旧世紀エヴァンゲリオン   作:黒山羊

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破-5

 アスカの引っ越し騒動から一夜明けた朝。

 

 荷物預かりだのと手を回してくれていたリツコに、荷物の回収ついでに礼をしておいては? と朝食時にシンジに言われた事も相まって、アスカはNERV本部の技術開発部を訪れていた。

 

 シンジから借りたユニセックスのジーンズとTシャツは存外彼女に似合っているが、それでも何処か、自分らしくない格好にアスカの心境は微妙である。

 

 昼からは家具の購入の為シンジ達と落ち合う約束だが、今は1人。

 

 そんな彼女が、私服入りの段ボールを抱えてリツコの部屋を訪ねた折、偶々スクリーンに表示されていた1枚のプロフィールは、アスカに大いなる驚愕を齎す事になる。

 

「何よ、コレ」

「あら? アスカ、来てたの」

「……その、荷物取りに来たついでに、昨日のお礼を言おうと思っただけ。ありがとね、リツコ。————でもそれより、それ、バカシンジのこの前の戦闘履歴……?」

「……そうよ」

「プラグ深度マイナスって、アイツ、何考えてんのよ……!? 汚染区域ってレベルじゃないじゃん!」

「————彼にはもう関係ないからかしらね。……良い機会だわ。今までの戦闘ログ、見ていくでしょ?」

 

 そう言われるがまま、リツコによって分析された碇シンジという男の戦歴は、たった4度ながらも異常なもの。

 

 まずそもそもIQ600にしてスポーツ万能という異常なスペックとそれをもとに積み上げた学歴を有していた碇シンジは、初戦闘にしてエヴァを完全に乗りこなし、第四の使徒を一方的に撃滅。

 

 続く第五の使徒を相手にする際にはその頭脳で策を巡らせ、一撃で相手を粉砕するという大金星を見せている。

 

 だが、やはり最も異常なのは、第六の使徒との戦いだ。

 

 碇シンジは使徒の攻撃により完全に死亡した後に、陽電子砲のエネルギーで原因不明の復活を果たし、恐ろしいほどの出力を発揮したエヴァにより使徒を撃滅。

 

 この際に記録されたシンクロ率は1995.104%、そしてプラグ深度は-200を記録。これが意味するのは、碇シンジは一度完全にエヴァのコアと融合していたという事実。

 

 そしてその後遺症として異常な身体能力を獲得したシンジだが、その一方でリツコが示したカルテには、後遺症の闇の側面もまた記録されている。

 

 まず、身体年齢の固定化。碇シンジはこれ以上年齢を重ねることはできない。続いて、遺伝子情報のエヴァ化に伴い事実上ヒトとは別種の生命となった為生殖が不能。

 

 更に、食事を必要としなくなり、その影響か味覚を完全に喪失。睡眠の機能も喪失しており二度と眠る事はない。

 

 そして最もアスカの目を引いたのは、碇シンジ自らが己に課したという『枷』であった。

 

「DSS……?」

「ええ。Deification Shutdown System。神格終了機構。碇シンジ自らが考案したパイロットの自決及び抹殺システム。その試作品。最終的にはチョーカーとして常時着用するのが理想的だという事だけれど、今はまだ小型化が出来てないから、彼のプラグスーツに組み込むのが精一杯ね。現状は小型のN2を内側に向けて起爆する、シンプルな爆殺装置よ。————彼とエヴァが人類に敵対した時に使用される、最終安全装置ね」

「何よそれ……アイツ、自分って物が無いわけ……!? ()()()()()()()()()()()()()()……」

「……彼には謎が多いわ。————彼の母親である綾波ユイ、そして彼女に酷似した容姿を持つ綾波レイ。その何方も、経歴は完全に抹消されている……『式波』アスカならこの意味が分かるでしょう?」

「……綾波タイプのオリジナル、その子供ってわけ?」

「私はそう分析しているわ。……まさに名前通りね」

 

 そう呟いて、リツコは手近なポストイットへとサラサラと3文字の漢字を書き連ねた。

 

「碇神児(シンジ)。……あまりにも出来すぎた名前よね? 作為的なぐらいに」

「……フン、イタい名前つけられてメサイアコンプレックスにでもなっちゃったってわけね。……というか、食事不要味覚不能って書いてあるけど、アイツ昨日カレー食ってたわよ?」

