一雫の波紋   作:雪見沼

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フジキセキの章のラストです。
次回は別の子に焦点が当たります。


煌めきのウマ娘フジキセキ そのニ

ヒトシズクの処置室はチームの部室寄り、そして全ての建物から一定の距離離れた場所にある。まずこの処置室はシズクを学園に推薦した前任者が使用していた物であり、その前任者はシズクにとってゴッドヴェイドーの姉弟子に当たる人物でもある。

 

ゴッドヴェイドーの継承者は病魔覆滅を旨に活動しているが、かなり個人主義な人物が多い。特に前任者はその面が強く、余り学園関係者との交友を作ることが無かった。そして時間が有れば悩めるウマ娘の前に現れ微妙な確率のツボに鍼を刺す行動をとる変わり者だった。

とは言え、変わり者でもゴッドヴェイドーの継承者。この場所に処置室を作った理由はちゃんと意味がある、一つはゴッドヴェイドーの処置を望むウマ娘達はかなりの難病だ。そしてその大半がチーム所属なのである。出来るだけチームの部室に近い場所、そういう配慮。そしてもう一つが。

 

「んぅっ!…せ、せんせい、す少し休ませて…」

 

「何言ってんだ、まだ始めたばかりだろ。それと声をがまんすんな、ここは人もこねーし同じ女同士だ。恥ずかしがってもしょーがねぇだろう」

 

「そんな、あっ深い!」

 

処置室から漏れる怪しい声。チーム部室より防音処理された建物だが、それでも完全では無いしウマ娘の優れて聴力では近づき耳をすませば聞こえる大きさだ。

しかもその声を出しているのが、ウマ娘でありながら女性ファンを魅了する学園一のイケメンウマ娘フジキセキなのである。もし聞かれることがあれば、すぐに学園中に広まり黄色い歓声が飛び交うことだろう。

 

「それに身体にいい事なんだ、我慢せずに素直に受け入れちまえ」

 

「あっあっ、だめです先生。わ私ダメにダメになっちゃう!」

 

処置している者は全く気にしていないが、この声をドアに耳を当て聞いている者がいたりする。

 

「なななな…シズクがアメリカに行ってもっとタラシになってる!」

 

今日も今日とてシズクの元にやってきたマルゼンスキーだ。マルゼンスキーはその優れた聴力でドアをノックする前に中の声に気づいてしまった。

その声を聞いた瞬間ボルテージマックスで処置室に突撃しようとしたのだが、ドアノブを掴んだ瞬間に一瞬冷静になる。

シズクは確かに無自覚なタラシだ。ウマ娘の園であるこの学園にも関わらず、その面倒見の良さもありかなり慕われていた。だがシズクはノーマルだ、アメリカへの見送りの時だってあの反応だった。そのシズクが自由な国のアメリカに数年居ただけで、性癖まで自由になるだろうか?

それに責められて?声をあげているのはあのフジキセキだ。シズクとはベクトルは違うがフジキセキもタラシだ。フジキセキは意識してやっている分最低限の線引きはしっかりしてるが、大きな分類では一緒だとマルゼンスキーは考えている。

そんなフジキセキが会って一週間程度でウマぴょいするとは考えられない。そうだ、これは私に気づいた二人が仕掛けた罠だ。あの二人はどちらも人を揶揄うことがある、意気投合すればコレくらいやりかねない。

そう考えが至ったマルゼンスキーはドアノブから手を離し、またドアに耳を付ける。

あの二人が我慢出来ない位まで粘って、止めた所で入ってやろう。そう思ったのだが、

 

「せ、先生!そこはダメ、そんな奥まで!」

 

「こんなに固くなってるじゃないか、どんだけ溜め込んでんだ。ほら此処だって」

 

「あっ、そこは。あっあっ」

 

艶めかし過ぎる。演技だと思っているのに自分の身体が熱くなるのがマルゼンスキーは分かる。これはもしかして、本当に本当じゃないんだろうか?

そうマルゼンスキーが思い始めた時、

 

「うし、これで〆だ。気をしっかり保てよ。ふん!」

 

「ダメダメダメ、先生先生。あーーーーーーー!」

 

演技と思えないフジキセキの艶声にマルゼンスキーの限界も超える。

ただただ激情に身を任せドアノブを握りしめ。

 

ばん!

