一雫の波紋   作:雪見沼

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アメリカからあの子来日です。

お気に入り、評価、誤字報告ありがとうございます。

…燃料(感想)が欲しい


不退転 グラスワンダーその一

春になり暖かくなってきた今日この頃。

フジキセキの屈腱炎を治療したこともあり相談やリハビリの依頼も舞い込む様になってきたアタシだが、今日は珍しく予定はゼロ。ならばと名ばかりの担当であるタキオンの練習を見ながら他のウマ娘の様子を見ることにした。

 

「シズクーーーー」

 

アタシに気づいたのか遠くから声をあげるマルを遇らいながら観察を続ける。

気温も上がり練習をしやすくなってはいるが、春のGIは目前に近づいてるため練習に熱が入り過ぎるのもこの時期だ。

ゴッドヴェイドーの中でも持続力とウマ娘の優れた五感を持ったアタシなら少しの違和感を感じる取れる、それを感じ取りトレーナーに伝えるのもアタシの仕事って訳だ。

今日に関してはそんなウマ娘もいなかった、暇で給料泥棒と言われそうだがアタシ達の様な仕事が忙しいのは悪いことだ。こういう日が続けばなーそう思いなが練習を終えたタキオンと処置室兼部室へと戻る。

 

「そう言えばシズク、彼女の件どうするんだい?」

 

何故か少し不機嫌そうにタキオンが聞いてくる。

 

「ん?アイツがどうした?」

 

「聞いてないのかい、来日するらしいじゃないか?」

 

「えっ何?アイツ日本に来んの。観光か何かか?」

 

アタシの言葉に呆れた顔をするタキオン。

 

「そんな訳ないだろう、この学園に留学生として入学するのさ。君も入学者名簿を見ただろう」

 

「名簿なんて見ねーよ、何か問題がある奴は別で連絡が来るしな。てか、マジでアイツ来んの。わざわざ日本に?」

 

日本のウマ娘のレベルは低くはないが、世界と比べると一歩遅れている。ジャパンカップになんかのために来るなら分かるが、わざわざ日本に来るなんて。…そういやアイツ日本贔屓だったけ。

 

「はぁ〜、流石にこれは私でも同情するよ。彼女とは連絡取り合っているんだろう?その話は無かったのかい?」

 

確かにメールのやり取りはしている。というか、あっちがメールを送ってくる方が多いんだけどな。

 

「メールは世間話や近況報告が多いからな。…そういや近頃はもう直ぐとかあと何日ですやら、カウントダウンみたいこと言ってたが。もしかしてそれか?」

 

何度も書かれるので、何かの記念日なのかと思ってたわ。

 

「…まぁその件はいい。でも彼女が来たら確実に押し掛けてくるし、トレーナー契約を求めてくると思うが。どうするんだい?」

 

「トレーナーは無理だな、アタシは才能は低いし。アイツは才能がある、それを伸ばせないアタシがなる訳にいかない」

 

「説得は頑張りたまえ。さぁ練習後の紅茶でも飲んで研究を…おや?」

 

処置室まであと少しというところでタキオンが足を止める。

アタシもタキオンの視線を追うとその理由が分かる。

 

「シズク、ドアの鍵を閉めていなかったのかい?」

 

「そんな訳ないだろう、書類やら機器もあるんだ。例え短時間でも離れるなら施錠はする」

 

ドアが少し開いている、施錠したはずのドアがだ。鍵はアタシのポケットにある、勿論スペアキーは学園に保管されているが連絡も無しに誰かが入るはずがない。なら、

 

「泥棒か?」

 

「この学園にかい?そうだとしたら、とんだ命知らずだね」

 

ウマ娘はそんじょそこらの奴には負けない。精神的な要素は別だが肉体的要素では普通の人間は太刀打ちなんて出来ない。そうすると中に居るのはウマ娘か?

アタシとタキオンは顔を見合わせて頷くと、音を立てず近づき中の様子を伺う。

 

家探ししているような音は聞こえない。もう漁られた後か?でも中に誰かいる気配がする。

それになんだか良い香りがするし、鼻歌も聞こえる。

タキオンを見ると、あっちも不思議そうな顔している。だが、確かめない訳にもいかない。

アイコンタクトをし、姿勢を整える。

一、ニ、三!

 

タキオンがドアを開いた瞬間、アタシは無理のない範囲でダッシュを決め不信人物を拘束しようと近づく。

 

「えっ?」

 

「なぁ!?」

 

相手も気づき振り向く、そしてその顔を見た瞬間アタシは驚きぶつからない様に方向転換を試みる。

だが勢い余り。

 

「うわぁ!」

 

ガシャ!

