旧世紀エヴァンゲリオン   作:黒山羊

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破-28

 セントラルドグマから浮上するリリスとMark.06。危険域であるNERV本部施設から脱出していた職員達の眼前に現れたそれらの存在は、彼らにとってまさに絶望の象徴だった。

 

「リリスの覚醒……サードインパクトの始まりね……」

「シンジくん達が負けたっての……!?」

 

 最強の存在として、NERVの精神的支柱であったエヴァンゲリオンとパイロット達。彼らの不在という状況は最悪の事態を予想させるには十分なもの。

 

 その予想を裏付ける様に、零号機、初号機、2号機、3号機の識別コードは、あらゆる計器で検知されず、職員の中にはへたり込むものすらいる有様だ。

 

 そんな中、宙に浮かぶリリスの頭上に現れるのは、凄まじいエネルギーを帯びた光の輪。

 

 そして、その内側に徐々に開くのは、ブラックホールのような深淵の暗闇だ。

 

 同時に、リリスから伸びて行く細く長い光の翼。

 

 先程から、起こりかけては止められてを繰り返すサードインパクトを巡る拮抗が、大きく発動側へと傾いて、絶望の赤光が大地を満たす。

 

「この世界の(ことわり)を超えた新たな生命の誕生。代償として、古の生命は滅びる……」

「光の、翼……15年前と同じ……!」

 

 そんな喘ぐ様な呟きを漏らしても、もはやNERVの職員達に出来ることなど殆ど無い。

 

 かくなる上は周囲一帯諸共、サードインパクトを起こす前に全てをNERV地下に仕込んだN2の炎で焼き尽くすべきか、とすら思考するミサトだが、それに待ったを掛けたのは、その場に現れた加持リョウジだった。

 

「葛城、エヴァの識別信号が絶えたって話だが、エネルギー反応もないのか? 形象崩壊の火柱も上がっちゃいないし、まだ諦めるには早いぜ」

「————ッ! マヤちゃん! リツコ!」

「はい、センサーの損傷も激しいですが、やってみます! ————これは!?」

「NERV地下に超高エネルギー反応! 更に地下貯蔵施設のN2爆雷が原因不明の消失!? 地下に向けて不明な給電回路の構築も確認! エネルギーを吸い取っているの……!?」

「エネルギー吸収……賭けてみるか! リツコ! その不明な給電回路に、全電力を投入出来る!?」

「————やってみるわ。マヤ、端末を貸して頂戴」

 

 そう告げて、リツコがマヤの携帯端末からMAGIに直接コマンドを送り込むと、NERVの全電力が地下の謎の高エネルギー体へと送り込まれる。

 

 その直後————壮絶な光の柱がセントラルドグマから噴き上がり、インパクトを発動させつつあったリリスとMark.06を黒焦げに焼き尽くした。

 

 もちろん両者はその再生能力によってすぐに活動を再開するが、インパクトの儀式は一時中断され、ガフの扉も光の翼も掻き消えて、周囲を満たす赤い光も嘘の様に消え去って行く。

 

 そして————。

 

 

「待てぃッッ!!!!」

 

 そんな裂帛の気合を込めた制止の声と共に、大穴の開いたジオフロントの天蓋から除く月を背負って腕を組み空中に仁王立ちする巨大な人影が一つ。

 

「アレは……!?」

「識別コード未確認ッ! しかし、エヴァンゲリオンです!」

 

 此処に来て新たに現れた、未確認のエヴァンゲリオン。

 

 その肩から棚引くように噴き上がる2本の銀光は風に舞う白いマフラーのように宙に漂い、その上にはアスカの2号機を思わせる赤い頭部と緑の眼光。

 

 しかしその胴体は零号機を取り込んだ使徒のように白く、腕は初号機と同じく緑の発光を伴う黒いもの。

 

 そして下半身は本来の3号機を思わせるような黒の基本色に赤い発光部。どう見てもそれは、エヴァンゲリオンのキメラであった。

 

 だが、最大の特徴は、胸部から腹部にかけて装甲を割り開くように正中線上に並ぶ赤いライン。

 

