モンスターハンター 古狩人の足跡   作:魚介(改)貧弱卿

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60年後 終節 それぞれの帰る場所

「エリック!上にゃっ!」

「え!?うわぁぁっ!」

 

 空のポーチから目を離して上を見ればそこには大顎を開けたティガレックス

その吐息を受けながら

エリックは硬直などしなかった

ボウガンの装甲では受け止められないと判断し、即座に覚悟を決めたエリックは

ボウガンを放り捨てて両手でその顎を受け止める!

 

「やれ!ジムッ!」

「二ャァァァァアッ!」

 

 龍撃弾を腹に突き刺し、そこに特大の爆弾を取り出したジムが突撃して2つの爆弾を同時起爆

しかしなおも顎は緩まずエリックの腕を折らんと加圧を続ける。

 

「ぐぅ……うぉぉぉっ」

 

あまりにも強い圧力が物理的に肘を破壊するか、その前にティガレックスを仕留めるか

お互いに命を賭けた力の掛け合い

しかし、どんなに弱っていてもモンスターはモンスター、徐々にエリックの腕が押し込まれる。

 

「二ャァァァァアッ!エリックゥッ!」

 

「まけるかぁああ!」

 

 気炎を上げるエリックだが、すでにその腕は悲鳴を上げ、装備は軋み

今にも骨が圧壊しようというところ

このままではやられる。

 

はずだった

 

「よく耐えた」「遅れた」

 

老人と青年、二つの声と同時に

エリックに終わりを告げる筈の重圧は掻き消える。

 

「ティガレックスよ……これで終わりだ!」

 

 蒼と紫の稲妻が飛び出して

ティガレックスを蹴り飛ばしたのだった。

 

「ほれ」

 

 軽い声と共に、戦場に打ち撒かれたそれは生命の粉塵、一定の範囲内にいる味方を回復することができる高価なアイテム。

 

 エリックは腕の軋みとともに幾度もの接近、連射で負った肩の負荷から解放され、そしてジムの腹部裂傷も治っていく。

 

 希少性や値段もさることながら、このアイテムは治癒能力が高すぎて装備の破片や周辺の泥などまで傷口に食い込んだまま強引に傷を閉じてしまうということもあり、ギルドから持ち込み数に制限がかけられているアイテムであるため、あまり頻繁に使用できるものではないのだが、それを躊躇い一つなくブチまける老人に慄きを覚えるエリック主従。

 

「立てるな?」

「は……はい!」「にゃ!」

 

「ならば下がれ」

 

 その瞬間、枯れた細木のような老人の背に、エリックは王の姿を見た。

 

「まさか……あなたは……」

 

「足癖の悪い友に付き合う老爺、そんなところじゃのう」

 

 エリックの言葉を遮って視線を戻した老人は、その目線の先にいる怪物を嘲笑うような表情を浮かべて……。

 

「聞こえているぞ雷ジジイ!」

 

「誰が雷ジジイじゃっ!」

 

 即座に怒鳴った。

 


 

 バチバチと空電を鳴らしながら

両手に握った刀を正眼に構える。

 

「いくぞ」

 

 すでに応える気力も残っていないのか、口を開けたまま沈黙するティガレックス

どこかで肉を補充するつもりだったのだろうが、そのアテもエリックによる決死の妨害で挫かれてさらに重傷を負った状態

一方でハンター側はエリックは弾切れを起こしているが戦闘続行不能な状態ではなく

アダルバートもほぼ無傷、アカシも消耗はあれど無傷の状態で失った部位も補填済み

すでに勝てる見込みなどない。

 

「グルルルルゥ……ガァァァアアッ!」

 

 しかし、諦めはしない

最期の瞬間まで、生きる事から逃げはしない!

 

 力の限りに突撃するティガレックスに対して、アカシが取った構えは

撃龍剣術の刀術の中でも遥か昔に廃れた

雪月花の構えの一つ、水月の構え。

 

 鏡花の構えを相手の攻撃を受け流して反撃する後の先の型であるとするなら

この型は先の先、すなわち

相手の攻撃を受けるタイミングでクロスカウンターを仕掛ける攻めの反撃技、

一撃で敵を破らねばならない、この反撃から回避は間に合わない、自ら敵の前に身を晒すという大きな制約から只人にとっては使い物にならない技術

しかし戦神は、それができるから『神』なのだ。

 

「喝ッ!」

 

 頭蓋を幹竹割に叩き斬る一撃、

先の滅龍弾による集中砲火、伴龍たるオオナズチによる爪傷、そして幾重にも重ねられた無数の攻撃

ついに鉄壁は崩壊した。

 

「ギャガァアァ……」

 

 断末魔の一声と共に、ついに崩れ落ちるその体、死してなお橙鋼色を失わない皮膚

血を垂れ流しながらも止まらない心臓

間違いなく、それは死を、終わりを迎えた。

 

「……さらば」

 

「剥ぎ取るならナイフを貸すが?」

「いらん、それは俺のではない」

 

「……ならば、君は?」

 

 アダルバートは後ろでボウガンを油断なく構えていたエリックに向かって言葉をかける

そしてそれと同時にティガレックスが本当にもう動かなくなった事をようやく認めたエリックが立ち上がる。

 

「僕が戦うより先に既に致命傷を負っていました、そのダメージを与えた人が先に取るべきでしょう」

「……はぁ……」

 

