ベルはシルファは共にオラリオの中心にして冒険者とファミリアと統括している自治組織ギルドの元に冒険者登録をする為に向かっていた。
「ベルはギルドに行った事がありますか?」
「オラリオに来た初日に行きました」
「なら一つアドバイスをしておきましょう。ギルドは冒険者の敵ではないが決して味方ではありません」
「それはどういう…」
「ギルドだけが魔石に売買を行っているのは知っていますか」
「はい、魔石は食品の保管や街の灯りにも使われてる素材ですよね」
「魔石はオラリオの名産品にして生活を豊かにするのに必須な素材。冒険者がモンスターを倒し入手した魔石を買い取り加工、売買をすることで自分たちはダンジョンという危険地帯に足を踏み入れずに利益を生み出せる。魔石に売買をギルド以外禁止しているのも自分たちの決めた市場価値のバランスを保つ為でもあり、それとギルドの傘下であるファミリアや個人はキルドからの
「冒険者が冒険者である為に必要な庇護はギルドから受ける反面、逆らう事が出来ないんですね」
「そうです。故に敵ではないが味方でもない。あくまで共生関係ってだけさだから彼らを信頼するのはいいが信用はしない、いいねですね」
「…はい」
どこか釈然としない様子でベルは返事を返す。
「信用と信頼、その線引きは貴方自身を行うものですから口出しはしませんよ。さあ、つきました」
会話をしているうちに二人はギルドの目の前まで到着。
周りには装備を整え、いざダンジョンへと意気込んでいる冒険者たちが大勢いる。
ギルドの中に入りカウンターに進んでいく。
「あれ、ベル君とシルファさん?」
「エイナさん!」
茶髪の髪に眼鏡をかけた女性ハーフエルフ、エイナ・チュールだ。
「僕、冒険者になりましたよ!」
「良かったねって……シルファさんが一緒って事は…まさか!」
「はい、『パンドラ・ファミリア』に入りました!」
「うっそ~~!?」
頭を抱え叫ぶエイナ。
その声に反応したギルド職員や冒険者たちはあの『パンドラ・ファミリア』の入団員であるベルの事を観察していた。
「おい、あの子、パンドラ・ファミリアだってよ」
「マジかよ、超スパルタって有名だぞ、あそこ!」
「
「もしかしたらコネで入団したんじゃ…」
「んなわけあるかよ、あそこの団長はライナだぞ。コネなんて一ヴァリスの価値もあるかって蹴るさ」
「って事はマジで訓練にも耐えたのかー、すっげえな俺は絶対無理だわ」
周りで口々に会話が飛び交う。
「ベル君ちょっとこっち!」
「え、えぇ~!?」
情報を処理しきれず叫んでいたエイナは我に返ると慌てて、ベルの手を取り個室へと飛び込んで行った。
「私が来る意味あったのやら…」
面倒、と言わんばかりにシルファは溜息をこぼしながら、とぼとぼと二人は飛び込んで行った個室へと続く。
「ちょっとベル君、パンドラ・ファミリアに入団って「本当ですよ、エイナ・チュール」シルファさん」
個室のドアを開けて入ってきたシルファの姿にエイナは本当の事なのだと再認識した。
シルファは他人の冒険者というものに興味が薄い。名前どころか顔すら覚えていないなんて話はよく聞くレベルだ。
「ベルの教育はティキが担当。君がアドバイザーとしての彼の面倒を見る時間が必要と言うのなら団長であるライナさんに伝えますが」
「アドバイザー?」
聞きなれない単語に首を傾げるベル。
「えっとね、ギルドが持ってるダンジョンのマップや特徴、モンスターの種類や対処法なんかの持ってる情報を教える勉強会みたいなものがあって冒険者が希望すれば受けられるの。パンドラ・ファミリアは団員も多いからわざわざ受けなくても教えてくれると思うけど」
ちらり、とシルファの方を見るエイナ。
ライナやガレリアなど長く冒険者をしている人物のいるパンドラ・ファミリアからすればギルドの所持している情報など知っていて当たり前な物が多い。正直も言ってしまえば受けるメリットは無いに等しい。
