旧世紀エヴァンゲリオン   作:黒山羊

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序-10

「小田原沖上空に突如未確認飛行物体出現! ————パターン・青! 使徒です!」

 

 そんな緊迫したオペレーターの声から始まった第六の使徒による侵攻。

 

 もはや生物感すらない、青い鏡面の正八面体という異様なその姿は、NERVスタッフ達の頭を酷く悩ませた。

 

「シンジ君とレイは?」

「既に双方とも本部に到着。ケイジに向かっているそうです」

「そう。それなら————」

 

 エヴァに搭乗して待機し、命令があり次第発進できるよう準備。

 

 そう口にしようとしたミサトの声を遮ったのは、発令所最上段に座す碇ゲンドウ総司令。

 

「葛城二佐。初号機を発進させ威力偵察だ」

「司令!? しかし、それでは初号機パイロットへの負担が————」

「構わん。使徒に対し、通常兵器は意味を成さん。であればエヴァ以外に手段はない」

「————ッ。了解。……エヴァ初号機発進準備!」

 

 有無を言わさぬ口調のゲンドウ。だが、その発言にも一理はある。N2に耐えて見せた第四の使徒や、生身で砲弾やミサイルを弾いた第五の使徒を考えれば、確かに使徒に対抗するにはエヴァを除いて手段はない。

 

 しかし。それだけでは説明出来ないような『意図』をゲンドウの指示の裏に感じたミサトは、ひっそりと眉根を寄せて、その視線を誤魔化すように、使徒を映し出すスクリーンへと向けた。

 

 その直後。エヴァ初号機がカタパルトによって地上に打ち上げられ、もう少しで地表に到達すると言うその瞬間。絶望的な報告が、オペレーターから放たれる。

 

「目標に高エネルギー反応!」

「何ですって!?」

『ミサトさん! カタパルトのロック今解除して下さい! とりあえず飛び出して避けます!』

「日向君!」

「了解! カタパルトロック緊急解除!」 

 

 射出まであと数秒。そんな限られた時間の中で瞬時にロック解除を申請したシンジを乗せた初号機が、射出の勢いそのままに空中へと飛び上がったその直後。

 

 まるで靴下をまくるように何度も『展開』しその身をウニのように変形させた第六の使徒が、強烈なビームをカタパルトに向けて発射する。

 

 瞬時に溶解する周囲の兵装ビル。吹き飛ぶカタパルト、赤く燃えるアスファルト。

 

 そんな中、空中に飛び出していた初号機は爆風をATフィールドで受け、その反動で大きく距離を取って地面へと着地する。

 

 そしてそのままビルの影に身を潜め、可能な限り身を低く伏せる初号機だが、使徒は一切の情けも容赦もなかった。

 

 再び変形した使徒は、今度はビームをぐるりと一回転振り回して、周囲を丸ごと焼き払ったのである。

 

「ぐぅぅぅうううゥッ!!」

 

 唸るような声と共に、ATフィールドを全力展開してその破壊の一閃をどうにか凌いだシンジだが、遮蔽物が無ければ当然第3射はエヴァを狙撃してくる事になる。

 

 今まで以上に変形し、水晶でできたパラボラアンテナのように異常な形態を取った使徒が放つのは、今までとは比べ物にならない極太のビーム。

 

 もはや避ける術もなく、シンジはその明晰な頭脳で不可能を悟りつつも、全力以上にATフィールドを展開してその攻撃を迎え撃つ。

 

「がぁあああァァァッ! ッ!! ア゛ァ゛ァアァァッッ!!」

 

 それはもはや、獣の咆哮。喉も裂けよと言うように、絶叫しながらATフィールドを展開するシンジ。初号機は、使徒のビームによって大きく後退させられ、何度もビルを突き破りながら押し込まれ、異常な出力のビームによってその装甲がドロドロと溶融し始める。

 

「シンジ君ッ!? ————爆砕ボルトで初号機を区画ごと回収!」

「ダメです、既に初号機は使徒の攻撃により第3新東京市の迎撃都市区画を越え箱根山まで後退!」

「ケーブル破断! 内蔵電源急激に減少!」

「そんなッ!? プラグの緊急排出は!?」

「ダメだ」

「碇司令、しかし————!」

「いえ、ミサト。私もそれは許可できないわ! 今エヴァのATフィールドを失えばエヴァもシンジ君も消し飛ぶのよ!」

「くッ————打つ手なしだっての!?」

 

 奥歯が砕けるのではないかと言うほどに歯を食いしばるミサト。そんな彼女が睨むスクリーンの向こうで、エヴァは遂に箱根山に叩きつけられ、四肢を焼き切られてドロドロに溶けた山肌にめり込んでしまう。

