議論
5月最初の授業が始まった。昨日の僕の誕生日会に参加したメンバーは少し眠たそうだ。今日は5月1日という事で、ポイントが振り込まれているはずだ。
僕は自分の学生証カードを確認した。僕のポイントは4月の分を合わせて14万ポイントになっていた。
「あれ?10万ポイント振り込まれていない?」
僕のポイントは7万5000ポイントだから本来なら17万5000ポイントになっているはず。僕は前の席の神崎くんに聞いてみたが、どうやら神崎くんも他のクラスメイトも6万5000ポイントしか振り込まれていないらしい。
学校内にチャイムが鳴り響く中、担任である星之宮先生は教室に入ってくる気配がない。星之宮先生の遅刻は別に珍しいものではない。初日も5分ほど遅刻してきた。
だが、今日ほど長い遅刻はなかった。生徒の一人が病欠かもしれないと心配する中、星之宮先生が欠伸をしながら教室に入ってくる。
「皆おはよー。今日も元気してる~?ふわぁ」
前の席に座っている白波さんは星之宮先生にお酒臭いと悲鳴を上げている。星之宮先生はお昼には抜けてるからだいじょぶ~と言っているがそういう問題ではない。
「先日皆に受けてもらった小テストの結果を返したいと思います。それから今後の流れについても詳しく説明していくので、聞き流さないようにしてね」
星之宮先生は黒板に小テストの結果を張り出していく。個人個人が何点だったか。赤点のボーダー。中間テスト、期末テストで赤点を取れば例外はなく退学という事。テストの結果や授業態度、遅刻などでクラスポイントが引かれていくこと。などの特異な学校制度が説明されていく。
この学校は他クラス同士で競わせるようにできているようだ。優秀な順からAクラスからDクラスに配属される。だが、Bクラスでもクラスポイントを抜くことが出来ればAクラスに上がれる。初日での仮説は当たっていたようだ。そしてこの学校を卒業するまでにAクラスに上がらなくては行けないこと。
一通り説明を受けたところで一之瀬さんが他のクラスのテスト結果を開示してもらうように頼むと星之宮先生は、Bクラスの結果を除いた3クラスの平均点が記入された小さな紙を黒板に張り付ける。どうやら星之宮先生は聞かれなければ開示しないつもりだったようだ。教えてやる規則はないらしい。どうやら一番上のAクラスとのテストの平均点は2点差で僅差のようだ。
Aクラス940 Bクラス650 Cクラス490 Dクラス0
テストの結果は僅差でも開いたAクラスとのクラスポイント。
このクラスは比較的に優等生が多い。遅刻はいないが、授業中に携帯を触ったり、授業中に隣同士で話す生徒も少なからずいた。その結果がAクラスとの差が開いたのだろう。
「俺たちって結構すごいクラスだよな。Bだけど」
柴田君がクラスの平均点を見比べて言った。中間テストで頑張ればAクラスに追いつけるのは難しくないかもしれない。星之宮先生が教室を出た後、クラスの生徒たちは自分たちの思い思いに雑談を始める。下のクラスがいることに対する余裕からBクラスに満足している者もいれば、Aクラスじゃないことを悔やんでいる者。
だが、そんな中でも一之瀬さんは目の付け所が違う。これだけの情報量でもこのクラス分けが学力だけで分けられていないという事に気付いていた。理由は本当に優秀な人間だけが集められているなら逆転は不可能だし、入試時点で一之瀬さんは主席で合格している。つまり学力ではなく、総合力で競い合っている可能性が高い。それなら3年間での成長過程で、差が埋まる可能性が出てくるからと言う。
僕は本当に総合力で競い合っているのか疑問に思う中。
Aクラスは940でBクラスは650約300ポイントも離されていることに本当に追いつけるのか不安がる生徒もいる。Cクラスにだって追いつかれるかもしれないと。
