最後の使者、渚カヲルを倒してからさらに一月が過ぎた。
カヲルを倒してからゼーレとは連絡が取れず、いつNERV本部を攻めてくるかわからない緊張状態がひと月近く流れて、職員の疲労はピークに達していた。
せめてこられても対抗できるように、考えられる対抗策を打ち出していた。
そしてパイロットをはじめとした職員たちは、万が一を考えて本部付近での生活を余儀なくされていた。
「ゼーレに関しては目立った動きはありません。
ただ、建造中だった量産型エヴァについても情報が全く入ってきません。
おそらく、なんらかの工作を重ねているとみられます。」
「ご苦労だったな梶くん。
日本政府の方はどう動こうとしている?」
司令室ではゲンドウと梶の情報交換が行われていた。
梶は日本に着いてすぐ、ゲンドウから情報収集を依頼されていた。
真実を教えてもらうことを条件にだ。
「政府の方にはウルトラマンZと敵対するのとゼーレにつくのがどちらが得か考えるように脅しをかけてます。
エヴァだけでは奴らの天秤は権力に傾くでしょうしな。
なにせ、これまでの使徒との戦いは官邸にも情報として流れていますからね。
シンジくんの正体は隠していますが、明らかにNERVとのつながりがあることは奴らも感じているでしょうし、私が知る限り現在までゼーレや国連から日本政府に連絡があった様子は見られません。」
「わかった。
申し訳ないが頼んだぞ。
君の働きに関する臨時ボーナスについては一考する。
悪いようにはせんよ、葛城くんとの結婚時間の足しにでもしたまえ。」
「司令もお人が悪い。
我々は今はそんな関係ではありませんよ。」
「人とは分からぬものだよ。
君たちを見ていると周りがむず痒くなる程思い合っているのにくっつかないからな。
それに人の命は儚い。
手が届くうち、会えるうちに想いを伝えることも必要だよ。
これは経験者としての忠告だ。」
ゲンドウは妻を初号機に取り込まれてから10年以上経つ。
その事実を知るものとして、この言葉がとても重く感じた。
「…ご忠告、痛み入ります。
何はともあれ、この戦いを生きて乗り越えねばなりませんからな。
私は追加の情報収集にあたりますのでこの辺で。」
そして梶は部屋を出て行った。
入れ替わりにリツコが入ってくる
「司令、ご要望の品が完成しましたので持って伺いました。」
リツコから渡されたアタッシュケースの中身を確認しニヤリと笑うゲンドウ。
「ゼーレ対策の陣頭指揮も任せているのにすまないな、赤城くん。
これがあれば、最悪の事態は避けれるかもしれん。
ところで君はちゃんと休めているかな?」
「お心遣いありがとうございます。
しばらく仕事続きでしたので、ひと段落すれば休みをいただきます。
しかし司令、ゼーレはなぜ動きを見せないのでしょうか?」
「わからん。
エヴァシリーズの完成に時間をかけているのか、それとも別の理由で気を伺っているのか…
いずれにせよ、予想される事態への対策…
マギのハッキング防止、エヴァと市街地兵装の強化、戦略自衛隊の投入阻止のための牽制を行うしかないな。」
ゼーレが沈黙を保つ意味、時間を開ければ開けるほどこちらが対策をとるのは予想できることだ。
では何か?
それすら塗りつぶすほどの用意があるとでも?