 そこに並ぶ三つの輝きが意味するところは、ただ一つ。

 

「コアが三つ!? トリプルエントリー!? そんな! あり得ないわ!」

 

 リツコがそう叫ぶ通り、パイロット3名を搭乗させ、3つの心を1つに重ねるというあまりにも無茶苦茶なシステムは、タダでさえ『起動率10億分の1(オーナインシステム)』なエヴァを『起動率1000禾予(ジョ)分の1』にしてしまうという点で、『設計されること自体が有り得ない』。

 

 である以上、それは『新造』ではなく『改造』。エヴァンゲリオンとパイロットによって、自ら強化改造を施した、全く新しい機体。

 

 そして、その機体からマヤの端末へと送信された、新たなその名は————! 

 

「識別コード受信! 『Evangelion : Veritable Victorious Version』! エヴァンゲリオン真・勝利改造形態、エヴァンゲリオンV3ですッ!」

 

 その声と同時に、Mark.06から響くのは、どこか諦めたような、悲しげな少年の声。

 

「エヴァの本質、願望の器としての力の覚醒か……シンジくん、君は本気で、神に至るつもりかい?」

「それで世界を救えるのなら、僕は何にだってなってやる————エヴァンゲリオンは神にも悪魔にもなれる力だ!」

「君はまた自分を代償に世界を救うのかい? ————そうしたあと、あの赤い海の渚でいつも君は1人泣いていたのに!」

「君は、何を知ってるって言うんだ……?」

「君について、君の今までの世界について全て! だからこそ僕は此処で君を止めるよシンジくん。————僕は君を今度こそ救ってみせる!」

「————僕を救うと言うのなら、その前に世界を救って見せろ!」

「因果は君と世界の二者択一、それは無理な話だ!」

 

 交わされる言葉は、Mark.06からの懇願と、エヴァンゲリオンV3を駆るシンジからの拒絶。

 

 平行線を辿る話の中で、シンジの明晰な頭脳は相手の言葉に嘘がない事を察し、Mark.06の搭乗者の行動が、自身への愛故であると感じ取る。だが、世界を守るべく立ったシンジの魂は、その愛を明確に拒み、世界を救う道を直走るのみ。

 

 そして何より————。

 

「君は僕を1人ぼっちと言うけど、僕は独りじゃない!」

 

 そんなシンジの宣言と共に、赤く輝く3つのコア。そこから響くのは、アスカとレイの同意の声だ。

 

「そうよ! バカシンジには超頼りになる天才美少女パイロットのアタシも居るし————」

「私も居る。Mark.06の人、碇くんは貴方の予言のようにはならないわ————私達が護るもの」

 

「式波タイプと綾波タイプ……リリンの王の被造物が何を————!」

「だまらっしゃい! アタシもレイもクローンだからなんだってのよ! アタシにもレイにも魂がある! 心だってある!」

「そう。私達にも愛と勇気はある。ならきっと————」

 

「「「————世界を救うヒーローに成れるッ!!!」」」

 

 力強く宣言する3つの声。重なり合うその心が百万パワーの正義の炎を噴き上げて、エヴァンゲリオンV3の身体から、炎の様に赤いATフィールドの奔流が迸る。

 

 3人の心の炎が合わさり(ほのお)となったエヴァンゲリオンV3はもはや無敵。

 

 その圧倒的に過ぎる力の渦を前にして、Mark.06のパイロットは喘ぐ様に言葉を漏らし、その最中、唐突に『悟った』かの様にその声に意志の力を宿らせる。

 

「三位一体の力……!? こんなものはシナリオに————そうか。シナリオに、無い。ならシンジくん、もはやキミの運命も————それならシンジくん! 僕を越えて征け! 僕と言う運命の柵を打ち破って見せろ!」

 

 その宣言と共に、Mark.06はリリスの肉体に融合し、天を衝く巨大なエヴァンゲリオンと化してエヴァV3へと立ちはだかる。

 

 だが巨大化怪人とヒーローの決戦を思わせるその縮尺差を前にしても、エヴァV3を駆るシンジ、アスカ、レイの心の光は一切の翳りを見せることはない。

 