僕は席から立ちあがり皆に聞こえるように勇気づけてあげようと思った。
「そんなに不安がることないよ!たかがCクラスやDクラスだよ?皆が力を合わせて立ち上がれば追い抜かれる心配何てどこにもないはずだよ。確かに3年間もあれば他のクラスも成長するかもしれないね。でもさ、それは君たちも同じでしょ?それにAクラスには入れなかったけど、入学時点で既に皆はCやDなんかよりも優秀であることには変わりはない。それは学校側が証明してくれてるよね?」
「確かに、Aクラスは脅威だね、現時点では最も希望の象徴に相応しいと思う。でも、君たちが本当に希望の象徴と呼ばれるに相応しい人たちならこの程度の壁、軽く乗り越えられるはずだよ?」
「それともやる前から諦める?このまま慎ましく学校生活を謳歌する?僕はそれでも構わないけどそれは希望とは呼べないよね?そうだよね?一之瀬さん?僕は君の意見も聞きたいな。君はこのクラスをどうしたいの?」
狛枝君は誕生日会の時よりも生き生きとして楽しそうに輝いていた。ここで私にパスしてくるとは思わなかったけど、私の意見はすでに決まっている。
「私はこのクラスの皆と力を合わせれば、Aクラスにだって上がれると思うんだ。私はこのクラスの皆でAクラスに上がりたい。そしてAクラスで卒業して皆と笑い合いたい!!」
「うん、いい答えだよ一之瀬さんそれでこそ僕たちのリーダーだ。だからみんな、Dクラスみたいな不良品には絶望でしかないけどこのクラスには希望がある。だから希望を持って前向いて頑張らないと!!」
Bクラスの皆はお互いを鼓舞し合っていく。そこでまず一之瀬さんが提案したのは、勉強会だった。今の所このクラスに赤点を取る者はいないけど中間テストで皆の平均点の底上げが目的らしい。
一之瀬さんがそう提案すると次々と生徒たちが集まっていく。数えるとざっと15人ほどだ。一之瀬さんが助けを求める視線を送ると、神崎くんがその勉強会に協力するみたいだ。
「ありがとう神崎くん」
「俺も、Aクラスを目指したいからな。協力させてくれ、狛枝。お前は今回の小テスト、Bクラス内で1位だったな。協力してくれないか」
僕の今回の小テストは90点だ。どうやらあの問題全てを埋めたつもりだったんだけど、満点は無理だったみたいだね。
「僕でよければ喜んで協力させてもらうよ」
勉強会は後日、図書館で行われるようだ。クラスの気持ちが一つになっていく。なんて素晴らしい光景なんだろうね。これだよ、僕はこれを待ち望んでいたんだ!生徒同士を競わせて争い合う。僕は本当にツイてるよ!希望と希望がぶつかり合う瞬間を僕のような人間が立ち会えるなんて!
そんな中、一之瀬さんだけは険しい顔でこちらに詰め寄ってきた。
「ねえ、狛枝くん、そのたかがとか不良品とか言うのやめない?私は他のクラスを見下すような発言狛枝くんや皆にはしてほしくないな」
「あはっ」
一之瀬さんは本当に優しい人だね。他のクラスを思いやれるぐらい。だからこそちょっとだけ心配かな。敵であろうと味方であろうと平等に接する一之瀬さんは人を疑う事を知らない。今だって――――
――――
こうして、クラスの目標を皆で立てた放課後の事、一之瀬さんはクラスメイトが下校する前に全員を集めた。なにやら策があるみたい。
「皆ごめんね!私から一つ提案があるんだけどいいかな?」
一之瀬さんが真剣な顔つきで皆に言うとクラスメイトから話し声が一切しなくなり、全員が一之瀬さんの声に耳を傾ける。
「プライベートポイントの事なんだけどね。皆で一つに集めない?」
