モンスターハンター 古狩人の足跡   作:魚介(改)貧弱卿

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60年後 死節 新たなる牙

 それを見た時、G級ハンターエリック・デア・フォーゲルヴァイデは驚愕した

()()()()()()()()()()()()と。

 

 首、頭蓋、顎、脚、腹、背中、ありとあらゆる部位に致命傷と断言できるほどの深い裂傷を負い、片腕を喪失し、両目を抉り取られて牙を失い

それでもなお歩みを止めないティガレックスに驚愕した。

 

「……僕が……やらなければ!」

 

 ヘビィボウガンに弾を込めて躊躇なく連射し、その全身を打ち据えて

それでもなお倒れなかった

鍛え上げたG級ハンターとして手にする己の得物は、どこを撃てばいいのかも明瞭ではない襤褸屑のようなティガレックスにまるで通じていないという事実に絶望した。

 

 そこはドンドルマにも程近い山岳地帯、遙か遠い密林の中で遭遇した男から逃れたその時には、既にここまで来ていたのだ。

 竜王は失った牙を剥くことも無く、ただただ進み続ける、その先に待つ物を考えもせず

その先に居るハンターに目もくれず。

 

「うぉぉぉっ!」

 

 レベル2通常弾では効果が無いと判断し、エリックはレベル3徹甲榴弾を使用

被弾者の装甲を撃ち抜いて爆発する弾丸がティガレックスの表皮に弾かれて爆ぜる

大きな音を立てるそれは本来想定されていた様子では無く、全く無効化されていることだけを知らせるものだった。

 

「これでもダメなのか……!」

 

 徹甲榴弾は爆発弾という都合上高価であり、材料費や調合の難度も高く弾自体が少ない、そのため本来は通常弾をメインとするのだが、エリックは鬼神雷砲【獣神】を使用しているため、武器相性的に高い威力を出すことができる徹甲榴弾をメインとして使っていた。

 

 砲撃を極めしG級ハンターの全力攻撃を持ってしてもなお弾かれ、無駄に炎を吹き上げるのみ

その事実に絶望しかけるエリック

しかし彼は諦めない、彼は華麗なるG級ハンターエリック・デア・フォーゲルヴァイデ

最期のその時まで前を向き続けると誓った銃士(スリンガー)なのだから。

 

「こっちへ来い!僕が相手をしてやる!」

 

 閃光玉は意味もなく瞬いて、消えた。

 


 

 時は遡り、極限化を発動したティガレックスの咆哮が響き渡った直後

男は咆哮に吹き飛ばされながらも納刀、居合の構えを取って攻撃を待ち受ける

 

「……」

 

「グァガァァァァッ!!」

 

 もはや受け止める云々という次元にない圧倒的攻撃力による突撃

質量×速度の二乗、たったそれだけの単純な数式が襲いかかってくる。

 体当たり、叩きつけ、突撃咆哮、尻尾回転、男は息もつかせぬ連続攻撃を前にただ立ち尽くすのみ、とはならず、刀を握る右手は緩まない。

 

「極限化を修めるとは見事、しかし」

 

 拳爪を刀で受け止め、刃を鳴らしながらも強引に押し返した。

 

「負けるわけにはいかんと言った!」

 

 狂竜化を引き起こすウィルス、自らが感染したそれを振り撒くティガレックスに対して突撃した男は一瞬にしてそれを克服、

生物が本来もつ自傷を避けるための限界を捨てて、自らの死境を引き出した

狂える竜王に黒衣の剣士が迫る

 

「ぜあぁっ!」

 

 剣先が分身するほどの突き、その数実に七十二撃、弾かれることを想定に入れた軽い攻撃であっても、凡百のティガレックス(同族)では既に十度は刺身と化しているだろう事は想定に難くない

しかし、極限とは文字通り

極みへ至り、生命の限界を超越した証

容易くは倒れない。

 

「ギァァッ!」

 

 暴走するほどの力を腕に込めて

満身の力での全力パンチ、軽鎧を引き裂く爪撃を繰り出したティガレックス

空を斬る一撃を陽炎にて回避した男はそのまま練気解放、赤い光を迸らせながら気刃を放つ

気刃斬り十二連撃、さらに円月斬りを繰り出し、ティガレックスの全身を打って

しかし気刃を持ってしても尚、異常に硬化した肉体を切り裂く事は叶わない。

 

「…………!」

 

 今まで繰り出されたそれとなんら変わらない跳躍突撃、しかしそこからは違った

 

「ギィィ……ガァァァアアッ!」

 

 爆発的咆哮を至近距離で受けて防ぐ術は男にはなく、それだけで済ませるティガレックスでもない、咆哮を浴びせたのは男ではなく、己の爪に向けて。

 

 咆哮とは轟音であり、同時にそれは振動

空気を砕くほどの力を込めたそれは爪へと宿り、超振動はさらなる鋭撃を引き出した。

 

「うぉぉぉっ!?」

 

 爆発的な咆哮に全身を打ち据えられ

姿勢の揺らいだ一瞬を狙った超振動ブレードによる引き裂き攻撃

今度こそ回避の隙はなく、抵抗虚しく胴鎧が切り刻まれる。

 

 更に吹き飛ばされた男に迫る影

それは回転尻尾攻撃、ティガレックスの繰り出し得る最大規模の物理攻撃

最も警戒されるべき大技が、男へと直撃する

 

「がぁぁぁあああっ!」

 

