入学してから3週間が過ぎた。桜もすっかり散ってしまった今日この頃、3時間目の国語の時間、いつもなら国語の担当教師が来るはずなんだけど、僕たちの担任である星之宮先生が教室に入ってきた。
「あれ?どうしたの知恵ちゃん」
一人の女子生徒が教師を知恵ちゃんと慣れ慣れしく呼ぶ。それも仕方がないことだ。当の本人がそう呼んでほしいと言うのだから知恵ちゃんと呼ぶ生徒も少なくない。
「今日は特別な授業なので私が担当します」
「特別な授業?」
「うふふ、今日は月末だから皆に小テストをやってもらいま~す」
知恵ちゃん、もとい星之宮先生は笑顔でそういうとクラスメイトの数人から悲鳴が上がる。一番前の席から順番にテスト用紙が配られていく。僕は神崎くんから回ってきたテスト用紙を受け取るとテスト用紙に目を通す。
主要5科目の問題がまとめて載った、それぞれ数問ずつの小テストだ。
「ええ、事前に言われてたらテスト勉強してきたのに~」
「えへへ、ごめんね!言えない決まりになってたから...でも、成績表には反映されることないから気楽に解いてくれたら大丈夫だから。あくまで今後の参考用で、あ、わかってると思うけどカンニングはダメだぞ~」
成績表には反映されないか、妙に含みのある言い方に引っ掛かるが相手は星之宮先生ということもあり、特に気にならなかった。
小テストが始まった。Bクラスの生徒は問題を見るや否やペンを進める者もいれば、いきなり頭を抱えている生徒もいる。僕もテストを解こうとペンを持つ。
一科目4問、全20問で、各5点配当の100点満点。正直拍子抜けするぐらい簡単だった。これなら入試テストのほうが簡単だ。僕はすらすらとペンを進めていると僕の手は止まった。
なんだこの問題...いくら何でも高校1年生の問題じゃないぞ...
ラストの3問は他のテストと比べるほどができないほど難しいものだった。僕は、とりあえずなんとなくわかる問題もあったので、テスト用紙をなんとか埋めきって提出することができた。
それにしても、成績に反映されないのにどうしてあんな問題を出されたのか僕は疑問に持っていた。星之宮先生は今後の参考用と言っていたけどそれはいったい何なのか?一体何を測るものなのか、謎が残る中授業は終了を迎えた。
――――
今日の分の授業を全て終えて下校時間を迎える。僕は自分の席の教科書を鞄に詰めて下校する。
何時もなら部活の見学をしに体育館やグラウンドに行く所だけど、今日は気分じゃないので、大人しく寮に戻ることにした。
いつものように僕の部屋である505号室の部屋にカードキーを差し込み部屋に入る。鞄を掛けて明日の授業の準備を始めるとあることに気付いた。
「学生証がない?」
鞄の中をいくら確認しても、制服のポケットに手を突っ込んでみても学生証が出てこない。僕はどうやら学生証を落としてしまったらしい。
「困ったねえ...あれがないと買い物ができないや」
校内に戻ろうか悩む、このままだと今日の晩御飯食べられなくなる。普通なら悩むまでもなく取りに行くんだけど...取りに行く気力がないや、僕のことだしどうせ都合よく学生証も戻ってくるだろう。
自分の幸運を信じてベットに制服のまま寝転がる。
明日から5月に入る。入学してからこれといった動きは感じられない。ポイントが現金代わりになったり、校内の至る所に監視カメラが多いことを除けば普通のどこにでもある学校に変わりはない。
――――退屈だ
こんな平凡で退屈な日々を過ごすためにこの学校に来たわけじゃない。才能が輝く瞬間をこの目で見たかったから
気力が湧かないのはきっとこの環境が続いたからだろうね。僕は平凡なんかじゃいられないというのに
ハア...と深いため息を吐き虚空を見つめ虚無感を覚える。この感情を例えるなら何て例えよう...そうだな例えるなら
―――――絶望的だ
――――
―――少年は眠りから覚めた。
男の怒鳴り声、怯える乗客。少年を抱きしめる女の手は異常なまでに震えていた。
少年は何が何だかわからなかった。窓を除くと白い雲がふわふわと浮かんでいた。そうだ、思い出した。僕は家族と海外旅行のために飛行機に乗ってる最中だったんだ。
