「3分前にマウナケア観測所で捕捉! 現在、軌道要素を入力中」
「目標を第3監視衛星が光学で捕らえました! 最大望遠で出します!」
慌ただしく響くオペレーター達の声。その直後、発令所のスクリーンに映し出されたのは漆黒の球体の表面を目玉模様が這い回る異常な姿の使徒。
「光を歪めるほどのA.T.フィールドとは、恐れ入るわね。————で、落下予測地点は? ……当然、此処よね」
「MAGIも再計算。……NERV本部への命中確率
「……軍事衛星からの攻撃で軌道修正は出来そうにないの?」
「現在実行中! ……ダメです、N2航空爆雷もまるで効いてません」
「軌道修正は不可能、か……」
そう呟いたミサトは、作戦課と技術開発部の精鋭、そしてエヴァパイロット3名を発令所最寄りの会議室に招集する。
「よびだしてごめんね、アスカ、シンジ君、レイ。貴方達の意見も聴きたくて。————それで、使徒の分析結果は?」
「想定される破壊力は絶大ですね。A.T.フィールドを一極集中して押し出してますから。これに、落下のエネルギーも加算されます」
「まさに、使徒そのものが爆弾というわけね」
「第八使徒直撃時の爆砕推定規模は、直径42万、ジオイドマイナス1万5千レベル」
「第3新東京市は蒸発、ジオフロントどころかセントラルドグマも丸裸にされます」
「青葉君————碇司令は?」
「冬月副司令と共に現在月面視察から帰還中の筈ですが、使徒の影響で大気上層の電波が不安定です。現在、連絡不能」
「此処で独自に判断するしかないわね……日本国政府、および各省に通達。NERV権限における特別権限D-17を発令。半径120km以内の全市民は速やかに避難を開始」
「問題ありません。既に政府関係者から我先に避難を始めてますよ」
「あら、そう」
そう呟いたミサトは、避難民の退避を待つ間の時間を使って作戦立案を開始する。
「マヤちゃん、MAGIのバックアップは?」
「松代に頼みました」
「結構。————さて」
「ミサト、どうするつもり?」
「幾らエヴァと言ったって空が飛べる訳でもないですし……飛べないよな?」
言い始めてから「なんか第六使徒の時に飛んでた気もする」という表情でシンジに向けて問い直すのは青葉シゲル。そんな彼に対するシンジの解答は明白だった。
「スーパーマンと同じで『超高度ジャンプ』は出来ますけど、飛行能力は無いですね」
「第一、そんなバカみたいな事出来るのシンジだけでしょうが。……アタシの2号機なら空挺降下装備があるけど、あれは着陸用だからちょっと浮くだけよ」
「そうか。ごめんな変なこと聞いて。……そういや日向。作戦局で前に自衛隊に借りてた陽電子砲、コピー出来てるんだろ? あれで狙撃とか無理なのか?」
「空間の歪みが酷く、あらゆるポイントからの狙撃は不可能。……こんなべらぼうな相手じゃ、手の打ちようが無いね」
「ま、日向君の意見も尤も。でも作戦課が諦めちゃダメよ? ————リツコ、シンジ君、アスカ、知恵を貸してちょうだい。……まずパッと思いつくのは、エヴァで受け止める案ね」
「……本気なの?」
「リツコ、ミサトはこういう時はマジよ。……でもミサト、作戦って言えるのソレ? 生身で隕石キャッチするようなもんでしょ?」
「返す言葉もないわね。でもぶっちゃけコレ以外ないと思うわ。……リツコ、N2を何十発撃ち込んでもビクともしないATフィールドに通常兵器で勝ち目はある?」
「無いわね。ATフィールドに対抗できるのは、ATフィールドだけよ」
「そうよね。だからこそ、エヴァでATフィールドを打ち消して、コアを破壊。使徒を形象崩壊させることで落下威力を極限まで減衰させるのが一番被害を抑えられるってわけ」
「————成功すれば、ね。MAGIは退避を推奨しているわ」
「……りっちゃん、そのデータって僕の初号機の値は?」
「入ってないわね……初号機の現在スペックを計算に加味した場合は————」
「————初号機およびパイロットのみを残して全員退避、かな」
「御明察。流石は頭の中にMAGIと同等の演算システムを入れているだけはあるわね」
そう努めて明るく告げるリツコだが、どうしてもその声のトーンは重いもの。
