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数年ぶりのトレセン学園。パッと見はそう変わった所は見受けられないが、色々変わっているんだろう。
この数年で同期の連中もまだレースを走ってる奴もいれば引退した奴もいる。何人かはSNSや電話でやりとりしていたが、かなりの数の同期がレースから離れ新たな道へと進んでいる。
その中でもアタシが今一番知りたいのは、
「なぁマル、新しい理事長ってどんな人なんだ?」
そうアタシをアメリカへ送り出してくれた理事長はアタシがアメリカに行った一年後に理事長の席を辞した。高齢もあり職務を全う出来なくなったと後進に席を譲ったのだ。
なのでアタシは新しい理事長のことは詳しくは知らない、一応電話で数回話したことはあるんだが。女性で変わった話し方をするくらいしか印象がない。
「そうね、熱意があってウマ娘のことを第一に考えてくれる人よ。シズクも気にいると思うわ」
結局は会わないと分からないってことだが、まぁ悪い人間ではないと思っている。なんせ推薦が有ったとは言え、こんな若造を招集するんだ。かなり思い切りの良い面白い人に違いない。
今日は日曜日で生徒が居ない校舎をマルに連れられ歩く。アタシには懐かしい風景だが、後ろを歩くタキオンにとっては特別なんでもない物で暇そう目をしている。
タキオンはこの学園の生徒として転入することになっている。最初はそれに御涅ていたが、それ以外だといつ来れるか分からないらしく妥協したらしい。
「何処にでもある普通の校舎だね、何処かに良いモルモットが居ればいいんだが」
「おい、タキオン。最初の三か月は大人しくする約束だろうが、破ったら飯作らねーからな」
アタシの言葉にタキオンは頬を引き攣り。
「兵糧攻めは止めておくれよ、シズクの料理を三日以上抜かれると禁断症状が出るんだ。頼むから、大人しくするからそれだけは止めておくれよ」
アタシの料理はヤバい薬かなんか!
てか、それなら作る回数を減らした方が良いんじゃないか?
「シズク、今不穏なこと考えていないかい。な〜止めておくれよ〜、シズクく〜ん」
「えーい、ゆさゆさ揺らすな。縋りつくな!」
何か感じとったのか、アタシに縋りつき揺さぶってくるタキオン。全く出会った頃はあんな無関心な目をしてた奴だったのに、どうしてこうなったんだか。
そんなタキオンを遇らっていると前を歩くマルがこっちを見ていることに気づく。
「どうしたマル?」
「いや、仲が良いなって思って」
仲が良いね?悪くはないと思うが、どちらかと言う同じ目的を持った相棒で今だと寄生して来る困った奴なんだがね。
「まぁあっちで同じ研究してたしな、こんな奴だが頭は良いんだぜ。こんな奴だけど」
「こんな奴とは失敬じゃないか、一緒にベッドで朝を迎えた仲なのに」
「なぁ!?どういう事なのシズク!」
タキオンの一言で顔を赤くしたマルがアタシに掴みかかる。なに想像してんだよ。
「研究室で徹夜して寝落ちしたコイツをベッドに運んでアタシもそこで落ちただけだ。タキオンも勘違いさせてんじゃね、マルもなに妄想してんだムッツリかよ」
顔の赤いマルと悪い笑顔のタキオンを引っぺがす。その後何故かマルとタキオンはお互いを睨み合っているが何がしたいんだか。そういやアメリカに居た時もタキオンはアイツとよく睨み合いをしてたし、そういうのが趣味なのかね。
とは言え、こんな所で時間を無駄遣いする訳にもいかない。
「おい、二人とも時間がねーんだ。遊ぶのは後にしろ」
アタシは二人に声をかけた理事長に向かう。この学園元生徒だ、中身はまだ記憶にある。アタシが迷い無く歩いていくので後ろの二人も慌てて着いて来る。まだお互い何か言い合ってるみたいだが、仲が良いのか悪いのか。
※※※
理事長との初対面はアタシの予想を大きく裏切ったものだった。
「歓迎!よく招集を聞き入れてくれたヒトシズク、君の彼方での活躍は私も何度も聞いている。本当ありがとう」
笑顔でアタシに歓迎の意を伝える理事長。ただ何というか、
「お若いんですね、理事長」
「うむ、先代から理事長の席を託されて数年が経ったが私もまだ若輩者。まだ至らぬこともあるかもしれんが、共に学園を良くする為に頑張ろうではないか」
アタシもそこまで背は高くないが、理事長はそれ以上に低い。顔も童顔だし、本当に成人してる?と疑問に思ってしまう。声は電話の時と一緒だし、ドッキリとかそんなんじゃないだろうが。やっぱ人体の神秘は謎が多いもんだ。
「アタシの話もなんですが、コイツの手続きは?」
「うむ、アグネスタキオンの生徒として編入は問題なく済んでいる。研究者として希望だったが、申し訳ない其方は急なこともあり難しかった。それと出来ればアグネスタキオンはレースに出ることを望む。学園の生徒として、又アメリカで注目された選手だった君の走りを見せて欲しい」
