咆哮を上げた、龍がその
牙を剥いた、竜がその翼を広げる。
同時に起こった風は旋風へと変わり
砂塵を天へと巻き上げて消える
己の
木々の簾を超え、水滝の崖を超え、
音を超えて飛翔する。
そしてその先で、出逢った
「いざや踊らん!」
「グゥァア……ガァァァアアッ!」
加速を活かして移動しながらの横薙ぎ、己の為に敷かれた王道を進むが如き驀進、それを黄金の鱗が遮る。
ティガレックスとて天廻龍シャガルマガラの因子を取り込んだ極限化個体、男の変生による血の目醒め、それによって発生した膨大な龍気の波動に呼応して体内に抑え込んでいたシャガルマガラの因子を覚醒させ
己の鱗をそれらと同じ黄金の龍麟へと変化させたのだ。
未だ半分程度とはいえど、ティガレックスもまた目覚めを経て龍に覚醒していた
半龍同士が殺し合い、龍に成るために目の前の敵を喰わんとする儀式的な蠱毒が始まる。
爆発的な咆哮を上げたティガレックスが空気の振動を射出して攻撃すれば男は手にした刀で風を斬り、流れる空間断層が反撃を為す
男が刀を払えばティガレックスの皮膚から剥がれた龍麟が超振動で爆砕して炎熱を撒き散らす
地獄もかくやという烈火に空気は焼かれ、繁っていたはずの下草は既に炭の塊同然
川からは蒸気が立ち昇り空の雲を重く垂れさせ、雨雲は左回りに旋回して竜巻を成す
余人立ち入らざる魔境と化した野は続く激突にヒビを刻まれることになった。
「ぬぅん!」「ガァォッ!」
牙と刀が再び激突し、今度は超振動を纏った牙が勝利、刀は遥か遠くへと吹き飛ばされる。
しかし、焦りはない
続いて行われたティガレックスの攻撃は空を斬り、風を焼いて終わり
動きを終えた直後のティガレックスの頭上に、水滴が落ちる。
男の移動について来られなかった雲がようやく追い付いたのか、それとも今ここで生まれたのか、それは定かではないが確かに雨が始まり
そして男は嗤う。
「もう少しだ……」
刀を失った男に対し、黄金の龍麟と巨大な翼膜という二つの武器を手にしたティガレックス、攻撃能力でははるかに上を取っている
そのはずだった、男に攻撃を当てられなくなるまでは。
「グゥゥウウ……」
当たらない、当たらないの繰り返し
どんなに攻撃しても回避される、それも鈍るどころか徐々に速度を増してすらいる
『今ここで決めなければやられる』そうティガレックスは確信した。
極限化したティガレックスがシャガルマガラの因子を目覚めさせてなお力不足を認識する。
これが人だったのなら、このような考えなどしなかっただろう
己に与えられた力に酔って、戦い続けて死んでいく。
これが獣だったなら、認識などしなかっただろう、脇目も振らずに一目散に逃げていたはずだ。
これが龍だったのなら、それを認識した時点で敬意に換えていただろう、骸を贈り、己を破った力を称えるのが彼らの流儀なのだから。
力は得たはずだ、しかしそれでも足りない
己の鱗を、己の牙を、己の咆哮を
それでもなお不足すると実感したティガレックスは震えた
そう、恐怖したのだ。
「ガァァァアアッ!」
恐怖を塗りつぶす為に、ティガレックスは咆哮する、蛮王は力に屈した。
「ぬうぉおおおおおっ!」
失った銀の刃に代わり、紅色に染まった右手を揃えて大きく踏み出しての一撃
龍が最も強く力を発揮するその一撃、数多の龍が放つ必殺の決め技
己の角に宿った力を解放し、咆哮に載せて放つその技は
ティガレックスの心臓へと迫る一撃、並大抵のものではないと察して、しかし対応するにはあまりにも遅かった。
「グゴァァアアア!」
赤い飛沫が散り、焼ける草地に色をつけた。
「……見事……」
全力を解き放った一撃は心臓を貫く事はなく、ティガレックスの左腕に受け止められ、それを切断していた。
瞬間生まれた致命の隙、全力を解き放ったという事は、それを使った直後には龍の漲る力は全てが放出され、失われるという事でもある
そしてティガレックスは未だ命を残しているのだ
つまり今、男はティガレックスの牙の前に無防備を晒したと言うことに他ならず……。
ティガレックスはその僅かな隙を突き、己の全力を解き放った!
「ぐっ……!」
覚醒した龍気の全てを残された右腕の爪に集めて、龍麟の黄金色が腕に集中、揺らめく真紅のオーラと共に爪を伸長させ、同時に爆発的咆哮を放って
未熟な半龍の状態で全力を解き放ってしまったため、動くことすらままならない男に、超振動と爆発性の粉塵を纏った烈爪の一撃が直撃し