そう提案してきた。プライベートポイントは現金を持てない僕たちクラスメイトにとって私生活を支えるための一種のお金のようなものだ。それを一つにしてなんの意味があるかわからない生徒たちが、一之瀬さんに質問を投げかける。
「一つに集めるってどういうことだよ一之瀬!」
「そんなことをしたら、生活できなくなるでしょ一之瀬さん!」
「皆の意見は尤もだよ!」
一之瀬さんは最後まで聞いてと言うと、生徒たちは黙る。ここまでクラスメイトを制御できている一之瀬さんには素晴らしいとしか言いようがない。
「この一カ月で何人の人が月10万ポイント振り払われるって思っていたかな?私はね、おそらく全部使いきった人はわずかだと思うんだけど、ここにいるほとんどが半分以上使っちゃったんじゃないかなって思うんだ」
一之瀬さんがそういうとさっきまで文句を言っていた人たちもそうでもない人たちも顔を伏せる。どうやら心辺りがあるようだ。
「だから、金銭感覚がおかしくなっちゃうとどうしても贅沢して無駄使いしちゃうから、一旦皆で集めて、そして、放課後に必要な分だけ皆に渡すってやり方はどうかな?」
そういうとどうやらクラスメイトも納得したようだが、一之瀬さんはここからが本題だと手を挙げる。
「それとね、皆のポイントを緊急の時にだけ皆で共有しない?」
「皆で共有?」
「うん、もうこの一カ月で皆もこのポイントの重要性を理解していると思うんだけど、このポイントは学校にあるものなら何でも買えるの」
そんなことは皆も知っていると思っているが、一之瀬さんの事だから何か策があるんじゃないかとクラスメイトは期待の眼差しを一之瀬さんに送っている。
「その名の通りなんでも買えちゃうの、例えば、退学者とかね」
そういうと皆は疑問に思う、そんなものを買ってどうするんだって。
「皆も星之宮先生の話、この学校は中間テストで赤点を取った時点で退学って、普通の高校ならまずありえない。おそらくだけどテスト以外にも退学になる要素は隠されてると思う」
「でも、2千万ポイントがあれば、その人を助けることができるんだよ。それをさっき星之宮先生に聞いてきたんだ」
そういうとクラスメイトも理解したようだ。2千万ポイントを一人で集めるのはほぼ不可能だけど、クラス皆が協力すれば、2千万ポイントもすぐ集まるという事に。一之瀬さんは問題はだれが、ポイントを集めるか悩んでたみたいだけど、満場一致で一之瀬さんを提案するクラスメイト。そんな中一人の生徒だけは不満を持っていた。
――――
私、姫野ユキはこのクラスが好きじゃない。どいつもこいつもお人よしばかりで他人を疑う事もしようとしない。もし一之瀬が私たちを裏切ったらどうすんのよ。そんなこと思っているのは当然このクラスで私だけ、そんなことを言ったら悪者にされるのはこっちの方だ。だから、流れに任せるしかない。そう思った。
「凄いや!流石は一之瀬さんだね!!」
私はBクラスの中でもこの狛枝凪斗という男が嫌いだ。なんでもかんでもクラスメイトのやる事成すこと全てを褒め称える。全肯定の脳死野郎。金魚の糞みたいに一之瀬に引っ付いてバカみたい。本当ウザい。
「でもその作戦には一つ穴があるね。君が裏切った場合僕たちはどうすればいいのかな?」
はいはい、きぼうがあふれてるぅ~☆
――――は?いまなんて言った?
「帆波ちゃんが裏切るわけないでしょ!?」
「どうしたんだよ狛枝!お前らしくないぞ!」
そうだ、そんなことを言ったらクラスメイトの反感を買うのは当たり前だ。このクラスは一之瀬を中心に回ってるのに何を考えているんだこいつは。私はそう思った。だが、
「そうだよねぇ、僕なんかの意見聞く耳持ってくれないよね...でもね、皆はこういう風には考えないの?退学者を2千万ポイントで買えちゃうってことはさ、Aクラスだって買えるかもしれないって事に」
――――は?
