「通信途絶! 大気中の電波障害急激に増大! 爆心地は北米! これは————4号機と第二支部が消滅!?」
突然コンソールに溢れ出したエラーメッセージとそれが齎した凶報により、騒然となったのは夜も遅くの事。
しかも間の悪いことにその連絡を受けた際にはミサトは自宅で入浴中、リツコはNERV内のカフェテリアで夕食中、その他の職員も夜勤組と交代しようかという最中であった為NERVの混乱は中々のものだった。
ただ、それもこれも、その情報の異常性故の事態であるのは間違いない。これが使徒襲来であれば、NERVのスタッフは対応の為の訓練は脊髄反射になるレベルまでやり込んでいる。これほどの混乱を生むこともなく、冷静に対応できた事だろう。
だが、『よくわからないけどとにかく周辺地域ごと支部が消滅した』などという超異常事態に対応するような訓練を受けているはずもなく、対応が後手後手になってしまったのである。
そしてそれ故に。パイロット達がその事態を知ったのは、翌朝のことだった。
* * * * * *
「NERV北米第二支部が消滅、ですか。……えーっと。つまりどういう事なんです? 新型爆弾の実験でもしてたんですか?」
「まぁ、そうなるわよね……今件の詳細な原因は不明。ただ、いくつかの予想はついたわ。マヤちゃん、データを」
「はい。……当日、NERV北米第二支部ではエヴァ4号機の起動実験を行っていました」
「起動実験? んなもん電源入れるだけじゃない。エヴァって電気で動いてるんだし。……まさか、内部バッテリーの不良で周囲丸ごと支部が吹っ飛んだってのリツコ?」
そう言って訝しげな目を向けるのは、『兵器』としてのエヴァンゲリオンへの理解度でいえばパイロットで最も長けているアスカ。
バッテリーパックに蓄電出来るエネルギーを全て瞬間的に解放しても精々エヴァの背中が爆発して身体が上下泣き別れになるだけだ、と語るアスカの弁は、実際間違っていない。
だが、しかし。
「バッテリーの爆発というのは、半分正解ね。……4号機は、活動時間の延長を目的とした新型主機のテストベッドだった……らしいわ。北米NERVの情報は私にも完全に明かされてはいないのだけれど」
「んー、N2リアクターでも積んだのかな……?」
「おそらく違うわ。これを見てちょうだい」
そう告げてリツコがスクリーンに表示したのは、北米第二支部消滅の瞬間を捉えた衛星からの動画。
立ち上がる光の柱と、その直後広がる異様な光の輪。そしてそれに伴い急速に消えていくATフィールドの反応。
「……使徒の爆発と形象崩壊?」
「やはりそれを想起するわよね。周りごと巻き込んでとなると異様すぎるけれど」
そう言って嘆息するリツコの眉間には深い皺が刻まれており、彼女自身よくわからない今回の事件に懊悩しているのは見て取れる。
だが、そんな彼女に追い討ちを掛けると分かっていても、ミサトは作戦課長として聞くべき話があった。
「……リツコ、ウチのエヴァは大丈夫なのよね?」
「それはもちろん、安心安全の充電式だもの。バッテリー稼働時間は5分だけれど、アスカの言う通りこんなメチャクチャな事にはならないわ」
「なら良いけど……原因不明の起動を繰り返してる初号機は?」
「あれは現象で言えば暴走に近いから別件と見るべきね。エヴァが制御システムに依らず自律行動をするのは確かに計算外の挙動だけれど」
そう言って疲れたように深い深い溜息を吐くリツコ。だがわざわざパイロットを呼び寄せてこんな話をしているのは、もっと気の重い話をする為なのだ。
そして、ミサトとリツコのしばしのアイコンタクトの後、その話題を切り出したのは、ミサトだった。
「で、今回吹っ飛んだのは4号機なんだけど。……NERV北米第一支部では、3号機が建造されていたのよ」
「ふぅん。……それが何だってのよミサト」
「ウチに引き取って欲しいそうよ。ついでに起動実験もして欲しいらしいわ」
「はぁ?」
アスカが素っ頓狂な声を上げるのも無理はない。その内容はつまり————。
「自爆が怖いからアタシ達に実験台になれっての!? ありえない!」
「そうなるわよねぇ……私も断れるものなら断りたいんだけど……」
「……父さんですか?」
「いえ、碇司令も一度は断ったみたいよ。にも関わらず、国連からの命令権を行使されたってわけ。……ウチもまぁ、国連の下部組織だからこれを断るのは流石に無理ね」
そう言って今日何度目かも分からない溜息を吐くミサトだが、そんな彼女が出した『国連』という単語で、レイは一つの懸念を指摘する。
「……葛城一佐。バチカン条約はどうなるの?」
「鋭いわねレイ。……今回集まってもらったのは他でもないわ。————誰の機体を凍結して、3号機の起動実験を行うか、これを決めたいの」
「ミサトさん、それなら僕が————」
そう率先して手を挙げるシンジだが、それに対してミサトは首を横に振る。
「シンジくんはダメよ」
「何故ですか?」
「さっきも言った通り停止プラグを打ち込んでも暴走している以上、初号機は凍結できないからというのが一つ。もう一つは、もし3号機が暴走した際に最も強力な対抗手段となるのがシンジくんと初号機だからよ。だから、レイかアスカのどっちかが今回の実験の対象になるわ」
そう告げて、改めてアスカとレイに視線を向けたミサト。それに応じるように声を上げたのはレイだったが、直後、それに被せるようにアスカが強く主張を述べる。
「葛城一佐、私が————」
「————アタシが乗るわ。レイはプロトタイプの零号機しか乗った事ないんでしょ? それなら起動実験は制式タイプの2号機に慣れてるアタシの方がいいわ。それに、アタシの方が常にレイよりシンクロ率が高いしね!」
「……アスカ」
「何よレイ」
「私は死んでも代わりが————」
「————それ言ったらこの場でボコボコにするわよ、レイ」
「……何故?」
「アタシがアタシであるように、アンタはアンタで代わりなんてもんはないからに決まってんでしょうが! アタシ、自己犠牲とか他人の為に死ぬとか、そういうの虫唾が走るの! もっと自分を大切にしなさいよね!」
「……ごめんなさい。ありがとう、アスカ」
「ふん。————で、ミサト。アタシはどうすれば良いわけ?」
そうミサトに問うアスカは、一見気負った様子もなく自然体。
だが、そんな彼女の瞳の奥に一抹の恐怖と不安を感じ取ってしまったシンジは、ギシリ、と鈍く軋んだ音が出るほどに拳を握り、どうにか己を抑え込むのに必死だった。
己の不安を押し隠して責務を果たそうとする少女と、そんな少女の姿に己の不甲斐なさを恥じる少年。
それぞれの心は決して表に出ぬままに、運命の歯車は、唸りを上げて回り始めるのであった。
割烹にも書きましたが体調が死んだのでしばらくは不定期更新です!
ガンバルゾー\\\\٩( 'ω' )و ////