「そう……嗅覚と痛覚はあるから、香りが強く辛味のあるカレーを選んだんじゃないかしら」

「……人間ごっこってわけ?」

「そうかも知れないわね」

「そう。……ありがとね、リツコ。勉強になった。……アイツやっぱり、暫くはバカシンジね」

「彼、IQ相応に賢い子だと思うけれど?」

「泣きながら戦ってるヒーローなんてバカしか居ないでしょうが」

 

 そう言い残して、「じゃあアタシ、そのバカ達と予定あるから行くわね」と立ち去ったアスカ。

 

 彼女が居なくなった室内で、リツコはタバコを咥えて1人、ポツリとつぶやきを漏らす。

 

「予言された子ども達。計画された神の子。……私達は一体、あの子達に何処まで背負わせるつもりなのかしらね」

 

 

 * * * * * *

 

 

 時は少し流れて、昼下がり。ネルフで回収してきた私服の段ボールをシンジの家に持ち込み、ようやく自分の服に袖を通したアスカは、シンジとレイを引き連れて、第3新東京市最大のショッピングモールを訪れていた。

 

 中高生といえばショッピングモール、ショッピングモールといえば中高生。そんなレベルで日本の若者達の青春にとっては重要拠点であるこの場所は、やはり若者客が圧倒的に多い。

 

 しかし、アスカ達が今日ここを訪れたのは、新作フラペチーノの為でもなければ、でっかいハニトーにクリームをたっぷりぶっかけたインスタ映えランチの為でも無いのだ。

 

「炭水化物のドカ食いは太るよ?」

「うっさいわね。女の子ってのは砂糖とスパイスとステキな物で出来てんのよ。だからハニトーもフラペチーノもカロリー実質ゼロなの」

「カエルとカタツムリと犬の尻尾で出来てる僕には難しい理論だね」

 

 ————まぁ、食べたし飲んだのだが、主目的ではないのである。

 

「で、二段ベッドだっけ? アタシとレイで選んで良いわけ?」

「うん。出来れば組立ての奴だと部屋への持ち込みが楽で嬉しいかな。配達ってマンションだとエントランスまでなんだよね」

 

 そう告げるシンジは、自分用なのか既に『人をダメにするソファ』と題された巨大なビーズクッションを購入しており、先程サービスカウンターから早速自宅に配送していたりする。

 

「式波さん、アレは?」

「どれよ? ……レイ、アンタね、マジで言ってる?」

 

 そうレイが指差す先にはピンク色で全面にハローキティを押し出した、女児感甚だしい小さめのベッドが1つ。

 

「おんなのこ用って書いてある。違うの?」

「いや女の子用っつったって、この歳でキャラクターベッドは無理でしょ、小さいし。というかコレ普通のシングルベッドでしょうが」

「普通のベッドを縦に積んだら二段ベッドになるんじゃないの?」

「耐荷重って概念知ってる? ……いやごめん、そういえば中学生だったわね、アンタ。まぁ、重くて無理って事よ」

「そう……」

「……ねぇシンジ、レイってこのハローキティってキャラ好きだったりするわけ?」

「さぁ……?」

「謎ね……あ、こっちのパイプベッドは良いんじゃない? レイ、あんたこういうのはどうなのよ」

「……いいと思う」

「じゃあコレね。ほらシンジ持ちなさいよ」

「はいはい……綾波さんは後でゲームセンターでキティのポップコーン買おうね」

「ポップコーン……?」

「シンジ、アタシはキャラメルね」

「はいはい」

 

 そんな会話を交わす彼らは何処から見ても中学生で、実際に中学生で、それでも世界を救うエヴァのパイロット。

 

 束の間の日常を楽しむ彼らにとって、この休日は貴重で楽しい経験となるのであった。

 

 ————なお、この後レイがキティのポップコーンが発した『美味しいポップコーンはいかが?』の音声を真似た事により、キティのモノマネが激似であるという隠れた特技が発覚するのだが、それはまた別の話である。




土曜日なのに出勤……おのれクライシス!
最近日常回ばっかですが、破の序盤ってマジで日常回で占められてるんですよね……。

この後も加持さんと楽しい社会科見学だったりします。
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