「え? え? うわああああ!」
少年は自室にて、就寝していると、運悪く突っ込んできたクレーン車に家ごと押し潰されてしまった。
「……。……あれ?」
確か自分は死んだ筈、つか死んでなきゃおかしいと。
「ってか、ここどこぉぉおおお!?!?」
とある大きな地震によって倒壊した渋谷に、少年は立ち尽くしていた。
「まさかここ、東京か?」
テレビ画面が投影された建物に、大きな交差点。彼が生前憧れていた都会の街並みそのものであった。
「世莉架、もうすぐ着くからな……」
(は?)
彼はその少年に疑問よりも先に、哀れみと同情の目を向けた。なぜなら、誰も背負っていないというのに、背中に誰かを背負っているかのように話しかけていたからだ。
「可哀想に……」
(てか、なんでこんなに崩壊してるんだよ?)
「あのすみません、ここって渋谷、ですよね?」
「え……はい。そうですけど」
因果か否か、彼は今後特別な力を手に入れることになってしまう中学生女子、高柳桃寧に話しかけてしまった。
(そっか……俺の知ってる渋谷はもう……)
「う〜ん。とにかくこんな場所でいるのは危ないし、一緒に行きませんか?」
少年は桃寧にそう言って手を差し伸べた。
「え……?」
そして、桃寧は迷いながらもその手を取り、歩き出した。
「てか、まだ名前聞いてませんでしたよね? 俺は風見猛、趣味は……えーと、あんまありません。良かったらあなたの名前も教えて貰えませんか?」
「……私は高柳桃寧。趣味は……歌を歌うこと……です」
「へぇ〜。歌とか歌えるんだ! すごいですね!」
(ってあれは!?)
歩いているとふたりは三人の少年少女を発見した。今にも瓦礫に押し潰されそうになっている少女に、それを助けようとしている二人の男女。
「助けないと! ほら」
猛はなりふり構わず飛び出して、瓦礫を持ち上げようとする。
「桃寧さんも、あなた達も手を貸してください!」
呆然と見ていた男女と、少し躊躇っていた桃寧はその猛の言葉にハッとし、参加する。桃髪の少女は非力ながらも奮闘した。
「うぉりゃあああ!!」
奮闘の甲斐あってか、瓦礫に挟まっていた少女は少しの怪我を負いながらも、脱出することに成功した。
「はぁ……はぁ……、大丈夫ですか?」
「あ、ありがとうございます……」
────4年後、例の震災の後、渋谷は奇跡的な復興を遂げた。そして猛はというと……
「おっはよー! 桃寧さん!」
「だからそれやめてって言ってるでしょ……」
「まぁまぁ、それよりも今日って桃寧さんの高校の卒業式でしょ!」
「あ、そうだった! 急がないと!」
桃寧は慌てて高校へと駆け出した。
「ほんと、そういうとこが可愛いんだよなぁ……。さてと」
猛は祝いの準備をするために自宅に戻った。実は身寄りのない少年少女たちを、ある男性が全員とはいかないまでも引き取っていたのだ。だが猛はこの家とは、今日でお別れする予定だ。
「ただいま父さん」
「お、早いな猛、今日は桃寧の卒業式じゃないのか?」
「だからだよ。お祝いしたくてさ。買ってきたんだよ、ケーキとパーティーグッズ」
「わぁー! 何それ! ケーキ!? 僕たちの!?」
「こーら結人、騒がないの。今日は桃寧姉さんの卒業式なんでしょ? 猛兄さん」
来栖がそれを鎮める。
「うん、そうだよ。でだ、お願いがあります!」
「そんなに改まって言わなくてもいいわよ。第一私たち兄弟なんだから」
「飾り付けと、それと泉理の部屋を貸して欲しくってさ。あそこ広いじゃん!」
被災孤児となってしまった姉弟、そして来栖と泉理も、この『青葉寮』に引き取られていたのだ。
「別に……いいですけど……」
来栖の背後からひょこっと顔を出す泉理。
「ま、とりあえず手伝ってって話!」
「う、うん……いいけど」
────数時間後、
「ただいま────ってっ!?」
「卒業おめでとう! 桃寧さん!!」
クラッカーを鳴らし、玄関で祝ったのは猛。
「ほらほら、早く上がって!」
桃寧の手を引き階段を上がり泉理の部屋の扉を開ける。すると残りのメンバー全員がクラッカーを鳴らす。ケーキのロウソクに火を点け、桃寧はその火を消す。
「ふー、ふー」
(一回で消せないとこがまた、愛らしいんだよなぁ……)
「あの……いややっぱ……」
猛は踏ん切りがつかないでいた。なので来栖が小声で、
「……ほら、シャキッとしなさい。男の癖にうじうじしてんじゃないわよ」
喝を入れ、背中を叩く。
(よし)
「あの桃寧さん!! 話が! ある、んですが!」
「え、え、え? なに?」
桃寧は見るからにうろたえてしまう。
「俺の会社で、働いてくれませんか!?」
「は?」
「は?」
一同困惑。そう、皆、伝えたいことがある。としか聞かされていなかったのだ。
「あー……会社っていうのはちょっと間違いかも……。と、とにかく、俺と一緒に、同棲してくれないか!?」
(あ……、かなり強引だったかもしれないな……)
「あ、ありがとう、ございます……」
「えぇぇええええ!? い、いいの桃寧さん!?」
「ちょ、丁度働かないとなーって思ってたところだし、それに……」
ともあれ、猛と桃寧はその会社に来ていた。
「風見探偵事務所……って、た、たたた探偵!?」
(やっぱそうなるよな……)
「と、とにかく中に入ってみれば分かるから! ほらほら!」
猛は少し強引に押し入れた。
「あ、やっと来たんすか」
男の名前は大岸天馬、元アフィリエイターであり、つい最近、バイトや生活費を切り崩して立ち上げた探偵事務所の記念すべき第一職員である。
「またここで泊まっていくつもりですか? 大岸さん」
「別にいいだろ? 誰もいねぇんだからよぉ────って、誰その子!?」
「新しいメンバーだよ。ここの」
「え、ちょ、まだ決まったわけじゃ────まぁいいわ」
桃寧は渋々といった様子で受け入れた。
「ま、探偵っていっても今は浮気調査とかぐらいなんだけどな」
「え? それだけでも十分なんじゃないの?」
「いやいやいや、なにか事件とかの捜査とかやりたいじゃん?」
「いや、だから言ってるじゃないですか所長、そういうのは法に触れるって」
「でもだなぁ……」
ともあれ、新たなメンバーが加入した風見探偵事務所は、より一層賑やかになっていくのだった……。