 

「なにしてるのよ、シズクーーーーーーーー!」

 

勢いよく扉を引き開け、叫ぶ。そしてマルゼンスキーが見た物は。

息絶えな状態でうつ伏せになっているフジキセキと、フジキセキの腰に手を当てているシズクの姿だった。

その時マルゼンスキーの意識は完全に真っ赤に染まる。理性なんてゼロ、完全に感情に支配されたマルゼンスキーはレースでもそうそう見る事ないスタートダッシュを決めてシズクに詰め寄る。そして、

 

「シズク!貴方ウマぴょいしたのね、私以外の子。フジキセキと、まだ出会って一週間も経ってない子とウマぴょいをーーーーー!」

 

シズクの襟を掴み叫ぶマルゼンスキー。それに対しシズクは冷静に。

 

「発情してんじゃねぇ、バカマル!」

 

手加減なしの頭突きをかますのであった。

 

※※※

 

「全くなんなんだお前は」

 

椅子に座りマルを呆れた視線で見ながら言葉を溢す。

何がウマぴょいだ、アタシはノーマルだって言ってんだろうが。

 

「むーだって、どう聞いてもシズクとフジがウマぴょいしてるしか聞こえなかったし!」

 

反省を兼ねてミニホワイトボードに[私は友達と後輩でイヤラしい妄想しました]と書き首にぶら下げ正座をさせている。

それでも反省しているとは思えない言動ではあるが。

 

「あれは治療だ、正確に言えばゴッドヴェイドー式の整体だな」

 

「嘘よ!あんなにフジがあんあん言ってたじゃない、あのヅカタイプのフジが!」

 

お前、後輩の事そう思ってたのか?

マルのあまりな言葉に反論を促そうとフジキセキを見ると、顔を真っ赤に背けている姿。

どうやら整体中の自分の状態を思い出してしまったのだろう。こりゃ当分戦力にはならんか。

 

「いいかマル、さっきまでの行為は間違いなく医療行為だ。だがお前が勘違いした理由は分かってるから説明してやる」

 

説明!

ゴッドヴェイドー式の整体とは、気を患者に注ぎながら行う整体のことである。

身体の矯正だけではなく、気の流れを正すことで肉体を活性化させ治癒力を高めるのが目的である。

だが良い事づくめの整体だが問題もある、気を送られる側の反応の個人差が大きいのである。お湯につかる感じ、くすぐったい、電気が流れてる、…その…気持ちいいです///などなど。

そのためゴッドヴェイドー式整体は、患者のプライベートも考え人の居ない個室で行われるのが常識となっている。

 

「えーとつまり、フジは…」

 

マルが横目でフジキセキを見る。

 

「ああ、アタシが知る限りでも上位の快楽を感じるタイプだな」

 

アタシが宣言すると同時に。

 

「お願いです、忘れて。あれは仕方なかったの、どうしようもなかったの!」

 

顔を隠し蹲りながらそういうフジキセキ。まぁイケメンで常日頃の言動もそんな感じでも中身は年頃も乙女だ。恥ずかしいのはしょうがないわな。

 

「そう言えば、シズクがフジに声を我慢するなとか言ってたのは?シズクってSなの?」

 

「そうですよ!我慢するに決まってるじゃないですか。それなのに///」

 

誰がSだ!

 

「それにもちゃんと理由はあるぞ。我慢したり力むとな気の流れが若干悪くなるんだ。効率的にも身に任せる方が良いんだよ。それに電気の抵抗とか一緒でな、抵抗が強いほど感じる感覚も強くなるんだよ」

 

「つまり?」

 

「フジキセキの場合、我慢せずに艶声あげた方が治癒力も上がるし刺激も弱まる」

 

アタシの言葉に少し黙り、顔を赤くし頭を振りそして顔を隠しへたりこむフジキセキ。

まぁ最大効率って話なんだが、と思いつつ黙ってそれを見つめるアタシだった。

 

 

 

その後も水中歩行メインのリハビリ、患部冷却の処置、ゴッドヴェイドーの治療と順調にリハビリをこなして続け数ヶ月が経った時。

 

「シズク先生、聞きたいことがあるのですが」

 

真剣な顔をしたフジキセキがアタシを見つめる。

その顔を見た時、アタシはフジキセキの表情がいつも違うと感じた。

 

「なんだ?」

 

「私はいつ走ることが出来るんですか、病院のエコー検査だと炎症の影は消えていると聞きました。それなにリハビリは水中歩行ばかり、本当に私はターフに戻れるんですか?」

 

エコー検査は一、二週間の間隔で受けさせている。アタシは気の流れで判断出来るが本人的には目で見ることがプラスになると思い受けさせていた。実際、炎症は治っている。だが破断した筋繊維が戻った訳じゃない。

 

「フジキセキ、最初にも言ったはずだ。屈腱炎に近道はない、ゴッドヴェイドーを使った治療でも完治を早め筋力低下を防ぐのが精一杯なんだ」

 

これは本当のことだ。例えこれが師匠の様なゴッドヴェイドーの天才達でも同じなのだ、筋繊維を繋げるだけなら出来る。だがそれは伸びきった繊維を繋げるだけなのだ。それで発症前と同じ走りが出来るかと言えば否だ。

通常の治療なら最低でも九ヶ月かかる所を、アタシが行うことで六ヶ月で通常のトレーニングに戻れる様に取り組んでいるのだ。そうもう少しで戻れるところまで来ている、なのに何故?

