第七の使徒の撃滅後、初号機は電源車を経由して充電を行ったのち、シンジの操縦で最寄りのカタパルトからジオフロントへと帰還した。
だが、一応は『輸入品』であるエヴァ2号機や『入国者』である2号機パイロットに関しては形式上のものだけとは言え入国手続きが終わるまで、地上待機と相なったのである。
そして、現在。第3新東京市の貨物駅にえっちらおっちらエヴァを運んできたディーゼル機関車を待つのは、エヴァの運用に関する責任者である葛城ミサト二佐と、シンジとレイ。……そして、ミサトの許しを得て特別見学枠として参加しているケンスケとトウジである。
彼ら2人については、シンジが最近はちゃんと我慢しているケンスケに対するご褒美として、ミサトに許可を得ておいたのだ。
そして、その反応は上々であった。
「はぇ〜、2号機って赤いんか」
そう感嘆するトウジと、カメラのファインダーを覗いて『すごい! 凄すぎる!』と写真を撮りまくっているケンスケ。
そんな彼らのはしゃぎぶりに答えたのは、話題の中心であるエヴァ2号機の上に現れた少女だった。
「違うのはカラーリングだけじゃないわ。所詮零号機と初号機は、開発過程のプロトタイプとテストタイプ。けど、この2号機は違う。これこそ実戦用につくられた世界初の本物のエヴァンゲリオンなのよ。正式タイプのね!」
そう言い放つと同時に、谷間を駆けるカモシカの様に見事な足捌きでエヴァの上からホームへと現れた彼女は、シンジにとっては数時間前に共闘したばかりの美少女であり、トウジやケンスケ、そしてレイにとっては初対面の少女である。
だが、ミサトにとってはそうではない。
「紹介するわ。ユーロ空軍のエース、式波・アスカ・ラングレー大尉。第2の少女。エヴァ2号機担当パイロットよ」
「久しぶりね、ミサト。……それで、そこの白いのが依怙贔屓で選ばれた零号機パイロット?」
「……エコヒーキって何?」
「『自分が気に入った人にやたらと味方をすること』だよ綾波」
「そう。……式波さん、私は依怙贔屓されてるの?」
「……エヴァに一番乗りで乗ったんだしそうじゃないの?」
「そうなの?」
「…………。
「まぁ、レイは純粋だから……」
「その純粋は純粋培養って意味でしょこれ……ハァ。悪かったわね、えーっと、レイだっけ。ちょっとイヤミだったわ」
「そうなの?」
「そうなの! だから謝った! 終わり!」
「のうセンセ。アレは何をやっとるんや」
「自分が2番手というのが納得行かず、1番手の綾波さんはさぞ高慢チキなんだろうと挑発したら、綾波さんが
「はえ〜」
「分析してんじゃないわよそこの七光りの初号機パイロット!」
「あはは、ごめん。まぁ実際、ここに居るのは親の七光りだしね僕」
アスカからの八つ当たり気味のクレームを、素直に受け入れて流すシンジ少年。その対応に喉に言葉が詰まった様な顔をしたアスカは、ゲンナリした顔でミサトへと振り返る。
「……ミサト、コイツらやりづらいんだけど!」
「まぁシンジ君は大人過ぎるし、レイは子供過ぎるもんねえ」
「日本のエヴァパイロットは変人しか居ないわけ……?」
「僕達は新たな仲間を歓迎するよ、式波さん」
「『お前も変人だろ?』みたいなニュアンスで言ってんでしょアンタそれ! ……というか、アンタ名前は?」
「碇シンジ。エヴァ初号機のパイロット。あと多分式波さんの同級生」
「……ミサト、これマジ? アタシ大学出てるんだけど……?」
「シンジ君は院出てるし博士号持ってるけど中学2年生やってるわよちゃんと」
「うげぇ……。というかシンジ! アンタDr.持ってるなら何処が七光りよ。言い返しなさいよ。アタシが惨めになるでしょうが!」
「理不尽が過ぎる……」
「やかましい!」
そう言いつつ足払いを掛けるアスカに対し、『燕返し』で逆に足払いを掛けて体勢を崩し返したシンジは彼女をグッと抱き寄せて転倒を防ぐと、その顔を近くでマジマジと見つめて言葉を紡ぐ。
「ところで式波さん」
「近い近い! 足払いは悪かったってば!」
「————何処かで会った事ない?」
「は?」
その瞬間、世界が凍った。
あまりにテンプレート。あまりに耳タコなその言葉を知らないものがこの場に綾波レイ以外いる訳もなく。
「シンジ君大胆ねえ」
「センセ、流石にそのナンパは古いんちゃうんか?」
「碇、そっち系が好みなのか?」
などと一拍の沈黙の後に盛り上がる外野を他所に、アスカは真っ赤な顔でシンジにビンタを叩き込むと、本日1番の大声でツッコんだ。
「あんたバカぁ?」