その理事長の言葉に、
「ふむ、研究の時間を削られるのは私としても嫌なんだが。勿論なにかメリットともあるんだろうね?」
強引に割り込んできた癖に要求するのは素なのか、それともアメリカでのやり取りの普通なのか。多分両方なんだろうが。
「まず当たり前だが、走らないことによる外部の圧力は無くなる。この学園はウマ娘育成の教育機関なのだ、それは理解して欲しい。それとメリットとだが、内部には君やヒトシズクに対する懐疑的な勢力もある。君が結果を出すことでその勢力を黙らせ、将来的な君の立場も優位になるだろう。勿論、結果が出始めれば学園としても援助がやり易くなる」
理事長の言葉に少し考え。
「まぁ欲張りすぎるのも問題か。良いだろう、だが出るレースは此方で決めさせて貰うよ。それとトレーナーはシズクにして貰う」
タキオンの要望に驚く。
「おい待てタキオン、確かにアタシはトレーナー資格は取ったがそれはリハビリや治療技術も加味した奴だ。身体を鍛えることは出来るが、レース戦術やら無理だ」
アタシは資格もとり知識はあるが、トレーナーとして才能は高くない。それでもリハビリトレーニングなどの為にトレーナーとして所属になっている。
「トレーナーとして君の才能は理解している、だからそこは自分でなんとかするさ。それに私を私以外で理解しているのは君だ、上辺だけの奴ら指導されるのはごめんなのさ」
あー変わり者が多いウマ娘の中でも有数な奇ウマ娘だもんな、マッチングするトレーナーを見つかるのも確率は低いかもな。
理事長も此方に視線を向ける。彼方としても臍を曲げられるも困るし、妥協ラインなんだろう。
「分かったよ、健康管理やレースの出走手続きはしてやるよ。まったく仕事を増やしやがって」
でもそうなると、もう一つ問題が出る。それはアタシの隣で目を輝かせるマル。
「ねぇシズク、それなら私も「ダメだ!」…何でよ!」
「当たり前だ、お前にはハナさんていうトレーナーがいるだろうが。それに恩のあるハナさんの教え子を奪うなんて出来る訳ねーだろが」
マルはドリームシリーズに転向してるとはいえ、ハナさんが率いるリギルのメンバーだ。ハナさんが手塩に育て結果を残したマルが実績のないアタシに移籍したら色んな憶測を呼ぶだろう。
ハナさんは困りながらも許してくれるかもしれないが、周りはそうじゃない。流石にこれ以上問題を抱えることは出来ない。
「ぶー、空いた時間は入り浸ってやる」
不貞腐れるマル。いい歳して我儘言ってんじゃね。
さて、アタシは理事長に向き直り。
「騒がしくてすいません、それで業務のことですが。トレーナーや生徒の認知はどうなんでしょうか?」
学園にはリハビリトレーナーは複数人所属している。そんな中、同じウマ娘とは言え年も若くキャリアもない奴に頼るのは少ないだろう。それにアタシが習った治療・リハビリは曰く付きなアレだ、未だ懐疑的な人も多いんだよな。折角戻って来たのに閑古鳥は困るしな。
「うむ、それなのだが既に君に担当して欲しいウマ娘は決まっている。そろそろ来るはずだ」
その時タイミングよくドアがノックされる。
「来たようだ、入ってくれ」
「失礼します」
ドアが開けられアタシの耳に聞き覚えのある声が聞こえる。
アタシが振り向いた先に居たのは、
「久しぶりだなヒトシズク、それと紹介しよう。こっちが君に見て欲しい私の教え子だ、フジ挨拶を」
「初めましてフジキセキと言います。先生なら私の足を治せると聞いています、どうかお願いします」
リギルを率いる凄腕のトレーナーの東条ハナさんと、すんげーイケメンなウマ娘が居た。
※※※
理事長室から出たアタシ達は、既に用意されていたアタシの専用ルームへと移動した。
「しかしハナさんの担当をしているウマ娘が最初の患者とはね」
人数分いれた紅茶を飲みながら話す。
「驚くのはこっちの方よ、まさか貴方がアレを習得して戻って来るなんて。貴方が彼に弟子入りしたって聞いた時は学園の一部が大騒ぎになったのよ」
あーハナさんはアレについて知ってんだ、それでもアタシを指名するってことはマトモなやり方じゃ駄目な事情があるってことか。
そんな話を少し不安そうに聞くフジキセキと興味深々な表情のマル。
「ねぇシズク、アレって何?」
まぁ気になるわな、どうせ説明しなきゃならんし。
「アタシがアメリカで覚えた鍼灸の流派みたいなヤツでな。その名を五斗米道(ゴッドヴェイドー)と言うんだ」
「「ごとべいどう?」」
「違う、ゴッドヴェイドーだ!」
んーやっぱり才能が無いと正しく発音できないのは面倒だな。
「んで、そのゴッドヴェイドーなんだが」
説明!
