学校が再開したその日にやってきた超美少女転校生『式波・アスカ・ラングレー』。海外出身ながら日本語に堪能。文武両道才色兼備の彼女はしかも、彼女自身が公言する通りエヴァンゲリオンのパイロット。
コレで話題にならないわけもなく、第壱中学校は俄に大盛り上がりを見せた。玉砕覚悟でアスカを遊びに誘う男子達が列をなし、それを『馬鹿じゃないの』と冷ややかな目で眺める女子達は、アスカへの距離感を探っている。
だが、そんな状況が続いたのは、数日間だけの事。数日経った今では事態は————激烈に悪化していた。
発端は昨日の放課後。男子達に取り巻かれていたアスカが放った爆弾発言が原因だ。
チヤホヤされるのは好きらしいアスカも、流石にそんな状況が数日続けば辟易としたらしい。うんざりしたような声で彼女が叫んだ一言が、第壱中学校に大混乱時代をもたらしたのである。
「アタシ、シンジと同棲してるから! あんたらと遊んであげられないの! わかる?」
その瞬間の空気といったら、それはもう酷かった。全校の男子の殺意が、突如碇シンジという2年A組の超絶イケメンへと収束したのである。
そして、恐るべき事にそれは女子も同じだった。
女子グループがかねてから綾波レイを愛でていた『碇くんは綾波さんのだから!』派と、アスカの勝ち気で魅力的な性格により彼女の取り巻きとなった『碇くんは式波さんのだから!』派の二大派閥に分派し、天下分け目の関ヶ原とばかりにそれぞれの『推し』を旗印とし始めたのである。
そして、その派閥争いこそが、更なる混乱を齎した。意見を求められたレイが、素直に口を割ってしまったのである。
「私も碇くんと住んでる」
かくして、火曜に発言されたパンドラの箱めいた宣言が引き起こした「放課後の惨劇」から1日。
第壱中学校は、「碇シンジ絶対許さないマン」、「綾波レイ推し一派」、「式波アスカ推し一派」の3つに分かれ、混沌を極めていた……。
* * * * * *
さて、突如中学校で始まった大混乱。その被害を一番に被っているのが、碇シンジ、綾波レイ、鈴原トウジ、相田ケンスケ、そして洞木ヒカリに、新メンバーの式波・アスカ・ラングレーを加えた『仲良し6人組』であるのは自明であろう。
「やってもうたなぁ、式波。こりゃ収拾付かんで?」
「俺もそう思うな……委員長は? 女子のどっちの派閥にも顔利くだろ?」
「私も無理かな……」
放課後の、第壱中学校からそれなりに遠いファミレス。「ちょっとコレ話し合ったほうがいいと思う」という委員長閣下の招集で集められた6人は、ドリンクバーを片手に途方に暮れていた。
「アスカと綾波が可哀想だし、とりあえず僕が槍玉に上がれば丸く収まらないかな?」
「碇、360度全方向に棘があったら実質丸、みたいな話は良くないぞ」
「あと、アタシが死ぬほど気まずいでしょうがそれ」
「それもそうか。……うーん」
「碇君」
「ん? どうしたの綾波さん」
「碇君と私と式波さんが仲良くしていたら誤解は解ける気がする」
「それはそうやけど、綾波の言う案は見せびらかさんと意味ないやろ。そんなもんどうやって————」
そうトウジが言った直後。
普段は大人しいはずの洞木ヒカリ委員長閣下が「それよ〜ッ!!!」と叫んでトウジを指差して立ち上がり、鼻息も荒く宣言する。
「碇くんが綾波さんと式波さんとデートしてる写真を撮れば良いんだわ! ————相田くんが!」
「いや俺かよ!? ……まぁ一眼レフ持ってるけどさあ」
「なんでアタシがシンジとデートしなきゃいけないわけぇ?」
「デート……デートって何?」
「ほんまに収拾つくんかいなそれで」
各々が困惑したように反応するその中で、更に事態をややこしくする声が一つ。
「やあ、シンジくん。面白そうな話をしてるじゃないか」
「……加持リョウジさん?」
「ああ。NERV首席監査官、加持リョウジだ。この前の道案内の礼と言っちゃなんだけど、良いデートスポット紹介しようか?」
そんな思わぬ助っ人の介入により、ヒカリの作戦は強化され、事態はどんどん、斜め上の方向へと突き進んでいくのであった。
* * * * * *
「……綾波さん、アスカ、本当に大丈夫なの?」
「しつこいわねシンジ。ヒカリの案に乗るって決めたでしょうが」
「私は大丈夫。……碇君は、私と手を繋ぎたくないの?」
「いや、そういうわけじゃないんだけどね」
数日後の土曜日。相模湾方面に向かう電車の中で、ヒソヒソとそんな会話を交わすのは、シンジをセンターに3人仲良く手を繋いでいるエヴァパイロット達だ。
シンジは白のワイシャツにループタイを着けて黒のデニムを履いただけのシンプルな装いだが、アスカは明るいオレンジ色の襟付きパフスリーブAラインワンピース。レイはアスカに見繕われた黒のドレスシャツとバーガンディスカート、というそれなりの格好をした彼ら3人は、それはもう周囲から目立ちまくり、美少女美少年トリオとして周囲の目を引いている。
そんな中で、意外な反応を見せているのは、何を隠そうシンジだった。
「……シンジ、アンタ、滅茶苦茶緊張してない?」
「そりゃするよ。デートなんかしたことないし」
「そんなもんアタシもないわよ」
「え、アスカ絶対モテるでしょ?」
「アンタもでしょうが。モテても付き合うかどうかは別でしょ」
「……確かに」
「碇君、式波さん、デートってそんなに大変? この前の買い物との違いがわからない。みんなで出かけているのに違うの?」
「……そう言われるとそうなんだけどね。意識すると綾波さんもアスカも凄まじい美人だという事実に打ちのめされるというか。————敢えて意識しないようにしてたから余計に」
「何よそれ。ちょっとムカつくわね。ちゃんとアタシを見なさいよ。————そうだ、レイ、あんたアタシの真似しなさい」
そう言って徐にシンジの腕に抱きつき胸を押し当てるアスカと、素直にそれを真似るレイ。
両側から不意打ちを受けたシンジの顔は分かりやすすぎる程にのぼせ上がり、随分と珍しい事に『テンパっている』。
————そんな光景をガッツリ撮影しているのはケンスケ、トウジ、ヒカリの3人と、面白そうに笑う加持リョウジだ。
「シンジくん、両手に花じゃないか。羨ましい」
「————。加持さんはミサトさん呼ばなくてよかったんですか?」
「おっとこりゃ藪蛇か。りっちゃんから聞いたな?」
「大学時代の手紙に出てきたリョウちゃんって加持さんですよね多分」
「おっとその返答は予想外だな……ところでシンジくん。感想を言わないと両隣のお姫様がむくれるぜ」
「……腕から必死で意識を逸らしてるんですがキツいです」
「ふぅん。無敵のシンジ様でも?」
「アスカ、なんかさっきから当たり強くない……!?」
「アンタが私をちゃんと見てないからでしょうが」
「一つ屋根の下で美少女2人をちゃんと見たらどうなるかわかるだろ!?」
「どうなるの、碇くん」
「綾波さんの純粋さが今は辛い……!」
わいのわいのと騒ぐエヴァパイロット御一行。彼らを乗せた電車が向かうのは、加持リョウジ一押しの『社会科見学スポット』であり『デートスポット』。
————日本海洋生態系保存研究機構。
関係者以外は滅多に立ち入れない大規模研究施設は、もう間近に迫っていた。