お月見ウマ娘合同   作:お月見ウマ娘合同

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前に作品とは毛色の違う作品になってしまいすまない……


月はいつだって…… エアグルーヴ 作者:通りすがりのサイボーグ怪獣

『お月見といえば』

 

「そろそろ十五夜だな」

 

 トレーナー室の静寂をさいた言葉の魔力でカレンダーに目を向ける。

 確かに、あと一週間で中秋の名月。いわゆる、月見である。

 カレンダーから先程の声の主。自分が担当しているウマ娘であるエアグルーヴに目線を移す。

 

 トレーニング後のミーティングを終えて、自分はトレーニングプランを練っていたのだが、エアグルーヴはトレーナー室の掃除に励んでいたようだ。

 もう帰ってもいいというか、帰って休んでもらいたいところなのだが。彼女の往来の気性で綺麗好きな彼女から見ればどうやら今のトレーナー室は掃除するべき環境だったらしい。別にそんなことはない、整理整頓された部屋だと思うのだが。

 しかし、綺麗好きな彼女のおかげでトレーナー室はおろかトレーナー寮の自室まで綺麗に保たれているのでエアグルーヴには常に感謝している。

 

 そんな綺麗好きな彼女の特筆すべき点はもうひとつ。

 中秋の名月を話題に出すあたり想像に難くないが、季節の行事を大切にしていること。

 クリスマスや花見を話題にする者は10代でも多いが、十五夜だなと話題を切り出す女子高生はエアグルーヴぐらいではないだろうか?

 などと考えているとエアグルーヴに考えを読まれてしまう……ということを予測しておく。

 

「おい、何か失礼なことを考えてないか?」

「いや、そんなことは。そろそろ十五夜だな、なんて言われるとは予想していなかっただけだ」

「事実を言ったまでだ」

「まあそうなんだろうが今日日、日本で月見を意識してる奴がどれぐらいいるんだろうなと思ってな。なんというか、格下感ないか? 他の年中行事とか、花見と比べて。桜は春しか咲かないけど月は年がら年中見れるからな。特別感ってやつがどうも……」

 

 せいぜい今の日本人が月見と聞いてまず思い浮かべるものと言えばハンバーガーだろうと最後に付け加える。

 するとどうだろうか。エアグルーヴは肩を震わせているので耳を塞ぐ。

 

「たわけっ!!!!!」

 

 もう何度聞いたか分からない言葉であるが近くでそんな怒鳴らないでもらいたい。そんなだからブライアンに将来尻に敷くタイプとか言われるんだぞ。

 

「ええいっ! なにがハンバーガーだ! 私が本当の月見というものを教えてやる!」

 

 

 

 

 

『ススキ』

 

 そんなこんなで十五夜。

 

「トレーナー室からトレーナー追い出すとかなにしてんだ。トレーナーのいないトレーナー室とかクリームの入ってないクリームパンと同義だぞ。ただのパンだぞ」

 

 というわけでクリームパン、じゃなかったトレーナー室に到着。

 17:00になったら来てもいいとのことだったので言い付けをしっかり守る。

 

「おーいエアグルーヴ入っていいか? いいよな? 俺の部屋だもんな。入るぞ」

 

 ドアノブに手を掛けると力を入れずともドアノブが回った。

 エアグルーヴが中から開けたのだ。

 

「いやちょっと待て普通入っていいか訊ねたら入っていいと言われるのを待て。なに自己完結しているんだ」

「トレーナー室だからな。トレーナーの部屋、つまり俺の部屋」 

「ここはトレーナーの部屋だが学園のものであって貴様の所有地ではない」

「というか俺の声を聞いてあの速さで扉を開けるとは、さては扉の前でスタンバってたな? なんだ、俺のこと大好きか?」

「うるさいッ! 話を逸らすな! あと貴様のような腑抜け、断じて……」

「そんな……これまで一蓮托生でやってきたのに……二人三脚でやってきたのに……」

「あ、いや……その、凹むな……。トレーナーとしての能力は認めているし、それに私は……」

「団子美味いなこれ。どこのやつ?」

「話を聞けッ! というか勝手に入るな!」

 

 テーブルに置かれた団子をつまむ。

 隣にはススキ。

 ふぁさふぁさの部分をふぁさふぁさする。

 ふぁさふぁさ。

 

「おい、あまりふぁさふぁさをふぁさふぁさするな」

「いやふぁさふぁさしたくなるじゃん」

「分からなくはないが……」

「……」

「……」

 

 このあと五分ぐらい二人でススキをふぁさふぁさした。

 

「どうして月見をする時にススキを飾るか知っているか?」

「茎が空洞でそこに神様が宿るって信じられてたからだろ」

「正解だ……。いや、なぜ知っているんだ。月見と言えばハンバーガーなどと言ってた奴が……」

「あとはススキを稲穂と見立てて豊作祈願とか悪霊やら災いやらから身を守る的なあれだろ」

「補足しないでくれ……私の立場がだな……」

 

 へっへ、博識なんだなぁこれでも。

 伊達にお前のトレーナーをやってるわけじゃないんだよ。

 トレーナー試験は大変だったなぁ。(月見の知識は試験範囲外)

 

 

 

 

『ウマ娘肥ゆる……』

 

「なぁ、雪○だいふく食わないか?」

「いや、団子を食べろ団子を」

 

 いや、真っ白い団子を見てたらつい食べたくなってしまった。

 

「昔は里芋だとかを供えていたのが似ている団子を供えるようになったと言われているようだ」

「まあ、似てるっちゃ似てるか。里芋剥けばこんなもんだしな」

 

 里芋を脳内に思い描きながら団子を頬張る。

 里芋よりは団子を食べる方が個人的には好きなのでそういう風に風習が変わってくれて良かった。

 