幾ら自慢のスパコンが弾き出した作戦でも、少年1人に全てを押し付けて尻尾を捲るというのは彼女の良心を痛ませるには十分な内容だ。
しかも。
「……MAGIの計算では、初号機と『引き換え』にNERVを防衛できる可能性が5割強といったところね。個人的には総員退避を強く進言するわ」
「————リツコの考えは分かったわ。……その上で敢えて訊きます。エヴァ3機を総動員した場合の、パイロットの全生存確率は?」
「1割弱。シンジ君の全力を加味した上でね」
「そう。————今現在。ネルフの全指揮権は私、葛城ミサト一佐にあります」
「あら? 昇進したんだミサト」
「————司令と副司令の宇宙視察の前にね。責任者として一時的に昇進しただけよ。……さて、指揮権には責任も伴うもの。全ての責任は私にある。その前提でパイロット各員に問います。撤退と交戦、どちらを選んでも私の責任の元、指示を発令するわ。貴方達は、何方を選ぶ?」
そう問いかけるミサトの問いにまず応えたのは、先程昇進を茶化したアスカ。
「アタシは残るわよ? というかなんなら私がサクッとやっつけちゃうからシンジとレイは逃げたら?」
「————弐号機のみでの作戦成功率は0.000000001%よ」
「あらリツコ、奇しくもエヴァの起動率と同じじゃない。ならアタシに掛かれば余裕ってことでしょ?」
そう言ってのけるアスカの目には、自身に対する絶対の自信と高いプライド、そしてソレに伴う実力を誇る不敵な輝きが宿っている。
そして、それに呼応したのは、意外にもレイだった。
「私も残る。この街を、守りたいから」
「ふぅん? レイにしちゃ積極的じゃない」
「帰る家があるもの」
「愛しのシンジ様との愛の巣?」
「? 式波さんと私と碇君の家」
「……やっぱアンタ良い子すぎて張り合い無いわね」
「そうなの?」
「そうなの。……というかレイ、あんた良い加減に私の事苗字で呼ぶのやめなさいよね。苗字嫌いだからアスカでいいって言ったでしょうが」
「いつ?」
「駅のホームでシンジに! アンタもいたでしょ? 聞いてなかったわけ?」
「私もだと思わなかったから」
「アンタもよ」
「そう。ごめんなさい、アスカ」
「良いわよ、レイ。……まぁ一緒に死ぬかもしれないんだし? 他人行儀は癪だから」
「そう。……でも、貴方は死なないわ」
「へぇ?」
「私が守るもの。この街も、アスカも。絆だから」
「ふぅん————アンタ意外と熱いヤツだったのね、レイ。でも、アンタに守られるほどアタシか弱くないんだけど?」
そう言ってぐしゃぐしゃとレイの頭を撫でくり回すアスカと、されるがままのレイ。
地味に緩い癖毛な事もあって愉快なヘアスタイルになりつつあるレイの姿は、絶体絶命の危機に対して立ち向かうNERVスタッフ達の空気を和らげるには十分なほど愛らしい。
そんな中で、敢えて最後に意思を表明したのはシンジだった。
「僕も当然残りますよ、ミサトさん」
「そう。————貴方達、一応もう一度言っておくけれど、この作戦の成功率は1割弱。それは理解してるわね?」
「ええ。それにミサトさん。アスカも言ってましたけど、エヴァ自体が確率論を笑い飛ばす超兵器みたいなものでしょう? だから————」
そう言葉を一瞬溜めたシンジは、アスカとレイに視線を向けて、互いの目に宿る強固な意志を確かめてから、言葉を紡ぐ。
「成功率なんてのは単なる目安。あとは勇気で補えばいい!」
そう言い切ったシンジに対し、ミサトは瞑目して大きく息を吐くと、NERV全てのスタッフに向けて、作戦内容を通達する。
「迎撃作戦、承認! 作戦課長葛城ミサトの権限において、これよりNERVは使徒迎撃作戦を実行します! ————真正面から使徒を受け止め、返り討ち! やれるわね、アスカ、レイ、シンジ君!」
「「「応ッ!」」」
斯くして、史上最大規模の作戦が幕を開ける。
勇気を胸に、第3新東京市を守るべく立ち上がった勇者達は、慌ただしくその活動を開始するのであった。
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