旧年中は格別のご高配を賜り、誠に有難うございます。
本年も変わらぬ御愛顧を賜りますよう宜しくお願い申し上げます。
月面を埋め尽くす、髑髏の軍勢。無尽に思える地獄の軍団に対し、抗うのはただ一騎、人造人間エヴァンゲリオン2号機のみ。
そんな絶望的な戦局の中で、真紅の機体はその装甲を血に染めて、死線を踊っていた。
「シィィィィッッッ!!!!」
蛇の威嚇か、猫の怒声か。布を裂くような鋭い吐息と共に放たれる
そしてそれのみならず、突き込まれた貫手に込められた強烈なATフィールドが打突の勢いそのままに衝撃波となって突き進み、貫かれた機体の背後に居たMark.07達を一気に纏めて薙ぎ払った。
だが、敵の数はまさに無尽。碇シンジという鬼札を月の大地に封じるべく、ゼーレと碇ゲンドウは夥しい兵力をシンジへと差し向けているのだ。
しかしながら、アスカの2号機を預かり、レイの妹を預かる以上、碇シンジの辞書に敗北と諦念の文字はない。
2号機の手を『虎爪』の形に構えて振り抜けば、ATフィールドの斬撃が飛翔し、眼前の尽くを引き裂いて、月のクレーターの外輪山をも切り飛ばし、全く破壊力を衰えさせぬまま宇宙の彼方に消えていく。
そして、足元に転がる死屍累々を、2号機は首まで裂けるような獣の
それを喰らう2号機は生命の実の力を自らのものとし、エヴァンゲリオンとしての位階を一段上のものに変えていく。
知恵の実、生命の実が揃い、しかしその身に宿るのはロンギヌスの槍ではなくヘレナの聖釘。
限りなく神に近く、しかし絶対に神ではないその機体は、擬似シン化第1形態で自らを固定し、ガフの扉を開くことなく、地上に顕現した荒御魂としてその勇猛にして獰猛な権能を炸裂させる。
四つの眼球から放たれる
しかし、それでも。地球の各所から飛翔し、エヴァンゲリオン2号機を制圧するべく送り込まれるMark.07の軍勢は、その圧倒的な数の暴威で以て圧倒的な質の差を覆し、エヴァンゲリオン2号機を月面に縛り付ける事に成功している。
地球からも観測可能な程の激闘の幕は、まだ上がったばかりなのだ。
* * * * * *
「————というわけで、幸か不幸か、こっちの最大戦力であるシンジくんを月に押し込めるために、ゼーレとNERVの戦力は大幅に割かれているわ」
エクセリヲンの
そしてそんなミサトに同調するのは、エクセリヲンの艦内放送だ。
『あのバカ、アタシが話しかけようとしても気が付かないぐらいに戦い続けてるみたいだしね。そりゃまあそろそろ、キルスコアもウン十万の大台は超えるんじゃないの?』
「シンジくんが帰ったら2号機がキルマークで水玉模様になりそうねそれ」
『イヤよ! そんなダサいの! ————それで、シンジが戦ってる間に何しようってのよミサト。避難民をしこたま船室に詰め込んだエクセリヲンで戦うってのは無謀だと思うけど?』
「判ってる。————まず、私たちが行うべきは拠点構築。NERV本部からは程よく遠く、守りに易く、攻めるに難い、ついでに住み易い、そんな場所にね」
『どこにあるってのよ、そんな場所』
淀みなく続くアスカとミサトの問答。このままではブリーフィングがお喋りな2人の駄弁りで終わりそうだと危惧したのか、そんなアスカの疑問に答えたのは、リツコだった。
「奈良よ。正確には奈良盆地。周囲を山に囲まれた天然の要塞ね」
『どこかで聞いた話じゃない?』
「第3新東京市も山を利用した要塞基地だったもの。————さて、葛城艦長。お喋りはそこまで。アスカじゃなくて皆に指示を伝達してちょうだい」
「ごみん……じゃないか、了解、赤木副長————さて、先に述べた通り、我々は拠点構築の為、エクセリヲンを仮拠点に奈良盆地に侵攻、NERVベタニアベースより強奪した封印柱を解析し、コア化された大地の復元を試みます。ぶっちゃけ食糧備蓄と封印柱の解析のスピード勝負になるわ。リツコ、マヤちゃん、頼むわよ」
「任せて頂戴。松代から持ち出したMAGIコピーもあるし、戦力に不足はないわ。コーヒーはしばらく我慢だけれど」
「私も副長センパイと頑張ります!」
「ありがとう。それから、日向くんと青葉くん、貴方達もそれぞれ元作戦局と元情報局の残存スタッフから可能な範囲で戦力を抽出して技術局を支援して頂戴。————それから加持、WILLEのスタッフからの抽出と、アンタ自身もリツコのサポート、宜しく」
「あいよ。……いや待て葛城、りっちゃんのサポートを俺がやるのか?」
「————ユーロ時代にベタニアベースでコソコソしてたんでしょ? どうせ」
「……ま、そうだな。俺に出来る事ならなんでもするさ。せいぜいコキ使ってくれよ、りっちゃん」
「頼りにしてるわ」
そんなリツコの声と共に、ブリーフィングは終了し、NERV本部残党改めWILLEの面々は、世界を救う為の第一歩に向けて、行動を開始する。
そんな中、エクセリヲンの機関室最奥にあるエントリープラグに浮かび、人間リアクターと化しているアスカ。
瞳を青く輝かせ、金髪を焔の様に揺らめかせる彼女は、艦内放送をオフにして、エクセリヲンの望遠装備で月を睨んで呟いた。
「絶対迎えにいくから、待ってなさいよバカシンジ」
その呟きに応じる様に、月の大地に爆炎が立ち昇り、雄叫びを上げる2号機の瞳が、望遠越しにアスカの視線と見つめ合う。
月と地球、異なる場所で、それぞれの長い戦いが始まろうとしていた。