「受けるか、受けないかは君が決めなさいベル」
「…僕は受けたいと思います」
「…ベル君!」
「いいでしょう。週に休みは一日で他の日は団員との訓練となっていましたが一日はギルドでの勉強として予定を組みなおしましょう、いかがですか」
「はい!ベル君みっちり教えるから覚悟しておいてね!」
「それではベルの冒険者登録をお願いします。この後、装備も取りに行かなくてはいけないので」
「はい、今書類を取ってきますね!」
いい笑顔で手続き用の書類を取りに個室を出て行ったエイナ。
「一つ良い事を教えましょう。ベル。エイナチュールはアドバイザーの中でもスパルタとして有名です」
「……え」
「文字通り覚悟しておく事をおすすめします」
初めてきく情報に唖然とするベルを見ながら、シルファはからかいがいのある子だ、と心の中で思っていた。
@ @ @
少し騒ぎはあったものの無事にベルの冒険者登録は完了。
「次は装備の受け取りですね。使っていたダガーはポッキリ折れて使い物にならず、ライトアーマーはベッコベコで服もズタボロ。装備は冒険に向けて一新しないといけません」
「ダガー、折れてしまったんですね」
「長年の経年劣化に訓練での酷使、ライナさんの攻撃を数界防げただけでも十分役目を果たしでしょう」
「そう、そうですね」
武器も防具も冒険者ともなれば数えきれないほど使い潰すし無くしもする。
刃こぼれ、破損、敵からの逃走中に喪失など数えきれないほどだ。その度に感覚的に似た装備を探しては手に入れて行く。
バベルのすぐ近くに本拠を構える鍛冶系ファミリアの一つ『ヘファイストス・ファミリア』
鍛冶系のファミリアの中でも武器に装飾が施された性能と同時に見た目も飾られた武器や防具を作成する派手好きな冒険者が比較的好む作品が多く、オラリオにおいて鍛冶系ファミリアの上位に位置するファミリアである規模を誇る。
「高すぎませんか!?」
並んでいるゼロを指で数えていくベルはその額が自分の全財産を使ったとしても使う事の出来ない額の短剣を目の前に驚愕した。
「それでも安いほうですよ。私は武器は一本で九九十万ヴァイスですし、ライナさんの愛剣ならば桁はもう一つ上にいきます。ほら、下級冒険者はそれにあった武器が売ってる場所に行きますよ」
「別の場所…ですか」
「ファミリアに入った鍛冶師の作品はすぐに売れませんなので最初は安く売って顧客を増やすんです。冒険者のレベルアップのように地道な努力が実を結ぶのです
一階、二階と階を上がっていくと武器は商品棚所か樽や木箱に乱雑に並べられていた。
武器についた札には五千ヴァリスや一万ヴァリスと書かれて上から斜線が引かれ三千ヴァリスと横に書かれている物もある。
「この辺りのお店は名を売れると同時に自分の武器を好んでくれた冒険者と顧客の関係になる事を狙っている鍛冶師が多い。色んな種類の武器もあるありますからこの武器を探してください」
「はい!」
目をキラキラさせながらベルはお店の奥へと消えていった。
「選ぶの自由ですが使えるかは別ですかね」
シルファも買う事はしないがふらふら、とお店を物色していく。
ツーハンドソード、ロングソード、ダガー、レイピアなどシンプルなものからピッケルやスコップなど武器なのかと疑問に思うものまであるがこれらにもある程度の需要が存在する。
「最低限、投擲と投げナイフ、弓の使い方は教えておかないといけませんよね」
壁に立て掛けられた弓を見つめながら新人には教えなくてはいけない事が多いと頭の中で整理していると奥でしゃがみ込んでいるベルを見つけ近づくと眺めていたのは前の武器と同じダガーだ。
前とは多少形状が事なり少し刃は幅広で分厚く頑丈性もある。
「良いのが見つかりましたか?」
「はい!やっぱり僕はダガーにします」
「そうですか、ならそれを買っていきましょう。貴方の防具と私の整備に出した武器も取りにいかなくてはいけませんから」
