トレセン学園って普通の学校じゃなかったんですか!?   作:普通のモブ娘

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日間ランキングに載ってました!ビビりました!(小並感)
載っても通知来ないから危うく見逃すところでしたよ!

皆さんいつもありがとうございます!



シンボリルドルフ

◇◇◇

 

 

 それはシンボリルドルフとトワイライトアサヒがまだ友達とも言えないくらいの関係性だった頃……

 

「ぜんっぜん点数上がりませーーーん!!」

 

「すまない。私の教え方が悪いのかもしれないな」

 

 アサヒは補習の危機に陥っていた。もうすぐ始まる期末テスト。直近の小テストが見るも無残な点数になっていたことに危機感を覚えたアサヒは、同じクラスにいた凄い優秀そうなオーラを放ちまくるルドルフに目を付けたのだった。

 

「いやいや!ルドルフさんは悪くないって!多分私の物覚えが極端に悪いだけだよぉ!」

 

「しかしこれでは補習は免れないな……」

 

 テストも近いということで放課後のトレーニングも軽めのものが多くなっていたことからルドルフはアサヒの頼みを快く了承した。しかしどう教えようにも上手くいかない。見たところ真面目に話を聞いているように見える……が、どうも話が右から左に流れてしまっている気がするのだ。

 

 何度かルドルフのピックアップした問題集をやらせても成果はイマイチ。どうしたものかと考え込んでいると、勉強に飽きたのかアサヒのお喋りが始まった。

 

「ねね、ルドルフさんってテレビでよく出てるよね?トゥインクルシリーズってやつ」

 

「そうだが……そういえば君が走っているところは見たことがないな」

 

「私はそういうの無理だもん。そりゃ小学校の頃の徒競走は負け知らずだったけどねぇ……でもさ、こう『うぉー!トレーニングだァー!目標に向かって特訓特訓!勝ちを目指して頑張るぞー!』みたいなのはあんまり好きじゃないっていうか……」

 

「なるほど。まぁ誰にでも得意不得意はあるものだ。ウマ娘の目指すべき幸せが必ずしも走ることとも限らない……ということかな」

 

 そう言いながらもルドルフは疑問を抱いていた。トレセン学園には入学しながらも走ることのないウマ娘は少数だが確かにいる。しかしそれには必ず事情があるものだ。足に爆弾を抱えていたり、精神的なものだったりと。

 

 そして極論、そもそも走る気がないのであればトレセン学園に入る必要は無いのだ。普通のヒトも通う一般的な学校に入学すればいい。

 

 一方彼女はどうだろう。言い分を素直に受け取るのであれば、精神的な事情というのが当てはまるのだろうが、そういった様子は見られない。何より入試の際の実技における適性検査……彼女はそれで私とほぼ同じ数値を出していると聞いているのだ。足の爆弾だったり、不安定な精神状態だったりするウマ娘の成績ではないだろう。

 

「目指すべき幸せ……」

 

「私の夢なんだ。すべてのウマ娘が幸福になれる……そんな時代を作るのが」

 

「……スゴい!!なんかカッコいいね!ヒーローみたい!」

 

 目を輝かせながら、まるで戦隊ヒーローを応援する子どものように無邪気な顔は

 

 さっきまでの疑問が一瞬で吹き飛ぶほどに、綺麗な笑顔だと思った。

 

「ふふっ、あははは!」

 

「えぇ!?今笑うところだったかな!?」

 

「いや、すまない!なんでもないんだ」

 

 なんかカッコいい……か。周りの大人からの冷めた、そんなの無理だと口には出さずとも一歩引いた視線。子どもが何を言っているんだというバ鹿にしたような視線。そんなものはいくらでも見てきた。きっと素直に称賛してくれる彼女は、この夢の険しさを1ミリも理解していないのだろう。

 

 でも……いやだからこそだろうか。純真無垢なその目に、心から応援してくれていることを疑わせないその雰囲気に、自分が決して表面には出さなかった荒れた心を解きほぐされたのだ。

 

「ねぇねぇ!気分転換にさ、ちょっと走らない?ずっと座ってて私はもう我慢の限界ですぞ!」

 

「あぁ……そうだな!」

 

 勉強が嫌いで努力も苦手。良くも悪くも子どもの様な彼女は、他の生徒や先生から見たら模範とはかけ離れた存在だろう。

 

 それでもその姿は、自分には持っていないものをまざまざと見せつけてくるようで

 

 シンボリルドルフには……とても眩しく映った。

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

「なんでこんなことになってるの……?」

 

「すまない。おハナさん……私のトレーナーに見られたのがまずかったな……」

 

 最初は軽いランニングだった。座りっぱなしで凝り固まった身体を解したら、また勉強を再開する予定だったのだ。しかし運悪く本当に偶然、ルドルフの所属しているチームのトレーナーにその現場を発見されてしまった。

 

(ふふ、あのトワイライトアサヒの走りをようやく見ることができるわね。理事長が絶対中央から離すなとまで言った彼女の実力……見させてもらおうじゃない)

 

「ねぇ、ルドルフさんのトレーナー、ビデオカメラ持ってニヤニヤしてない……?本当に大丈夫かな……」

 

「私もあんなおハナさんを見るのは初めてだ……」

 

 だが、内心笑みを浮かべているのはルドルフも同じだった。ついさっきまで疑問に思っていたことがこんなにすぐ解消されることになるとは思ってもなかったのだ。

 

