旧世紀エヴァンゲリオン   作:黒山羊

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破-11

「フカヒレラーメン大盛り!」

「……ニンニクラーメンチャーシュー抜き」

「えーっと。……僕もフカヒレラーメン大盛りで」

 

 使徒殲滅が成功した日の夜。

 

 非常事態宣言が解除され、奇跡的に無事だった駅前の屋台にやってきたシンジ達の目的は、アスカ発案シンジ出資のささやかな祝勝会。

 

 元はといえばシンジの独断先行に対するお詫びのようなものではあるが、エヴァパイロット3名による初の共同作戦が無事成功した事に関するお祝いも兼ねて、3人で連れ立ってラーメンを食べに来たのである。

 

「はいお待ち」

「……結構ガチでフカヒレ乗ってんのね」

「まさか姿煮丸ごと1枚とは。綾波さんのニンニクラーメンは……流石にニンニク山盛りではないのかな? お腹壊すしね」

「美味しそう……いただきます」

「いただきます」

「いただきまーす」

 

 ズルズルと麺を啜る音、互いのラーメンを味見し合うアスカとレイ、一口のハズが割とレイに持っていかれたフカヒレをシンジのラーメンから補填するアスカ。

 

 そんな愉快なやり取りが交わされる楽しい食事会は、疎開で人通りの減った第3新東京市の夜闇の中に賑やかな声を響かせるのだった。

 

 

 * * * * * *

 

 

 そんな楽しい食事会の後のこと。

 

 歯磨きも風呂も済ませて眠りについたはずのアスカは、2段ベッドの上段で眠れぬ夜を過ごしていた。

 

 寝返りを打とうが、深呼吸してみようが変わらぬ寝付きの悪さに、アスカはポツリと呟きを漏らす。

 

「ずっと、一人が当たり前なのに……孤独って気にならないはずなのに。……寂しいの? アタシ」

 

 ひとつ、溜息。

 

 ベッドの下段で眠るレイはスヤスヤと寝息を立てており、今までの共同生活の経験上、レイはこうなると朝まで起きないし朝も中々起きない。

 

 であれば、まだ起きて居そうなのは、と考えを巡らせて、アスカはふと『彼』が眠れない身体なのだと思い出し、ベッドから這い出した。

 

 リビングに続く扉を開ければ、大きなビーズクッションに身を預け、スタンドライトの灯りで本を読む少年が1人。

 

 ちらり、とアスカに視線を向けた彼だが、時折アスカがトイレに立つ事もあるので、じっと見つめたりはせず、すぐに視線は手元に戻る。

 

 そんな彼の態度が少しばかりムカついて、アスカは読書するシンジに向けて、思いっきり飛び込んだ。

 

「うおっ……危ないよアスカ。僕が受け止められなかったらどうするのさ」

アタシが使徒より重いっての?

羽のように軽いです。……で、どうしたの?」

 

 シンジは咄嗟に左腕一本で抱き止めたアスカに優しくそう問いかけると、右手に持っていた小説をサイドテーブルに置き、アスカを両手で抱え直す。

 

 ゆるいハグのようなその姿勢を彼がとったのは、アスカの手が、自分のシャツに縋り付いて居るからだ。

 

「別に……ちょっとだけ居させて」

「いいよ。……眠れない?」

「うん」

 

 アスカ自身も自覚するほど、いつになく素直なのは、誰かの腕の中に居るからなのか。

 

 或いは、彼の腕の中に居るからなのか。

 

 今までの人生で縋るべき寄る辺の無かったアスカにとって、誰かの腕の中で過ごすのは初めての経験であるがゆえに、その判断は付け難い。

 

 だが、暖かな温もりと、耳元で聞こえる心臓の音は不快ではなく、アスカはそっと、目を閉じる。

 

 その眠りの中で、手櫛で髪を優しく梳く指先の感触が、アスカの心のささくれをひと撫で毎に取り去って、ただ優しくアスカを抱き締める腕は、どこまでも心地良い。

 

 だが、次第に深く意識が落ちていく微睡の中で、アスカはふと、『シンジは誰かに抱きしめて貰えるのだろうか』と意識して。

 

 その直後、何故かそれが自分以外だった場合を考えてムカついている自分を自覚しつつ、アスカの意識は夢に落ちたのであった。

 

 

 * * * * * *

 

 

