ヴィレクルーは動揺していた。
今回の任務目的は母艦ヴンダーの主機となり得るエヴァンゲリオン初号機の回収、および同パイロットであり14年前ニアサードインパクトのトリガーとなった大罪人・碇シンジの身柄を拘束しエヴァから離れさせることで新たなるインパクトを阻止することだった。
その碇シンジは初号機の覚醒の代償としてその身の形を保てずLCLに溶かしてしまい時を止めている、さながら眠り姫の状態であると聞かされていた。
それがどうしてこうなった。
葛城ミサト大佐と、副官たる赤木リツコは動揺を見せまいとことの始まりから整理することに決めた。
まず本任務でエヴァ2号機改と8号機を宇宙空間にあげ2号機改が初号機を確保した。
ここまではいい。
そしてその初号機が収められていた棺に人造使徒ネーメジスシリーズが潜んでいて、2号機改に反応して展開した。
これも良くはないが、まだ理解はできる。
アスカが敵にやられそうになった瞬間、光の柱が立ち昇ってウルトラマンZと名乗る巨人が殲滅する。
はい、ここ。
まず問題はここ。
何者この巨人?っていうかアスカの報告だと日本語で喋ってきたらしいんだけど。
冷や汗が止まらないがいつまでもフリーズしているわけには行かず、意地でも思考を先に進める2人。
それで?
意思疎通したいっていうから了承して警戒体制で迎えたら?
なに?
なんでそこに大っきくなったシンちゃんがいるの?
きゃー、もうイケメンになって。
っていうか着ているジャケットって昔あたしが着てたやつの色違いじゃなーい。
現実逃避に走る艦長。
しかし副長が冷静にある問題点を指摘する。
「…ミサト、全クルーで囲んでいる状況でシンジくんが出てきちゃうのって不味くないかしら?」
ミサトがフリーズから溶けるまで3秒。
シンジくん→インパクトのトリガー→家族の仇
クルーでめっちゃ恨んでるって言ってたやつがそういえば…
「っ、この疫病神メェ!」
甲板上にいたクルーの1人、ピンク色の髪を持つキタヤマミドリが警戒用に携帯していた拳銃を構える。
ヤバい、北山止めろ!
クルーの誰かが叫ぶ。
ミサトの意識はスローに流れていた。
いけない、シンジくんが!
そしてやっとのことで安全装置を外した北山の銃口はためらいという言葉を持ち得なかった。
パパァン!
マズルフラッシュが光り、撃針が叩いた勢いで火薬が爆発し弾丸が飛び出る。
ミサトは目を瞑る。
次に起こる光景を脳裏に描く。
しかし、同時に違和感を感じていた。
銃撃の音、聞こえたのって2つ?
恐る恐る目を開くと全員が固まっていた。
なぜなら2メートルは離れていたシンジが無傷で北山が持っていた銃をその手で遊ばせていたからだ。
「…君、拳銃の訓練あんまりしてないでしょ?
狙い定めるのに時間かけすぎだし、殺気こめすぎだし、安全装置外すの手間取ってるのがバレバレだよ?
それに、本当に殺したいなら打つ前に叫んだらだめじゃん。」
そう言いながらマガジンを抜き取り、安全装置を掛け直した拳銃を北山に放り投げるシンジ。
「ごめんけど、殺されるわけにはいかないんだ。
あと、君が撃った弾だけど跳弾でお仲間に当たりそうだったから撃ち落としといたよ。」
周りがどよめき甲板上に落ちている弾丸に視線を注ぐ。
意を決して1人が近づいて拾い上げると
「…弾が二つくっついてる。」
周りにも事実がようやく飲み込めた瞬間だった。
「ミサトさん、僕にみなさんと争う意志はありません。
今は話を聞いて欲しいだけです。
だけど、敵意を向けられる分には構いませんが実害が加えられるならこちらも反撃はします。
それは、エヴァが相手でも同様です。」
数の面で言えばシンジは多勢に無勢、いくら優れた腕でも一斉に襲い掛かられれば抵抗は無意味だろう。
しかし、言い放ったシンジはひどく落ち着いており、やれるものならやってみろと言わんばかりだ。
エヴァで物理的な制圧を考えようものなら先ほどのウルトラマンと名乗る巨人が戦うと暗に匂わせている。
旧ネルフメンバーの誰1人として、目の前のシンジが自分たちの知る人物なのか断言できなかった。
それほど、目の前の碇シンジはあの精神的にも肉体的にも弱いエヴァパイロットとはかけ離れていたのだ。
現状のヴィレに彼とことを構える余裕はないわね。
ミサトとリツコの考えは同じだった。
「わかりました。
碇シンジ君…でいいのよね?」
「そうですよ、皆さんが知ってるより老けましたけどね。」
冗談を言ってはにかんで見せたことからようやく当時の碇シンジの面影を見出した旧ネルフメンバー。
「艦長より通達!