ゴッドヴェイドーとは古代中国で生まれた鍼を主要とした治療方法である。文献などから三国志の時代では集団で活動していたと言う記述もある。
そのゴッドヴェイドーが奇術扱いされている理由は、気を使って治療を行うことに由来する。又鍼を刺すだけなのに吹き飛ばされるなど奇怪な現象が起こったなどの記録もある。
しかもこのゴッドヴェイドーは一度失伝し、歴史から消えているのだ。
それを復活させたのは、ゴッドヴェイドーによって命を救われたことのある古代中国時代のウマソウルを見に宿したウマ娘達なのである。
セキト、ゼツエイ、テキロ。その三名が中心となり魂に宿る記憶を探りゴッドヴェイドーを復活させたのである。
だが問題もあった、ゴッドヴェイドーを扱うには才能が必要であり科学では説明出来ないことばかりなのだ。そのため使い手は少なく、今現在に置いても懐疑的に見る者も多い。
それでもゴッドヴェイドーの使い手は日夜病魔駆逐のため世界を駆け巡る。闘えゴッドヴェイドー、世界から悲しみが無くなるその日まで。
564書房より
「って話なんだ」
アタシの説明に何とも微妙な顔をするマルとフジキセキ。ハナさんはその二人を見てさもありなんと言った表情だし、タキオンに至っては愉快そうに笑みを浮かべている。
「つまり、シズクは孫○空になったってこと?」
「アタシは空を飛ばねーし、スーパーウマ娘になんかならねーぞ。まぁざっくりと気って言うなんか不思議な力で治療されると思いな」
マルのとんちきな質問にアタシはそう返す。結局大事なのは理解することじゃ無くて、その力で怪我が回復するかどうかだ。
「んで、フジキセキ」
「は、はい」
アタシは姿勢を正し、フジキセキに向き合う。
「アタシの治療は説明しても理解が追いつかない物だ。勿論治療は真剣にお前を完治を目指し行う。でもな、治療ってのは実行者だけが頑張ってもしょうがねーんだ。患者も頑張って、二人三脚で行うもんなんだ。その為には信頼関係が必要だ、お前の左足。多分炎症みたいだし屈腱炎かなんかだろう、時間はかかるし日常生活でも注意しなきゃならんことも多い。お前はアタシを信じることは出来るか?」
フジキセキはアタシが屈腱炎と言った時に驚きの顔を見せ、隣に座るハナさんを見る。
ハナさんは同じく驚いた顔で首を振ったのを見て、顔の真剣さが増す。
そして、
「まだシズク先生を完全に信じられるか分かりません、でも私はターフに戻りたい。あの輝く世界でまた走りたい。その為ならどんな辛いことでも乗り越えてみせます。シズク先生、どうかお願いします。私の足を治してください」
アタシを真っ直ぐ見つめそう言い頭を下げるフジキセキ。そしてそれに合わせてハナさんも頭を下げる。
「シズク、大変なことは分かっている。だがフジには才能がある、こんな所で潰れていいウマ娘じゃない。どうか頼む」
ウマ娘の為にこんな若造にも頭を下げる、ウマ娘のトレーナーって言うのは本当にウマ娘が大事なんだと理解できる。
こんな姿を見せられたらゴッドヴェイドーの継承者として奮い立たない訳がない。
「二人とも頭を上げてくれ、そうじゃないとこれから話が出来ないだろ」
アタシの言葉に二人は揃って頭を上げ、
「それじゃ」
「ああ、フジキセキの治療の依頼了解した。アタシの全身全霊を掛けてフジキセキ、お前をターフに戻してやる。頑張ろうな」
アタシはフジキセキに右手を差し出す。フジキセキはその手を数秒眺めた後力強く握り返し。
「はい、シズク先生。お願いします」
こうしてアタシの二度目トレセン学園の生活が始まった。