 巨大化Mark.06に合わせて何故か巨大化した槍が振るわれればそれをゲル化で回避し、巨大な拳や脚による殴打蹴撃の嵐には、サイズに反比例する様に強烈な電撃を纏う手刀(V3電撃チョップ)深海から突き上げる様な蹴り上げ(V3サブマリンキック)で真正面から打ち勝って、体格差をものともせずに巨大化Mark.06を圧倒する。

 

 そして、あまりに猛烈な反撃の数々に蹈鞴(たたら)を踏む巨大化Mark.06の隙を突くように、エヴァンゲリオンV3は肩からマフラーのように噴き上げる白銀のエネルギー流を一層強力に噴き出して、凄まじい跳躍力を発揮する。

 

 天蓋の大穴から飛び出すほどの、月にも届きそうな大跳躍。

 

 愛と勇気と正義の焱を纏い、天高く飛翔する希望のエヴァンゲリオンは、天地に轟く咆哮と共に、巨大な敵を討つべくその身を必殺の一撃へと変えて行く。

 

「「「ゔあぁああ゛ぁ゛ぁぁぁッッ————!!!!」」」 

 

 3人の全力の気合と共に、その足先から噴き上がる極大の焱が天を焦がし、夜を真昼の如く照らし出す。

 

「スゥゥゥパアアアアア゛ァ゛ッッッッ!!!!」

 

 あまりの高エネルギーに電離した大気が雷光を迸らせ、赤い光に応じる様に現れた黒雲はカケラも残さず吹き飛ばされた。

 

「V3ャァァァアア゛ァ゛ッッ!!!!」

 

 そして、胸に輝く三つのコアが太陽の如く輝き、エヴァンゲリオンV3は不可思議な力によって加速度的にその速度を増して行く。

 

「火柱ァァアア゛ァ゛ッッッッッッ!!!!」

 

 正義の焱を全身に纏うその姿は、巨大隕石の様な破壊の暴威でありながら、見るものに安心感を抱かせる頼もしいもの。

 

「「「キィィィィィッックッッッッ!!!!!」」」

 

 そして、焱の矢と化したエヴァンゲリオンは巨人の脳天へと突き刺さり、その身体を真っ二つに突き抜けて、地響きと共に大地に降り立った。

 

 ————直後、起こったのは大爆発。

 

 リリスも、Mark.06も、天蓋の残骸も、全てを吹き飛ばし上空に昇る十字架の爆炎の後には、満点の星空と月の光。

 

 だが、そんな爆炎の中で、エヴァV3の手には、1つのエントリープラグが握られていた。

 

「……こうして、キミの手の内に握られるのは3度目かな。今度も握りつぶすのかい?」

「……さっきも言ったけど、君には聞きたいことが山ほどあるんだ」

「そうか。……変わったね、キミは。変わらないのは僕だけか。————だけどシンジくん、良いのかい?」

「何————?」

 

「君の父上は、世界を壊したがっているようだよ?」

 

 Mark.06のエントリープラグから、そんな声が響いた直後。

 

 突き上げる様な振動と共に大地は砕け、空には再びガフの扉が広がっていく。

 

 そして、その扉を生み出し、宙に浮かぶ光の巨人————。

 

「また新しいエヴァ……!?」

「いや、違う。アレは————」

「対象の識別コード、エヴァンゲリオン2号機……パイロットのバイタル、確認出来ません!」

「真希波さん!?」

 

 マリが乗っていた筈の2号機が、ロンギヌスの槍を手にして光の巨人となっている。

 

 だが、シンジの心配の声に対し、応答は意外なところから帰ってきた。

 

『ごめん、姫————2号機、ゲンドウくんにパクられちった』

「コネメガネ!? アンタ無事なの!?」

『プラグを強制射出されて全身打撲って感じだにゃ……今の2号機にはダミーが刺さってる。それと、多分綾波タイプも』

「————父さん、そこまでするのか……!?」

 

