もしかして:大ショッカー
「相模湾上に高エネルギー反応! パターン青! ————使徒です!」
「このタイミングで!? リツコ、初号機は!?」
「オーバーホールでバラバラに解体されてるわね……」
「2号機もユーロの管轄で凍結されたまま……零号機しかないか! ————レイは!?」
「パイロット3名はこちらに急行中!」
「零号機の起動準備開始! いつでも出撃できるようにしといて頂戴! ————使徒の状況は!?」
「目標は旧小田原方面に向けて進行中! 此方からの攻撃は一切通用していない模様!」
「敵の攻撃により相模湾に展開中の無人艦隊蒸発! まずいですよコイツは……!」
「超火力と超防御力、シンプルながら隙がないわね……!」
悲鳴のような報告が飛び交う発令所。控えめに言って最悪の状況で現れたのは現状の情報だけでも最強と呼ぶに相応しい使徒。
そんな中で、ミサトは『科学的根拠のない手法』に頼る事を決断する。
彼女が取り出したのは、携帯電話。その通信先は、碇シンジだ。
「シンジ君、聞こえる!?」
『はい!』
「今は3人で行動してるのよね?」
『はい、もうすぐNERVに到着予定です』
「レイとアスカをこっちに寄越して、シンジ君はそこから直接相模湾方面に向かって初号機に『変身』して欲しいの。出来るかしら?」
その発言を流石に看過できないのは、技術者である赤木リツコ。訳の分からない手段を頼りにするのは如何なものかとでも言うように、彼女はミサトの発言に苦言を呈そうとするが、それよりシンジの返事の方が早かった。
「ちょっとミサト————」
『やってみます!』
そう告げて切られた携帯電話。それを持つミサトは、自身にジト目を向けるリツコに対し、開き直りとも言える宣言を実施する。
「今は緊急事態。使えるならオカルトだろうが奇跡だろうが使うわ!」
「————ハァ、あなたってほんと……」
そう呆れたように溜息を吐くリツコだが、まぁ今はミサトに理があるかと、エヴァ初号機の自己分解に巻き込まれぬようにオーバーホール作業を行なっていた技術職員達に総員退避を命令する。
それに呼応するようにミサトも総員第1種戦闘配置を宣言し、NERVのスタッフ達はそのエリートとしての有能さをフルに発揮しつつ、使徒を迎え撃つ準備を進めていく。
だが、そんな彼らに齎されるのは、希望ではなく絶望の知らせだった。
「これは……!? 太平洋上南方100kmに高エネルギー反応多数発生————パターン青!?」
「馬鹿な!? 使徒が大量発生したというの!?」
「本部上空、静止軍事衛星からの通信途絶————! こちらも高エネルギー反応を検知! パターン青!」
「嘘でしょ!?」
あまりにも異常で絶望的なその情報の意味するところは、NERVどころか人類にとっての絶体絶命の危機。
だが、事態が『使徒の大規模侵攻』より遥かに複雑であるとミサト達が知るのは、発令所へと繋がれた、シンジからの緊急通信によってだった。
『ミサトさんッ! エヴァです!』
「どういう事!?」
『敵はエヴァンゲリオンですッ!』
明らかに全力疾走中と覚しい風の音が混じる、その通信の最中、シンジは裂帛の気合を込めて咆哮し、彼に呼び出されたエヴァ初号機は、光に還元されて主人の下へと馳せ参じた。
それと同時にエヴァからの視界データが発令所に共有された事で、ミサト達は、シンジの報告が嘘ではない事を知る。
太平洋上を埋め尽くすのは、大量の、髑髏仮面の巨人。白く簡素な作りではあっても、それは間違いなくエヴァだった。
* * * * * *
「エヴァンッッッッ————ゲリオォォォォンッッ!!!!」
海岸へと飛び出しながら、そんな咆哮と共に『初号機に変身』した碇シンジ少年。そんな彼の居る場所は本来彼が目指すべき『第十使徒』の出現地点にはまだ遠い。
だが、彼はどうしても、その場所で足を止めざるをえなかったのだ。
『イ゛ィィィィッ!!!』
「くっ!? 何だよこの髑髏のエヴァっ!? ミサトさん! プラグの緊急排出信号はどうですか!」
『無理よ! そいつらのパスがわからない!』
そんな会話を交わしつつ、猿叫のような奇声を上げて襲いくる謎の髑髏エヴァと交戦するシンジ少年は、端的に言って余裕がなかった。
