 

 

『シニア級 11月 マイルCS』

 

 

 ついに、この日がやってきた。錚々たるメンバーが揃った今年のマイルCS。

 

「故郷のみんなにも届くレースにしたい」

 

 アイドルウマ娘にして芦毛の怪物、オグリキャップ。

 

「己に恥じぬレースをしたいと思います」

 

 黄金世代を担った不死鳥、グラスワンダー。

 

「楽しいレースにしようね♪」

 

 エリザベス女王杯を勝ち取ったファインモーション。

 そして――

 

「今日も先頭の景色は譲りません」

 

 異次元の逃亡者、サイレンススズカ。

 かつてデュランダルが敗北した相手が、目の前にいる。

 

「……ふぅ……」

 

 数多の実力者を前に、デュランダルは深呼吸を繰り返している。

 内側で燃え盛る闘争心を抑えるように。

 

「デュランダル」

「ええ。わかっています。斬るべき相手は一人ではなく……全員ぶった斬って、戻ってきます。待っていてください」

「……楽しみにしてるよ!」

「……ふ」

 

 そして、地下道からコースへと向かうデュランダルの背中を見送る。

 レースの結果は――

 

『名刀デュランダルの切れ味! 大外からターフを切り裂きました! 名刀の切れ味は今年も衰えていません!』

 

 デュランダルが、その切れ味を証明した。ターフも競争相手も何もかもをぶった斬って、1着でゴールした。

 

「デュランダル!」

「ふ……トレーナー。私は、勝ちました」

「ああ。おめでとう、デュランダル」

「脚を壊すことなく。欠けることなく……しかし、これから先はわかりません。私の走りは、身を削るものですから。それでも……あなたは、私に賭けることができますか?」

 

 デュランダルが、手を差し伸べてくる。

 

「勿論!」

 

 例え刃毀れすることがあっても、彼女は決して折れない。それをこの3年間で見続けてきた。

 俺達は、改めて握手を交わした。

 

【マイルCSで1着】→Clear!!

目標達成!

 

 

『シニア級 12月 クリスマス』

 

 クリスマスの夜。

 雪の積もった街を、俺達は肩を並べて歩いていた。

 ファインモーションがみんなを集めて開いたパーティを楽しんだ後で、デュランダルが少し外を歩きませんか、と誘ってくれたのだ。

 

「……思えば、こんなにゆったりとしたクリスマスを過ごすのは久しぶりかもしれません」

「確かに」

 

 一昨年はデビューしたばかりで。

 去年は彼女の蹄鉄の為に外出して。

 クリスマスらしいクリスマスを過ごしたのは久しぶりかもしれない。

 

「……」

 

 デュランダルは、雪の退かされた歩道ではなく降り積もった道の端を歩いている。

 彼女が一歩を踏み出す度に、ざくざくと雪を踏み抜く音がする。

 

「トレーナー。これは重バ場を走り抜くための訓練です。決して雪に足跡を付けるのが楽しいだとか。そういう理由では」

「そうだね」

 

 意外と彼女は子どもっぽい。が、それを声と顔には出さず頷く。

 

「おわっ!?」

「! トレーナー!」

 

 そして足元が不注意になってしまい、凍っていた歩道に足を滑らせてしまった。

 幸いにもデュランダルが支えてくれたため怪我はなく、スマホを取り落としてしまったが、積もった雪の上に落ちたため画面も無事だった。

 

「いつもと逆ですね……む。これは」

「……あ」

 

 デュランダルが身を屈めて落としてスマホを拾ってくれた――のだが。

 そのホーム画面は、かつてファインモーションがスプリンターズSでこっそり撮ってくれたあの写真で。

 

「……トレーナー」

「ご、ごめん!」

 

 慌ててデュランダルに謝る。彼女は、溜息を一つ吐いた。

 

「こちらへ……違います。私の隣に。そう」

 

 デュランダルに手招きされて、一歩近寄る。彼女の指示通り、隣に並ぶ。

 

「もっと肩を寄せて。そう。それでいいのです――では」

 

 ――パシャり。

 何が起きたのかを理解した頃には、デュランダルは俺のスマホを操作していて。

 

「これでいいでしょう」

 

 デュランダルから手渡されたスマホのホーム画面には、俺と彼女が肩を寄せているツーショットが映し出されていた。

 

「……先の写真も、まぁいいでしょう。ですが、ホームに設定するのであればこちらを使うように」

「デュランダル……! ありがとう!」

「……くれぐれも。くれぐれも、口外しないように」

 

 そうして俺達は、雪の降り積もる街中を歩いていった。

 二人で、雪に足跡を残しながら。

 

【我が身、一振りの刃なれば Lv3 → Lv4】

 

 

 

『温泉旅行』

 

 暫く次のレースの予定もなく。じっくりと今後について考えていた日のこと――

 

「トレーナー。今が機かと」

「機?」

「あの福引で当てた旅行券。今こそ、使うべきではないでしょうか」

「……あ!」

 