狛枝が一つの爆弾を投下すると騒がしかった教室が一瞬で静寂が生まれる。だが、あり得ない話ではない。退学者が買えるということは、クラスを買うことも可能ではないかという事。卒業間近でAクラスに入り一人勝ちすることも可能なのではないかという事に疑惑が生まれる。
「これは星之宮先生に僕が直接聞いた事だから間違いないよ」
疑惑が確信に変わった。
私は狛枝が嫌いだ。だが、今日ほど心強い味方だと思った日はない。私は心の中で狛枝を応援することにした。だが、一之瀬はクラスメイトが疑惑の目を向ける中一人堂々としていた。
「それはちがうよ!」
一之瀬はそう力強く言い放った。
「違う?何が違うの?」
「狛枝くんもしかしてわすれちゃった?それともわざと惚けてるの?私は星之宮先生にその事を聞いた時にこうも話したって聞いたよ?」
ポイントを騙したり、奪ったりするような不正行為はできないって
「狛枝くんが私と同じことを聞いてるなんて思わなかったなぁ、それも初日の内にね」
「あはっ!そうだっけ?確かにそんな事言われた気がするなぁ」
なんせ、1カ月も前のことだからとへらへらと惚け始める。
「皆ごめんね!黙ってるつもりはなかったんだけど、まさか狛枝くんからそんな事言われるとは思わなくて」
一之瀬はクラスメイトに頭を下げる。こうなればクラスメイトは一之瀬の味方だ。
「狛枝くん、どうしてワザとクラスの不安を煽るような事をしたのかな?」
「ワザとって...そんなつもりはないよ! なんてね?そう思ってる人もいるんじゃないかなって思ったんだ」
「だってポイントは言わばお金みたいなものだよ?そりゃ、皆は一之瀬さんを信頼してるから預けてもいいと思ってるよね。もちろん僕もそうだよ」
「でもね、少なからず一之瀬さんを信頼しきれていない生徒だっているはずだよね?でも、クラスの空気から嫌な事を嫌だと言えないと思ったんだ。だから僕はその人のために声を大にして伝えてあげようと思ったんだよ。そうだよね、姫野さん?」
その通りだよ狛枝――――は?何言ってくれてんの?こいつは??
思わぬ所で、狛枝からキラーパスを出されてしまった。クラスメイト全員が私に注目する。
「え、は?」
「どうしたの?言いづらそうにしてたから場を用意してあげたんだよ」
悪気のない純粋で無垢な笑顔で私をこの殺伐とした舞台に無理やり引き上げようとしてくる。私はこんなこと頼んでない。
「―――っぜぇ...」
「何か言った?」
「何でもない」
「じゃあ、ボッチの姫野さんの意見も聞いてみようか」
少し見直しかけた自分とこいつを殴ってやりたい。私はやっぱりこいつが嫌いだ。
「私は確かに、ポイントを預けるのに不安があったけど、一之瀬さんが言うように不正ができないなら、預けてもいいと私は思う...」
「・・・・・・・・・・・・・」
腕を組みながら私を無言で見つめてくる狛枝。こっちみんなうざい。
「どう?狛枝、これなら文句ないでしょ?」
一之瀬の友達の一人が、狛枝に詰め寄る。あいつは顔を伏せてぷるぷると肩を震わせていた。私はまさか泣いてるのかと思い、声を掛けようとした。こいつに取っては悪気はなくて、ただ私のために動いてくれたのかもしれないと思ったからだ。
「こまえ」
「素晴らしいよ!!」
「は?」
「まさかBクラスの皆が、たった一カ月でここまで団結力を深め合っているなんて思わなかったなぁ、一之瀬さんにもクラスの皆にも悪い事をしたと思ってるよ...でもね、それでも確かめたかったんだ!この事は僕たちだけで決めるんじゃなくて、クラスメイト皆の意見を聞かないとダメなんだって!」
「でも、皆一之瀬さんを信頼しているみたいだね。これも全て一之瀬さんの努力の賜物だよ。僕なんかが皆を試すような真似しちゃってごめんね?」
狛枝は満面の笑顔で満足げに言い放つ。どこかうっとりとしたその顔に私はトリハダがたった。
「調子のいいやつだな。それで狛枝はポイントを預けるのか?」
「もちろんだよ神崎くん、僕は最初からそのつもりだったんだ」
「本当かなぁ」
一之瀬が狛枝に疑惑の目を向けている。ころころ意見を変えてるんだからいくら仲がいいとは言え、疑われてもしょうがない。
ある程度、ポイントの件の話が纏まった。
「最後に、この事はBクラスだけの秘密にしてほしいの」
それだけを言い残し、クラスのプライベートポイントは一之瀬の端末に振り込まれた。これで議論は終わった。
「希望が溢れてるよぉ...」
はいはい、きぼうがあふれてるぅ~☆
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