「聞いたぞシンジ君、大活躍だったそうじゃないか」
「ホントホント、お姉さんも大満足だにゃ」
第3新東京市の郊外に設けられたスイカ畑でそんな会話をシンジと交わすのは、加持リョウジと真希波マリ。
シンジが「シンジ君暇ならちょっとデートしないか?」という加持の怪しい誘いにホイホイついてきてみれば、その行き先はガッツリ系の菜園だったのである。
てっきりWILLEの密会でもあるのかと勘繰っていたシンジに突如与えられた雑草殲滅ミッションは、強靭なヒーローの肉体を以ってしても『結構腰にくる』ものだったが、まぁ土弄りというのは趣味とする者が多数いるジャンル。
元々生物学系の学徒でもあるシンジにとっては存外楽しい催しであり、お昼に差し掛かる頃にはすっかり心地の良い汗をかいていた。
そんな中で、弁当を囲みつつ切り出されたのが、冒頭の会話なのである。
「大活躍って、アスカを助けられて良かったですけど、あのときダミーが起動して不思議な事が起こってなかったら勝てなかったかもですし、そんな大したもんじゃ……」
「いやあ、ナンパ男を相手に『僕の彼女に何か用ですか?』の一言で睨みつけて追い返すなんて中々できるもんじゃないぜ?」
「そうそう。あと公衆の面前でお姫ちんに温泉饅頭をあーんしてたり、ゲーセンで頼まれた景品を一発ゲットしてたり中々の彼氏ぶりだったゼ⭐︎」
「そっち!? というか見てたんですか!?」
「まぁそりゃ保安上君達は常時監視されてるからな。————とまぁ、冗談はさておき。この畑はそんなネルフの監視を全力で欺いてる場所なわけだ」
「内緒話には最適ってヤツだにゃ」
「さてシンジ君。君にいくつか情報を提供したい。————まずは、恐らく明日君達にも連絡があるとは思うが、初号機のオーバーホール計画についてだ」
そう告げて、一旦間を設けるようにタバコを咥える加持は、紫煙を燻らせながらシンジの反応を待つ。
そのわずかな間に、シンジの灰色の脳細胞は、その答えを弾き出していた。
「……先日の謎の暴走の調査に託けた、事実上の凍結処置ですか?」
「流石の嗅覚だにゃワンコくん。……まぁ、ゲンドウ君も、君が全力で初号機を呼べばバラバラ死体でも即座に再生して出撃出来るだろうとは踏んでる。でも、通常時よりはどうしても、君が初号機を呼び出すのにラグがある筈にゃ」
「碇司令とゼーレの目的であるサードインパクト、ファイナルインパクトの発動……その為の計画が本格的に始まったって事になる。おそらく、次の使徒には零号機のみを出撃させるつもりだろう」
「綾波さんを……?」
レイの名が出てきた事で、その表情を強張らせるシンジ。恋人であるアスカとはまた違うベクトルで『愛しく思っている』少女が槍玉に挙げられたのだから当然だが、彼自身薄々予想はしていたのか、冷静さを失ってはいない。
そんなシンジ少年に対し、加持は彼が受け止め切れると踏んだ上で、情報の洪水を浴びせていく。
「そうだ。……そしておそらくその狙いは、エヴァ零号機と使徒を触媒にしたサードインパクトの発生。使徒を生贄に捧げてエヴァを擬似的な神へと押し上げるのか、エヴァを生贄に捧げて使徒を擬似的な神に至らせるのか。或いは戦闘の隙に、封印されたリリスを解き放ち、その権能を以てサードインパクトを発生させるのか————いずれにせよ、そうなればレイちゃんの身は危険に晒されるだろう。シンジ君も重々気をつけておいてくれ」
「まぁ、いざとなればお姉さんも2号機をジャックして出撃するからさ〜。シンジ君が駆けつける時間ぐらいは稼げるはずにゃ」
「……はい。加持さん、真希波さん情報ありがとうございます」
「いやいや。というか感謝するにはまだ早いさ。此処からも耳寄り情報だぜ? ————ゼーレの主導の下、エヴァ6号機、もといMark.6が完成したらしい。俺は正直、こいつがサードのトリガーだと睨んでる」
「6機目のエヴァ……ですか?」
「ああ。だがその実情は、フランケンシュタインの怪物だ。第一使徒の死体をいじくり回して作った機体だからな。……そういう意味で根本的に君達の乗るエヴァとは建造方法が異なる。当然その能力も未知数だ。————きな臭いだろ?」
そう告げて、加持は空を仰ぎ見る。
「ヤツは今、月にいる筈だ。くれぐれも、空には気をつけてくれよシンジ君」
「……はい」
「さて、オッサンの難しい話はこれで終わり。————ほら、駄賃のスイカだ。3人で食うと良い。きっと甘いぞ?」
「お姉さんの分は無いのかにゃ?」
「お前は散々摘果した奴をちょろまかしてただろ」
「浅漬けにすると美味いから仕方ないにゃ」
「行動が田舎の婆ちゃんなんだよな……コイツ……」
「貴様〜! 言ってはならん事を〜!」
「ぬわぁ!? 暴れるな!?」
先程までの真剣な雰囲気が嘘のように始まった加持と真希波のコントめいた騒ぎ。
その落差に思わず吹き出すシンジ少年だが、その脳裏では迫る危機に対応すべく、冷徹な思考が渦巻き続けている。
加持によってシンジに齎された数々のデータは、未来を変える為の武器として、今シンジの脳内で鍛え上げられつつあった。
* * * * * *
「碇、本当に良いのか?」
「ああ。我々の最終目的はサードでは無い。サードの主導権はゼーレにくれてやっても問題ない」
「……サードの後に巻き返す策があるのか?」
「エヴァを秘密裏に建造しているのはゼーレだけではない。そうだろう?」
「エヴァオップファータイプか……しかし、パイロットはまだ未完成だが」
「死んでいるわけでは無い。今、記憶の書き込みを実行中だ」
「……レイは、もう良いのか?」
「綾波タイプNo.2は先刻をもって破棄している。第十使徒の迎撃までは持つだろう」
「……シンジ君は、怒るだろうな」
「……。————構わん。いずれこうなる事はアレも承知している。道を違えたならばもはや闘争か逃走のどちらかしか無いのだ」
「勝てるのか? ユイ君の忘れ形見に」
「我々は勝たねばならない。故に勝つ。————全ては、NERV究極の目的の為に」