 ――はい。湯治、というのも心惹かれますが。今は刃を研ぎ澄ます時かと。

 思い浮かぶはあの時のデュランダルの言葉。確かに、今がちょうどいいタイミングだろう。

 

「よし! 行こう!」

「仕事の方は問題ありませんか?」

「大丈夫!」

「部屋は片付いていますか?」

「……」

 

 

 ……

 

 

 バスに乗り、辿り着いた温泉旅館。

 お互いに温泉を堪能し、あとはゆったりとした時間を過ごすのみとなった。

 

「あ、そうだ。お土産コーナー見ていく?」

 

 もしかしたらデュランダルの好きそうなキーホルダーが置いてあるかもしれない。

 そう思っての提案だが――彼女は首を横に振った。

 

「いえ。それは後ででも良いでしょう……それよりも、今は外を歩きませんか?」

「わかった」

 

 デュランダルと一緒に外へ。

 見上げた空は日が沈んでいて、無数の星々が空を照らしていた。

 

 デュランダルと歩きながら、色んなことを話した。

 今までのこと。これからのこと。

 

 そして――

 

「あ……」

 

 ――ひと筋の、流れ星。夜空を切り裂き、尾を残して、空の向こうへと消えていった。

 

「……もしかしたら、私もああなっていたのかもしれません」

「流れ星みたいに?」

「はい。夜空を裂くように、瞬きの如く……そして、すぐに記憶の中の存在となる」

「デュランダル……」

「……最も、それはあなたがいなければ、の話ですが」

 

 もし、デュランダルが今年のマイルCSで引退していたのなら。

 確かにそうなっていたのかもしれない。

 

「トレーナー。私は、あなたがいたから走ることができた。そして、これからも……改めて、感謝を」

「……じゃあ、俺も。デュランダル、俺も君から沢山のことを教わったよ。ウマ娘の夢を応援するってこと。レースに挑むウマ娘の背中を見送るっていうのがどういうことなのか。それを、君に教えて貰った……ありがとう」

 

 お互い星を見上げながらの会話。

 

「そうですね。トレーナー。あなたはこれからもたくさんのウマ娘を担当するのでしょう」

「いつかは、ね。今は君で手一杯だ」

「……ふ」

 

 デュランダルが、一歩前へ踏み出す。

 空を見上げて、俺に背中を見せたまま。

 

「あなたには、私だけの鞘であって欲しい――なんて。ワガママ、ですね」

 

 風が吹いて、デュランダルの髪が靡く。

 振り向いた彼女は、いつもと変わらぬ表情を浮かべていた。

 

「戻りましょうか。湯冷めしてしまうかもしれません」

「……そうだな」

「ああ、それと。どうやら今の風で髪が乱れてしまったようです。部屋に戻ったら整えてください」

「俺が?」

「当たり前でしょう。だって――」

 

 

「あなたは、私の鞘なのですから」

 

 

 ――デュランダルと、かけがえのない絆を感じるひとときだった……。

 

 

 

『挑戦終了・切り開いたその先で』

 

 トゥインクル・シリーズにおける『最初の3年間』で見事、結果を残したデュランダル。

 世間の誰もが、彼女の切れ味を知り――

 

『きたきたきたきたー! ウオッカ勝ったー!!! すごい!!!!!』

『へへっ! 見てますか先輩っ!』

 

 デュランダルの後輩が、G1レースで勝利を勝ち取った。

 画面の向こうの彼女は、Vサインを浮かべて勝ち誇っている。

 そして。

 

『次は――先輩をブチ抜いてやりますから!! 待っててくださいね!』

 

 自信満々に、宣戦布告をしてきた。

 デュランダルが体調不良で回避することになってしまったこのレース。

 その中で、ウオッカは見事に勝ってみせたのだ。

 

「だってさ」

「……不思議なものですね」

「不思議?」

「今までの私は……そうですね。挑戦者だったように思います」

 

 確かに。模擬レースでの敗北から始まり、俺と共に一振りの剣として駆け抜け続けたデュランダル。

 道は決して平坦ではなく、立ちはだかる強敵や、彼女の脚の問題。

 様々な壁を乗り越えて、彼女は今や目標とされる側になっていた。

 

「ですが次は、眼前のものを切り裂くのではなく。背後から迫る後輩を待ち構える……」

「緊張する?」

「まさか。これは高揚です」

 

 彼女は目を閉じる。瞼の裏に浮かべているものは、きっと過去の激闘やこれから先に待ち受ける光景なんだろうな、なんて思う。

 

「トレーナー。既に、彼女に勝つためのトレーニングプランは用意しているのでしょう?」

「ああ、勿論!」

「良いでしょう――では、これからも駆け抜けましょう」

 

瞼を開いた彼女と目を合わせて、頷く。お互いに思うことは――

 

「あなたの、刃として」




今後このトレーナーは様々なクセウマ娘を担当することになりますが、気が向いたらその小話もちょこちょこ書いていきたいですね
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