 クローン一体とエヴァンゲリオン2号機を生贄に、槍と魂とエヴァの3つを無理矢理揃えて発動された、サードインパクト。

 

 先程遂行されかけていた儀式を再起動する事で異常な速さで進むガフの扉の開放は、大地を赤く染め、無辜の人々を扉の彼方に広がる絶望の渦へと叩き落とす。

 

 そして、赤い大地に侵食された世界で、魂を収奪された人々の肉体は、赤一色のエヴァンゲリオン2号機の姿へと変生し、彷徨う様にノロノロと蠢き始めた。

 

 そのオリジナルたる2号機は、遂には全身をエネルギーに転換し、加速度的にガフの扉をこじ開けていくその姿は明らかに、『ヒト』の意志を感じない装置と化している。

 

 無論、それをみすみす見逃すシンジ達では無い。しかし————。

 

「先程から度々開きかけていたからね。L結界密度がリリンの限界を超えているんだ。————シンジくん、君たちが此処を離れれば、エヴァのATフィールドの加護を失った人々は、残らずあのガフの扉の向こうに連れ去られるよ」

 

 そう告げるMark.06のパイロットの言葉の通り、エヴァンゲリオンV3が咄嗟に展開したATフィールドには激烈な負荷が生じており、ネルフ本部とジオフロントのシェルターを守る為には、この場を動く事など出来はしない。

 

 故にシンジに出来るのは、たった一つの手段のみ。

 

「バカシンジ!? アンタまさか————!」

 

 自らのエントリープラグと、エヴァンゲリオンV3の脊髄から生成した光の剣、『ヘレナの聖釘』。

 

 その剣を振りかぶり、全力で投擲したV3の狙い通り、その一撃はサードインパクトを発動させたエヴァ2号機に突き刺さり、ガフの扉を無理やり閉ざすと、エヴァンゲリオン2号機諸共、空の彼方へと突き進む。

 

 それと同時に無数のエヴァ2号機の複製も活動を停止し、不可思議なことにその全てが十字架の剣に貫かれた姿で、磔の如く凝り固まる。

 

 そんなエヴァとコア化で赤く染まる大地を残し、エヴァンゲリオンV3の操縦権をアスカとレイに移譲して、シンジは世界滅亡の阻止と引き換えに、孤独な宇宙へと放り出されてしまったのだ。

 

「あのバカっ! ほんとバカッ!」

「碇くん……そんな……」

 

 涙を流してそう叫ぶアスカと、呆然とするレイ。

 

 だが、彼らに悲しむ時間すら与えないとでも言うように、大地の揺れは激しさを増し、NERV本部を擁するジオフロントが、崩壊を開始する。

 

「アスカ、みんなを助けないと、碇くんなら、きっと————」

「————そうね。あのバカをボッコボコにするのはそれからね……ミサト! シェルターの民間人、すぐに連れ出して! エヴァがATフィールドで支えてる内に! 集まり次第脱出よ!」

「————ッ! わかった! 日向くん、青葉くん! 救助隊を即時編成して民間人の救助! マヤちゃんは生き残ってるエヴァ輸送用ディーゼル車と使える路線を割り出して! 客車と繋げて無理やり脱出するわ!」

 

 救える範囲の者たちを救うべく、動き始めるNERVの生き残り達。

 

 そんな中で、加持リョウジはいつに無く真剣な表情で、葛城ミサトに問いかける。

 

「葛城」

「何よ」

「NERV総司令、碇ゲンドウは人類の敵に回った訳だが。————それに対抗する手段があると言ったらどうする」

 

 

 その問いへの答えは、決まりきっていた。




 シンジ不在のまま戦い続けるエヴァV3。
 廃棄される要塞都市。
 再編されるNERV関係者。
 ドグマにて始動するエヴァ9号機。
 胎動するエヴァ8号機とそのパイロット。
 遂に集う、運命を仕組まれた子供たち。
 果たして、生きることを望む人間の自由を守る為の物語は、どこへ続くのか。

 次回、旧世紀エヴァンゲリオン:Q。

 さぁて、この次も、サービスサービスぅ!
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