「シルファさんの武器もですか」
「ええ、同じ職人に頼んでいます。私との直接契約をした高レベルな鍛冶師ですから技術は申し分ない」
フロアを移動していくとさっきまでの露店のような雰囲気とは一変。工房と個室が並んでいる。
シルファは慣れて様子でノックもせず扉を開けた瞬間、二人は猛烈な熱風を全身に浴びた・
「あっつ!」
「隣は工房ですかね伝わってくる熱だけでこの状態です。椿!椿!頼んでおいた防具と私の刀の整備は終わってますか!」
奥まで響く凛とした声でシルファが上げる、と奥からお~、と返事が返ってきた。
「誰か手前を呼んだ…おぉ!シルファか!待っておったぞ、そっちの小さいのが新人か!」
奥の工房から出てきたのは大きな胸にサラシを巻いただけの格好をしたハーフドワーフの椿・コルブランド。
「頼んでおいたものは出来てますか?」
「出来とるぞ。防具の方は修復済みだ。にしても何をしたらあんな壊れ方をするのやら」
カウンターの内側からドカ!と出した木箱に入っているベルが身に着けたいらライトアーマー。
「ライナさんの『サンコウジン』を受けたらですよ」
「ほう!その坊主、『
椿はカウンターをバンバンと叩いて大はしゃぎだ。
「あの剣聖っていうのは?」
「なんだ知らんのか。スキル「
くつくつ、と笑う椿とは反対によくそんな人と戦って生き残ったな、とベルは冷や汗を流していた。
「ベル。貴方は受けたのは一斬撃のみ。あの魔法は複数回の斬撃を内包した技は本性ですから本気で使っていれば闘技場を破壊した上でオラリオの外壁まで斬りますから。それよりも私の武器も出して欲しいのですが」
「そうだったな、ほれお前の刀じゃ」
カウンターに並べられて二振りの双刀。
黒い鞘と赤い柄。
シルファは一振りを手に取り鞘から刀身を抜くとその刀身は酷く薄かった。
「…薄い、ですね」
「これは東洋の武器で刀と呼ばれる武器です。ライナさんのロングソードが力と重さで対象を斬るのに対して刀はその鋭さで対象を斬るものです。『
「ええ!?」
「それように鞘にも『不壊属性』がついていますので」
「出たな、『パンドラ・ファミリア』の野生本能と言うべき脳筋思考が…まあ、なんだっていい。ほらお代は前に貰ってから持っていけ!」
「ベル、私たちも帰りましょう。今日の予定はこれからですから」
「他に何かありましたっけ?」
「いいから行きますよ」
「は、はい!」
バベルを出ると既に日は傾き、夕暮れに時となっていた。
「ベル、貴方が冒険者をやっていく間ずっと『パンドラ・ファミリア』の名がつきまといます。『パンドラ・ファミリア』は出来てそれほどの歴史は無いですか、実力がある事で上位のファミリアとして認知される反面、その成果を気に入らない者たちも少なからずいます」
「…はい。それは今日のギルドで他の冒険者たちが話していた小言を聞いて理解しました」
「私は個人の意見ですが『パンドラ・ファミリア』より好きな人であるライナさんの方が大事なので彼とファミリアとどっちを取るかと聞かれれば彼を取ります。私はそういう人間です。必要であれば大切な物の為に他者を切り捨ても、傷つけもします。ライナさんはファミリアを大事に思っているので一応は私も守る事を第二くらいには考えていますが。君が英雄になる道の中でした選択が、君が何かの決断をした時、ライナさん自身と彼の大事に思っているファミリアを傷つけるような事になれば君を殺します。これは私から宣言です」
「―――はい」
「今の話は二人だけの秘密です。うちには色々と個人的な問題ややりたい事を持った人が多いので他のファミリアと少し違う部分もありますが、その辺りは団員と触れて自分で確かめてください。さて次の目的地に到着ですよ」
「ここって本拠じゃ…」
「おー、帰って来たか。遅いぞ主役!」
門に体を預けるように立っているライナが二人を出迎えた。
「ほれ、行くぞ」
「え、ちょっ!」