 

なんとか相手にぶつかることは避けられたが、止まれずに椅子にぶつかりひっくり返るアタシ。

 

「いってー」

 

「だ、大丈夫ですか」

 

驚きながらもアタシに駆け寄り心配そうに見つめてくるアイツ。

そして、タキオンも遅れて入ってきて状況を把握する。

 

「まったく、色々聞きたいことはあるが。グラスワンダー、君がなんで此処にいるんだ?」

 

そう侵入者はアメリカのアタシの知り合いにして、今年入学予定のウマ娘。グラスワンダーだったのだ。

 

※※※

 

「どうぞ、粗茶ですが」

 

置かれた緑茶は香りもよく色もいい。

 

「おい、グラス。このお茶どうしたんだ?」

 

此処にはタキオンが飲む紅茶や来客用のコーヒーや緑茶を置いてあるが、どう見ても今出されているお茶はそれよりも上等な物だ。

 

「はい、先生に是非飲んで貰いたいと思いまして。再会の記念も兼ねて特別な物を用意しました」

 

茶葉持参とは趣味とは言えなんともはや。

だが、折角入れて貰ったんだ美味しく頂こうと。と思ったんだが、

 

「おや私には無いのかい?大和撫子を目指す君としては器量が狭いんじゃないかい?」

 

タキオンの前には何も置かれていない。

仲が悪いわけではないはずなんだが、歪み合いというか挑発し合う二人。

だが今回は違った様で。

 

「タキオンさんは紅茶派ですから此方を。勿論、これも特別の品ですよ」

 

タキオンも前に置かれる紅茶。

 

「ほう、君にしては珍しい。確かに色といい香りといい悪くないようだ」

 

折角の再会なんだ、歪み合わず良かった。それじゃ折角入れて貰ったし、冷める前に飲むか。

 

「それじゃ頂くか」

 

「どうぞ」

 

緑茶を口に含むと、ほのかな苦味の後に旨味がやってくる。美味い、素直にそう思い感想を言おうした時。

 

「ゔふぉーーーー!」

 

タキオンが盛大に紅茶を吹き出す。それなりの付き合いだがこんなタキオンは初めて見たぞ。

 

「おい、タキオンどうした。すげー顔してるぞ」

 

いつも以上に目が曇っているのに何故か怪しい光を帯びている。そして口元がかなり歪んでいる。

 

「ごほぉごほぉ、苦い。おいグラス!なんだコレは、私に何を飲ませた!」

 

おー久しぶりにマジギレしてるタキオンだ。つーかマジ何飲ませたんだ?

 

「勿論紅茶ですよ。それも丹精込めて特別に作った100%コーヒー豆で淹れた特製の紅茶です。すごく苦労したんですよ色と香りを出すのに」

 

えっコーヒーで紅茶?いや確かに混ぜるのはあるが、100%コーヒーで淹れた紅茶って。それって色と香りが違うコーヒーなんじゃ。

あーそうか。だからタキオンは吹き出したのか、苦手だもんなコーヒー。

 

「ごほぉ、まだ口にコーヒーの味が。すまい、シズク口直しに貰う」

 

タキオンはアタシの飲みかけたお茶を一気に飲み干す。惜しい気もするが、まぁしょうがないか。

そうアタシは思ったんだが。

 

「あああ、貴方は何をしてるんですか!私が先生のために淹れたお茶を!それにか、かん…つ…スなんて。この不埒者!」

 

よく分からんがヒートアップするグラス。なんか途中で言い淀んでたが、上手く聞き取れ無かった。

 

「何を言うんだい、コレは君が碌でもない紅茶を淹れたせいじゃないか。それにシズクはこれくらいで怒りはしないよ、回し飲みくらい気にしない仲だしね」

 

まぁこれくらいなら怒ることもないな。

 

「ま…回し飲みなんてハレンチな!やはり貴方はシズク先生に悪影響を与えます、皮しか利用価値の無いタヌキの様なウマ娘なんですね」

 

「ほう、君こそ。シズクの周りでチョロチョロするだけの女狐じゃないか。もう少し自分を顧みた方がいいのではないかね?」

 

なんかデフォルメしたタヌキ耳を生やしたタキオンとキツネ耳を生やしたグラスが思い浮かんだ。うん、結構似合ってかも。

まぁいつもなら此処から口喧嘩を始めるから、適当なところで仲裁するのがいつものパターンなんだが。久しぶりということもあって、

 

「少し頭が良いからって、先生に擦り寄るタヌキウマ娘!」

「擦り寄るのは君の方だろ女狐ウマ娘が、私の方がシズクにとって有用なんだ!」

 

お互いの頬を引っ張り合うキャットファイトならぬウマ娘ファイトが始まる。

最初は何を言ってるか分かったが、ヒートアップすると何を言ってるのか判別つかなくなる。

それに最初は立って歪みあってるだけだったが、気づけば体勢を崩したのか床を転がり始めだした。久しぶりの再会でハメを外すのは分かるが、やり過ぎだ。

アタシは二人に近づくと両手を握りしめ。

 

ゴチン!

