昨日と同じく貰ったダガーを身に着けた状態で、ライナに指示されてコースを覚束無い足取りながらも懸命にベルは走っていく。
昨日とは違いポーチの中身はポーションが入っていたビンに水を入れてもの三本とモンスターから魔石を抜き取る時に使うようの小型ナイフを入れているが、自己判断で中身を増やしても減らしてもいいと言われている。
大きな壁に向かってジャンプした。
昨日、ライナがやって見せた壁ジャンプを真似てみるも壁を蹴りつけるも路地の反対側の屋根には手が届かず、壁に目の前に迫っていた
いった~!?
壁にうちつけた肩を撫でながら自分にはまだ無理なのか、と思いながら諦めて壁をよじ登り、昨日と同じく端っこを走っていく。
昨日と同じくオラリオの外壁にまでたどり着いたが疲れてはいるが倒れる事はなかった。
流れた汗に風が吹き冷えを感じ
パンドラ・ファミリアの
本拠の門に持たれるように立ってい
金髪にフードのついた黒い外套、腰からぶら下がる左右の短剣。
「やっと帰ってきたね」
金髪の小人族は面倒くさそうにはぁ、とため息を吐きながら持たれていた体を起こす。
えっと、と言い淀んでいると金髪の小人族は自己紹介をしてくれた。
「私はティキ・ネロッハ。団長から聞いてるでしょ?君に短剣の使い方を教えるように言いつけられたの、それと私の事は師匠と呼ぶ様ように名前で呼ばれるのは好きじゃない」
「あ!はい、よろしくお願いします!」
思わず勢いよく頭を下げてしまった。
師匠は頭を掻きながら無言で門を潜っていってしまった。
「私が教えるのは短剣の基礎知識と使い方と立ち回りのコツ。基礎は口頭で、その他は実戦形式の練習で教える。分かった?」
「え、あ、はい」
「なら始めようか、時間は有限だ。君にあの成長速度の私は合わせない。君が私に合わせて学ぶ事。」
はっきり言う人だな。
「ベル。ダガー……短剣の長所と短所は?」
「え?」
「答えて」
「えっと、軽い事と…あと小回りが利きます!」
「他には?」
「え、えっと……」
「答えが遅い!」
「げふぅ!?」
いきなりと質問に答える事が出来ずにいると、腹部に向かって蹴りが飛んできた。
二度、三度地面にバウンドしながら転がる。
地面に擦れた肌が痛い。
いくら息を吸おう意識しても体は強烈な痛みに強張ったまま正常に動くことはない。
「ベル、私の訓練は実戦形式だ。このように実戦形式の訓練の中でたまに質問を投げかける、武器の長所、短所、ダンジョンの常識、サバイバルの知恵。君が今まで習ってきた事もあれば、習っていない事もある。そんな時は、私の攻撃をしのぎながら考えるか直感で答えろ」
「げふっ…げふっ…それに何の意味が…」
「実戦では戦いながら周りの味方、敵の動き、環境など意識を割かなくてはいけない
「いえ…やります、僕は冒険者になりたいから!」
頬や膝など体のあちこちを泥に汚れながら立ち上がる。
「よく吠えた。自分の想いすら口に出来なくなったら人間は腐る。君は小指一本分は見込みがありそうだ」
師匠は面白い、とばかりに少し笑い。
外套の下、腰のベルトに装着されている鞘から一本の短剣を抜き取った。
刃とは反対側に櫛状の凹凸のある独特な形を峰を持つ西洋剣
。全長30
「変わった形状でしょ?この峰は敵の武器を破壊する役目を持つ。武器破壊を目的とした短剣。銘は右手のがタドミールって言いうんだ、さあ、始めようか」
師匠の言葉通り実践訓練が始まった。
「目を瞑るな!」
迫ってくる武器に恐怖に目を閉じれば叱咤が飛んでくる。
手加減なんて存在しない。
実戦用の武器で傷が出来ても終わりなんてしない。
痛みなんて忘れてしまうほどの常に迫りくる
貰い物のダガーを片手に直感に任せて攻撃を防ぐ。
攻撃を防ぐ度、ダガーを通して腕に伝わってくる衝撃。
自分が切傷から血を流し、汗と転がる度につく土汚れ。息は既に荒く、浅い呼吸を繰り返すのみ。
師匠は攻撃するのに僕より動いているはずなのに息も乱していない。
「質問、短剣の短所は?」
また質問を投げかけられる。
横から迫ってくる刀身を体を反らして躱しながら僅かに動かせる頭で急いで答えを導き出す。
短剣の長所は、小回りと自分で答えた…なら短所はその逆。
「…刀身の短さ、攻撃範囲の狭さ…です」
「正解だ。だが、それは使い手の技術や知恵で補える。ヒューマンと小人族が使う短剣でも範囲は違い。短剣を棒に括り付ければそれは即席の槍となる。いいかベル、想像しろ手の中にあるものに何が加われば、何ができるのか。何が必要で、何が不必要なのか、必要となったものをどうやって手に入れればいいのか、冒険者は確かに『強さ』は必要だ、同時に『生存力』。生きる強さも必要となる」