「今からこの飛行機を乗っ取らせてもらう!」
男がキャビンアテンダントを務める女性に刃物を突き立てながら、乗客に怒鳴りつける。
「今、俺の仲間はもうじきコックピットに入り込むだろう」
乗客の一人は何が目的だと叫んだ。
「おれは、先月会社をリストラされたんだ。仕事ができないからとか遅刻をするなとか、少し早く俺より就職したからって偉そうにしやがって!?だから殴ってやったんだ!!そしたらこれだよ...」
男の言い分は酷く自分勝手なものだった。
「だからこんな生きにくい世界から死んでやろうと思ったんだ。俺の仲間も皆同じさ!!でも、ただ死ぬのは面白くないだろ?」
だから乗客を巻き込んでの大規模自殺を測り、有名になりたいらしい。巻き込まれた人たちは堪ったものではない。だがそれを声に出すものは誰一人いなかった。
「■■、絶望したらダメよ?希望さえ持っていれば必ず幸運は■■の味方をしてくれるから」
母親は僕の名前を呼ぶ。幸運なんてそんな都合のいいものがそう簡単には起こらない。幼いながら僕は母の言葉を心の中で否定した。
―――
「退屈だ」
暫くしてからハイジャック犯はそう呟いた。
「どうせ死ぬならさ、一人ずつ殺していくか」
そういうと人質であるキャビンアテンダントの首をナイフで掻っ切った。斬られた首からは血が噴水のように噴きあがる。
どさりと倒れた女の人から血だまりが地面に広がっていく。場内は大混乱、悲鳴が上がり、恐怖でパニックを起こし過呼吸になるものもいた。ハイジャック犯は興奮したように吠え、次々にナイフで刺していく。
―――絶望が伝染していく
母が僕を抱きしめ、その母を父が覆いこむように抱きしめる。
逃げるのが正解なんだろうけど、ここは飛行機の空の上逃げ場なんてどこにもない。
次々と殺されていく中ついにハイジャック犯は僕の前に立った。
「いいね~両親に愛されてぇ、俺の両親は仕事をリストラされてからは連絡すらつながらなくなったというのになんでお前はあいされてるんだぁ?」
そんなことを聞かれても小学生の僕にはわからない。犯人は逆上したかのように、両親と共に僕を殺すために刃物を振りおろす。
「しねよガキ」
幼い少年は恐怖した。死ぬという実感はよくわからない。両親が何か叫んでいる。得体のしれない何かが少年の身体を蝕んでいくような不快な感覚。
だが、この時少年が思ったのは死にたくないという言葉じゃない。少年が願ったことは、
【死んでしまえ】
ハイジャック犯が少年にナイフを振り下ろす瞬間、雷が落ちてきたような激しい音が場内に鳴り響いた。
ぐちゃりと不快な音と共に少年の顔に赤い液体が飛び散る。さっきまで目の前にいたハイジャック犯の姿はどこにもない。だが少年には見えていた。
ナイフが振り下ろされた瞬間、少年の目には世界が遅くなったように見えた。ナイフが襲い掛かる瞬間に確かに見えたのだ。ハイジャック犯の頭上から握りこぶし程の隕石が落下していきハイジャック犯を貫いたのを―――
だが、ハイジャック犯が僕や両親の近くにいたせいで、少年には隕石が当たらなかったが両親も巻き込まれてしまったようだ。さっきまで少年を抱きしめていた両手だけを残して見るも無残な肉の塊。
隕石が落ちてきたせいで、飛行機は制御を失い、真っ逆さまに落ちていく。むせ返るようなガスの匂いと血の匂いが混ざり合いどうにかなりそうだ。
僕は死にたくなかった。生きたかった、だからこの期に及んで―――
【生きたいと願ってしまった】
飛行機は急降下していき、地上を目指して落ちていく。飛行機は大爆発を起こし生存者は誰一人としていなかった。
―――少年を除いて。
大量の屍と飛行機の残骸の上で佇む少年。服は汚れているが身体は無傷でキレイなまま笑い声だけが空に響く。
「すごいや、母さんの言う通りだ。希望を持っていれば幸運は味方してくれた。ハイジャック犯も両親も乗客も皆死んだというのに!!あはっ!」
アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ
―――ぼくは――ぼくはなんて幸運なんだろう!!