ベルの持っていたライトアーマーの入った木箱を奪うと奥へ進んで行くと食堂の大机にはいつもの食事に三倍はありそうな量の料理が並んでいた。
「これは…」
「お前の歓迎会だ。うちは何かあれば祝うのさパンドラの言いつけでね。ほれ、主役は真ん中の席だ座って待ってろ直ぐに全員集まるぞ」
背中を押されて恐る恐る席につくとライナやシルファ、ガレリアや他の団員たちも全員席につき酒やジュースを各々手に持った。
「全員と主役も揃った事でベルの歓迎会を始めよう。ベル・クラネル立て」
「は、はい!」
「今日、入団したベル・クラネルだ。彼は背に我ら『パンドラ・ファミリア』の証を刻んだ。彼の夢は“英雄”になる事。彼の夢を笑う奴が出てくるだろう。だが俺たちは笑わない。血が繋がらなくても俺たちは同じ旗印を掲げた家族だから―――乾杯!」
「「「家族に!!」」」
ライナがより高くコップを大きく上げると他の団員もそれに続いた。
「か、家族に!」
ベルも一拍遅れて持っていたコップを高く上げて音頭に続いた。
音頭が終わると同時にコップを傾けあっちうまに酒やジュースを胃に流し込んでいく姿にベルは唖然としながら手に持ったコップを傾け注がれているジュースを喉を鳴らして飲み干していく。
「ぷっはぁー!」
「良い飲みっぷりだがご飯も食べるんだぞ。ベル」
「パンドラ様」
「凄まじいどんちゃん騒ぎだろ?」
「ええ、まあ」
山盛りの唐揚げを頬張るライナの横でその食べっぷりをつまみにワイングラスを傾けるシルファ。あ~ん、と食事を差し出すネルベ、とそれを当たり前に受けるガレリア。静かにコップに入った酒を傾けつつカットされたステーキを口に黙々と運ぶティキに皆の食べっぷりを楽しそうに眺めるイーシャ。
「忘れないうちに自己紹介をしておこう、オレっちはマクロ・オルガン。武器は弓矢で元狩人さ!獲物の仕留め方と解体の仕方が知りたかったら声を掛けてくれよ!」
空いていたベルの隣に勢いよく腰を掛けてきた迷彩柄のポンチョを身に着けた赤い髪の
「はい、よろしくお願いします」
「元気ないなー、一杯食べた方がいいぜ。なにせ明日から君が地獄のような修練の日々が始まるのだから!」
片手にコップ、片手に肉串を掲げ宣言するように椅子の上に立ちあがるマクロ。
「マクロ、椅子に立つな行儀が悪い。挨拶が遅れて済まないベル・クラネル。ボクは魔導士のカフカ・オフィラだ、よろしく」
「はい、お願いします!」
「ほら、マクロ、お前は向こうで食べろろ、ピュアな少年に悪影響だ」
「おいおいカフカまるでオレっちが少年にとって害悪だとでも言いたげだな?」
「ああ、行儀も悪ければ、態度も悪い、親が子供に見てはいけませんよ、と注意を促す典型的なダメな大人の見本。分かったらあっちで食べるぞ」
「なんだ一緒に食べたいのならそう言えよ!お前のコップに酒をついでやろうじゃないか!」
「はいはい…ベル、楽しんでくれ」
無駄にテンションの高いマクロとテンションの起伏を感じないカフカは二人で話しながら離れて行く姿をベルは眺めていると。
「面白い組み合わせだろ?」
「え、はぁ…」
「ああ、見えて背中を預け合う相棒同士さ。弓使いのマクロと植物の魔法を使うカフカ。性格も違うが馬が合うらしい。君はこれからこのファミリアで多くの者と言葉を交わし同時に戦場を共にする。気遣いはほどほどにしておけうちの団員が変人が多いが面白い奴らが多い。見ていると飽きない奴らばかりさ」
クフフ、と笑うパンドラにこの人もなかなか、と思わず苦笑いをしてしまうベル。
「君の明日から予定だけど軽く話して置く」
「うぐ…ごっくん、はい!」
口に含んでいた唐揚げを飲み込み慌てて返事を返すベル。
「食べたままでいいぞ。まずは団員から技術と心得を学び、ギルドで知識をつけることだ。訓練の内容は団員たちに一任してあるから頑張ってくれ」
「はい!」
パンドラの言葉に元気よく返事をしたベルは翌日から始まった本格的な訓練の過酷さをまだ知る由もなかった。