『生存力』―――生きる強さ。
「刀剣類の攻撃可能箇所は刀身だけじゃない、柄頭も頑丈で時には打撃武器足りえる」
そう言うと順手に持っていたタドミールを空中で手放すと逆手に持ち替え、槍を突き出すように手を伸ばすと僕の胸に向かってきた。
その攻撃を見た瞬間、僕の体は勝手に無意識に下がった。
それでも師匠の動く速さには敵わず柄頭が胸に的中した。
一瞬、咽るが今度は膝を付くことはなかった。
「お前は最初に蹴りを受け、今回は私の動き目が慣れてきた事で無意識に後ろに下がる事で攻撃を避けようとした。結果は当たったが後ろに下がった事で衝撃は緩和され、膝を付くことはなかった。この短時間での成長の成果だな」
「成長…僕が…」
自身が僅かにだが成長している、と言う事を告げられ実感を噛みしめていると。
「そろそろ昼食の時間に近いか、食堂に行く前に汗を流しておこう」
師匠が両手に持っているタドミールをしまいながら建物のほうに歩いていく。
「ベル、お前も風呂に行っておけ。汚いままだと食堂の番人を出禁をくらうぞ」
食堂の番人?と首を傾げていると、師匠はさっさと歩いていってしまった。
汗と土塗れの汚れ切った服を脱ぎ捨て、腰にタオルを巻き浴室の戸を開くと中に二人の人物が湯舟に浸かっていた。
一人は団長のライナさん。
もう一人は、ベルにとって初めて顔を合わせる人だ。
「よう、ベル。ティキに絞られていたな」
「あ、あはは、はい手も足も出ませんでした」
「君と顔を合わせるのは初めてですね。ボクはガレリア・ダリタス。二つ名は『
い、イケメン!イケメンが目の前にいる。
爽やかな高身長の筋肉質なイケメンが。
「べ、ベル・クラネルです!よろしくお願いします」
「ベル、気を付けろ。ガレリアはこの見た目で【パンドラ・ファミリア】で一番の気分屋でトラブルメーカーだ」
「え?」
「失礼ですね。確かに前、モンスターの巣を突いたりしましたが、最終的には自分で倒し切ったではありませんか」
「良い事教えてやる。まともな人間はそもそもそんな事をしないんだよ」
「ハハハ!」
笑って流しているガレリアさん。
人は見かけによらないという話は本当みたいだ。
お湯を頭から浴び、石鹸で汚れを落としていく。
「ふぅ~っ」
湯舟に肩まで使えると爪先から温まっていく。
実戦訓練で出来た切傷や擦り傷は少し痛むけど、これ位なら我慢できる。
「ベルくんの実戦訓練してるのはティキでしたね」
「はい」
「彼女は元スラム出身の孤児。故に弱者と強者の区切りを強く線引く、何より弱い事を言い訳にする人物を許さない。そういう意味では小人族を下に見ず、立ち上がる君の印象は彼女にとっていいでしょうから多くの事を教えてくれることでしょう。【パンドラ・ファミリア】の実戦訓練は担当した人物に内容は一任されます。知識だけを詰め込む勉学だけをするのか、実践を想定した訓練をするのかはバラバラ。君はそういう意味では運がいい」
ガレリアは目を閉じながらそう告げた。
「ベル。ティキの教えはハードだろうが食らい付け。それは【パンドラ・ファミリア】に入る事になっても、ならなくても君の為になる事だろう」
「はい!」
「さあ、食堂に向かいましょう、遅れると昼飯が抜きになりますよ」
「だな、食堂の番人を怒らせると晩飯までおあずけをくらう羽目になる」
湯舟を上がった二人の後ろ姿には、無数の切傷や刺し傷の痕が残っていた。歴戦の証、戦ってきた冒険者としての証が身体に刻まれていた。
カッコいい。
僕も、僕もいつか二人の隣を歩いてみたい。
「いくぞ、ベル。うちの飯は戦争だからな」
「はい!今行きます!」
朝来ていた服とは別の服に着替え、食堂に向かう。
食堂に入るとカウンターにキッチン、その後ろにはお酒や調味料が瓶に保存され綺麗に整頓され。大きな机と長椅子が並べられ。
机の上には大皿に山盛りの唐揚げやチャーハン、肉団子など色々な種類の料理が並べられていた。
「やっと来ましたか、男性陣諸君。皆さんお腹を空かせて待っていますよ」
カウンターの内側でスープを器に注いでいる病的なまでに青白い肌をした灰色の髪をした改造したシスター服を着用したヒューマン
「お~い!早く座れよガレリア!」
席を立ちあがり、ガレリアに向かって手を振っている顔に斜めの傷痕があるアマゾネス。
ベルは初日に【パンドラ・ファミリア】に来た時に聞いた叫び声の中にあった声だった。
「叫ばなくても聞こえてますよ、ネルベ」