現時刻をもって警戒体制を2種へ移行。
艦長、副長、エヴァパイロット両名でミーティングルームで彼との話し合いを行います。
以降、目の前の対象に危害を加えることを許可しない!
医務官は北山を医務室で休ませて。
…ごめんなさい、言いたいこと、思うことはたくさんあると思うわ。
でもこれが艦を守る判断であるということで、みんなどうか抑えてちょうだい。」
艦長がそこまで言うのなら
クルー全員が納得したわけではないが全員引き下がった。
「シンジくん、話し合いの前にエヴァの回収などでどの待ち時間がかかるからその間にメディカルチェックを受けてちょうだい。
ほら、あなた大人の姿で出てきたからDNAとかの確証が欲しいの。」
リツコが言うことはもっともだ。
言葉だけで信じられるほど穏やかな時代ではない。
その言葉に頷きリツコについていく。
3時間ほどの検査が終わり、全員が一旦体制を整えてミーティングルームに集まる。
まずリツコが口を開く。
「まず検査結果から報告します。
歯の治療痕は若干違うものの、DNA情報がほぼ一致しています。
網膜スキャンについては完全一致していますので彼は碇シンジくんで間違いないわ。」
リツコの報告にうなずき、シンジを見据えるミサト。
「本来なら募る話もあるとは思うのだけれども、今はそんな悠長なことをしている場合ではないのはわかるわね?
さぁ、話してもらいましょうか?
あなたが何者なのか、なぜ大人の姿なのか。
そしてあのウルトラマンと名乗る巨人の正体と、あなた達の目的について。」
ミサトさん、本気だな。
集まっている人物達の前で隠し事はできないと判断してシンジは全て話すことにした。
「わかりました。
先ず、質問は全て話し終えてからにしてもらいたいです。
かなり長い話になりますからね。
第一に僕は、皆さんの知る碇シンジではありません。
並行世界の、保管計画を砕いた2029年から来ました。
ネルフ総司令碇ゲンドウからの命令でね。」
それを聞いた途端、動揺が全員から見えた。
いきなり別世界から来ました、なんで誰も信じるわけがない。
そして全員が銃を構え、ミサトが切り出す。
「あなた、自分が何を言っているのかわかっているの⁈
そして我々が誰と戦っているのか、わかってその名前を出したのかしら?」
全員が殺気立つ中でシンジだけが冷静だった。
「はい、概ね聞いています。
そして今回の僕の任務はこの世界の碇ゲンドウの撃破、および現状の打開です。
それに、あなたたちを倒すのが目的なら甲板でウルトラマンの力で全て消しています。
話を、続けてもいいですか?」
拳銃を下ろさないが殺気は収まったので話を続ける。
「申し遅れました。
NERV本部作戦部部長兼NERV病院外科病棟の医者をしています、碇シンジ1佐です。
普段は医者で、有事の際だけNERVとして動いています。
まず僕達の世界の話から始めましょう。
僕たちの世界では全部で17体の使徒と戦いました。
その途中で現れたのがウルトラマンZ、僕の相棒です。」
そしてシンジのスパークレンスが光り、人サイズのZが現れる。
『ナイストゥーミーチュー。
私はウルトラマンZ、このシンジたちのいる世界ともまた別の次元のM78星雲の光の星出身の、いわゆる宇宙人だ。
シンジと共に融合して戦い、13年前に使徒と覚醒したリリスを倒した。」
おいおい、まさかの宇宙人かよ。
脳内でツッコミが止まらないヴィレ。
しかしそうでなければ辻褄が合わないところもあるから一旦黙って聞く。
「Zさんはとある怪獣を追って僕の世界に来ました。
その戦いで僕は命を落として、Zさんと一つになることで蘇りました。」
頭痛い。
科学者であるリツコは本能的に話に拒否反応を示していたが、聞かねば進むまい。
「その後、全ての使徒を倒した後にゼーレとの戦闘になりました。
みなさんは僕たち人間がリリスから生まれたリリンと呼ばれる使徒なのはご存知ですよね?」
全員が頷く。
このメンバーは既に大半の秘密を知っていた。
「その感じだと死海文書の存在も知っていますね?
