旧世紀エヴァンゲリオン   作:黒山羊

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幕間-1

「リツコ、なんかわかった?」

「最大瞬間シンクロ率1995.104%、エネルギー切れの状態で陽電子砲を浴びて何故か全身を復元、そしてあの異常な戦闘力————率直に言ってお手上げね。私は科学者であってオカルティストじゃないわ」

「ふぅん。でも、科学的にわかった事もちょっとぐらい無いわけ?」

 

 そう言葉を交わすのは、頭に冷えピタ、手にはUCCの缶コーヒーという、パーフェクト残業戦士と化したミサトとリツコ。

 

 使徒から人類を救った後には始末書と報告書を相手に戦わなければならないのが彼女達の立場であり、先日の超大規模戦闘の後ではその事務作業が絶大な量に及ぶのも致し方はない。

 

 だからこそ、目と手を書類に向けて延々と働いているわけだが、そうなると耳と口はヒマなのだ。そういう時に情報共有を兼ねた世間話に興じるのが、出来る社会人というものである。

 

「科学的見地で言えば、シンジ君が人間を辞めたのは確実ね。ついでに言えば初号機も」

「どういう事?」

「初号機からシンジ君の、シンジ君から初号機の遺伝子が検出されたわ。————もっと正確に言えば、今のシンジ君と初号機の遺伝子構造は同一なのよ」

「————それはちょっち、マズいんじゃない?」

「何とも言えないわ。それ以外を除けば初号機もシンジ君も頗る快調だもの。————まぁ、快調すぎるかもしれないけれど。シンジ君の健康診断と体力テストの再測定結果は見たかしら?」

「まだ見れてないわね」

「パンチ力60t、キック力90t、垂直跳び25m、100m走1.5秒」

「ねぇリツコ、なんでいきなり仮面ライダーの話になったわけ?」

「シンジ君の話よ?」

「マジぃ?」

「実質的に今の彼は人間大のエヴァだもの。無理はないわね。それに骨密度も人間を超えてるから、今のシンジ君をレントゲンにかけると骨が全部真っ白で面白いわよ」

「……大丈夫なの? 彼」

「意識の混濁や精神汚染は無し。一応、彼に関するデータは最高機密に指定されることになったわ。監視も増えるでしょうね」

 

 そう告げたリツコは新しいタバコを咥えて火をつけながら、シンジに関する総評を最後に付け加える。

 

「一言で言えば、『エヴァンゲリオン初号機パイロット、碇シンジは改造人間である』って感じかしらね。……人知を超えたシンクロの先に至って、エヴァと物理的にシンクロしてしまったのよ。寿命も老化も無いし……まさに無敵のヒーローね」

「ヒーロー、か。それでシンジ君は平気なのかしら……」

 

 人の心を持ったまま人外に成り果てる。その悲しみを描いた作品は数知れず。故に心配するミサトだが、リツコはタバコを一服吸い込んで深い深い深海のようなため息を吐くと、呆れたような声で告げた。

 

「それは平気みたいね」

「いや、なんでよ?」

「彼も男の子だったって事かしらね……」

 

 最早呆れを通り越して疲れが滲んでいるリツコの声だが、その理由は続く彼女の言葉でミサトにも理解できた。

 

「山で修行するとか言って外泊許可申請してたもの、あの子」

「IQ600は何処に行ったのよ」

「MAGIが許可を出してたから、一応合理的なんでしょうけどね……」

 

 そう言いながら「人が心配してるっていうのにあの子は全く」と呟くリツコは、ミサトのあまり知らない『りっちゃんお姉ちゃん』としての顔でネチネチと文句を言いつつ、書類を捌き続けている。

 

 ————触らぬ神に祟りなし、かしらねこりゃ。

 

 そう判断したミサトは、それ以上掘り下げる事もなく、自身も書類へと向かうのであった。

 

 

 * * * * * *

 

 

 一方その頃。

 

 使徒があれこれ暴れたことでロープウェイも何もかもが壊滅した箱根山の山腹で、シンジはテントを張っていた。

 

「これでよし」

 

 そう言ってテントを無事完成させたシンジは、先に張って置いたタープで準備していたコーヒーを飲むと、わざわざ山に来てまでやりたかった『修行』を開始する。

 

 別段何も、拳法をやったりするわけではない。それなら軍隊格闘術のプロであるミサトに頭を下げて頼み込む方が余程効率的だからだ。

 

 シンジがやりたかったのは『自身の超人的身体能力への慣熟と検証』。それには、周辺に迷惑のかからない無人の山中という環境は最適なのである。

 

 人払いという観点ではNERV施設内でも良いのだが、うっかり設備を壊してただでさえ書類と戦っているミサトやリツコに迷惑を掛けるのも憚られたのだ。

 

 そうして手始めにまず、シンジは焚き火台で軽く火を起こすと、その上に手を翳した。

 

 まずは単に暖かさを感じる距離から始めて、徐々に徐々に、手を炎に近づける。側から見れば実に馬鹿な行為。自ら火傷をしにいくようなものである。

 

 だがシンジは、恐る恐るではあるものの、火の中に手を突っ込んで、燃え盛る薪を素手で握りしめることに成功したのだ。

 

「やっぱり出来た……ATフィールド」

 

 そう呟くシンジの手を包むのは、揺らめくような虹の輝き。手にATフィールドを纏わせてしまえば、燃える薪に些かの痛痒も感じなくなってしまうのだ。

 

 言うなれば、他人事。なるほど『心の壁』とはよく言ったものである。自分事でないのなら、痛くも痒くもないのは当然だ。

 

 そんな中、今度はあえて、シンジは少しずつ、自らのATフィールドを緩めていく。

 

 燃える薪を真の意味で素手で握る恐怖を、ゆっくりと抑え込んでいくことでATフィールド(絶対恐怖領域)を縮めていく彼は、しかし熱さは感じても火傷を負うことはない。

 

 そうと分かれば、ATフィールドを消してしまうのは随分簡単になっていた。

 

 恐怖によって生み出される絶対防壁は、安心感によって取り払われるものなのだ。

 

 故に必要なのは一つの覚悟。

 

「恐るべきを恐れ、恐るべきでないものは恐れない。勇気と冷静さを鍛えなきゃね」

 

 そう呟くシンジは、手の中で弄んでいた薪を焚き火台に戻すと、軽く身体をほぐして、全力運動の準備をする。

 

「よし、やろう!」

 

 そう意気込む彼の胸の炎は、焚き火よりもよほど熱く燃えていた。




破のプロットをねるねるねるねするのでしばらくは不定期更新です。

ねればねるほど色が変わって……ウマイ!(テ-レッテレー)
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