マークナインの襲撃から3週間が経過した。
司令室に出頭したシンジは、インフィニティ化を危険視されDSSチョーカーの装着を余儀なくされていた。
はやい話が許可なくインフィニティ化したら首輪に仕込んだ爆薬でリアル黒ひげ危機一髪やるから勝手なことすんな、という保険である。
しかしこれはミサト達の恩情とも言えた。
新規のヴィレクルーからすれば、シンジの正体が露見した以上人型の未知の使徒以外の何者でもないのだ。
その存在の力を無視して生殺与奪の権理をヴィレが握る。
それは、世界で最後の使徒が人間たちと共に過ごすための最低限の枷と言えるものだった。
ところがシンジはというと、
「僕、こういうアクセサリー系似合わないんです。
もうちょい、いいもんないんですか?」
どこ吹く風である。
元より、使徒大戦が終わって世間が自分の存在について議論してる時から自分の存在の立ち位置は分かっていた。
それでも、ミサトやアスカ達が支えてくれていたことから、なんとか生きてこれたのだ。
必然的に他の人に弱みを見せてはいけないと思うようになった。
心の拠り所がある限り折れない、だからこの程度の脅威はシンジにとっては些末なことだった。
そしてアスカとマリはそれぞれ3週間の長期任務に旅立った。
3週間後、艦に降り立ったアスカはシンジのいるという部屋へ向かい目を疑った。
「なん、じゃこりゃぁ⁈」
チョーカーをつけられたシンジが十字架に縛り付けられ自由を奪われ、その体には痛々しい暴行の痕が残り、内出血や吐血の跡が…
なんてことはなく、目の前に広がった光景はその真逆だった。
「先生!
ちょっとケガ見てもらえませんか?」
「こっちが先よ!
先生、後輩がひどい風で…」
「大丈夫、みんな順番に見るからね。
アサガミさん、その怪我はしばらく痛むけど、見た目ほどひどくはないからねー。
お、ユガミくん咳がひどいね?
薬出しとくからしっかり寝てね?肺炎になったら当然仕事なんかさせないよ。
タカオ機関長には僕から言っておくからね。」
そこにいたシンジはチョーカーこそつけているものの、上には白衣を纏い何人かのクルーに囲まれていた。
そして、クルーたちもシンジを怖がらず、むしろ慕って笑顔で話している。
開いた口が塞がらないアスカの横にミサトが気付けば立っていた。
「びっくりしたでしょ?」
「びっくりなんてもんじゃないわよ、ミサト!
この間の変身とインフィニティ化で処刑の声も高まってたのに、一体どういうこと?」
ミサトの話によると、アスカが出てから三日後くらいに急病人が多発したらしい。
医務官総出で対処にあたるが、責任者も研修医だった人物で全く当てにならなかった。
その時大人しくしていたシンジがサクラ経由で話を聞き的確な指示を下し、一旦の混乱が回復。
責任者が泣きつきとうとうシンジが医療現場の前線に立ち事を収めたということだった。
この男、本業は医者。
シンジは原因の調査に着手し、食事の栄養や労働環境など悪影響を与えるすべての原因を突き止め、ミサトを含める各セクションの責任者を招集、現状を説明した上で責任者に説教をかまし、打開策を含めての説明、栄養バランスの取れた食事の考案、責任者たちのフォローも全てやってのけた。
これが1週間の出来事。
残りの時間でクルー全体の信頼を得て今に至るというわけだ。
「あいつは超人かなんかなの?」
「あいにくと、向こうの世界で起きたインパクトの時にあらゆる知識が頭の中に入っててね。
インフィニティ化したせいか、頭の情報処理速度や睡眠時間がほとんど不要になったりしたから、まあなんとでもなるんだよね。」
白衣姿のシンジが歩いてきながらとんでもないことを言い出した。
「アスカ、お疲れ様。
怪我はない?
いつでも言ってね。」
笑顔でそんなことを言ってくるシンジを引っ掴み奥の診療室へ連れ込む。
「…教えなさい、アンタの使徒化した影響について。
アタシたちのエヴァの呪縛も不眠や不老の影響が出てんのよ。
あんたの症状が今後あたしたちにどれだけ出るかで使徒は近づいているかの物差しになるから。」
なるほど、合理的だ。
そしてシンジが語る影響。
肉体の若干の変質
不眠
身体能力の向上
情報処理能力、記憶力の向上
などなど山ほど出てきた。
「おそらくだけど、僕は人という使徒の進化した姿で雌雄同体のアダムの使徒とはまた別の系譜だからね。
君たちの症状を聞く限り、アダムをベースにしたエヴァとのシンクロで使徒よりエヴァに近い存在になりつつあるって感じなのかな?
だから、エヴァに乗らなければ自然と元に戻るはずだけど、現状そういうわけにもいかないよね?」
「そうね、ところであたしたちにもインフィニティ化だっけ?
その進化の形に至る可能性はあるの?」
「いや、それはないかな?
僕の世界ではウルトラマンに唯一変身してたのとエヴァとのシンクロで肉体と魂が変質してると思うんだ。
それに、その後アヤナミシリーズにリリスの細胞を融合させて自ら進化したニア・インフィニティたちとの戦闘やら、そいつらにリリスの中で完全覚醒させられたっていう経緯もあるから、多分全ての次元で僕だけだよ。」
何言ってんだこいつ?
アスカが抱いた疑問は至極当然なものであったが、全てが真実ならどれだけの偶然が一致して至ったのかわからないほどだ。
あの力があったらなんて思ったけど、本当に奇跡みたいなもんなのね、
アスカがそう結論付けた時だった。
艦内にアラートが鳴り響く。
『新型エヴァの起動を確認!
繰り返す、新型エヴァの起動を確認!」
そのアラートにシンジが狼狽する。
「なんだって⁈
そんな、早すぎる!
というか、最後のピースであるこっちのぼくなしに起動だなんて。」
正史ではまだ1ヶ月は先だ。
イレギュラー、としか言えない。
ネルフ本部跡地へ急行し、2号機改と8号機をセントラルドグマへ投下する。
ことの真偽を確かめるため、司令室で状況を確認するシンジ。
そこでシンジは、ありえないものを目にする。
「そんな!
あれは…13、号機…」
モニター越しで見えないが、おそらく複座式
予想もしないタイミングで、禁忌の存在が目覚めていた。