 自分がやるしかない、とため息を吐いてティガレックスを解体し始めるアダルバート、やたらめったらに攻撃されたせいで無事な部位はほとんど残っていないが辛うじていくらかの骨や皮といった部位は回収できた

とはいえ貴重な粉塵や砕けてしまった絆の護刀(マスターオデッセイ)、爆破されて大破したネコ武器や防具、消費された大量の弾丸に釣り合うとは全くいえない。

 

 大赤字を脳内でざっくり計算しながら

エリックは頭を抱えた

どうやら今月は相当厳しい生活になりそうだ。

 

「……やはりこれは君が持っていけ

然るべきルートに売れば多少にはなるだろう」

 

「し、しかし……!」

 

 狂竜ウイルスの結晶や極限化個体の皮、普通に取り扱うことはできないような代物ばかりが解体過程で出てくるため、そういった『捨て置けないがやり場に困る』というような素材を売り払うように告げるアダルバート

龍歴院や古龍観測所の連中であれば貴重な古龍の力の末端を宿した素材として高く買ってくれるだろうという若干の期待を込めての言葉ではあるが

エリックにはそれが救いの神のように見えた。

 

「引退ジジイに金など無用、どうせ腐るほどあるのじゃから……

未来ある勇敢な若人に対する激励、と言おうかの

さぁ、受け取ってくれ」

 

「……ありがたく」

 

「さて、残りはどうするか……ギルドの処理班に」

「……触れさせられるようなものか?これが」

 

 エリックが細々とした素材をポーチに仕舞い込むのを横目で見ながら

アダルバートの呟く言葉にアカシが反論する。

 

 それも当然だ、正式なハンターギルドの依頼を受けたわけでもないのに突然こんなものをギルドの処理班に依頼など筋が通らない、というだけではなく

根本的に『半ば古龍と化したティガレックスの残骸』などという大樽G並みの代物を闇が深いことで有名なギルドの処理班に流すなどできるわけがない。

 

「……仕方ない、これは俺が責任を持つ

処理は任せろ」

「どうするつもりじゃ?」

 

「こう」

 

 ばきり、という乾いた音と共に

撒き散らされた血が浮き上がり、アカシの結晶の鎧に吸収されていく

それと同時に爆発的に威力を増した電撃が天から奔り、ティガレックスの骸を焼き貫く。

 

「完全に炭化するまで粉々にする」

 

 悪くいえばそれは証拠隠滅

よくいえば自然環境への還元

曲がりなりにも古龍に覚醒した半自然現象であったこのティガレックスが

骸を焼き尽くす程度で祟ることもあるまい。

 

 生半な火力では表皮を傷つけることすらおぼつかないため、全力の雷撃を呼び起こしてまで骸を焼くアカシ

紫の光に照らされた、その横顔はもはやなんの感情も浮かべてはいなかった。

 

「……では、ワシは帰るぞ」

「また霊峰に篭るのか」

 

「鈴とも約束したしのう、それにこの雷も借り物じゃから、あまり長くは脚が持たぬわ」

 

「そうか、近々酒を持っていく、カムラかユクモの銘酒ならば、霊峰の寒さも少しはマシになるだろう」

 

 何を持って行こうか、などと今から考えているアカシを笑いながら返す。

 

「あやつは幻獣と謳われる古龍、酒と言われて飲むか怪しいがの」

 

「ならば、よい、生肉でも食わせてやるさ」

「見え見えの罠ににしか思えんがの……」

 

「ええい貴様!少しは真面目に考えろ!

老い先も短いというのにその韜晦癖は変わらんというのか!」

「だってこれがワシじゃから、

ほれせいぜい悩むがよい、『我思う、故に我あり』考える内は道に迷うこともあるまいて」

 

 雷鳴を残して跳び去ったアダルバートを追うかどうかに一瞬逡巡し

しかしやめるアカシ。

 

「そこの、貴様等」

「は、はい!」「にゃ!」

 

 先ほどの超常現象を目の当たりにしてしまったエリックとすっかり怯えているジム

二人の様子を流し見て、アカシはそれに手を伸ばす。

 

「……次の時代は、貴様等が主になる

戦うこと、進むこと、そしてなにより

生きることを諦めるな

 

足止め、ご苦労だった」

 

 説教臭くなってしまったことを心配して、最後に言葉を付け足して

一人と一匹にそれを押し付けた。

 

「……これは」

 

「龍結晶、これもそこそこに龍の力を宿している、そのまま持っているだけでもお守り程度にはなる

武器にでも使え」

 

「ありがとにゃん!」

「あ、こら失礼じゃないかジム!」

 

「フッ……よい、ではな」

 

 再び暴風を纏ったアカシは空へと姿を消し

山岳には静寂が戻った。

 

「……僕たちも、帰ろう」

「はいにゃ!美味しいネコごはん、いっぱい作るからしっかりたべるにゃん!」

「ハハ……じゃあその間にマグロでも釣ろうかな」

 

「お刺身なら得意にゃん!」

 

 戦いは終わり、場には日常の空気が戻った

皆に深く残された爪痕を除いて

しかしその爪痕も、長き時の流れの中にはいずれ風化し、崩れ、繰り返す日常の細波へと埋もれていくだろう。

 

 ゆっくりと帳が降りて、夜が訪れる。






はい!古狩人の足跡完結!
お疲れ様でした!

原作となる『故郷なきクルセイダー』作者のオリーブドラブさん、ご協力ありがとうございました!
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