「どのみち、これから起こることは残った人類同士での共食いに他ならんよ。
我々はなんとしてでも補完計画を阻止せねばならん。」
力説するゲンドウの言葉を頼もしく感じリツコは部屋を後にしたのだった。
「あぁ、やっぱりだめだ。」
シンジは頭を抱えたくなった。
進化した光の力、アドバンスゼスティウムのキーが元のオリジナルキーに戻っていたからだ。
そしてカヲルから受け継いだアダムのキーはあれ以来ただのキーの形をしたものとしか言えない状態だった。
『一瞬の奇跡だったのか、それとも…
あれ以来怪獣も来ないが、ゼーレの戦力…
量産型エヴァンゲリオンと戦うことを考えると、アドバンスゼスティウムへの覚醒は必須だな。
可能なら新しい力を手に入れたいが、そのヒントになるアダムのキーがこれじゃあな…』
「あの進化の力を使うには、きっとあの時の感覚が必要になるんですけど…
もう少しのところで辿り着けないんですよね。」
ゼスティウムの先の力へ至る感覚はわかっているが、あと一歩のところで掴みきれない。
『焦っても仕方がない。
こういう時はアスカとレイと羽を伸ばしてみてはどうかな?』
たしかに、彼女らといることが一番のリフレッシュかもしれない。
そして僕はアスカたちの待っている家へ足を向けた。
今、僕たちパイロットはミサトさんたちと引っ越してネルフ本部近くの一軒家に住んでいた。
ゼーレの奇襲で分断されるのを防ぐためだ。
正直この1ヶ月は気が張って疲れていたけど、それ以上にみんなと過ごす時間は心安らぐ時間だった。
このままゼーレが来ずに、みんな一緒にいれたらいいのに…
そんなことを考えてたら家の前まで帰ってきていたらしい。
今はもう、家に帰ることが堪らなく幸せなんだ。
ドアを開けて、すっかり習慣になった言葉を言う。
「ただいま!」
こんな時だけど、僕は今、たまらなく幸せだ。
四時間後、日本国官邸。
「なんだこの大衆は⁈
奴らの主張はなんだ?」
官邸前には性別、年齢を問わずあり得ないほどの人が押しかけていた。
デモ行進でもなく、何も言わずに集まっていた。
「いえ、それがなにも…
警備の報告では全員目がうつろであると…」
わかるのは緊急事態であるということだけだ。
そして事態が動き出した。
「ほ、報告いたします!
大衆が変貌、全身白い短髪の女性型になって警備員たちに襲いかかり始めたとのことです!
現在NERVには連絡中、戦略自衛隊にも出動を要請しています。
皆様はシェルターの方へ!」
なんなんだこれは
モニターには報告通りの様子が写り、警備員たちが素手で引き裂かれ、首を折られている。
そして一体がカメラの方を向くと、全員がカメラの方を向き笑い出した。
誰でもいい…早く誰か!
「状況を知らせろ!」
ゲンドウの声が司令室に響き渡る。
官邸前に現れた謎の怪物たちの報告を受け、夜間にもかかわらず緊急招集が全職員にかかった。
「不明です!
戦略自衛隊が出動しているようですが、現地の報告ははいってきていません!
官邸付近をスキャン…嘘!
パターン青多数、使徒です!」
ありえない、全ての使徒は滅ぼした。
最後の敵は人間だったはず…
「碇、これはまさか⁈」
「あぁ、まさかゼーレがシナリオを歪めてくるとはな…
これは第18の使徒、リリンだ。」
「待ってよ父さん!
リリンって、僕ら人間なんだろ?
僕らはパターン反応なんて出ないじゃないか!」
シンジの質問にパイロットたちは同意して頷く。
その時
「映像、出ます!
これって、レイ?」
そこには官邸前で蠢く白い人型がいた。
確かによく見ると白い綾波レイの集団だが、そこにいるのはレイと同じ姿をしているだけの怪物が目を見開いて笑っていた。
「レイ、プラグスーツに着替えるわよ。」
アスカが気を使ってその場からレイを連れ出す。
「おそらく、リリスの因子が強い者たちが集められ、使徒化させられたのだろう。
あれはいわば、リリン・インフィニティとでも言うべき存在だ。
やつらはどこへ向かっている?」
「現在は官邸を離れて…第3新東京市に向かっています。
およそ3時間で到着の見込みです!」
「なるほど。
総員、第一種戦闘配置。
非戦闘員は残り二時間で取り残された人の避難誘導ののち、退避せよ。
他のものは対人戦闘用意、エヴァパイロットについては各機体で待機だ。
諸君、おそらくこれがゼーレとの最後の戦いとなる。
戦略自衛隊と連携し、奴らを叩く。
奴らは使徒だ、もはや人ではない!
必ず生き抜くぞ!」