僕たちの世界にはZさんの介入ともう一つのイレギュラーの影響で、一部のリリンが使徒として覚醒しました。
その名をリリン・インフィニティ。
彼らは綾波レイがリリスの魂を内包していたため、その姿を形取っていました。
その中でも上位種である十星と名乗る存在が量産型エヴァに乗って僕らを襲いました。
最終的に補完計画は発動されてしまいサードインパクトが起きます。
その中で僕は儀式の中心になり、唯一自我を保ってインフィニティとして覚醒しました。
そしてみんなが一つになる世界を拒み、覚醒したリリスを倒して全てのインフィニティの力を消し去りました。
僕の魂に刻まれたものを除いてね。
この時に世界中の人が、戦いを知ってしまったので使徒大戦という名で歴史に刻まれる出来事になりました。」
そこまで聞いてピンク色のプラグスーツを着た眼鏡の女が手を挙げる。
「はいはい、しつもーん!
君の言うもう一つのイレギュラーってなんのことだにゃ?」
「その前に、君は?」
「ありゃ?
君の世界では私と会ってないのかにゃ?
まあいいゃ、私はマリ。
真希波・マリ・イラストリアス。
エヴァ8号機のパイロットだよん。
よろしくね、大人のわんこくん?
いや、大人だからわんこさん?」
シンジはなんとなくこの世界の差異を感じ始めていた。
「わかりました、もう一つのイレギュラーはそれがこの世界に僕がきた理由でもあります。
それは碇ゲンドウ、僕の父です。
彼の魂はこのヴィレがNERVと戦い、人類補完計画を止めた時代を生きて、その後に僕の世界で僕の父の魂と同化したと言っていました。」
途端にざわつく。
ミサトが食いつく。
「…ということは、この先何が起きるのか大体わかっているの?」
「概ねはですね。
そしてその時父は確かネブカドネザルの鍵?とかって言うのを使って人知を超えた存在になっていたそうで、当時の僕がこのヴンダーから作り出した槍でエヴァのない世界に書き換えて全てを終わらせた時に初号機の中の母とあの世へ旅だったんだそうです。
その時、人としての父と、神であろうとする父が別れて、神であろうとする父は今あるこの世界の碇ゲンドウの肉体を乗っ取ったらしいです。
彼の目的は半身と分たれた影響なのかかなり逸脱していて、全ての世界を繋ぎインパクトを起こすことで全てを無に返すことだそうです。
だから、この戦いは僕の世界を、家族も守る戦いでもあるんです。
どうか一緒に戦わせてください。」
ミサトが口を開く。
「にわかには信じ難いわね。
それこそ、オカルトやホラーの世界の出来事とも言えるけど、それを言い出すとエヴァや使徒の存在もそうよね。
では、私からの質問。
この先NERVは何をするの?」
「えっとですね、
まず前の歴史だとエヴァが数日以内に僕を拉致しにくる。
次にしばらくして13号機と言う最後のエヴァを僕とネルフのパイロットで起動して槍を抜きインパクトを起こさせる。
この時はヴィラに止められたと言っていましたがね。」
次にリツコが口を開く。
「あなたのメディカルチェックの結果が微妙に変だった理由はわかったわ。
どうやってこの世界に来たのかしら?
それからウルトラマンにはどうやって変身を?」
「この世界へ来たのは父の魂に刻まれた13号機の因子を縁にして初号機のプラグから転移、LCLでこちらの世界の自分との縁を繋いで肉体等を再構成したと聞いてます。
なのでこちらの世界の僕の体がまだLCL内に保存されていると思います。
それとリツコさんにはこれを渡すように向こうの世界のあなたから預かっています。
中身は僕の変身メカニズムのデータとそれを応用したエヴァの強化プランが入っています。
安心してください、向こうの世界の使徒大戦でも使われた技術です。」
そういってエントリープラグないから回収したアタッシュケースを渡す。
「なるほどね、ありがたくいただくわ。」
そしてシンジが切り出す。
「僕からも質問いいですか?
真希波については僕としては初対面なのでわかりませんが、この世界のアスカはなんで当時のままの姿なんですか?」
それを聞いた瞬間、アスカがミーティングルームを飛び出していく。
目を伏せながらミサトが話す。
「シンジくん、この世界ではエヴァパイロットはシンクロの影響で肉体もエヴァに近い存在になってしまっているの。
これをエヴァの呪縛、と呼んでいるわ。
だからね、アスカはあなたに言いたいことや話したいことがいっぱいあったはずなのに、1人大人のあなたの姿を見て何も言えなくなってしまったみたい。」
そんな、僕はなんてことを。
ミーティングルームから駆け出そうとするシンジ。
しかしその時、
『パターン青を確認!
ネーメジスシリーズが接近中!
各自持ち場につけ!』
こんな時に!
焦るシンジにミサトが肩を叩く。
「シンジくん、今回は司令室で私たちやアスカの戦いを見ててほしい。
それを見てアスカと話をしてあげてちょうだい。」
「…わかりました。
何かあれば僕もウルトラマンの力で戦いますから。」
そしてミサトについて司令室へ歩き出した。