モンスターハンター 古狩人の足跡   作:魚介(改)貧弱卿

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別章 3話

「最早許サヌ!……貴様カラ先ニ!」

 

「グルルゥ……!」

 

 全身に大きな傷を負い、焼き潰した傷口を叩きつけられてなお立ち上がるマガイマガド

しかし、その体はとうに限界を超え

死力の限りを尽くし切ってしまった。

 

 ガクリ、と地面に倒れる反逆者(マガイマガド)へ、ネルギガンテの鉄槌が下された

そう、二度目の金剛棘による攻撃

再び繰り出された飛翔突撃は弱り切ったマガイマガドへと一直線に進み

 

「喝ッ!!」

 

 気刃がそれを迎え撃つ

血よりも朱い紅色を纏う気迫の刃は

常のそれよりもはるかに色濃く

もはや赤を通り越して暗く染まっていた。

 

「黒刀……!?」

「いいえ」

 

 その刃ごと打ち砕くほどの突進を放ったネルギガンテだが、さすがに超高密度があまりに物質化した気迫の結晶を砕くには相応の代償を迫られ

再生した棘のほぼ全てを無駄に捨てることになった。

 

「これは殺意の刃、瞋恚の紅炎を極限まで煮詰めた煮凝りの……その濁り」

 

 蛇王へと向けられた溢れんばかりの怒りを解き放ち、それは紅蓮を越えて光すら通さぬ漆黒へと堕ち果てた気刃斬り、

『気刃蛇殺し』

 

「私だって……!」

 

 めきり、めきり、と音を立てて

砕けた骨、飛散した血滴、潰れた肉を押し除けて新たな器官が再生する

それは蛇王の愛の形であり、同時にどうしようもない隔絶そのもの。

 

「私だって…………!」

 

 完全再生まで、僅か四秒。

 

「普通に恋がしたかった!」

 

 超絶的な技巧に支えられた繊細な連撃をこそ持ち味とする彼女が

力任せに刀を振り切る

体を残すこともない全力での振り払い

本来望ましくないとされる隙を大きくする動き

しかし、そんなことは関係ない。

 

「普通に出逢いを得て!」

 

 斬り込む、捨て身の突撃にネルギガンテも反撃の機を掴めず

空中からの腕攻撃を出すにとどまる。

 

「普通に恋をして!」

 

 血に染まった目を赤く輝かせ

本来の出力を大きく超えた過剰なパワーの代償を全身から吹き出しながら

赤い血霧すらも斬り払っての連続攻撃!

 

「結婚して子を設けて!」

 

 大きく振りかぶった気刃大回転切りがその溜め動作を瞬く間に完了させ

暴力的なまでの攻撃力を爆発させる。

 

「やがて育って巣立つのを見送る!」

 

 黒い気刃の一撃は、ヒビの入ったネルギガンテの鎧を剛力にて打ち砕き、その肉へとついに刃を届かせた。

 

「そんな普通の人生が!送りたかった!」

 

 彼女には、そんな未来は既になく

そしてどこまでも、彼女は永遠の花嫁だった。

 

「グゥウォオオオオッ!!」

「私の未来を返せぇえぇっ!」

 

 怒りと憎悪の混じった咆哮は

ここではないどこかへと届いたか、聞いたものがいるか

 

 激突する剛力が二つ

光すら殺す闇の剣撃と古龍を狩る古龍の棘

互いに譲らぬ鍔迫り合いの果てに

ついにネルギガンテが押し負ける、

マガイマガドの刻んだ首筋の罅割れから、大きく一文字に薙ぎ払われた。

 

しかし

勝利を収めたはずの八雲の様子が変わる

無理やりに封じ込めて、見ないフリをしていた感情を解き放った反動により

60年にも及んで彼女が蓄積し続けた憎悪が、怨嗟が、激怒が、もはや彼女自身の制御すらも振り切った暴走を始めたのだ

 

「う……ゥぅぁぁアアアッ!」

 

 

乙女の夢見た理想達は黄昏よりもなお昏く

 

透き通る涙すら、溢れる血よりもなお赤い

 

 

「暴走カ……ッ!」

 

 暗いオーラを全身から滅茶苦茶に解放した八雲に、もはや理性的な行動は見えず

獣よりもなお原始的な破壊衝動を振りまく厄災と化していた。

 

「ゥァァアアッ!」

 

 ネルギガンテは本来、ただ破壊するだけの存在ではない、回帰を行う存在であり

再生のために破壊する終末の体現である

しかし、だからこそ、ダラ・アマデュラの再生能力に対して圧倒的に分が悪い。

 

「……撤退スルカ!」

 

 ネルギガンテは苦渋の決断を果たし

もはや刀すら手放して龍気を振りまく女から離れる

しかし。

 

「ァァアッ!」

「ヌゥオッ!?」

 

 離れゆく黒い鎧を何と間違えたのか、尋常ならざる剛力で跳躍した女の黒く染まった手刀が突き刺さる

 

「イイカゲンニ……目ヲ覚マセ!」

 

ネルギガンテの空中回転が八雲を振り落とし、そのまま体当たり、全力ではないにせよ

八雲を七度殺してなお余りある威力の突撃が直撃する。

 

「ァァアアアアッ!」

 

 瞬間に生まれた隙をついて、八雲が気力を解放し、黒い気刃が極大化

もはや太刀という枠に収まらない大刃が顕現し、ネルギガンテの突撃に衝突する

天から降る破滅の流星と、地から放たれた壊滅の破砲

共に黒いその力はしかしその有り様を決定的に違えていた。

 

 ネルギガンテが旋転し、穿孔機(ドリル)の要領を以って貫殺を成さんとするが

八雲は大刃の力をさらに増して地面にネルギガンテを叩き落とそうとする

 

 拮抗する二つの力は互いに軋みあい

ぶつかり合って空間を染め上げる

そこに、咆哮が轟いた。

 

「グゥアオオオオオッ!」

 

 力を失い、倒れ伏していたマガイマガドが身を起こし、かつての戦友へと走り寄る

その瞬間、マガイマガドへと意識を向けた八雲の気刃が存在密度を保てなくなり

ネルギガンテの回転突撃が薄れた気刃を砕いて八雲へと直撃した。

 

「ぁぁあっ!」

 

 古龍最大の攻撃たるドラゴンブレス、ネルギガンテのそれの名は

『破棘滅尽旋・天』

受けた者尽く打ち砕く終末の天撃である。

 

 

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