 

 マグマに沈むその機体からはついにATフィールドが消え失せ、使徒はそれを初号機の殲滅と受け取ったのか、その異常な出力のビームを停止した。

 

 そんな中、コンソールに座るマヤが、震える声で報告を上げる。

 

「しょ、初号機沈黙。パイ、パイロット、パイロットのバイタル……ッ、消失しました……ッ」

 

 バイタルの消失。それが意味することはただ一つ。

 

 

 碇シンジは生命活動を停止……死んだのだ。

 

 

 * * * * * *

 

 

「センセら、今頃また戦っとるんかのう……」

 

 そう呟くトウジがいるのは、第壱中学校に割り当てられた地下シェルター。時折揺れるその中で、不安げに呟く彼の声は、周囲の話し声にかき消され、身近に座るヒカリとケンスケにしか届かない。

 

「そうかも。今日は揺れが特に酷いもんね……」

「敵も手強いって事なのかな……まぁなんにせよ、俺たちができるのは碇や綾波を信じることだろ?」

「まぁ、せやな。センセは負けん。そう信じるしかないわ」

 

 何度目とも言えぬ似たようなやり取りは、やはり、14歳の彼らにとって、この状況がいかに不安であるかを物語っている。

 

 だが、そのたびに彼らは彼らのヒーローを信じる事で、どうにか平静を保っているのだった。

 

 しかし、いつもと同じではないことが1つ。

 

「……あら?」

「どないしたんや委員長」

「緊急事態の時お昼休みだったから、碇くんと綾波さんのお弁当箱も持ってきたんだけど……碇君の箱、割れちゃってる……」

「あちゃぁ……センセは許してくれそうやけどな……まぁええわ、ワシが一丁弁償しといたる」

 

 そう告げるトウジだが、彼も含めた3人は、口にはせずとも「不吉だ」と思う内心を拭えない。

 

「本当に、頑張れよ碇」

 

 そう呟いたケンスケの言葉は、その場に居る少年少女の総意であった。

 

 

 * * * * * *

 

 

「零号機による二子山からの長距離狙撃作戦……ミサト、幾ら勝率が最も高いとは言え、わずか数%の確率に人類の今後を委ねると言うの?」

「残り9時間以内で実現可能、おまけに最も確実なものよ。使徒は本部直上で掘削を開始し、NERVは初号機を喪失。もはや一刻の猶予もないわ」

「ヤシマ作戦。その名のごとく、日本全土から電力を接収し、戦自研が極秘に開発中の、大出力陽電子自走砲まで強制徴発。未完成で自律調整できない部分はエヴァを使って精密狙撃させる。国連軍はいいとして、よく内務省の戦略自衛隊まで説得できたわね」

 

 ミサトとリツコがそんな会話を交わすのは、二子山の上に急遽仮設中の、エヴァによる狙撃ポイント。

 

 日本全国の電力を束ねて叩きつける世界最大級の狙撃作戦の舞台となる場所だ。

 

 そして、そこから見えるのは本部を掘削する第六の使徒と、それより手前、箱根山の裾野にめり込み、未だに白煙をもうもうとあげるエヴァ初号機の残骸。

 

「冷却、まだ終わらないのね」

「そもそも消防車が近寄れる熱量じゃないのよ。まだ暫くはとてもじゃないけど無理ね」

「……シンジ君……本当に死んじゃったのかしら」

 

 そう呟くミサトの顔はくしゃくしゃに歪み、辛うじて涙を堪えて居る。

 

 その一方で、タバコを咥えたリツコは、震えては居ても冷静に、シンジの最期を報告する。

 

「シンジ君は最後の最後まで抵抗、MAGIが記録していた最大シンクロ率は、471.4%を記録。その直後、エヴァが箱根山にめり込んで、内部電源が喪失。頭部と胴体だけとはいえ原型が残っているのは、シンジ君の頑張りのおかげだわ……エヴァの再建造となれば、とんでもなく費用が掛かるもの」

 

 その発言だけを聞けば、酷く冷静に見えるリツコ。しかし長年の友人であるミサトは、なかなかうまくライターを付けられないリツコに対し、涙声で1つ指摘する。

 

「リツコ。タバコ、逆になってるわよ」

 

 その指摘を受け、自分がタバコの先端を咥えてフィルターに火をつけようとしていた事に気付いたのが、リツコの張り詰めた神経の糸が切れる瞬間だったのだろう。

 

 幼少から知る少年の死に、崩れ落ちて慟哭する友人に対し、ミサトが言えるのはただ一つだった。

 

「————仇を討つわよ」

 

 決戦まで数時間。重苦しい空気の中で、作戦の準備は着々と進められていた。

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