 

「フジキセキ、なにを焦っている。もうすぐでお前は通常トレーニングに戻れるんだぞ」

 

フジキセキに何かある、それを聞き出すしか解決の糸口は掴めない。そう思いアタシは見つめる。

少しの沈黙の後、軽く組んでいた腕に指が食い込むほど力が込められる。そして、

 

「…終わってしまうんです」

 

「終わる?」

 

「終わるです、菊花賞が!私のクラシックが!一回も走ってないのに、もう出れないのに終わってしまうです!」

 

あーそうか、夏も終わり秋が深まる日々。怪我さえなければコイツも皐月、ダービーを走りそして今度の菊花賞を走っていたはずだ。才能もあったし期待もされていた、だけど予期せぬ怪我で全て無しになった。

 

「フジキセキ、確かに無念だろう。でもな、諦めろ。今無理をすればそれこそ走ることすら出来なくなることもあり得るんだぞ」

 

リハビリトレーナーとして、一人のウマ娘としてそれは認めることは出来ない。

それでもフジキセキは止まらない、止まれるほどウマ娘の走りへの本能は弱くない。

 

「貴方には分からないんだ、そんな力がある貴方に。菊花賞に走れるなら私は走れなくなったっていい、どうせそれでも貴方は治せるんでしょ。シズク先生!」

 

一瞬頭に血が昇ったのが分かる、でも一呼吸をおく。例えどんなことがあろうと、頭は冷静に。心は常に熱く。それがゴッドヴェイドー、病魔覆滅が我等の使命。病気でも怪我でも身体でも心だって救ってみせる。

 

「…フジキセキ、お前の気持ちは痛いほど分かる。でもな、この世には無理なもんは悲しいがあるんだ」

 

「それでも!」

 

「聞け!そして見ろ、これがお前が言った結果だ!」

 

アタシは常に履いている黒いストッキングの右足部分を破る。そして、素足が顕になる。アタシはもう見慣れてるから気にもしないが、マルにだけは絶対に見せられないアタシの古傷。

膝下から足首にまでついた手術痕。

 

それを見たフジキセキは目を見開く。

 

「その傷は…」

 

「お前が知ってるか知らないが、アタシはこの怪我で二度と全力で走ることが出来なくなった。もし走ったら歩くことすら危うくなる怪我だ」

 

未練がない訳じゃないが、それでも納得し飲み込んだアタシの過去。

 

「でも…ゴッドヴェイドーなら…」

 

そうだ、ゴッドヴェイドーを知った奴なら誰もが考えつく。実際、ゴッドヴェイドーを聞いたマルが最初に確認した事はそれだった。

だが、

 

「無理なんだよ、先天性の足の弱さ。怪我の大きさ、例え怪我してすぐに治療したとしても走ることは諦めないといけない。現代最高のゴッドヴェイドーの使い手に言われた言葉だ」

 

あの時、本当の意味で踏ん切りがついた。そう思う。

だから師匠の弟子入りを決心した。救える奴は絶対救うと。

 

「この世にはな、まだ無理な物が存在するんだ。なぁフジキセキ、お前は菊花賞を走りそれで満足出来るか?他の奴らが走っている姿を見て後悔しないか?」

 

吹っ切ったアタシでもたまに夢を見る。それはウマ娘として、どうしてしょうがない本能。

そして、アタシの足を見て。自分が強行した先の可能性を見てフジキセキは震える。

 

「先生、私は…そんなつもりは…私…」

 

ああ、そうだ。悪くない、これはしょうがないことなんだ。

だからアタシはフジキセキを手を掴み引き寄せる。背はあっちが高いから不恰好だが頭を抱いてやる。

 

「気にすんな、フジキセキ。そして焦るな、菊花賞は無理かもしれない。でもな、お前は走れるんだ。アタシがちゃんとターフの戻してやる。ジャパンカップだって有馬記念だって走れるように治してやる。だから諦めるな」

 

「し、シズク先生…」

 

そのまま膝をつきアタシにしがみつく。アタシも抱き返してやる、今にも崩れそうなか弱いウマ娘を。

 