 形式としては併走トレーニング、距離は2000。東条はアサヒにルドルフと同じように同じペースで走ってくれればいいと言ってある。しかしルドルフには本気で走れとも言ってある。レースの経験値としてはルドルフの方が完全に上なため、ルドルフが勝つのはわかっている。

 

 でも知りたいのだ。理事長が太鼓判を押した、中央の宝。まともなトレーニングも一切していない彼女がどこまで食らいつくのかを。

 

 

 

 

 

「何……これ……!?」

 

 才能があることは知っていた。だから途中まではルドルフに付いていけても、割かし早い段階で失速するだろうと思っていたのだ。

 

「まるでルドルフが2人ね……っ!」

 

 同じように走れとは言った。しかし蓋を開けてみたらどうか……寸分たがわず、2人目のシンボリルドルフかのように走れとは言っていない。最初は少し後ろを走っているだけだった。しかしレースが中盤に差し掛かる頃には走行フォーム、テンポ、重心の取り方。全てが瓜二つになっていたのだ。

 

「いや、冷静になりなさい……あそこまで完璧に模倣できるのは確かに凄いわ。でもそれじゃあ勝つことはできない」

 

 

 

 

 

 走りながらルドルフも考えていた。

 

(これは才能があるなんてものじゃないな……)

 

 最初に全身穴が空く程観察されている感覚があり、それが徐々になくなると同時に言いようもない悪寒……異世界に放り込まれたような錯覚に一瞬陥った。

 

 それは黄昏。物の怪が現世に姿を現す逢魔が時。知覚した時には隣に『シンボリルドルフ』がいた。

 

(傍から見たらトワイライトアサヒが私と同じように走っているように見えるのだろうな。まったく……それどころじゃない……これはまさしく私が走っている……!ふふ、ドッペルゲンガーに出会うというのはこういうことを言うのだろうな)

 

 ただ体力の消耗は凄まじく大きい。ラストスパート、1番の踏ん張りどころで……

 

「ぐっ!……はっ!はぁっ!」

 

(失速……だろうな。しかし私も先達と比べればまだまだだが、それでも長い研鑽を積んできたつもりだ。そこにこうも簡単に到達されてしまうとは……立つ瀬がないな)

 

 

 

 

 

 こうしてトレーニングという名の真剣勝負はルドルフの勝利に終わった。

 

「も、もうっ……む、り゙ィーーー。ー!」

 

「大丈夫か?」

 

「ルドルフさぁん!トレーニングじゃない!ごれっ!トレーニングじゃない!」

 

「君が凄すぎてつい力が入ってしまったんだ」

 

「す、凄い?うへへ。ま、まぁ?やればできる子なんで……」

 

「あそこまでトレースされるとはね。それにレース中特有の領域に入ることも出来る……トゥインクルシリーズに出てくれれば、必ず名を刻むことができるのだが」

 

「マジスカ……でも私、何も考えてなかったから……ルドルフさんみたいにって言われたから、いっそルドルフさんになり切ろうと思って……」

 

「……恐ろしいな」

 

(色が着いていないからこそ出来る芸当なのかもしれないな。朝日のように周りを照らす純粋さと、昼と夜の狭間に揺蕩う幻影のような走り……面白くなりそうだ)

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 こうして現時点でのアサヒの唯一のレースは終わった。

 

 この現場を見たのは東条ハナだけだったが、片手に持っていたビデオカメラのデータは伝説の模擬レースとして瞬く間にトレーナーの間に伝わった。

 

 しかし、今のルドルフの圧倒的存在すら他のウマ娘のモチベーションの低下に繋がっている現状でこんなものを担当には見せられないということで、トレーナー間だけの流通に留まった。

 

 ちなみにこのデータを見て1番興奮していたのは、いずれ理事長に就任することになる秋川やよいだったという。

 

 

 

 

 

「ル、ルドルフさん……立てない……」

 

「さんは要らないよ。アサヒ」

 

 一方アサヒは1週間全身の痛みが取れずテストは赤点を取った。

 

 あれほど無茶苦茶に体を酷使したのに筋肉痛だけで済んでいる所を見て、ルドルフの中で更に評価が上がるも、アサヒには自由にそのままのアサヒでいてほしいということで、レースに出てくれたらと思いながらもレースに誘うことは無かった。

 

 余談だが、アサヒに対する対応が激甘になったのもこの頃からである。

 

 




トワイライトアサヒ
トレセン学園に入り普通に思春期に入りかけたが、ルドルフが甘やかしてくるようになったため、調子に乗りやすさとアホな思考に拍車がかかりおバ鹿が加速→現在へ

シンボリルドルフ
全肯定ルドルフ。いつか色が着き大人になるのはわかっている。だからこそ今のうちに目一杯甘やかす。
例)
・畑?それならここはどうだ。比較的誰も通らないから邪魔にならないと思うが。
・補習になった?しょうがない、先輩方には伝えておくから生徒会室で勉強を見よう。
・三冠記念の食事会?もちろん参加するとも。その日は予定があったがズラせない程のものではないさ(生徒会会議)

東条ハナ
どうにかアサヒをレースに誘おうとするもガードが硬いため素直に断念。代わりにこの子凄いのよ!みたいなノリでルドルフとのレースをトレーナー達に共有。

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