 さて。その翌日。街を盛大に汚して死んでいった使徒の後始末にNERVスタッフ達が追われる中で、中学校は無事再開し、シンジ達はいつものように、お弁当を囲んで昼食会を開催していた。

 

「さぁて、メシやメシ! 学校最大の楽しみやからなあ」

「……アタシよくわかんないけど、男子って体育が楽しみなもんじゃないの?」

「トウジ、普段着ジャージの割に体育嫌いだもんね」

「うぐ、それを言うなやセンセ……」

「え、マジ? じゃあなんでジャージ着てんのよ」

「着心地や着心地! ええやろ別に!」

「そういえば、碇は碇で体育好きそうじゃないよな」

「大体、無闇に勝ち過ぎて試合だけ出禁になるからね僕」

「想像を超えた理由だった……」

「そういうケンスケは?」

「俺はまあそれなりかなぁ。サバゲやってるから運動自体は嫌いじゃないんだけど、球技ばっかはキツいよ」

「あー……そういえば何で学校の体育って球技ばっかりなんだろうね」

「日本は常夏だから水泳もあるじゃない。ドイツなんか海もないし碌に泳げなかったわよ」

「水泳かぁ……プール行きたいな」

「ケンスケ、下心が透けとるぞ」

「モテる者にはモテざるものの気持ちはわかるまい……というかトウジも委員長と行きたいだろ? プール」

「そらぁ……まぁ……」

「鈴原?」

「ひぃ! 堪忍や委員長、すまんて!」

 

 そんな取り留めのない会話。日常の証拠と言えるそのやり取りだが、忍び寄る使徒の気配が、その日常にも影を差す。

 

「……ま、ジャージとメガネの下心は別だけど、今なら市民プールも空いてるんじゃないの?」

 

 そう言ってアスカが目を周囲に向ければ、昼食を食べる生徒達の数は、いつもより随分と少ない。

 

 先の第八使徒との戦いの折に疎開した者の多くが、第3新東京市を離れる事を選んだのだ。

 

 まぁ、無理もないだろう。あの規模、あの巨体で上空から突っ込んでくる使徒の姿は日本全国から見えていたのだ。もはや情報統制も何もあったものではない。

 

 当然NERV職員以外は疎開したし、NERV職員だとしても大半のものは家族を疎開させているのである。

 

「疎開なぁ。……ワシはギリギリまで残るで。センセらや父ちゃん爺ちゃんが戦っとんのに、ワシだけケツ捲れるかぃ」

「気持ちは嬉しいけど、無理はしないでねトウジ。サクラちゃんも居るんだし」

「それはそうやけどなぁ……当のサクラが『碇さんが残るんやったら私も残る!』言うて聞かんのや」

「あら、無敵のシンジ様はお子様にもモテモテってわけ?」

「ははは……まぁ一過性のものじゃないかな?」

「……シンジ、忠告しといてあげるけど、女ってのは昔の事をいつまでも覚えてるもんなのよ。その子が将来拗らせても知らないんだからね。ねぇ、ヒカリ、レイ。アンタらもそう思うでしょ?」

「わかるかも。私、女3人姉妹だし特に」

「……私はよくわからない」

「レイ、アンタねぇ……なんか恋愛に憧れとか無いわけ? あの人と付き合いたい〜とか一つになりたい〜とか抱きしめて欲しい〜とか」

「……わからない。アスカはわかるの? アスカ、昨日碇君に抱きついて寝てた。どんな気持ち?

 

「ゲフッ!? ぶふぉ、ゲホッ、ちょ、レイあんた何言って————!」

 

 綾波レイの投下した特大の爆弾発言に、飲んでいたお茶を思いっきり気管に入れて咽せ帰るアスカ。その直後、疎開で人数が減ったとは思えない程の黄色い悲鳴が教室内に爆発し、冷や汗をかいて苦笑いするシンジはヒカリ含む女子グループの有力メンバーに捕獲されて早くも尋問を受ける羽目になっている。

 

「碇君、私、まだ私達の年齢でそういうのは早いと思うの」

「洞木さん、まずは誤解を解かせて欲しいんだけど……」

「言い訳無用よ!」

「えぇ……」

 

 結局その後、寝苦しかったアスカを寝かし付けただけだというシンジの弁明が通るには羞恥で茹蛸になったアスカの復活を待つ他なく、シンジは次の時間割がロングホームルームだった影響で、昼休みを超えてみっちり1時間ほど尋問される羽目になったのであった。

 

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