 

「「イタ!」」

 

「戯れ合うなら外でやれ」

 

二人を持ち上げるとドアから外へと放り投げる。そしてドアを閉め鍵をかける。

まったく…あっそういやグラスがどうやって部屋に入ったか聞くの忘れてたわ。

 

※※※

 

タキオンとグラスを部屋から叩き出した後、書類を整理しながらグラスのことを思い返す。

 

「しかし、まさかアイツがね〜」

 

アタシとグラスの出会いは、アメリカの留学先の学園だ。アタシがアメリカの生活にも慣れゴッドヴェイドーの基本が身に付いた頃学園に入学して来たのがグラスだった。

出生は名門とは言うほどではないが叔母がアメリカで重賞を勝った経験もあり、本人も幼い頃から才能を注目されてきたウマ娘だった。

 

スターウマ娘候補と変わり者集団ゴッドヴェイドーの一員のアタシ。出会う要素はまったく無かったんだが、運命というのは分からないもんだ。

 

〜回想〜

 

「まったく師匠達の体力ってどうなってんだ、本当に人か?」

 

留学生として学園に来た初日に出会った奇怪不明な集団ゴッドヴェイドー。何の因果か才能が有ったアタシはいきなり拉致られ強引に弟子にさせられた。

当初はかなり不満もあったが、学園もゴッドヴェイドーの使い手が増えることに期待してたし。アタシも結果を目の当たりにし、これを覚えれば怪我で苦しむウマ娘を救えると思い正式にゴッドヴェイドーの一員になるため修行を開始した。

 

修行は壮絶を極め肉体は酷使され、科学で解明出来ない事柄に精神も疲弊し日夜ヘロヘロになる生活を送っていた。

 

だがそんなある日、師匠が遠方の用事で二、三日学園を離れることになり。修行は勿論するが幾分体力的にも時間的にも余裕が出来た日が訪れた。

アタシは空いた時間で何をするか、考えながら歩いているとすすり泣く音が耳に入った。

それは学園の端っこ、人が余り立ち寄らない場所から聞こえてきた。

もし、イジメとかなら無視するのも不味いかと思いこっそり覗いて見ると一人のウマ娘が地べたに座り涙を流していた。

多分何かあって、人知れず泣いているんだろう。アタシはどうするか悩んだが、力が足りないを言い訳に今を救わずとして未来で救えるはずがない。今出来ることを精一杯やりべきだ、そう思いそのウマ娘に声をかける。

 

「おい、嬢ちゃん」

 

そのウマ娘は声をかけられた瞬間驚き、そしてゆっくり顔を上げる。その顔は泣きすぎたのか顔が赤く火照っている。

 

「すみません、邪魔ですよね」

 

そう言い立ち去ろうする。アタシは傷つけないようにその子の腕を掴み。

 

「そう言うことじゃないんだわ、アタシは日本から留学で来たウマ娘なんだがな。日本には袖振り合うも多生の縁って言葉があるんだ、どうだいこれも縁だと思い愚痴を聞かせてくれないかい?」

 

「えっ?」

 

戸惑うウマ娘。そう、これがグラスワンダーとの出会いだった。

 

〜回想終わり〜

 

まぁ、結局はプレッシャーと生真面目な性格からの他のウマ娘の関係で悩んでいた訳なんだが。日本から持ち込んだ残り少ないお茶を飲みながら愚痴を聞き、話し相手のなって一時間ほどしたら幾分スッキリした様子になった。

悩みってもんは、誰かに聞いて貰えば精神的にもスッキリするし。第三者の意見を聞き考えを纏めたら解決することも多々ある。

あの時はそれが功を奏し問題解決したんだよな。ある意味アタシの初めての患者はグラスだったのかもしれない。

 

ただその後も懐かれたのか、顔を出す様になり。気づけば大和撫子を目指す微妙に日本被れしたウマ娘になったりしていた。

そしてそんなグラスが日本までやって来た。

本当に縁と言うには分からないもんだ。でも、もしグラスに何かあったとしても助けてやることが出来るのは少し安心出来る。

勿論怪我をしないのが一番だが、アイツは自分を追い込むタイプだ。そんな奴は怪我も多い。

 

多分グラスならトレーナーの目にとまり、世間を賑わすスターウマ娘になる事だろう。

今からそれが楽しみだ。

 

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