「そういえば団子とかの供え物は月見を終えてから食べるらしいぞ。健康とか幸福を取り込むだかなんだか」

 

 そう言いながら最後の一個に手を伸ばすがつかんだのは指ではなく空。

 団子はエアグルーヴに連れ去られてしまった。

 

「もう団子は禁止だ! 月見を終えるまで! ああもう最後の一個しか残っていない……」

 

 そんな怒らないでくださいよエアグルーヴさん。

 まるで俺が一人で食べたみたいな。

 最初に食べたのは俺かもしれないがエアグルーヴの方が量を食べてたぞ。

 

「頼むから体重だけは維持してくれよ本当に頼むからマジで。後輩の弁当の味見とかもマジでほどほどにしてくれよ何回それで泣かされたか俺もう分かんねえよ」

「いや、大丈夫だ。多分……」

 

 エアグルーヴは太り気味になった!

 

 

 

 

『月はいつだって……』

 

 なんだろう。

 こう、違和感がある。

 ススキ、団子(残り1つ)と月見に必要なものは揃っているというのに……。

 

「いや月見ってそもそも外でやるもんだろ。なんでトレーナー室でやってんだ」

「まあ待て。月が出るまでもう少しかかるだろう」

 

 時間はまだ17時30分。

 外は暗くなってきているが月はまだ出てないのかと窓を開けて空を見上げる。

 月は出ていないが紺色の空に光る星達がいくつか輝いている。

 

「いやーにしても快晴で良かったな。月見日和だ」

「ああ、絶好のコンディションだ」

「そうだ、エアグルーヴ。月がいつでるかスマホで調べてくれ。今日、月みたいな感じで調べれば出てくるから」

 

 分かったと調べるエアグルーヴから視線を空に戻す。

 そういえば昔、親父が満月の日は事故が多いって言ってたな。

 本当だろうか?

 今度調べてみよ。

 こんなつまらないことを考えている間にもう調べ終わっただろう。

 

「出てきたか? 何時だって?」

「……今日の月の出は……23:46だそうだ……」

「そうかそうか……うん?」

「……寮の門限を大幅に超過してしまうな……」

 

 あー、それは仕方ないな。

 今年はついてなかったのだろう。

 

「今年は諦めるか。ま、各自で月見を楽しむようにってことで」

「……」

 

 エアグルーヴの耳が垂れた。

 あかんやつや。

 いつものようにたわけ!!!と言われるのならいい。エアグルーヴのコンディションは絶好調と言えるがこうなるともうヤバい。ダメ、終わり、終局。

 

「あー……その、来年な? 来年こそはな。リベンジしよう。月見リベンジ」

「……来年まで一緒にいてくれるというのか?」

「おう、トレーナーだからな。いや、元トレーナーになってるか。元トレーナーとして月見を一緒に楽しむぐらいならいくらでもしてやる。来年だろうが10年後だろうが30年後だろうが月見やるってなったら馳せ参じてやるよ」

 

 この三年間を共に駆け抜けたのだ、だったら月見ぐらいはな。 

 元担当と元トレーナーがたまに会うなんてよくある話だし。

 同窓会みたいなものだろう。

 それがきっと俺達は月見になる。

 今後もウマ娘達の理想たる女帝としてエアグルーヴはあり続けるのだろう。

 レースから退いたとしても、きっとそれは変わらない。

 今後彼女がどんな道を歩むのか、近くで見ていたいものだがそれは叶わぬ願い。

 トレーナーとウマ娘の関係とはそういうもの。

 ずっと一緒にいることなど、ほとんどあり得ない。

 だから月見の時ぐらいは、現在のようにくだらないことを話したり、思い出話に花を咲かせよう。

 

 時は流れるもの。

 現在を輝くエアグルーヴというウマ娘の活躍もいずれ古典となるのだ────。

 

 

 

 

 

「おお、今日はいい満月だ」

 

 トレーニング終わり。担当ウマ娘数人とトレーナー室に向かっている途中、月が大きくまん丸だったので思わずそんな声が出た。

 

「トレーナーさんって、月が好きなんですか?」

 

 ここ最近、成績が伸びてきている期待のウマ娘がそんなことを訊ねてきた。

 

「うん? まあ、月が嫌いな奴ってのもそういないとは思うが……。ま、そうだな。月を見るとな、思い出すんだよ」

「思い出すって、なにを?」

 

 チームのエースで次のジャパンカップで引退予定のウマ娘が聞いてきた。

 なので、とびっきりの笑顔で言ってやるのだ。

 

「嫁さんに告られた日のことを」

 

 このあと、チーム総出でボコボコにされた。

 

 

 

 

 

「月見、とは言うが月はいつだって見ることが出来る。そのようなことを貴様は言ったな」

「どうした急に」

「十五夜の月だけと言わずだな、その……私と毎日、月を見てほしい」 

 

 頬は赤く、耳はピンと立てていたが、緊張しているせいかばらばらに動き始めていた。

 毎日月を見てほしい……。

 

「契約更新か! ドリームトロフィーも走るかそうかそうか! まだお前の走りを見られるとは俺も嬉しいよ、うんうん」

 

 まだ今後の進退について、四年目についてどうするかエアグルーヴと話していなかったがこれは嬉しいことだ。

 まだ、エアグルーヴの走りを隣で見続けることが出来るのだ、から……。

 

「あ、あのー……エアグルーヴさん? どうされました?」

 

 これは、これは非常にまずい予感がする。

 耳を塞いでもきっと無意味だろう。

 明日、耳鼻科に行くことを覚悟してその言葉を受け止めた。

 

「──────たわけッ!!!!!!!!」

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