何しろ、本当に冗談抜きに、髑髏のエヴァは数が多いのだ。地獄の軍団、悪魔の軍団、あるいは恐怖の軍団とでも言うべき白いエヴァの津波。
それが碇シンジの駆る初号機目掛けて襲いかかる光景は、発令所に居るマヤが『ふぇぇ』と間抜けな悲鳴をあげてしまうほどには悍ましい。
もちろん、ヒーローを自称し、事実そう在ろうとするエヴァ初号機とそのパイロットは、凄まじい実力を発揮しており、そのシンクロ率は1971.43%と相変わらずパーセント表記の意味を考えたくなる数値を叩き出している。
だが、パンチ一発で3体をまとめて吹き飛ばし、回転蹴りで10体を纏めて薙ぎ払っても、敵の数は視界に収まるだけで数百を超えているのである。
そして何より、群がる敵を薙ぎ倒すと言えば聞こえはいいものの、そもそもパンチ一発で3体を殴れば威力は当然3分の1。エヴァを仕留めるには威力が足りず、正直なところ『一体に狙いを定められていない』と言うのが現状だ。
「キリがないッ!」
そう叫ぶシンジに対し、呼応するのはエヴァに侵食されたダミープラグ。
その問いに対してシンジの答えは、当然是。
「欲しいッ! 皆を守る力が!」
その声に応じるように、再びシンジを取り込んだ初号機は、多層化ATフィールドの黒い鎧に身を包み、真紅に燃える眼光と共に、自らの脊髄とエントリープラグを光の剣として抜き放つ。
その輝きに対して、畏れを知らないのか単に思考が存在しないのか、躊躇なく襲いかかる髑髏のエヴァ達。だが、その光の剣が振るわれれば、髑髏の首が飛び、腕が捥げ、脚が吹き飛ぶ。
そして刺突を受けた個体がその体内に超高エネルギーを流し込まれて内側から派手に爆散し、初号機の周囲に蔓延る髑髏仮面どもは、爆風によって大きく吹き飛ばされていく。
だが、それでも。圧倒的な物量を前に、シンジはあまりにも分が悪い状況に立たされている。
大量の戦闘員でヒーローを封殺するかのようなそのやり口は、まさに悪の組織の企み。
この事態が『ゼーレの仕業』であると確信するシンジだが、それを伝えようにもNERVがゼーレの下部組織である以上『壁に耳あり障子に目あり』。どこに監視の眼がいるとも限らない。
そもそも、いきなりゼーレ云々を言われても、理解できるものは皆無だろう。
故にシンジはただ1人、エヴァンゲリオンと化して髑髏の軍勢に無謀な戦いを挑む他ないと覚悟を決めた。
だが。
————ヒーローはもはや、1人ではないのだ。
* * * * * *
いつかのシンジの様にレイを抱えて、NERV本部へと駆けつけたアスカ。
だが彼女が搭乗するべき2号機は凍結され、アスカは零号機に搭乗するべくケイジに向かうレイを見送ることしか出来ず、本部待機となっている。
そんな彼女の脳裏に、突如響いたのはシンジの思念だった。
『ゼーレの仕業』とこの事態を看破した彼の思考を受信したアスカが、物の試しにシンジへと思念を送ってみれば、返ってくるのは困惑するかのような思考。
『アスカ!?』
『やっぱりこの声、シンジなのね? で、
『それは————』
一瞬の躊躇の後に、送られてくるのは莫大な情報。そして、NERVの裏の目的を阻止すべく動くWILLEなる組織の存在。
情報の濁流にアスカの頭はズキズキと痛むが、シンジほどではなくともアスカの脳も一級品。次第にそれらの情報を自身のものとして定着させ、更にはシンジから受け取った情報の中から、アスカにとって起死回生の切り札となりうるものすらも発掘してみせた。
『シンジ、アンタはその白いのをブッ飛ばすのに集中しなさい! こっちはアタシとレイとコネメガネでなんとかするわ!』
『ありがとうアスカ! ————ところでコネメガネって誰?』
『あの真希波って奴よ!』
そんなテレパシーと共に、アスカは待機室を抜け出して、ジオフロントへと続く通路へと足早に駆けていく。
シンジの読みが正しければ、敵の真の狙いはこのジオフロント。
そしてアスカは、シンジの読みが正しいのだと確信している。
故にこそ、自身をこのジオフロントを守る布石とするべく、彼女はATフィールドでその身を監視の目から覆い隠して、NERV本部をひた走るのだった。