やれやれ、と首を振りながらガレリアさんは、ネルベと呼んだアマゾネスの隣に座ると首に抱き着かれていた。
「ベルは、ネルベと顔を合わせるのは初めてか。彼女はネルベ・ウリベス、見た目通りアマゾネスで、ガレリアの彼女だ」
「え、彼女!?」
ライナさんの説明を聞きながら再度、ガレリアさんの方に視線を向けるとあ~ん、とネルベさんに肉団子を食べさせられていた。
「気を付けろうよ、ネルベは怒らせると怖いからな。ほらベル、座れ。飯を食うぞ」
「はい」
「さあ、どうぞ」
「ありがとうございます」
スープの入った器を差し出してきたヒューマンから、お礼を言いながら器を受け取るベル。
「ライナさん、彼女は?」
「ああ、イーシャ・ログノヴァ。うちでシスター兼家政婦をやってる。一応冒険者だが、基本は
見た目はシスター服にほんわかとした雰囲気からは想像する事はベルには出来なかった。
騒がしい、昼食を終え。午後の実戦訓練が始まった。
午前中の実戦訓練では愛剣を独特な体勢で構えていた。
右手の肘を曲げ前に出すように構え、左手は背中側に回し腰に当てている構え、体の右側面をやや前方に向け、左側を左後方に向けた斜めを向いた姿勢。
「この構えは本来、レイピアやエストック、スティレットなど刺突を攻撃の主軸とした武器での構え方。場合によって空いている手の方にバックラーという盾を持つ事もあるけど片手なら外側に向いた左腰と左膝によって攻撃に伸びと速度。つま先が弾力のある足さばきを生む」
その言葉通り、師匠の刺突攻撃はまるで腕が伸びたかのように迫ってくる。
小人族の短い腕、刃渡りの長くない短剣が鞭のようにしなっている、と錯覚するほどタドミールが顔の側面に構えたダガーの刀身に擦れ火花を散らしながら後方へと流れる。同時に師匠の体はその動きに釣られて体勢を崩した。
よし!今回は上手く出来た!
「受け流しをしたらすぐに次に移る。敵の隙は見逃さず同時に自分の隙は見せないか、出来てしまうなら別の手段で補えるように!」
受け流しが上手くいった事を喜んでいると僕の背中で受け流しによって出来た流れをその場で左向きに回転する事で即座に体勢を立て直し、回転による遠心力の加わった回し蹴りが腹に一撃。
「げふっ!?」
思わず膝とつき痛みに堪えていると背中に柔らかい感触が襲ってきた。
「うえ、師匠?」
「ちょっと休憩だ。今の動きは良かったぞ。受け流しは基本V型とA型の二つの方法がある。切っ先を横に振って払えばV型、切っ先は相手に向けたまま柄を動かすやり方はA型。V型は相手の刃が滑った場合自分自身の体に当たる危険があり、A型は同じ場面になっても即座に反撃が可能だ」
「ならA型の方が強いんですか?」
「いやそうとも限らない、この話はあくまでも剣と剣の戦いの話だ。相手が槍や斧、メイス、棍棒など武器によって対処に仕方、そもそも受け流しが出来るのかも変わる。でも自分にとってやりやすい方は決めておいた方がいい、戦ってる最中にどっちにしようかなんて迷ったら数秒は命取りだ」
「癖をつける、ですか」
「相手がどう動いたら自分ならこうするっていうイメージトレーニングをするんだ。ベル仮にさっきと同じ場面で受け流しが成功した瞬間、体勢を立て直されて反撃として回し蹴りされた時お前はどうする」
「え、えーっと」
「答えが遅い!私がお前の体格だったら右肘で蹴りを防ぐか、攻撃を受けたとしても相手の脚をダガーで斬り付ける。少なくとも防御か、最悪相手に攻撃を与える。団長位の体格と獲物だと相手の側頭部を柄頭で殴りつけるだろうな、あの人武器はシンプルだけどだからこそ応用が高くて強い」
「ライナさんの武器ってなんなんですか」
「ロングソードさ、少し飾り装飾はあるけど柄頭と鍔が鈍器をして活用できるように独特な加工の施されたシンプル・イズ・ベストな片手直剣。一本でアダマンタイトを大量に使って製作されて頑丈性と切れ味を誇る名剣だ」
懐かしー、という師匠は今朝の不機嫌そうな顔とは違い、どこか気楽そうな顔をしているのは気のせいだろうか。
ガレリアさんが言っていた、彼女はスラム出身だったと。
故に強者と弱者の線引きをすると。
僕はまだ弱者なんだろう。
「師匠、訓練の続きをお願いします!」
師匠の椅子になった体勢のまま叫ぶと、僕の事を見下ろしながら少し笑い。
「いいね、強さに貪欲なのは凄くいい。それじゃ続きをしよう。折角だ今度は攻撃のコツでも教えておこうか」
「はい」
こうして休憩を終えて、僕はまた実戦訓練を再開した。
今日を入れて六日後の入団試験に合格する為に!