少年は保護された。
生き残ったのは僕一人だけ。
「あれじゃないか?一人だけ生き残った子供」
「なんで、あの子だけ生き残ってるのよ」
僕と共に乗り合わせた乗客の家族や友達はハイジャック犯にじゃなく生き残った僕に怒りや悲しみの矛先を向ける。
ゴミ、クズ、お前が代わりに死ねばよかった。
この日僕は気づいた―――僕はどうしようもなく生き汚いゴミなんだって事に。
―――
「ん?」
スマホの電源を入れ時間を確認すると19時を過ぎていた。どうやら僕は眠っていたらしい。
スマホの電源を入れて気づいた。一之瀬さん、神崎君、柴田君から電話が一件ずつ掛かってきている。
彼らから連絡が来ることは珍しいので何か急用だと思い、一之瀬さんから電話を掛けようとした瞬間にインターホンが鳴り響く。
僕は一之瀬さんか電話をくれた誰かだと思い扉を開けた瞬間
パン!パン!パン!
「「「「「誕生日おめでとう!!」」」」」
「は?」
火薬の匂いとクラッカーの騒音が部屋に響く。僕は思わずマヌケな声を出してしまった。見渡せば、一之瀬さん、神崎くん、柴田くん、あまり話したことのない同じクラスの白波さんと網倉さんが部屋の前でクラッカーを構えていた。それより気になったのが。
「誰の誕生日なの?」
「え?狛枝くんのだよ!はいこれ落としたでしょ?」
僕は一之瀬さんから学生証を受け取った。
「あ、僕の学生証だ。わざわざ届けてくれてありがとう」
「悪いとは思ったんだけど、学生証の中見せてもらったの。そしたらなんと4月28日が狛枝君の誕生日だったので急遽誕生日パーティーを開くことにしました!!」
今日は4月30日の月末。2日前に誕生日が過ぎていたことすら今知った。自分の誕生日なんてどうでもよかった。
「2日過ぎてしまったが、遅くはないだろう?お菓子や飲料も買ってきたぞ」
神崎君が袋を僕に掲げて見せてくれる。かなり買ったみたいだね。
「とりあえず立たせるのも悪いしさ、部屋に入ってよ何もないからお構いはできないけど」
そういって、皆を部屋に招きいれる。
「ごめんね、あんまり話したことないけどたまたまあんたの学生証を拾ったときに居合わせてそのままついてきちゃった」
「私も一之瀬さんの付き添いです!」
「気にしないでよ、僕なんかの誕生日を祝ってくれるだけでうれしいよ。遠慮しないで入って」
申し訳なさそうに部屋に入る網倉さんと食い気味に部屋に入る白波さん
「この辺にエロ本があるはずだ!」
「ないよ」
僕の部屋を物色する柴田君。
こんなに賑やかな誕生日は何時ぶりだろう。
入学時はあんなに満開だった桜も見る影もなく散ってしまった。
4月28日は僕が生まれた日だ。僕を祝ってくれる両親は既に死んでしまった。あれからどれだけの時間が過ぎてしまっただろう。最後に誕生日を祝ってもらったのは何時だっただろうか。
それすら思い出せないのに、僕なんかの誕生日を両親以外の人に祝ってもらえるなんて思ってもみなかった。
「これも幸運なのかな」
既に桜が散っているというのに僕の心は不思議と満開の桜を見た時よりも、満たされていた。
僕たちは、夜遅くまでトランプや人生ゲームで遊んだ。
【高度育成高等学校学生データベース】
指名:狛枝凪斗
クラス:1年B組
学籍番号:S01T00◆■✖▼
部活動:無所属
誕生日:4月28日
【評価】
学力:A−
知性:A
判断力:A+
身体能力:D
協調性:C−
【面接官からのコメント】
試験の結果から成績や行動能力だけならAクラスに配属しても問題ないだろう。過去もトラブルに巻き込まれる事はあっても、自分から問題を起こしていない。だが、面接時での時折会話に出てくる自虐的な発言や自己肯定の低さが目立つ上に、希望や才能といった話題になれば人の話を聞かない傾向があるため彼をBクラスに配属することになった。
【担任のコメント】
何を考えているのかよく掴めない煙のような不思議な子。だけど思考能力、行動能力共にBクラス全体で見てもトップクラスだと思います。狛枝君は自分自身の事をクズな役立たずどうしようもないヘタレだと自虐的な発言ばかり言うけれど周りの事を誰よりも考えてサポートできる優しい子だと思います。私の生徒にクズなんていません!!狛枝君はどうしようもないゴミクズでヘタレなケサランパサランなんかじゃないよ!!
最近は緒方恵美さんの曲を聴きながら作業しています。残桜、すごくいい曲なんで聞いてみてください。今日の夕方か夜に5話出します。