※※※

 

あれから更に数ヶ月が経った、あれから吹っ切れたフジキセキはリハビリに精を出し。そして何故か整体の方もやってるコッチも戸惑うくらい受け入れた。流石に声がヤバくなったので、音楽流したりして対策をとった。

 

そして、通常トレーニングにも復帰して数日遂にこの日が来た。

 

「おい、フジ。今日で治療は終わりな」

 

「はい分かりました…へぇ?…えっ終わり!?」

 

通常トレーニングでも異常は見つからず、肉体面は完全の治っている。

 

「ああ、そうだ。よく頑張ったな、今日最後の処置でお前は完全に治る」

 

「本当に…本当に治ったんですか。私の足が!」

 

感極まったのか、目に涙を浮かべる。全くあの時から涙脆くなっちまって。

 

「ああ、最後の身体に宿った病魔の元を消し飛ばすだけさ」

 

「病魔の元を消し飛ばす?」

 

首にを捻るフジキセキ。

 

「ああ、見せてやるよ。ゴッドヴェイドーの真髄をな」

 

 

ベッドに寝るフジキセキ。そして、何故かいるハナさんにタキオンにマル。

 

「なんでいんだよ?」

 

「私はフジのトレーナーだ、見届ける義務がある」

「データを取る絶好の機会だ、逃す手はないさ」

「シズクが頑張った結果が出るのよ、来ない訳ないじゃない」

 

あーはいはい、出て行く気がないのは分かったわ。

まぁいい、やる事は変わらない。

 

「よし、フジ。準備はいいな?」

 

「はい、シズク先生を信じます」

 

真っ直ぐな瞳でアタシを見つめそういう。

よし、アタシは一呼吸し鍼を持ち目を瞑る。

 

「我が身、我が鍼と一つになりて!一鍼同体!全力全快!必察必治療…病魔覆滅!げ・ん・き・に・なれぇぇぇぇぇぇっ!」

 

「くっ!なんだこの光は!?」

「やはり未確定の波動が観測されるか、しかし毎回思うがあの言葉と光に意味はあるのかね?(サングラスかけつつ)」

「スーパーウマ娘?それともウマ娘神なの?シズク!?」

 

アタシは鍼の気を込め、既に見つけていた病魔の元に鍼を突き刺す。

今までのリハビリとフジの心の強さ病魔は弱っている。これなら最大出力がそれほど高くないアタシでも祓える。アタシは更に鍼に気込め。

 

「うぉぉぉぉぉぉっーーーーーーーー」

 

鍼が突き刺さった病魔にヒビが入っていく、そしてそれは遂に砕ける。

そして、アタシの目に写るのは健康体になったフジの足。つまり、

 

「病魔覆滅!」

 

フジキセキの治療はここに完遂した。

そしてそれはフジキセキにも感じ取れたのか、ベッドから起き軽く飛び跳ねる。

 

「先生…」

 

「ああ、フジよく頑張った。治療は終わった、屈腱炎は完治したぞ。っと!?」

 

アタシが宣言した瞬間フジが飛びついてくる。

その目には涙目だが、笑っている。

 

「シズク先生、ありがとう。私走ります、後悔しないよう最後まで」

 

そう宣言してくれる。そうだ、アタシはこのためにいるんだ。ウマ娘のゴッドヴェイドーの使い手として。

 

 

更に数ヶ月が経ちフジは見事レースに復帰し、怪我したとは思えない走りで勝利を飾った。

アタシはフジの懇願もあり、なんとか時間を作り現場でその勇姿を見た。

しかし、ライブも大盛り上がりなのはいいんだが。男女の比率がかなり偏った会場だった。しかもその興奮さにアタシも少し引いてしまった。

 

そしてライブも終わり最後のインタビューが始まる。

 

「ファンの皆さんの前で、またこうして走りライブに立てることが嬉しいです。私の煌めくヴォードヴィルこれからも見ていてください」

 

ファンの掴み方は流石だね、ファンの黄色い声援で耳が痛いわ。

 

「そして、最後に私事になりますが」

 

ん?

 

「私がターフに戻ってくれたのは、シズク先生貴方のお陰です。お礼ではないですが今度デートに行きましょう」

 

はぁ!?

困惑するアタシ、そして静まり返るファン達。そして一瞬の間を置き。

 

「きゃぁぁぁぁぁぁぁっーーーーーー」

 

歓声とも悲鳴とも取れるファンの声が鳴り響く。

まじ何言ってんだよフジの野郎。

 

ちなみに帰ったアタシを待っていたのは、怒り度マックスのマルと凄い迫力で事実確認を行う理事長だった。

 

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