遙か遠くへと吹き飛ばされ、受け身を取る様子もなく太い木の幹に激突して落下する男

その姿は無残極まる正視に耐えない有り様で、紛う事なき敗北者の姿だった。

 

「ゴグゥゥウウッ……ガァァァアアッ!」

 

 勝者は首を高く上げて、歓喜の咆哮を上げる

我は勝ったのだと、この強敵に打ち克ち、そして生き延びたのだと

牙を折られ、全身を深々と切り刻まれ

今これまでに受けた事のないほどの傷を負おうとも、勝者は我なのだと。

 

 さぁ、獲物を喰らおう

これほどの強者の骸を喰らえば己はまた新たな道を進める、そう確信するほどの力ある敵だった。

 

 男の倒れた場所へと近づき

それを喰らおうとするティガレックスは、しかしふと足を止めた

まだその時ではないと、これほどの獲物ならばこのまま喰ってしまうのは失礼だと感じたのかもしれない

もっと万全の状態で無ければ、己が喰ったこの敵に、逆に喰われてしまうと恐れたのかもしれない。

 

 ただ足を止め、別の獲物を探すべく立ち去った事だけが事実だった

 


 

 ティガレックスは傷を癒し、体勢を整えてから()()を喰うべく獲物を探して……見つける事は出来なかった

当然である、並の大型モンスターどころか古龍すら避けるほどの鬼気迫る力の激突を前にして容易い獲物が居残るはずもない。

 しかしティガレックスは思い出した

確実に獲物がいる場所を、群れる獲物が定住するその場所を、そう、人の住む街を。

 

 あれらは小さいが肉である事に違いない、そう思い直したティガレックスは

人の住む街を目指して進む

血を流しながらもなお余りある脅威として、ドンドルマの街へと轟竜が迫った。

 


 

 吹き飛ばされ、木に直撃して意識を失い倒れていた男は、その声を聞いた。

 

〈目覚めよ我が子、全て守るべき物の為〉

 

 雄大にして荘厳、どこか遠くから響く声を。

 

〈届けよ我が声、全て愛しき遺児の為〉

 

 透き通る高音、己の内から響く声を。

 

「……ぅぅ……」

 

 意識は回復した、しかし肉体は限界を超え、重度の損傷を受けている

もはや回復薬や蜂蜜でどうにかなるところではない。

 

〈目覚めよ我が子〉〈届けよ我が声〉

 

 遙か昔、殺した二頭の古龍達

それらは子を成すために出逢おうとしていて

それらを男は殺した

代償として片腕片目を失いながら。

 

 《我らが血を継ぐ新たな古龍よ》

 

 雲が空を覆い、風が吹き始める

曇天は雨粒を落とし、雷が遠くに鳴る。

 

「……息吹風巻彦、鳴霹靂媛……貴様等か……」

 

 砕けた骨、溢れる血、腐りゆく肉が終わりを告げて、今新たなる命へと繋がる。

 

《我らを破りし雄へ、我らが血を託せり》

 

《我らの血を継ぎ我らが願いを叶え給え》

 

 龍を殺し、その子たる未来を奪った男は、期せずしてその血を身に受けていた

古龍の血は認められざるものが受ければ即座に死にいたらしめる毒である

それを受けてなお生きるという事は。

 

「我ら星の意思なり、我ら望まれて産まれ出で、我ら望まれて亡びるなり」

 

 男は龍に子として生きることを、彼らの願いを託されたと言うことである。

 

 頭上に赤く輝く彗星が奔り

嵐が吹き荒れる、同時に大地は鳴動し

新たなる同胞の誕生を知り、咆哮を上げた

 

 幻獣(キリン)が、鋼龍(クシャルダオラ)が、霞龍(オオナズチ)が、炎王龍(テオ・テスカトル)が、老山龍(ラオシャンロン)が、浮岳龍(ヤマツカミ)が、大海龍(ナバルデウス)が、炎妃龍(ナナ・テスカトリ)が、峯山龍(ジエン・モーラン)が、嵐龍(アマツマガツチ)が、天廻龍(シャガルマガラ)が、蛇王龍(ダラ・アマデュラ)が、巨戟龍(ゴグマジオス)が、骸龍(オストガロア)が、天彗龍(バルファルク)が、滅尽龍(ネルギガンテ)が、世界に生まれたあらゆる古龍達が、新たなる古龍を祝福する。

 

《さぁ、咆哮を、誕生を告げる産声を》

 

 それは龍への変生

最初の古龍ミラボレアスが振り撒きし古龍の血を目覚めさせ、龍へと変じるということ

己の人生を自ら終わらせるということ

だが、それでも

 

「構わん……元より未来などない」

 

 男に、躊躇はなかった

全て、守るべき物の為に。

 

「うぉぉおおおおおおっ!」

 

 男は咆哮を解き放ち

真紅色の光の柱を打ち立てた

 


 

「……グルゥゥウ……!」

 

 その日、その時、世界の全ては恐怖した

新たなる脅威が、新たなる古龍が生まれたことを悟ったからだ、

全ての龍が咆哮を上げ、それら以外の万物はその光景にひれ伏した

それを見たのはこの轟竜の王も同じ

しかし王は首を下げない

首を下げれば王の威厳を損なう

黄金冠は常に仰ぎ見られるべきであり、それが当然のことである。

 

 ()()()()()()

強敵が更なる力を得たことに、己が喰うべき獲物が蘇ったことに

砕けて折れた牙が再び向かってくることに

王は歓喜の咆哮を上げる

凱旋の歌を高らかに、戦場は近い。

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